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涙鬼-ruiki-
作:雪鈴るな



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 青年と一緒に走る。ハンガーにかけられた婦人服が列になっていくつも並んで見える。天井からはバーゲンの垂れ幕が下りている。青年の言う通りデパート内のようだ。その婦人服を避けて通り、少し広い通路を見つけて走る。次に見えたのはベルト売り場、その隣はアクセサリー売り場になっている。
 由希子は、少し冷静になった事もあって、現状を受け入れられるようになってきた。
「この先にエスカレーターがある。そこを下りて行けば一階に行ける」
「うん」
 青年の言葉に、由希子は素直に返事をする。
 アクセサリー売り場の次は宝石売り場がある。店の名前があるところを見ると、デパートのスペースを借りして出店している宝石店のようだ。そこにオレンジ色の防火服を着た消防士が三人いた。
 由希子はこれで助かると思った。
 消防士は三人とも宝石が並んでいるガラスケースを見ている。その一人が腕を振り上げて、分厚いグローブに包まれた拳を振り下ろした。ガラスが割れる音がする。
 火事に怯えて逃げる由希子にとって、その音は由希子の身を震撼させるほど、過ぎた音だった。
「きゃあ」
 由希子の悲鳴に三人の消防士は振り返った。
 青年はすぐに言う。
「助けて下さい。オレ達逃げ遅れて」
 だが、言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。なぜなら三人の消防士の表情が異様だったからだ。本来なら消防士の誘導に従って逃げなければならない。なのに、三人の消防士から恐怖ともいえる緊張が感じられるのはなぜだろうか。
 急に立ち止まった青年の背中に由希子はぶつかる。
「もう、急に止まらないでよ」
 青年の顔を睨んで見るが、青年はその先にいる消防士を凝視している。
「ちょっと、どうしたの?」
 由希子は青年から消防士へ視線を変えた。
 ちょうど、消防士の一人が手斧を持ち上げ肩に載せたところだった。次に隣の一人がハンマーを持ち上げる。そして最後の一人がサバイバルナイフを持ち上げた。
「オレら大変な時に来たみたいだ」
「え……!?」
 言った由希子も、なんとなく良くない雰囲気というのだけは分かる。
 動き出した三人の消防士を見て、青年は声を上げた。
「逃げるぞ」
 青年は来た道を逆戻りして走り出す。
 当然、由希子も引っ張られて走る。
「なんで? 顔が怖い消防士さんだけど、話せば分かるんじゃあ」
「あいつらは火事場泥棒だ」
「えー! そんな、だって消防士の恰好をしてるじゃない」
「偽者だよ。消防士の姿をしていれば泥棒に見えないだろ。火事もきっとあいつらがやったんだ」
 由希子達はベルト売り場を右折する。
 それを見て消防士の一人が右に外れて走り出した。回り込んで由希子達を捕まえるつもりのようだ。
 由希子が振り返りながら言う。
「後ろの消防士さん二人しかいない」
「なんだって!」
 青年も後ろを振り返る。
「いかん、一人が回り込んで来る」
 行く手を阻まれた青年は立ち止まり、一人と二人の男を交互に見ながら、次の逃げ道をも探す。その青年の手が商品のベルトに触れて、ベルトが音を立てて揺れる。しかし、逃げ道は見つからず、先ほど潜ったドアを背に由希子達は消防士三人に囲まれた。
 由希子は青年の後ろから顔を出した。
「あの私達、怪しい者じゃありません」
「ムダだって」
 止める青年を由希子は横目で睨んで言う。
「話せば分かるかもしれないじゃない」
 由希子は笑顔になっている消防士に言った。
「火事の逃げ道を探してるだけなんです」
 一人の消防士が声を出して笑い出した。
「怪しい者じゃありません。だって」
 残りの二人も声を出して笑う。
「確かにそうだ」
「だって俺達が怪しい人だから」
 青年はうろたえる足を一歩前に出して言う。
「やっぱりお前ら、火事場泥棒だろ」
 それを聞いて三人の笑顔が消えた。手斧を持った男が言う。
「見てたんだ」
 由希子は急いで手を振る。
「見てません、見てません。ガラスを割った時はいたけど、それだけでほかは何も見ていません」
 由希子の言葉を聞いて、三人は顔を見合わせた。サバイバルナイフを持った男が言う。
「最初から見てたんだ」
 ハンマーを持った男も言う。
「やっぱりここで燃えてもらうしかない」
 手斧を持った男が反対の手に斧の柄を落とし、リズムをとりながら言う。
「だね」
 由希子と青年は息を飲む。同時に回れ右をして後ろのドアに向かって走りだした。こういう時の二人は息が合うらしい。
「そっちは燃えてるよぉ〜」
 三人の誰が言っているのか分からないが気持ち悪い声が聞こえてくる。
 由希子と青年は同時にドアノブを掴んだ。
「ドアが開かない」
 焦る由希子に青年は頭ごなしに怒鳴る。
「逆に回してるからだ」
 由希子は怒りの眼で青年の顔を見た。
「何やってんのよ」
「お前が逆なんだよ」
「うそ」
「うそじゃねえ。早く手を放せ」
 由希子はドアノブから手を放した。肝心な時に息が合わない。
 青年は急いでドアを開ける。由希子と青年は同時にドアを潜った。しかし、由希子だけが顔を歪めて後退りをする。
「いやぁー、引っ張らないで」
 サバイバルナイフを持った男が由希子の髪を掴んでいたからだ。二人の所へ引きずって行く。
「殺す前に、こいつで楽しもうぜ」












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