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9話 イスラーグの一計
 夕闇が広い執務室を真っ青に染める

 その中に、一人長身を椅子に投げ出し冷たい青と緑の瞳でじっと前を見つめる一人の男が座っていた。

 彼の目には一人の非魔血の暗殺者が映っていた。

 その身体は筋骨粒々で岩のように大きく見た目の迫力なら彼を圧倒しているが、暗殺者は目の前で睨みを効かせる彼に逆らえるはずがなかった。

 それは彼の放つ無言の圧力に押されているからだろうか。暗殺者は彼が言葉を発するまで黙って跪くしかできなかった。

「今日、君を呼んだのはほかでもない、ある頼みごとを遂行してほしいんだ」

 イスラーグは顔に感情を出さず淡々と語りだした。

「君は火の宗主ケンヴィード・セラフ・ティアマートを知ってるかい」

「ええ──この国では知らぬ人のいない英雄中の英雄ですよね」

「──僕はこの人のことを英雄だといわれるとちょっと複雑な気分なんだけどね」

 そういうとイスラーグは冷たい苦笑を浮かべ暗殺者を上から睨み付けた。

「それなら、彼には最愛の一人娘がいるってことは──承知の上かい?」

「いえ──」

 その言葉に暗殺者は戸惑いながら言葉を続けた

「恐れながらそのことは知りませんでした」

「ダメだね。それは暗殺者としての勉強不足だね」

 イスラーグはそういうと蔑んだような笑みを浮かべ暗殺者を見下した。

 その態度に暗殺者は悔しそうに唇を強く噛んだ。

「ティアマート公爵の娘はアイリス・ラキア・ティアマート。名門貴族の令嬢にして帝立師範学校でも成績トップクラスの優秀な魔女だよ」

「その娘を──どうしろと?」

「単刀直入に言えば彼女を誘拐してほしいんだ」

 その一言に暗殺者は驚いたように目を見開いた。

「誘拐──ですか?」

「そう、女の子一人を連れさらうだけでいいんだ。こんな簡単な仕事はないだろう?」

「はあ……」

「でも油断しちゃならないよ。娘子一人って言ったって相手は将来有望な魔女なんだから。君一人独断で任務を遂行したら間違いなく返り討ちは間違いないね」

 イスラーグの嫌な笑み交じりのその言葉に暗殺者は反論する言葉が見つからず黙り込むしかできなかった。

「とにかく彼女を誘拐するのは非魔血の暗殺者が束にならなきゃだめだよ。ギルドで仲間を募るといいと思うよ。それに釘を刺しておくけど──彼女の命は絶対に奪っちゃダメだよ」

「何故ですか?」

「早く言えば僕も『烈火の剣聖』を本気で怒らせるのはちょっと怖いんだ。こっちが仕掛けてあの人に逆に追い込まれたら元も子もないからね」

 一人娘を誘拐されることだって十分烈火の剣聖を怒らせるんじゃないか──

 暗殺者は瞬時にそう思ったがそれを口に出すことはしなかった──否、できなかった

「とにかく決行は明日早朝──通学途中の彼女を襲うんだ」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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