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22話 戦火のチャペル
「元来『非魔血』という呼び名は魔血の側から生み出された一種の差別用語──考えてみてください。魔血たちの側からすれば『非魔血』という言葉は人ではないと否定されている意味とも取れます。今は皆『非魔血』と呼ばれる者たちにも元々は民族の名前があった。非魔血たちの起源国家は古代レアンタールに由来します。そのため本当の名前はそこからとってレアン人だとある文献には書いているのですが、古代レアンタールが水の魔血国家アシュタルトに滅ぼされたころから我々は『非魔血』と言う名前で呼ばれるようになったのです──」

教会の壇上で高々と自分の研究成果を発表するランクスをセドナは舞台の袖口からじっと眺めていた。

 広いチャペルの中には人は僅か──しかもほとんど興味本位に話を聞きに来た非魔血ばかりだ。

 だが、そんな彼らを前にしてもランクスは臆することなく真摯な態度で論を講じている。

 そんな彼の後姿を見てセドナはなんとも頼もしい気分になっていた──その時だった。

 ガシャン──!

 窓ガラスが勢いよく割れるその音を聞いてセドナはいぶかしげな顔をして舞台の控え室の窓を覗き込んだ。

 そこに映ったのは暗闇にうごめく不穏なの男たちの影──それは少しあわただしくざわざわとこちらに迫っていた。

まさか──!

 それを見てセドナははっと息を呑んだ。

 思いついたのはただ一つ──ランクスを狙った暗殺者であることは間違いない!

「ランクス! ここは危ない──!」

 そう言ったその瞬間静寂に包まれたチャペルのドアが計り知れぬ大きな力で吹き飛ばされた。

 そこから現れたのは暗殺者──否、真っ白な肌を布で覆い隠した魔血の暗殺魔法士が立っていた。

 暗殺魔法士はランクスの姿を見ると有無も言わさず呪文を唱え始めた。

 それを見て聴講していた非魔血たちもおびえたようにその場から逃げ出したが、ランクスは逃げようともせずにその男を冷めた目で見つめた。

「へえー、まさか魔血がやってくるとは思わなかった」

あまりにも落ち着き払ったランクスの様子を見てセドナはおろおろと焦るしか出来なかった。

 だが、ランクスを狙う魔血の呪文はどんどん完成していき、手のひらが青白く発光したそのときだった。

 パーンと乾いた音がチャペル内に響き渡ると、呪文を唱えていた魔血はふらりと後ろに倒れこんだ。

「残念」

 彼に向かって銃を構えたランクスは冷静な顔で一言言った。

「呪文の詠唱時間が命取りだったな。銃は引き金一つで魔法に勝てるんだよ」

「……もう、そんな悠長なこと言ってる場合?」

 そう言うとセドナはむっとした表情でランクスを一つ小突いた。

 もう追っ手たちはセドナのいた舞台袖の控え室にも潜入し、そして先ほどランクスが撃ち殺した暗殺魔法士の後からも続々と魔血たちがなだれ込んでいたのだ。

「いやー、まさかこうなるとはなあ……」

 ランクスはもう一丁の銃を白衣の下から取り出すと、引きつった笑みを浮かべた。

さすがの彼もこうも魔血が束になって押し寄せるとは思ってなかったようで、その顔には若干の焦りの色が見えた。

──どうしよう。

セドナも腰につけた鞭を取り出すと控え室から近づきだす魔血たちを唇を噛みながらじっと睨み付けた。

こんなにも多くの魔血──相手になんかできないよ。私は──何の力も持ってないのに……

そんな絶望がセドナの心を支配しようとした──その時だった。

真っ暗闇の閃光が一瞬セドナの視界を遮った。

その瞬間、雷鳴のごとくとどろいた轟音とともに、扉前に集結していた魔血たちはす凄まじい爆風に吹き飛ばされた。

初めて目の当たりにする巻き上がる漆黒の炎。その中に彼は一人立ちはだかっていた。

「誰だ──」

 ランクスはそう言うとその人物にすっと銃口を向けた。

爆炎が薄れ徐々に晴れ上がった彼はすっと両手を天井に挙げ大きな声で叫んだ。

「撃つな! 俺はあんたを助けにきたんだ!」

「──レヴィ?」

 その顔を見てセドナは思わず仰天した。

 何故こんなところに彼がいるのだろう? そして、何故自分たちを助けに来るのだろう?

 状況が未だに飲み込めないセドナをよそに、ランクスは懐疑的な目でレヴィを見つめた。

「どういうことだよ。君は俺を狙う暗殺者じゃなかったのか?」

「今日あんたもこいつらに襲われてはめられたのだろうけど、俺も同じようにはめられたんだ!」

「──あのさ、もっとわかりやすく説明してくれる?」

「つまりね、アイツはご主人様に裏切られて暗殺者としてのプライをボロボロに傷つけられてとにかくご執心なのよ──わかった?」

 レヴィの気持ちを補足つきで説明したのはいつの間にか控え室前に潜入していたエリオルだった。

 彼女は右手から糸のように細いワイヤーを振りぬくと控え室に迫っていた魔血たちは一斉に血を吐いて倒れこんだ。

「つまり──レヴィは味方だってこと?」

「んー……今はそういうことになるのかしらね」

 セドナの質問にエリオルは訝しげな目をしてレヴィの方をちらっと見つめたが、その視線にレヴィはあえて目を合わすことはしなかった。

 その時、またしても不穏な外の足音が教会内に響き渡った。

 もはや彼らのその声は暗殺者らしく息を潜めたものではなく、轟くような罵倒の声で会話していた。

「──ったく、イスラーグの奴……ただの非魔血一匹にどんだけ部下を投入する気なんだ!」

 また集結し始めるイエロ・ティグレの気配を察しレヴィはイラついたような声を上げた。

「とにかく、ミシュラン博士はさっさとこの教会から逃げろ!」

「君はどうするんだ?」

 ランクスのその一言にレヴィはすっと彼から背を向け返した。

「俺は──奴らをできるだけ引き付けておく」

「でも、レヴィは──」

「行けッ!」

 セドナのその言葉を振り切るかのようにレヴィは外に飛び出して行った。

 その姿を見てセドナは何とも痛々しい表情を浮かべ彼を追おうと思ったがエリオルにそれを阻まれた。

「セドナ、あいつの言ったとおりあたしたちはここから無事に逃げることが先よ」

「でも──相手は魔血の暗殺者集団だよ。それをたった一人でなんて」

「あいつも魔法が使えるのよ。あたしみたいなのが一人で相手にするのとじゃわけが違うんだから──」

 だがセドナはそう言うエリオルの手を振り切ってチャペルの中を走り出した。

「待って──!」

「私、彼が一人で戦ってるのに、自分は黙って逃げるなんて嫌!」

「だけどあんたじゃ何の足しには──」

「おい、セドナ」

 エリオルの言葉を遮ったのは黙ってそれを見ていたランクスの言葉だった。

「お前、ここから先は自己責任だぞ」

「───」

「後はお前の意志が決めることだ。足手まといを承知で彼と共に戦うか、罪悪感にさいなまれながら俺たちと逃げるか──好きにきめればいい」

「ちょっと……何その無責任な言い方──」

 ランクスのその言葉にエリオルは不服そうな言い方をしたが、彼は深いため息をつきながら彼女を鋭い視線で見た。

「セドナだって子供じゃない。自分の道は──自分で決めるだろ」

 そう言うとランクスはすっと背を向けると舞台袖のほうへ歩いていった。

 それを見てセドナは小さな声で呟いた。

「ごめんね、ランクス……私、やっぱり彼を放っとけない」

 セドナはそういい残すと、音もなく教会の外へと走り去っていった。

 その行為にランクスは何も言わず深いため息をつくばかりだった。
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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