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28話 対決!烈火の剣聖!
「やめろ、来るなーッ!」

 その断末魔で狙いをつけていた鹿はそのまま森の奥へと逃げていった。

 ディラウズ卿は肩に受けた大きな傷を右手押さえながら、森の茂みの中を這うようにして後退した。

彼の目の前には黒ずくめの服を着た肌の黒い暗殺者──真っ赤な瞳をした彼はじっとディラウズ卿のその情けない姿を見下ろしていた。

「貴様……一体誰の差し金だッ! 保守派の魔血どもに買われてやってきたのかッ!」

「そんなことあんたに答える筋合いはない」

 暗殺者レヴィは冷たく一言そう答えると、すっと黒い刃を彼に向けて付きたてた。

「俺の仕事はあんたの命を狙うこと。ただそれだけさ」

 彼がそうそう言ったその瞬間だった。

 轟くような馬の蹄の音が森の奥から響き渡る。

 レヴィははっとそちらを見たその瞬間、美しい黒い馬が高々と躍り出たと同時に真っ赤な閃光が刃を持つ彼の右手を直撃し、その衝撃で黒い刃は手を離れ高々と宙に待った。

 それはあまりの早業すぎてレヴィ自身も何がおこったのか理解できなかったほどだった。

 だが、今理解できるのはあの赤い閃光は魔剣の光であり、それを操る助っ人が目の前に立ちはだかった──それだけだった。

「誰だ──!」

 レヴィはやられた右手を庇いながらその一撃を食らわした人物をきょろきょろと探した。

 だが目の前には先ほどその場に飛び出した黒い馬が操り手のいない状態で悠々と立っているだけ。

そこに乗っていたはずのあの一撃を食らわした人物は影も形も見当たらなかった

 レヴィはもう一方の刃を抜き取り、その人物の第二撃に備えようとしたそのときであった。

「──無駄な抵抗はするな」

 その低い声はレヴィのすぐ背後から響き渡った。

 ハッと勢いよく後ろを振り返ったとたん、レヴィの目の前には赤々と燃えるような刀身の魔剣がのど元に突きつけられていた。

 そして驚いたことにその先にいたのは──お付の騎士でも衛兵でもない。高価そうなロングコートを身にまとった位の高そうな魔血貴族の紳士であった。

「いつの間に……」

 レヴィはその紳士をきっと睨み付けると、最後の抵抗をするように彼に刃を向けた。

 それを見て紳士は呆れたようにため息をつくと一言言った。

「お前は俺には勝てないぞ。無駄死にしたくなければ剣を置け」

「そんなのやってみなきゃわかんねえだろ!」

「俺が『烈火の剣聖』と呼ばれていてもそう言えるか?」

 その一言にレヴィは思わず絶句した。

 まさか──目の前のこの男があの帝国一の魔法剣士と呼ばれるケンヴィード・セラフ・ティアマートだと言うのか?

 そう思った瞬間レヴィは少し絶望したが、それと同時に湧き出したのは無謀とも思えるような反発の力だった。

「これは……まさかあんたみたいな有名人にこんなしけた場所で会えるとは」

 そう言いながら笑みさえ浮かべているレヴィの顔を見てケンヴィードは初めて表情を変えた。

「狂ったか」

「いいや……違うね!」

 レヴィがそう言ったその瞬間、彼の足元から真っ黒い炎が噴出した。

 それに驚きケンヴィードは即座に一歩下がり防御姿勢をとった。

「魔法を……使っただと?」

 しかし、あり得ないその事実に驚く間もなく、黒い火柱の間から弾丸が飛び出すようにレヴィはケンヴィードめがけて踊りかかった。

 交じり合う黒い鋼の刃と赤い魔法の刃。

双方の激しい鍔迫り合いに二人はお互いに相手は強敵であると感じていた。

 最初に動いたのはレヴィのほうであった。彼は即座に一歩下がり間合いを取ると手を前に突き出し呪文を唱えた。

 現れたのはたくさんの真っ黒な炎の槍。それは瞬く間にケンヴィードめがけて飛び掛っていった。

 だが、相手はその手に臆することなく手に持った炎の魔剣を力強く振りぬいた。

 すると驚くことにレヴィが放った多くの炎の槍は彼の放った魔剣の太刀筋による激しい衝撃波でほとんどが弾き飛ばされてしまったのだ。

 だがそれに驚いている暇などない。レヴィは大きな唸り声を上げながらもう一度ケンヴィードの懐めがけ飛び込んだ。

 しかし、相手は『烈火の剣聖』適うはずのない相手であった。

 ケンヴィードはレヴィが繰り出す手を難なく自らの魔剣で払い落としていき、彼に手出し一つさせなかった。

 それに対しレヴィは表情に焦りの色を見せ始めた。

 コイツに本当に勝てるのか──? そんな疑心暗鬼が胸をもたげ始めたその瞬間であった。

 もう終わりにしようとでも思ったのだろうか。

 ケンヴィードはレヴィの最後の一撃を右手の魔剣で払いのけた瞬間、左手にも同じ炎の魔剣を握り一瞬で来た彼の隙を突いてのど元にそれを突きつけた。

 その瞬間レヴィの動きはぴたっと止まった。

 どう見てもそれは完璧なる敗北であった。

「もう無駄な抵抗はよせ」

 ケンヴィードは彼に赤い刀身を突きつけながら一言そう言った。

「お前は俺には勝てない。それが十分わかったであろう」

 彼のその言葉にレヴィは持っていた刃から手を放しそれを地面に落とし、それと同時に彼はその場には似合わない笑い声をあげた。

「殺せよ」

 レヴィは一言そういうと狂ったような瞳でケンヴィードを見上げた。

「それが本心か?」

「どうせ負けた時点で俺の役目は終わったんだ。それくらいわかっている」

「ほう……そうか」

 その言葉を聞いてケンヴィードは冷たい表情を浮かべた。

「ならば最期に聞く。今日の暗殺計画は誰が首謀したんだ?」

「それは……」

「どうせ水の血の人間のだれかであろう。それを教えてくれるなら命は助けてやる」

 その言葉にレヴィは一瞬迷いの表情を浮かべたが、すぐにその場に笑い捨てた。

 ここで助かったって自分の命はないことは自分が一番わかっている。それならいっそここで討ち死にしたほうが──ましだ。

「馬鹿だな……暗殺者である俺が秘密をそう簡単に言うと思ったか」

「そうか……」

 その言葉を聞いてケンヴィードは表情一つ変えずに刃を翻した。

 それを見てレヴィは観念したように首をケンヴィードに差し出すようにもたげた。

「さあ、つべこべ言わないでさっさと一思いに殺せよ!早く」

 その時だった

首をもたげた反動で彼がつけていたサラマンダーのペンダントが一瞬きらりと輝きながら宙を舞ったのだ。

普通ならただ何事もない動きであるがケンヴィードはそれを見た瞬間、あれほど余裕であった顔色が一気に変わった。

 そして、何を思ったか即座に彼は魔剣をさった納めると、急にひざを突いて彼のペンダントをしげしげと見つめた。

 その表情はどこか激しく動揺しているような印象を受けた。

「どうしたんだ──」

 ケンヴィードのあまりに意外な態度にレヴィは呆然とした。

 一体何が起きたんだろう? 

烈火の剣聖が初めて見せた焦燥の顔を見つめながらレヴィはそれが不思議でたまらなかったのだ。

「──お前はここでは殺せない」

 しばらく黙ったままそれを見ていたケンヴィードがやっと発した言葉は何とも意外であった。

「え?」

 その言葉にレヴィは絶句するしか他なかった。

「お前には聞きたいことがたくさんある。だから──殺すわけにはいかないのだ」

 そう言うとケンヴィードは立ち上がり傷ついたディラウズ卿の方を気にするように見た。

「ともかく俺の屋敷に来てもらう。話は──それからだ」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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