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26話 イスラーグとの対峙
 この場所に再び戻るということは自らの命も捨てる覚悟も同時にいる──レヴィはそのことを十分わかっていた。

 一度はイスラーグに使い捨てられた武器なのだ。自分の命など元よりないものだと思っていた。

 だが、図らずも自分は一度捨てられた命を拾ってしまったのだ。

 それを大事に使うために彼から逃げるという手も一つの手段だったのかもしれない。

 だが、レヴィは自分の命よりも大切なことをイスラーグに聞くつもりであった。

 たとえ彼と刺し違えることになっても、その言葉を聞かない限り息絶えるつもりはないつもりであった。

 だが、しかし──

「待っていたよ。レヴィ」

 殺気を携えて彼の部屋に入ったレヴィは思いもよらぬ歓迎に思わずあっけに取られた。

 真意を聞くべき相手であるイスラーグは応接ソファにゆっくりと腰掛けてレヴィに向かいゆっくりと手招きしていたのだ。

「君なら必ずこの場所を訪れると信じていたよ」

 それを言うイスラーグの表情は何とも柔和な笑顔を浮かべている。

そんな彼を見てレヴィは激しい戸惑いを覚えた。

「一体何の真似だ……」

 そんな彼を鋭い視線でにらみつけるとレヴィは一言聞いた

「何の真似だって──ただ僕は君とゆっくり話がしたいからこうしてずっと待っていただけ。それに君だって僕に聞きたいことはたくさんあるはずだろう?」

 全くの図星であるそれを聞いてレヴィは反論する言葉が全く出なかった。

 そして、それと同時にレヴィは強い敗北感を覚え悔しそうに唇を噛んだ。

「言っておくけど。僕は君の犯した過ちをどうこう責めるつもりなんてないよ。これ以上僕は優秀な武器を失いたくないんだから」

「それは、俺が殺したイエロ・ティグレのことか?」

「いいや、違うね」

 そういうとイスラーグは鋭い視線でレヴィを見据えた。

「わからないのかい? 僕の言う優秀な武器こそレヴィ──君自身のことなんだよ」

「何──」

 その言葉にレヴィは思わず眉をひそめた。

 イスラーグは一体何を心変わりしたというのだろう。一度は捨てかけた自分をこれほどまでに褒めちぎるなんて──

「僕は本当に愚かなことをしたよ」

 そういうとイスラーグはニヤニヤと不気味な笑みを浮かべた。

「君の忠誠心を試すばかりに、僕は自分の部下に君の任務の邪魔をしろと命令してしたおかげで、君の激しい抵抗のせいで僕のほうは大損害。本当なら──そんな裏切り者の君を許しておくはずがないんだけどね……」

 その言葉を聞いてレヴィは警戒したようにすっと構えた。

 だが、それを見てイスラーグはふっと冷たくふきだして笑った。

「やめなさい。今日の僕は自分の損害よりも新たな発見に心が湧いてるんだ」

「新たな──発見?」

 そういったレヴィの目の前にイスラーグは立ちはだかりじっと彼を熱い視線で見つめて一言言った。

「君はすばらしい」

「はあ!?」

「君が見せたあれほども強い魔力──魔血である僕の部下たちだってそんなもの持ってない。そんな絶大な力を濁血である君が秘めていたなんて──僕は嬉しいよ」

 その一言を聞いてレヴィは不信の目でじっと睨み付けた。

 今更何を言うつもりだろう。一度は俺を消しにかかったというのに──

「君の不信感はわからないわけではないよ」

 そんなレヴィを見てイスラーグは困ったように苦笑した

「僕は一度だけ君を裏切ったんだ。それを根に持つ気持ちは痛いほどわかるつもりだ」

「だったら何故今更俺に歩み寄ろうなんてするんだ。そんなの──」

「僕らしくないって言いたいの?」

 イスラーグはレヴィの言葉を先に代弁してふふっと笑顔を浮かべた。

「馬鹿だなあ……最も使える武器を目の前にしてそれを捨てる愚かなことはしないよ」

「───!」

 その言葉を聞いてレヴィは思わず絶句した。

 だが、そんな彼を見てもイスラーグは顔色一つ変えずにまっすぐな視線で彼を見据えた。

「レヴィ。一生のお願いだ」

 そういうとイスラーグはレヴィの手をすっと取った。

「僕の野望を達成するためには優秀な君の力が絶対に必要なんだ──だから、すべてを水に流してもう一度僕の元に戻ってきてほしい」

「でも──」

「ちなみに、僕の言葉に逆らうことはできないよ」

 イスラーグのその冷たい一言を聞いてレヴィははっとした。目の前の彼は氷のようにつめたい表情を浮かべ恐ろしい笑みを浮かべていた。

「僕は何も言わないけど、君ならばそうすればどうなるかわかるよね」

 やっぱり最後は脅しにかかるのか──その言葉を聞いてレヴィは激しい落胆を覚えた。

 イスラーグと対等の話がしたいと期待してやったけど、やはりそんなこと最初(ハナ)から無理だったのだ。

 結局突きつけられた道はたった二つ。彼に従い生を選ぶか、彼に逆らい死を選ぶか──二つに一つしかないのが現実であった。

「まだ、迷っているようだね」

 そんなレヴィを見てイスラーグはため息混じりに一言言った。

「では、そんな君に最後の指令を与えるとしよう」

「最後の──?」

「そうだ。今度こそ三度目の正直の最終試験。君に真意をこの任務で見極めることにするよ」

 そう言うとイスラーグは冷たい表情を浮かべ彼を見つめた。

「君が次に狙うのは、火の血の有力な魔血貴族セロ・ディラウズ伯爵──ちょうど今日彼が帝都近郊のノーフォークの森にてお仲間の魔血貴族たちと狩猟を楽しむらしいんだ。ちょうどいいからその場にてディラウズ伯爵を暗殺してほしいんだ」

「それもあんたの邪魔をする改革派の魔血なのか?」

 レヴィのその一言にイスラーグは少し驚いた様子を浮かべた。

「改革派なんて──いつそんな言葉を覚えたんだい?」

「それは……」

 イスラーグのその切り替えしに対しレヴィはどう答えていいのか苦慮した。

 セドナたちと付き合ったためいつの間にか覚えてしまったそれはきっとイスラーグにとっては余計で目障りな知識なのだろう。

 そう思った瞬間レヴィは貝のように口を閉じきった。

「まあ──いいや」

 それを見てイスラーグはため息混じりに答えた

「その通りだよ。ディラウズ卿は僕たちにとっては厄介な対立者だ。それを始末するのが君たち暗殺者の役目だろう」

「そうだけど……」

「それなら余計なことは考えないことだね」

 一言そう言うとイスラーグはレヴィに背を向けた。

「ともかく、決行は明後日の午後──これにて僕は君の真意を測ることにするよ」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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