3.隠さなければいけない想い
太陽がカンカンと照り付けて、アスファルトに目玉焼きが作れそうなくらい暑い。
まだまだ8月半ばなので、蒸し暑さが気持ち悪い。
早く、冷房の効いた室内に入りたい。
足を速めながらも、明日はトロピカルランドに行く?と、蘭との会話は弾んでいた。
探偵事務所へと向かう道で小さな女の子と母親とすれ違った。
「ママ、きょうはパパはやくかえってこれる?」
「そうよ。パパ、愛と今日はたくさん遊べるって喜んでたわよ。」
「ほんと?やった―!!!」
満面の笑みで、女の子は嬉しそうに、母親と手を繋いで歩いて行く。
ええなぁ。
声には出さなかったけど、本当にそう思った。
あたしも、あまり家に帰って来れないお父ちゃんを、お母ちゃんと待ってたなぁ。
そんな日は、たしかお母ちゃんが特別サービスやでって、ケーキ焼いてくれたりした。
時が経っていくと共に、どうしても記憶は消えていく。
全て覚えていたくても、誰でも幼い頃の記憶は完全には残ってくれない。
お母ちゃんがあたしに言ってくれた言葉をずっと聞いていたいのに。
あの子のように、ずっと手を繋いでほしかった。
「コラ、和葉。ボーっとしてんな。行くで。」
もう親子はすれ違って行ってしまったのに、いつのまにかそっちの方へ顔を向けて歩いていた。
その声が予想以上に近い。振り返ると、すぐ隣りに平次の顔。
たしか、コナン君と前を歩いていたはずなのに。
「和葉ちゃん、大丈夫?」
反対側を見ると、心配そうな蘭の顔。
「え!う、うん。ごめんな、蘭ちゃん。」
会話の途中で、すれ違った親子に和葉が気をとられていたことが気になっていた。
知り合いなのかと思ったが、声をかけるわけでもない。
それに、あの親子を見つめる瞳が、どこか羨ましげで悲しかった。
「うん、気にしなくていいからね。和葉ちゃん、あの子がどうかしたの?」
「あ、えっと、かわええ子やなぁって。」
「え?わたし、よく見てなかった。そんなにかわいい子だったんだね、見たかったなぁ。」
「ほんとに何でもないの?和葉姉ちゃん。」
ほんまに大丈夫やから、とコナンにも心配かけてしまったことを申し訳なく思い、安心させるように笑った。
「フン、お前も見惚れられるように、がんばれや。」
悪態をつく平次に怒鳴りつけながら、あたしたちは探偵事務所へとまた歩き出した。
大丈夫。誰にも気づかれてなんかない。
もう振り返ってはいなかったが、背中で、まだ道の向こうにいるだろう親子の姿を見ていた。
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