14.平次が教えてくれたこと
「和葉ちゃん。」
「・・・あ。」
しずえは和葉を呼ぶと、抱きしめた。
「和葉ちゃん、私は生まれてから東京にしか住んでないから、関西の言葉は話せないけど。」
「はい。」
「私の言葉を、和葉ちゃんのお母さんの言葉だと思って、聞いてくれる?」
「・・・はい。」
お母ちゃんの言葉?
「・・・・和葉。」
「・・・・・おかあ・・ちゃん?」
「あなたより・・・先に逝ってしまってごめんね。」
「・・・ううん。」
「あなたが産まれたとき、本当にうれしかった。」
「ほんま?」
「ええ。本当にすごくすごく嬉しかったのよ。」
「お腹の中に、和葉がいることがわかって、とても嬉しくて。早く会いたいってあなたが産まれる日が待ち遠しくて堪らなかった。」
「・・・・ごめんね・・・ずっと・・傍にいてあげられなくて・・・」
「・・・ううん。あたしは・・・大丈夫やから・・。」
「ほんとに、和葉はいつも人に気を使ってばかりなんだから。」
「・・・・・・・。」
「本当は、寂しかったでしょ?」
「・・・・・・・・。」
「辛くて辛くて、でも誰にも言ったらだめだって思ってたんでしょ?」
「・・・・・うん。」
「本当にこんなに優しい子に育ってくれて、お母さん嬉しいのよ。」
「・・そんなこと・・・あたしは」
「ううん。わかるのよ。」
「・・・わかる?」
「ずっと、ずっとあなたの傍にいるからよ。」
『ずっと、ずっと和葉の傍にいるんやから。』
「・・・お母ちゃん?」
「ずっと、見てるから・・・。」
「和葉の傍で、見守ってるからね。」
「和葉の言葉もちゃんと届いてるから。」
『和葉、大好きやで。』
おばちゃんは大阪弁を話してへんのに
なんでお母ちゃんの声に聞こえるんやろ?
なんで、おばちゃんにはわかるんやろ?
しずえはそっと和葉から体を離し、不思議そうな和葉を見てやさしく微笑む。
「おばちゃんには、わかるの。だって、私も母親だから。」
「おばちゃんにも?」
「母親なら誰だって、子どものことは自分命より大切で、愛しいの。」
「ごめんね?和葉ちゃん。もし、私がしたことが余計・・」
「ありがと・・・おばちゃん。」
謝るしずえに和葉がしがみつく。
「私こそ・・・ありがとう。」
しずえと涼子がお礼を再度言って、警察に事件について証言しないといけないからと帰って行った後、平次は和葉にずっと言ってやりたかったことを話し始めた。
「和葉。」
和葉の真正面まで来て、まっすぐに和葉の瞳を見る。
「・・・平次。」
和葉も、まだ濡れた目で見つめ返す。
「オマエ、俺に言うことあるやろ?」
ほんとは、ずっと平次に聞いてほしかったこと。
苦しくて、一人で隠れて泣いても、どうしても辛い時。
誰かに言いたかった。
一番に浮かぶのは、幼馴染で。
ずっと傍にいてくれた人で。
でも、言ってはいけないと思ってた。
辛いのは自分だけじゃないから。
でも・・・・
もう隠してはいけないと気づいた。
「・・・平次・・・・さみしかった・・・お母ちゃんに・・・会いたかったんや・・・でも・・・お母ちゃんには・・・もう会えへんの・・・聞いてほしいことが・・・いっぱい・・・あるのに・・・」
平次はじっとあたしの言葉を聞いてくれてる。
「・・・もう・・・我慢できひん・・・助けて・・・平次・・・」
いつもだったら、恥ずかしくて。真っ赤になって押し返してただろう。
でも、あたしを真剣に力強く抱きしめてくれる平次に、あたしもギュッと強く抱きつく。
「アホやなぁ・・・。ほんまに。」
「俺が気ぃついてないとでも思ってたんか?」
「何年一緒におると思うてんのや。」
「俺に我慢なんかして、どうすんのや?」
「俺ら、どんな時も一緒におったやんか。」
「なに、一人で苦しんでんのや。」
「俺が、和葉を助けてやるから・・・。」
耳元で聞こえてくる平次の声に心が軽くなっていく。
「・・・ほんま?」
「ああ。」
「和葉がオバチャンのことで寂しいっちゅうんは、オバチャンを大好きやってことなんや。」
「それを、隠さんといけんやなんて、誰も思っとらん。」
「和葉がオバチャンを大好きっちゅう証拠なんや。会いたいって思うのもやで。」
「・・・・うん。」
「なんも和葉は悪くない。・・・オマエ、自分のせいやと思ってんのやろ?」
こんなことまで、平次には気づかれていた。
お母ちゃんは昔から体が弱くて、それで・・・
あたしを産んで・・・
「オバチャンは幸せやったんやで。・・・和葉を産んで、和葉とどんなに短い時間やったとしても、和葉に会えて、5年も過ごせたんやから。」
「俺のオトンやオカン。それにオッチャンも気づいてんの知らんかったやろ?」
「えっ・・・ほんまに?」
「オマエが俺らに嘘つくなって百年早いんじゃ!毎朝、目え腫らして、無理して笑うてる時があったんのも気いついてないんやろな。」
「そやかて・・・・」
「オカンなんて、和葉が来るたびに、『和葉ちゃん、大丈夫なんか?』って俺に毎回言ってきてたんやで。」
「あのオトンさえも、オマエを見るときの瞳は、悲しそうやったわ。オッチャンは、和葉になんもしてやれんて悩んでたらしいで。」
「そ、そんなことない・・お父ちゃんは・・・あたしのこと・・・ずっと・・守ってくれてたもん・・」
「和葉。」
「人はな、いつか必ず死ぬ。」
「・・・・うん。」
「でも、それがどれだけ短こうても、残す人への想いの重さはみんな同じや。」
「和葉の中で、ずっと残っとる。」
「・・・・あたしの中で?」
「和葉や俺らが知っとるオバチャンのこと話したら、オマエが忘れとったオバチャンの記憶も想いも蘇るんや。」
「・・・もう・・・消えてくばかりやと思ってた。」
「アホ。オマエの中にはオバチャンがおるんやで。例え、一緒におった時間が短くても、その分、これからはオマエの傍で見守ってくれとるんや。」
「あたしの傍で・・・」
「そやから、もう、隠さんでええから。」
平次の言葉があたしの奥に閉じ込めてた気持ちを溶かして、あたたかいものに変えてくれる。
平次の言葉に、涙が止まらなかった。
おばちゃんと平次の言葉で、やっと気づいた。
お母ちゃんは、いつもあたしの傍にいてくれた。
傍でずっと見守ってくれていた。
あたしの声がちゃんと届いていた。
『オマエを救い出してやる。』
平次の言った言葉は本当やった。
辛くて、悲しくて、叫びたいほど暗い世界から、助け出してくれた。
「ありがと・・・平次。」
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