10.母の願いと娘の想い
そのまま警部たちと犯人にどう対処するかを相談しに戻っていった平次を、和葉は不思議そうに見ていた。
和葉にはいつもはぶっきらぼうに言う平次なのに、最後の言葉に込められたのは強い意志と誓いのように感じられた。
そうボーっと考えていた和葉の耳に、犯人の大声が響いた。
「おい!!!お前ら、コイツらを殺されたくなかったら支配人を呼んで来い!!!!!」
トイレに隠れ見えなかった犯人が姿を現す。
その腕に首を押さえつけられていたのは、涼子だった。
「りょ・・・・涼子ぉ!!!!」
しずえの叫び声に、涼子が気づきこちらを向く。
母がここにいることに驚き、目を向く。だが、すぐに目を細め、母を見ない。
「おい。」
「なんだ?」
人質の安全を考え、犯人との距離を保ち平次が第一声を出す。
「支配人ここに呼んで、どうする気なんや?」
犯人を逆上させないよう、細心の注意を持って対応する。
「あいつが俺になにをしたのか知ってるのか!!」
「解雇されたんだよね。」
小さな子どもが警察と同じ位置で、犯人に話しかけてくるのに驚いている。
「そうだ。俺には、まだ3歳のガキがいるんだぞ!!!!なのに、俺だけクビにしやがって!!!」
「それで、こんなことしたんか。」
「ガキも女房もいるんだぞ!!!!どうやってこれから暮らしていけばいいって言うんだ!!!」
「早く支配人呼んで来い!!!さもないと・・・コイツを殺す。」
「!!!」
静かに涼子の首にナイフをあてる犯人に、しずえは声にならない叫び声を出す。
涼子のもとへ助けに行こうとするしずえを、ギュッと離さないように和葉と蘭は抱きしめる。
「支配人はまだか?」
目暮警部は高木刑事に聞くが、支配人は今日、休みをとっていると答えが返ってくる。
支配人に連絡がつき、こちらへ向かっているがまだ時間がかかるらしい。
それまでに、犠牲者を出さず逮捕することができるのか。
警察にも焦りの色が見え始める。
もう我慢ができないと、さらにナイフを近づける犯人に、その場の空気は張り詰め始める。
「まだ来ないのか!?俺を待たせやがって、あの野郎!!!!・・・それなら、一人ぐらい殺せばもっと急ぐか?」
「涼子!!!!涼子!!!!やめてー!!!待ってください!!!!その子は私の娘なんです!!!その子の代わりに私を・・殺すなら私にしてください!!!」
母の申し出に、涼子は動揺する。
「な、何言ってんのよ!?なんであんたが!!・・・あたしなんかほっといてさっさとここからいなくなってよ!!!」
首にナイフが突き刺さるのではないかと思う程の勢いで叫ぶ涼子。
母への憎しみからきてるのか、物凄い目で母を睨みつける。
「涼子・・・・。私はどこへも行かないわよ。絶対にあなたを助けてみせる。例え、私が殺されても、涼子は殺させなんかしない。」
先ほどまでも興奮が嘘のように、冷静に娘へと語りかける。
「・・・・なんなのよ!?!?あたしなんて・・・あたしのことなんか邪魔なくせに!!!何今更母親ぶってんのよ!!!あの大嫌いな男のとこへさっさと行きなさいよ!!」
「違う・・違うの・・りょう」
「あたしは、あんたなんか・・・あんたなんか顔も見たくない!!!どっかに消えてよ!!!!!あんたなんかいらない!!!」
その言葉に全員が固まった時、和葉がただ一人答えた。
「・・・・やめて」
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