30話 冷たい部屋にて
『そのペンダントがあなたをお父さんの元に誘ってくれる。だから──それを大切にして……』
未だに母のあの言葉が耳に残って仕方がない。
だけど、何度も自分の中で否定していたのにあの時の母の遺言どおりにこのペンダントは見事に自分を父親である男に導いたのだ。
しかしレヴィはそのその事実を未だに受け入れることが出来なかった。
それだから自分は父親に何も問いただすことなくその場から逃げ出した。
父親に会ったら言いたいことはたくさんあったはずなのに、いざとなったら結局は知ることが急に怖くなり真実を避けてしまった自分。
今思えばそんな行動を悔いているのかもしれない。
あのまま逃げずに父親と向き合っていれば、状況は少しくらい変わっていたかもしれない。
だけど──いつもと同じで今からそう思ったってもう遅いのだ。
どんなに紆余曲折しても自分が戻ってくるところはいつも同じ。そう、あの男の冷たい部屋だ。
「えらい災難だったね」
イスラーグはレヴィの報告を聞いて一言そう言った。
その表情は何か面白いものでも見つけたかのように満面の笑みにあふれていた。
「まさかあの場にティアマート卿が同席してるとは、僕も予想外だったよ」
「ああ、本当に……」
レヴィは一言そう呟くと、苦々しい顔を浮かべうつむいた。
「しかし、よくあの人に殺されずに無傷で帰ってきたね。本当に──奇跡としか言いようがないね」
その一言にレヴィは何も答えることが出来なかった。
そんな彼をイスラーグは舐めるような視線でじっと様子を伺っていた。
「ところで……一つ聞いていい?」
「──なんだよ」
「君はまた僕の元に戻ってきたわけだけど……それはこれからも僕の元で武器として使ってもらいたいっていう意思表示だと思っていいの?」
その言葉にレヴィはどう答えていいのかわからなかった。
自分の気持ちは本当にその通りなのだろうか? 本当は違った思いでここに来たはずじゃないだろうか?
そう何度も自分に問いただしたけど答えは悲しいけど何も出なかった。
「わからないのかい?」
そんなレヴィを見てイスラーグは面白そうに微笑んだ。
「でもここに戻ってきたということは君は無意識にそれを望んだ結果だと思うよ。ここが自分の居場所だってことをね……」
「それは──!」
「ともかくそれが君の選択だと僕は思っておくよ」
そう言うとイスラーグはにやりと笑みを浮かべた。
それを見てレヴィは何も言い返すことが出来ずぎゅっと拳を握って抗議の意を示すしか出来なかった。
「あと、一つ君に言っておくことがある」
怒りで狂いそうになっていたレヴィにイスラーグはさらに油を注ぐように一言言った。
「僕の中ではティアマート卿は大いなる標的の中の一人だ。それだけは覚えておいてほしい」
「それが……どうかしたのかよ」
レヴィは警戒するように一言イスラーグに聞いた。
それを聞いてイスラーグはにやっと不敵な笑みを浮かべ言った。
「君があの人と特別な関係だということはずっと前から知っていたよ。だから念押ししてるんだ」
イスラーグのその一言にレヴィは驚愕で言葉を失った。
動揺しきった瞳でイスラーグを呆然と見つめるレヴィを見て、彼は悦に浸ったような表情でさらに言葉を続けた。
「いいかい、僕にとって最大にして最強の敵がケンヴィード・セラフ・ティアマートなんだよ。あの人が倒れない限り僕の理想の帝国は永遠にやってこないと僕は思っている」
「でも、アイツは──」
「それ以上の反論は認めないよ」
イスラーグはそう一言釘を刺すとレヴィから背を向けさらに言葉を進めた。
「ここに戻ったなら君はあの人とすべての決着をつけるべきだ。親と子の関係を超えて標的と暗殺者としてね」
イスラーグのその一言にレヴィはどうしようも出来ないことを悟った。
そう、すべて自分の決めた選択がこの非情な命令を生んだのだ。それ思うとレヴィは胸が張り裂けそうになるほどつらくなった。
そして、そう思ったとたんレヴィはジャケットを翻しその場から踵を返した。そう、父親を目の前にしたあのときの自分のように逃げ出そうとしたのだ。
「いつまでもそうやって逃げられると思わないでね」
そんなレヴィをイスラーグは冷たい瞳でじっと見つめて言った。
「君がどんなに運命から逃げようとしても一瞬の安息が得られるだけ。どんなに逃げたって運命は君の後を追って襲ってくる。それだけは覚えておいてね」
「それくらい……わかってる」
レヴィは低い声で一言そう呟くと、イスラーグを振り返って鋭い眼で睨み付けた。
「あんたに言われなくてもいつかは運命に立ち向かわなければならないことくらい知っている。一々わかったことを──言うな」
レヴィはそういうと足早にイスラーグの部屋から出て行った。
それをゆっくり見送っていたイスラーグは小さなため息をついて一言言った。
「運命に立ち向かう……ね」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!
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