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27話 狩猟
 うっそうと茂る森の遥か奥、木立の中に一匹のヘラジカが辺りを警戒しながら木の幹に生い茂ったコケを食している。

 それを発見した彼は黒い馬にまたがったま音も立てずにすっとあるものヘラジカに向かって構えた。

 それは一見弓のような形状をしているが、普通ならあるはずの弦は全く張っていない。いわゆる魔道具一つである魔弓と呼ばれるものであった。

 彼はその魔弓をすっと構え弦を振り絞るしぐさをすると、そこから光線が集まりだし魔法で作った光の矢が瞬時に現れた。

 そして、架空の弦からぱっと手を放したその瞬間、光の矢は瞬く間に空を切ってヘラジカの首を射抜いた。

 その場でバタッと倒れこむヘラジカ。それをめがけて猟犬たちが唸り声を上げて飛び掛っていった。

「いやぁ……さすがですねティアマート卿」

 ケンヴィードが弓をすっと取り下げると同時に一人の中年魔血貴族が喜び勇んで駆け寄ってきた。

「あなたが帝国一の魔法剣士であることは知っていましたが、まさか魔弓までこんな腕前だとは……思いもよりませんでしたよ」

「そうかな」

 ケンヴィードはそういうとため息混じりに彼のほうをチラッと見た。

彼、セロ・ディラウズはひょろりとした痩せ型で頼りなさげな風貌であるが、ケンヴィードにとっては政治的にも大きなパートナーの一人である火の血の有力魔血貴族であった。

「俺は軍隊時代に魔弓をちょっとかじったぐらいだし、そんな大した腕前じゃないよ」

「いやあ、でも今のところはずれはありませんよ。先ほどは狐を仕留めたじゃありませんか。今のところ外れなしなんてすごいですよ──でも私はこの前あなたがしとめたヘラジカよりもっと角の大きい雄を仕留めたんですよ。そうだ! 一段楽したら私の別荘に来ませんか? その時のヘラジカ、エントランスに飾ってるんですよ──」

 そう言うディラウズ卿の声は自然と弾んでいく。

 よほど狩が楽しいのであろう──ディラウズ卿の狩自慢は先ほどから留まることを知らずケンヴィードは半分呆れかけていた。

 ディラウズ卿の狩好きは昔から魔血貴族の間では有名な話ではあった。

禁猟があける七月になると表の政治の世界から身を隠し森の中の別荘に移住してしまうとか、日が暮れるまで獲物を追って行くうち森で迷子になったことがあるとか──

彼の狩に関する逸話はいろいろ聞いてはいたが、実際付き合ってみてこれほどまでに執心だとは──さすがのケンヴィードも彼の熱中ぶりに振り回されてお疲れ気味ではあった。

「ところでティアマート卿は狩はよくされるのですか」

「いいや、俺は人に誘われて付き合う方が多いかな」

「あら、そうですか……」

 そう言うとディラウズ卿は少し反省したように興奮した声を抑えた。

「でも、どうです? たまの狩猟っていうのも楽しいものでしょう。獲物を追うあのわくわく感なんてたまりませんよねえ!」

「まあ、息抜きと考えれば……」

「ほらほら! あなたもだんだん狩の魅力にはまってきたじゃありませんか!」

 そう言うとディラウズ卿は嬉しそうな顔をしてケンヴィードを見た。

「ではこの調子で今日は日が暮れるまでやりましょうよ! 今度は私の番ですよ~。あなたよりもっと大きな獲物を──」

 ディラウズ卿がそう声を出した瞬間、彼は森の奥にある気配を感じてはっと息を潜めた。

 ふと彼の視線の向こうを見ると、森の奥の茂みの中が不自然にガサガサとうごめいていて森の闇の中へと消えた

「あそこ、大物がいますよ!」

 ディラウズ卿は声を潜めながらケンヴィードにそう呟いた。

「ほう……じゃあ、君があれを狙うって言うのか?」

「ええ、遠慮無しに行かせていただきますよ」

 そういうとディラウズ卿は片手に魔弓を持ち馬の手綱をゆっくりと引っ張った

「それではティアマート卿、私の腕前をとくとご覧ください」

 ディラウズ卿はケンヴィードにそういい残すと、森の中に消えた獲物の後を追って馬を森の闇の中に飛び込ませた。

やれやれ……

ケンヴィードはそんなディラウズ卿の姿を見て呆れたようなため息を一つついた。

まさかここまで付き合わされることになるとは全く厄介な相手だ。彼が満足する成果が得られるまで森から出ないつもりなのだろうが、そうなれば一体どこまでつき合わされなければならないのだろう。

そう思うとケンヴィードは重たい気分になったが、彼を一人置いていくわけにもいかない。

ケンヴィードは彼の後を追って馬を操ろうとした──その時であった。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 彼が消えた森の奥から聞こえた叫び声にケンヴィードは一瞬にして血相を変えた。

何がおきたかわからないが、とにかくいやな予感のする叫び声だった。

それと同時にケンヴィードは狩猟のプロである彼に起きたトラブルが狩猟上のものではないことも確信した。

彼の命が危ない──!

そう思った瞬間ケンヴィードは鐙で馬の腹を蹴ると暴れるように走り出した馬を操り彼が消えた森の闇の中へと飛び込んだ。
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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