6.気づかれるわけない
朝、掛けておいた目覚ましの音よりも早く、目を覚ました。
目が覚めた途端に何の夢を見ていたか忘れてしまうことが多い。でも、まだ残る悲しみでそれはなんだったのかわかってしまう。
声を上げず静かに泣く和葉に、隣りで寝ている蘭は気づいてはいない。
そして、和葉も一回も目を覚まさず、夢なのか現実なのかわからない世界でただ泣き続けた。
少し赤くなっているだろう目を、誰にも気づかれないように洗面所に向かい、冷やしていた。
「ふぁ、・・・なんや和葉。もう起きとったんかい。」
必死に目に水をかけ続けていたため、平次が後ろに立つ気配を流れ続ける水音が消していた。
ギクリと体が驚いたのを気づかれているのかはわからない。
でも、いつもの自分を取り戻し、平次に悟られないように尽くした。
「平次こそやんか。いっつもは叩き起こしても、なかなか起きてくれへんのに。」
「俺の体は繊細なんや。人様の家やったら寝た気がせん。」
どこに繊細な人が??と平次を無視して辺りをキョロキョロ探すフリをする和葉に、平次はデコピンをかました。
「いったぁぁぁぁ!!もう、なにすんの!?」
「朝からお決まりのボケをかますからや。散々、顔洗いよったくせに、まだ目覚めんのかいな。」
顔というか目を、しつこいほど濡らしていた姿を見られていた。
いくら平次が西の名探偵だとしても、あたしのことなんて子分ぐらいにしか思っていない。あたしが、必死に隠し続けてるのだ、平次にはわかるはずはない。
一度でも、この想いを平次にだって話したことはないのだから。
蘭より早く起きてしまったため、人様の台所で朝食を勝手に準備してもいいものかと悩んでいるところに、蘭と起こされたコナンが起きてきた。
「おはよう、和葉ちゃん、服部君。和葉ちゃん、もう起きてたんだ。」
「おはよう、和葉姉ちゃん、平次兄ちゃん。」
「おはようさん。トロピカルランドにやっと行けるんやって思ってたら、目が覚めてしもうて。」
「お子様やな。」
「うるさいなぁ!平次!!別にええやんか。」
「蘭姉ちゃん、僕、お腹すいた。」
「あ、ごめんね。じゃ、急いで作るね。」
平次につっかられ思わず相手にしていると、蘭がテキパキと準備し始めたので、急いで合流した。
「おい、服部。オマエ珍しく早いじゃねーか。」
「あん?別にあんま眠たくなかっただけやで。」
二人で向き合ってソファに座り、コナンは蘭と和葉に聞こえないように声を抑えながら、平次に聞いた。
「オマエ、いつもなかなか起きねえんじゃなかったか?前に蘭が和葉ちゃんから聞いたって言ってたぞ。」
「枕が変わると、繊細な俺はよお眠れんのや。」
「いつも泊まりに来た時はぐっすり眠ってんじゃねーか。」
和葉のように相手はせず、きっぱり無視して問い詰める。
「別に気にすることやないやろ。ええやんか、そんなん。」
「ほんとか?」
「ほんまや。」
「それなら、別にいいんだけどよ。」
なんだか腑に落ちないが、たかが早く起きたぐらいでしつこく聞いてもしょうがないことだ。
コナンは何にもないといった顔で新聞を読み始めた平次に聞くことを止め、自分はテレビをつけ小学生とは思えない報道番組を見ていた。
早く起きたので、余裕もって家を出ることができ、4人はトロピカルランドへと直通の電車に乗り込んでいた。
「うわぁ!!蘭ちゃん、あれがトロピカルランド??」
「えっ?あ、そうそう、もう見えてきたね。」
「和葉姉ちゃん、最初は何に乗りたい?」
「そうやなぁ・・・あそこにちょこっと見えてるミ・・あ、ミステリーコースターがええわ!」
やっと来れたのだ、それを一番楽しみにしている和葉の希望から行くのがいいだろうと考えていた。
でも、悪気はないのはわかっている、知らない和葉が悪いのではない。
「ミステリーコースター」その名を聞いた蘭が、密かに目を伏せたのを見てしまった。
「じゃ、あれから乗ろうね。」
(ほんとに大丈夫なのか?)
「そんなら、和葉。オムツ買ってかんとなぁ。」
「平次にな。」
「アホ!なんで俺やねん!」
「もう、二人とも!電車の中だよ。」
(また、乗ることになるとはな。)
それぞれが隠す想いを乗せて、電車はホームに着いた。
そして、ここで起きる事件によって、その想いを伝えたい人に隠し切れなくなるのは、まだ誰も知らない。
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