昆虫人有紀檸
この小説には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれています。
私、成瀬 有紀檸は、世間からは冷たい目で見られている。
心当たりはある。
授業はサボる。
一寸した事で直ぐ暴力を振るう。
喧嘩がやたらと強い。
言わば、不良と言う奴だ。
「成瀬さん、帰りませんか?」
放課後、私が机に伏していると、世界中の女が虜になりそうな顔を持った男が声を掛けてきた。
一ノ瀬 勝平。こいつは以前、私に喧嘩を売ってきた奴だ。勿論、返り打ちにして舎弟にしてやった。
「勝平か。私と帰りたいのか?」
「あの、一緒に帰って頂けますか?」
「嫌だ。一人で帰れ」
「はぁ」
素っ気無い返事をして勝平は渋々去って行った。
ピンポンパンポーン
放送開始の合図が鳴って声が聞こえてくる。
「3年D組の成瀬 有紀檸さん。至急、生徒指導室までお越し下さい。繰り返します。3年D組の──」
呼び出しだった。
私は席を立って生徒指導室に行く。
教室に残っている連中が私をじろじろ見てくる。
「何だてめえら?」
睨み付けてやると、皆慌てて目を反らした。
ダン!
ドアを思いっ切り開けて廊下に出た。
生徒指導室に移動した。
「まあ、座りなさい」
生徒指導の教師が言う。
私は教室の奥に在る席に着いた。
向かい側にも席が在り、教師が座っている。
教師は溜め息を吐くと、口を開いた。
「昨日の夜、制服のまま町を徘徊して一般人に迷惑を掛けたそうだね。先程、電話が掛かってきた。話しによると、相手は腕を複雑骨折していると言う事だった」
あれは昨日の午後9時頃だった。
秋葉でオタク狩りを楽しんだ後、付近を散歩していると、30代くらいの男が声を掛けてきた。
「お嬢ちゃん、一人かい?」
私は振り向いく。
「はい?」
取り敢えず、普通の娘を装っておく。
「君、可愛いね」
思っても無い事言うなよ糞野郎。
「学校でモテるでしょ?」
「そんな事無いですよ」
「その頭に付けてるのも似合うよ」
私は頭に手を当てた。ヘアバンドが着いている。
「有り難う」
笑みを浮かべてみせる。
「それより今からどう?」
軟派だった。
普通の娘なら断る所だろう。
「別に構いませんけど?」
「それじゃあ行こう」
男は私の手を掴んで歩き出した。
「一寸待って。私、寄る所あるから、先にこっちの用事に付き合って貰えますか?」
男は少し溜めて「良いよ」と答える。
私は男を連れて人気の無い場所まで移動した。
「何も無いけど、こんな所に何か用有るの?」
男はキョロキョロと辺りを見回しながら訊ねた。
「解らない?こんな人気の無い所に連れて来てやる事と言ったら一つしか無いでしょ」
「ま、まさか・・・」
男はエッチな事を妄想した。
私はその男に手を差し出す。
「え?」
「金」
「はあ?」
「有り金全部よこしな」
だが男は一向に財布を出さない。
「よこせって言ってんだよ!」
私は男のネクタイを掴んで顔を近くに寄せて怒鳴り付けた。
男は段々と引き攣ってきた。
「お、お金なんか持ってないです」
「じゃあ何で軟派なんかしたんだ?」
「そ、それは君があまりにも可愛かったから」
ガスン!
私は男の顔面を殴り付けた。
男は鼻血を垂らした。
「財布出せよ」
今度は脇腹を蹴ってやる。
だが、それでも男は出さない。
「何なんだ君は?」
「成瀬 有紀檸。私に逢ったら有り金を全て渡す。覚えときな」
「巫座戯るな!」
キレた男が私の肩を掴んだ。
「痛えな!」
私は男の腕に手刀を繰り出した。
ボキッと良い音が鳴り、男は肩を放して腕を押さえた。
「ふんっ」
私は足払いを掛けて男を倒した。
「有り金は貰ってくぞ」
言って私は男の持ち物から財布を取り出し、現金を全部抜いて、空になった財布を男の腹に放った。
一、二、三、と金の勘定。全部で10万は有った。
私は男から奪い取った10万を自分の財布に移してその場を去った。
「──せ!聞いてるのか成瀬!?」
私が思い出に耽っていると、教師が怒鳴り散らした。
「五月蝿えな。聞こえてるよ」
「何だその態度は?」
私は机を叩き、立ち上がって椅子を倒した。
「き、教師に向かって暴力を振るう気か?そんな事したら退学だからな」
私は教師のネクタイを掴んで顔をグイッと近付けた。
「強迫は犯罪だぞてめえ」
「ぼ、暴力も犯罪だ」
「ちっ」
私は舌打ちをして教師を解放すると、ドアに向かって歩いて行った。
「何処行くんだ?未だ話しは終わってないぞ」
「ああ?」
振り向いて教師を睨む。
「お前、明日から一週間の停学処分だ」
私は無言で指導室を出ると、教室に向かって歩き出した。
「邪魔だ!」
と教室の方から歩いて来た仲良し男女を突き飛ばした。
「何すんだよ!?」
怒った男子生徒が向かって来た。
私は迫り来る男にカウンタを当てる。
「うわっ!」
回し蹴りが決まり、男は廊下の壁にぶつかって気を失った。
「勝男!」
女生徒がそう呼ばれる男に近付いた。
「何て事してくれたのよ!?」
怒り狂った女生徒が間合いを詰める。
取り敢えず顔面を一発、思いっ切り殴っておく。
ガスン!
女生徒はあまりの痛さに泣き出した。
「殴られたぐらいで泣いてんじゃねえ」
どぐしっ!
私は女生徒の腹に蹴りをくれてやった。
「うっ!」
女生徒は呻き声を上げて気絶した。
私は二人を残し、D組の教室に入った。
「成瀬、何て言われたんだ?」
そう訊いてきたのは、きちんとした服装にきちんとした髪の如何にも真面目そうな男だった。
名は坂神 京介。此奴も私と同じで、素行の悪い不良生徒だ。
「一週間の謹慎だと」
「マジかよ!?お前、何したんだ?」
私は此奴に、秋葉でオタク狩りを楽しんだ後、軟派してきた30代の男に暴行を加えて現金を盗んだ事を話した。
「そりゃお前、ヤバいって」
「じゃ、私帰るから」
言って私は自分の机の横に掛けてある鞄を取り、教室を出て下駄箱に向かった。
そこで靴を履き替え、校舎を出る。
「おい」
背後から呼び止める声。
振り向くと、先刻気絶させた男が腕を組んで立っていた。
「誰かと思えば、先刻のバカか。また殴られに来たのか?」
「違うな。仕返に来たんだ」
「何?」
「先刻は油断したが、今度は違うぜ」
「お前、暫く地上の者では無くしてやろうか?」
「殺れるもんならやってみやがれ!」
女生徒に勝男と呼ばれていた男は私に駆けて頬を殴った。
「何だ?そのへなちょこパンチは。そんなので勝てると思ってるのか?」
「クソ!」
男は私の腹に拳を埋ずめる。
全然効いていない。
「やめとけ。お前じゃ勝てねえって」
私は男にそう諭すが、そいつは諦める事無く殴り続ける。
「やれやれ・・・」
此奴は何時まで続ける気なのだろうか。私は呑気に欠伸をする。
「なあ、もう帰って良いか?」
「帰りたきゃ俺を倒してからにしな!」
「あ、そ」
私は足払いを掛けて倒れた男に跨った。
「退けよこの野郎!」
男は一生懸命に私を退かそうと試みる。
「ったく、お前は何がしたいんだ?」
私は呆れながら男を見下ろす。
「仕方のない奴だ。トドメを刺してやろう」
言って私は男の顔面を殴り付けた。
男は呻き声を上げる間も無く気絶した。
直後、「うわああああ!」と言う雄叫びと共に、後頭部を硬い物で殴られた。
「いきなり何すんだ!?」
振り向くと、先程の女生徒が金属バットを持って私を睨んでいた。
「あんたなんか殺してやる!」
女生徒が金属バットを振るう。
ガン!
バットが側頭部に当たり、私は5メートル程吹っ飛んだ。
私は素早く立ち、女生徒に近付く。
「お前のその言葉、そっくりそのまま返してやるよ!」
言って私は女生徒を殴り飛ばした。
女生徒は放物線を描きながら宙を舞い、10メートル先に落下した。
「痛い・・・」
私は後頭部を押さえた。
パチパチパチ
何処からとも無く拍手。
「素晴らしい」
その声と共に杖を着いた謎のジェントルマンが現れた。
「誰?」
私は振り向き様に訊ねた。
「私は地球を征服する為に外の惑星からやって来た者です。貴方様の強さに心惹かれてしまったのでこうして姿をお見せ致しました。宜しければ、私共のお仲間になって頂けませんか?」
その問いに続いて、人間サイズのゴキブリ、カマキリが姿を現した。
「な、何だよ此奴ら?」
「私の下僕共です」
「で、その下僕共を使って何がしたいんだ?」
「先程言いましたよね。地球を征服する、と」
狂ってるのか、此奴は。
「お前、頭大丈夫か?」
「と言いますと?」
「宇宙人など存在する訳が無い。大方その昆虫共も着ぐるみか何かなんだろ?」
「滅相も無い。正真正銘、本物ですよ」
ジェントルマンはそう言うと、スズメバチに姿を変えた。
私は怖くなって後退した。
「うわああああ!」
そして逃げ出した。
「逃げ場はありませんよ!」
スズメバチが前に回り込んだ。
私は慌てて止まった。
「どうやら、あなたには私たちの仲間になる気は無いみたいですね。それでしたら用は有りません。死んで貰います」
スズメバチが言うと、他の巨大昆虫が一斉に襲い掛かってきた。
こう言う時って子ども番組とかだと主人公が変身したり助けに来たりする筈なんだけど・・・って、そんな事考えてる暇無え!
私は咄嗟に飛び上がって避けた。
「貴方の様な方は殺すに惜しい人材だ。考えては頂けないだろうか」「無理」
即答した。
「残念。行きなさい、キリカマー!」
その言葉にカマキリが動き出す。
シャキーン!
キリカマーと呼ばれるカマキリが両手の鎌で襲い掛かる。
私は横にステップして避けた。
その先にはゴキブリさん。
「自慢のスピードで捕まえるんですよ、ブリトニーさん!」
「ブリトニー!?」
私は思わず叫んだ。
ブリトニーはその私に目にも留まらぬ速度で近付き、羽交い締めにした。
そこへキリカマーがやってきて私の腹を切り裂く。
「うわああああ!」
激痛に悲鳴を上げるのと同時に、何故か緑色の血が噴き出す。
それに驚いたのは、私では無く、スズメバチの方だった。
「キリカマー、止めなさい!」
その言葉によってトドメを刺そうとしていたキリカマーの鎌が既の所で止まった。
スズメバチはジェントルマンに姿を変えて私に近付く。
「お嬢さん、貴方には我々と同じ血が流れているみたいですね」
「どう言う意味だ?」
「簡単に言うと、貴方は我々と同じ惑星の生き物と言う事です」
「何を言う!?私は人間だ!」
「証拠は?」
「体だ。何処からどう見ても地球の人間じゃないか」
「否、違う。貴方は我々と同じ昆虫人だ。昆虫人は本来、人間の姿をしていない。しているのは、元となる人間を殺して擬態したからだ」
「じゃあそれを事実だと仮定して、何故私には人間としての記憶が有る?」
「我々昆虫人は擬態時に擬態した人間の記憶も引き継ぐ。だから貴方には人間の記憶が有るのです」
その時、私の中の忘れ掛けていた記憶が、蘇った。
それは一ヶ月前の事。私は上空から登校途中の私・・・否、本物の成瀬 有紀檸を見下ろしていた。
当時の有紀檸はとても弱虫で、クラスの連中によく虐められていた。
この日もそうだった。
「おはよう、有紀檸」
有紀檸が校門を潜ったのと同時に、一人の女生徒が声を掛けてきた。
「おはよう」
有紀檸は女生徒に小さな声で挨拶した。
「有紀檸、鞄、教室に持って行ってくんない?」
女生徒はそう言って有紀檸に鞄を渡す。
「私のもお願い」
女生徒が一人増え、鞄を渡す。
「私も」
更にもう一人増えて鞄を渡す。
有紀檸は嫌な顔一つせず三人の鞄を持って校舎に入り、教室へと向かった。
教室に着くと、有紀檸は三人の机に三人の鞄を各々置き、自分の机の横に自分の鞄を掛け、教室を出て女子トイレに移動した。
彼女は個室に入って鍵をすると、便座に座って泣き出した。
「辛そうだね。代わってあげようか?」
私は個室の中に居る有紀檸に声を掛ける。
「誰?」
「私はどんな願いでも叶える妖精。貴方の願いを叶えましょう」
「願い・・・それってあいつらをやっつけるって願いでも良いの!?」
「あいつらって言うと、貴方を虐められていたあの三人?」
「うん。私、強くなってあの三人をぎゃふんと言わせたい!お願い、私の願い叶えて!」
「・・・出てきて。叶えてあげる」
私がそう言うと、有紀檸は躊躇無く出てきた。
「え、カブトムシ?」
有紀檸はその場で固まった。
グサッ!
私は有紀檸を持ち上げて頭の角で突き刺した。
「うっ・・・がはっ!」
有紀檸は口から赤い液体を吐いた。地球の人間の血だ。
私は有紀檸から角を抜き、床に置くと彼女に擬態した。
「これからは私があんたとして生きてやるよ。永遠に」
私はそう言うと、口から紫色をした溶解液を吐き出して有紀檸に掛けた。
その刹那、有紀檸はジュワーッと音を立てて溶けてしまった。
残ったのは、有紀檸の制服と下着、ブラジャーだけ。
私は有紀檸の下着を穿き、胸にブラジャーを着け、制服を着用した。
直後、三人の女子が入ってきた。有紀檸を虐めていた三人だ。
「居た居た、探したよ、有紀檸」
そう言いながら近付いてくる三人。
私は振り向いて真ん中の奴を打っ飛ばした。
「うっ!」
真ん中のそいつは壁にぶつかって気を失い、床に倒れた。
「お前ら、ああなりたくなかったら私の言う事を聞け」
二人は互いに顔を合わせ、慌てて逃げて行った。
「おい」
私は倒れている女生徒の前に移動して脇腹を蹴ってやった。
「うっ!」
目を覚ました女生徒が呻き声を上げる。
女生徒は起き上がり、私を見ると、そのまま腰を抜かした。
私は女生徒の胸倉を掴んで持ち上げる。
「今まで弱い振りしてたけど、もう我慢ならねえ!」
言って私は女生徒を壁に叩き付けた。
「きゃっ!」
女生徒は目に涙を浮かべて私を見た。
「お願い、やめて。何でも言う事聞くから」
「ふーん。何でも聞く、か」
私は顎に手を当てて考えた。
その隙に女生徒はドアに駆けて開け、逃げようとするが、私は素早く動いて項を掴んだ。
「逃げようなんて考えるなよ?」
「べ、別にそんな事考えてないわよ。だから放して」
「却下。それは聞けないね!」
言って私は女生徒を放し、背中を蹴り付けてやった。
ボキッ!
背骨が折れ、女生徒はその場に倒れた。
「おい、やめろ!」
「ああ?」
振り向くと、勝平と逃げた二人が立っていた。
「小百合に手出したらたとえ女でも許さねえ!」
「お前もこいつみたいになりたいのか?」
「何?」
「掛かってきな。相手してやる」
私は手招きをしながら言った。
「・・・・・・!」
頭に血が上った勝平はいきなり襲い掛かってきた。
勝平のへなちょこパンチが私の頬に触れる。
私はニヤリと笑って勝平の手首を掴んだ。
「勝平、勝てもしない相手に勝負を挑むなんて、バカだね」
言って私は勝平の腕を捻った。
「いてっ、いててて!やめてくれ!俺が悪かった!」
「私の言う事、聞くか?」
「聞く聞く、何でも聞く!」
「そうか。じゃあ、そこの二人の泣き顔が見たい」
「解った。やろう」
私は勝平の手首を放した。
「そう言う訳だ。悪いが泣いて貰うぜ」
言って勝平は二人をあっと言う間にボコボコにして泣かした。
そこで私は現実に意識を戻した。
「ブリトニー、放してあげなさい」
ジェントルマンが言うと、ゴキブリのブリトニーは私を解放した。
「さてお嬢さん、貴方の使命は?」
「人間になりすまして地球を征服する事だろ。ちゃんと覚えてるさ。けどな、私はこの地球が大好きだ。悪いが、お前たちの好きにはさせない!」
言って私はジェントルマンに回し蹴りをした。
「うわっ!」
回し蹴りが決まり、ジェントルマンは地面を転がった。
「裏切り者め!お前たち、殺ってしまいなさい!」
その言葉にブリトニーとキリカマーが同時に動いた。
私は擬態を解き、羽を羽ばたかせて避けた。
ドン!
ブリトニーとキリカマーが衝突して意識を失う。
ジェントルマンは立ち上がり、スズメバチに変態して襲い掛かる。
私は迫り来るスズメバチに突っ込んだ。
グサッ!
私の角がスズメバチを貫く。
それと同時に、スズメバチが私の腹に毒針を刺した。
「ふんっ」
私は頭を振ってその遠心力でスズメバチを地面に投げ飛ばした。
「くっ・・・!」
体が麻痺して私は落下した。どうやら、神経毒が効いてきた様だ。
「ふっふっふっふっ、私の勝ちですね」
スズメバチが徐に立ち上がって言った。
「がはっ!」
スズメバチはジェントルマンの姿になって吐血した。
「あ・・・あ・・・」
ジェントルマンは声にもならない声を漏らして倒れた。
私は有紀檸に姿を変えた。
「どうやら、あんたも長くないみたいだな」
「ぐっ・・・クソッ!」
ジェントルマンはその捨てゼリフを最後に死んだ。
私も、もう限界だった。少し休もう。
そう思って、私は目を瞑った。
それから暫くして、目が覚めると、私はベッドの上に居た。
私は此処が学校の保健室だと言う事は消毒の匂いで直ぐに気付いた。
横を見ると、心配そうに私を見つめる京介の姿が在った。
「気が付いたか!?」
「京介か。何で私はこんな所で寝ているんだ」
「何も覚えてないのか?お前、校庭に倒れていたんだぜ」
「お前が運んでくれたのか。礼を言うぞ、有り難う」
私がそう言うと、京介は頬を赤く染めた。
「と、当然の事をしたまでだ。それより、お前も昆虫人だったのな」
「どう言う意味だそれは?」
「俺も昆虫人なんだよ。お前と同じ」
「そうか」
「あまり驚いていないな」
「もう何が有っても驚くまい。所で、あいつらは?」
「カマキリとゴキブリか?あいつらなら男の亡骸を持って逃げて行ったよ。もう二度と来ないって」
「そうか。良かった。これで地球は救われたのか」
「否、未だだ。未だこの地球には沢山の昆虫人が居る。奴らはこの地球を支配をしようと日夜仕事をしている。そいつらを全て滅ぼさない限り、真の平和は訪れない。何、心配すんな。俺も手伝う」
「良いのか?地球を支配すんのが私たち昆虫人の使命なんだろ?」
「それはそうなんだが、実を言うと俺には好きな人が居てな。地球を征服するって事は、そいつをも殺す訳だ。だから、俺はそいつの為に地球を守る。そう決めたんだ」
「そうか。で、その惚れた奴は誰なんだ?」
私がそう聞くと、京介はソッポを向いた。
「別に良いじゃないかそんなの」
「何だ、気になるだろ。教えてくれないか?誰にも言わないぞ」
「・・・だ」
「聞こえないぞ」
「・・ね」
「ね?」
「俺が好きなのは、お前だ。有紀檸」
「・・・それは何の冗談だ?」
「冗談なんかじゃない!マジで好きなんだ!」
真剣な表情で自分の気持を言い放つ京介。
「京介・・・」
私は笑みを浮かべた。
「それはとても嬉しい。だがな、見た目はそうだとしても、私は有紀檸じゃない。だからその気持には答え──」
その時、私の唇に京介のそれが重なった。
「じゃなくても良い。見た目が有紀檸でも俺は構わない。俺と付き合ってくれないか?」
「それは私に言っているのか、それとも有紀檸にか?」
「勿論、有紀檸にだ。そして今はお前が有紀檸だ。俺の気持に素直に答えてくれ」
「・・・解った。有紀檸として答えてやろう。私も坂神くんの事が好きよ。宜しくね・・・って、恥ずかしいわ!」
「それじゃあ、付き合ってくれるのか?」
私はその問いに有紀檸として答えてやる。
「好きな男の子に告白されて断る女の子なんか居ないわ」
「有紀檸」
「坂神くん」
私は京介を抱き締めた。
「『京介くん』にしてくれ」
「きょ・・・スマン、せめて呼び捨てにさせてくれないか?」
「駄目だ。有紀檸は俺を呼び捨てにはしないんだ」
「・・・きょ、京介・・・くん・・・って、やっぱ無理!抵抗あるよこれ!」
「克服してくれ」
「・・・変態だ!」
「まあ、そんな事言わずにさ」
「京介・・・くん・・・」
やっぱり無理だった。
「そこは溜めないでくれ」
「否、無理だ!それは絶対無理だ!」
「どうして?挑戦してたじゃないか」
「無理なもんは無理なんだ!」
「頼むよ有紀檸」
言って京介は手を合わせた。
「仕方なの無い奴だ。一回だけだからな」
私は大きく深呼吸をして言う。
「京介くん」
言って直ぐ、私の体温が急上昇した。恥ずかしい事この上無い。
「もう一回だ。もう一回呼んでくれないか」
最悪だ。だが呼ばなきゃ何言われるか判らない。だから私は呼ぶ事にする。
「京介くん」
「有紀檸」
「京介くん」
「有紀檸」
もう限界だった。
私は深呼吸をして荒れた息を整えた。
「なあ、ずっとこの呼び方で呼ばなきゃ駄目か?」
「駄目だ。あと口調も有紀檸のにしてくれ」
口調か。それなら何とかなりそうだ。
「どうしてそこまで有紀檸に拘るの?」
「有紀檸が好きだからだよ」
「私ではなく有紀檸なの?」
「ああ」
「そうなんだ。一寸悲しいな」
「も、勿論カブトムシも好きだぞ」
「良いのよ、嘘吐かないで。解ってるから。それよりもう帰らなきゃ」
言って私は起き上がった。
「痛!」
腹部に激痛が走る。
「無理すんな。あれだけ深い傷を負ったんだ。傷口が開いたらどうすんだ」
言いながら京介は私を横にした。
「良いか。今日一日は絶対安静。動いちゃ駄目だ」
「解った。ジッとしてる」
「ああ。じゃあ俺、帰るからな」
言って京介はドアに向かって歩いて行く。
「き、京介くん、また明日」
うん、頑張ったぞ。
「ああ」
京介は保健室を出て行った。
残された私は、やる事も無く、眠る事にした。
屹度これから私は、京介と付き合いながら、昆虫人たちと戦って行くのだろう。
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