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目蓋を通り抜けてくる光を感じ、それが普通の光でないのを知る。
「何、この光り。眼に沁みる」
そして由希子の目の前で信じられない事が起こった。
青年は天井に向けて広げた手に剣を現したのだ。刀のような細身の剣は刃が水色に輝いている。
光が柔らか味を帯びた頃、由希子は眼を開けた。
「刀? 剣? 刃が半透明でガラス細工みたい」
剣の柄は骨董屋に売っている日本刀と同じだが、水色の諸刃で真っ直ぐに伸びているのを見ると、どうやら日本刀ではないようだ。
青年は剣を静かに構えた。刃先を三体の鬼に向ける。
鬼達はたじろいだ。手斧を取り戻した鬼が口を開く。
「お前も鬼なのか?」
ハンマーを持った鬼も言う。
「我らと同じ鬼なら争う必要はない。共に女を分ち合おうじゃないか」
由希子はそれを聞いて青年から遠ざかった。
「我らと同じって、あの人も鬼なの!?」
どう見ても、青年の姿は人間にしか見えない。
「断る!」
青年は摺り足で移動しながら鬼達と間合いを取っている。
サバイバルナイフを持った鬼が先頭に立つ。
「女を独り占めにする気か。よこせ」
「それも断る!」
青年とサバイバルナイフの鬼が睨み合いになった。
「あの人も鬼だなんて、そんな……」
由希子は訳が分からず、目の前で起こっている事が信じられず、近くにあった商品ケースに半ばもたれかかる恰好で立ち竦んだ。
「何をしてる。早く逃げろ」
青年は由希子を逃がす気でいるようだ。
由希子は目の前で起こっている事が信じられず疑心暗鬼になっていたが、自分を逃がそうとしてくれる青年の良心を信じる事にした。
「うん、分かった」
逃げ道はただ一つ。火の気が無いエスカレーターだけ。だが、相手の鬼もそれに気付いていて、由希子の行く手を阻むようにエスカレーターの前に立つ。
ハンマーの鬼の腕は筋肉が音を立てて更に膨らむ。
「逃がすか」
手斧の鬼も由希子の前に立つ。
「女は俺らで捕まえる。奴はお前に任せたぞ」
サバイバルナイフの鬼は気持ち悪い笑みを浮かべて返事をした。
「ああ、覚醒前の奴など怖くない。お前も捕まえて俺の玩具にしてやる」
青年は静かに剣を構えてサバイバルナイフの鬼の動きを見ている。
由希子はこれから走らなければならないのに、三体の鬼を目の当たりにして恐怖で息が切れてくる。
「どうやって逃げれば……」
由希子が今思いつく安全な場所は青年の傍ら。無意識に青年に近づく。
鬼と青年が睨み合う冷たく恐ろしい静寂の中、由希子の後方で天井が軋む音がした。
鬼達は不気味な声で笑う。
「楽しくなってきた」
「この震えのくる雰囲気が心地良くて堪らない」
「なあ、坊や。俺らと同じ眷属のお前も楽しいだろ」
鬼達にも天井が軋む音が聞こえているようだ。
「黙れ、お前らと一緒にするな」
そう言い返す青年の腕の服が弾け飛んだ。
「きゃ」
由希子は驚いて小さな悲鳴を上げる。見れば青年の腕の筋肉が不気味に膨らんでいる。彼も鬼達が言う通り鬼なのだ。由希子の心の中に新たな恐怖が生まれる。このまま青年を信じていいのかと。迷いが生じ後退りをする由希子の後ろで天井が崩れ落ちた。
「きゃー」
由希子の悲鳴は大きくなり何回も悲鳴をあげる。
崩れた天井から煙が流れ込んできた。まだ炎は見えないが、きっと上部は燃えているに違いない。
由希子は喉が焼ける感じがして咳き込む。呼吸困難で体を曲げて座り込む由希子に、斧を持った鬼は信じられない事を言った。
「お譲ちゃんも鬼になれ。そうすれば多少楽になる。鬼の体ならこの煙の中にいても苦しくないぞ」
「私が鬼に!?」
由希子は咳き込んで苦しい表情をしながら手斧の鬼を見る。もう何もかもが分からない。
「お譲ちゃん、生き残りたいんだろ?」
「だからって、鬼はイヤ」
混乱している由希子だが、これだけは分かる。
「鬼は人じゃないもの」
ハンマーの鬼は由希子に近づく。
「そんな事を言った女はお前が初めてだ。俺もお前が欲しくなったぞ」
「いや、来ないで」
由希子の声は煙のせいでしゃがれ始めている。
「させるか」
青年の左手に縄が現れ、縄をハンマーの鬼に向かって投げた。縄はハンマーの鬼の首に巻き付く。
「おのれ」
ハンマーの鬼は、由希子への行き先を変更して青年に立ち向かった。 |