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21話 暗殺魔法士集団「イエロ・ティグレ」
 ランクスのいる教会にもイスラーグの配下の者が襲っている──

 レヴィにとってそれはエリオルの猛攻から逃れるための方便でしかなかった。

 どうせ非魔血である彼らを始末するのは自分ひとりで十分だとイスラーグは思って外の者には手出しさせてはないだろう。

 だが自分の嘘は誰も傷つけないものだ。もちろん彼女にとっては嘘であってほしい嘘であることは間違いないのだから。

 とりあえず今は本当に夫が襲われていると思い込んでいるエリオルにつれられ教会に向かっているものの、そこに行けばランクスの無事は確認されるに違いない。

 そうすれば──彼女だって安心するし、隙もできる。そこをつけば自分が逃げ出すチャンスだって大いにあるはず。それこそがレヴィにとって最良のシナリオであったはずだった──

 しかし、実際にはそう思惑通りに進まないものだ。

 エリオルとともに教会につくとレヴィはその周辺の様子に度肝を抜かされた。

 教会を取り囲む明らかに不穏な空気を漂わせる一団──しかも、相手の肌は皆白い。

 ──おいおい……聞いてないぞ。こんなこと……

 暗殺魔法士集団「イエロ・ティグレ」──イスラーグが「ブラッド・ウィキッド」とは別に直属で管理している自分の息がかかった魔血のみで構成される暗殺魔法士集団。

 それを見たとたんレヴィは体中の血の気が引くのを感じた。

 イスラーグは本気なんだ。自分も信用せずに自分の力でランクスを本気で消しにかかっている──

「ちょ……本当にいるじゃない!」

イエロ・ティグレの姿を見て動転したのはエリオルも同じようで、また殺気めいた目でレヴィに飛び掛ろうとした。

「あんたの上司って本当に卑怯な奴ね……ただの非魔血相手にあの魔血の数は何よ!」

「俺は──知らない」

「嘘おっしゃい! あんたの言ったとおりほんとにランクスがあいつらに殺されちゃうじゃない……」

 その一言にレヴィは一瞬沈黙し彼女から目をそらすように顔をうつむけたが、すぐに悔しそうにぼそっと呟いた。

「これは俺だけの仕事のはずだった……」

「え?」

「ランクスを殺せと言われたのは本当だ。だけど──それは俺一人だけに命令されたとばかり思ってた」

「ちょっとまって。それじゃあ、さっきの言葉──」

「ああ、真っ赤な嘘だよ」

 そういうとレヴィはすっと立ち上がり教会の周りをうろつく魔血の軍団を睨み付けた。

「それだから余計許せないんだ。俺を信じずに俺の仕事を邪魔しようとするあいつらやあの男が──許せない」

 その言葉を言いながらレヴィは自分の胸が徐々に怒りで熱く焦がされていくような感覚を覚えた。

 なにをそんなに怒っているのだろう。

 自分の仕事を横取りしようとする目の前のイエロ・ティグレに? それとも自分を信用しなかったあいつらを操るイスラーグに?

 どちらにしろ自分の期待はもろくも裏切られたんだ。

 そう思うとどこにも向けられない怒りだけがレヴィの体中を駆け回った。

「おい、何絶望してやがるんだ! そこの元暗殺者!」

 レヴィはそう息巻くと呆然と座り込むエリオルをじっと睨んだ。

「勝手に諦めてんじゃねえよ! それでもアイツの最強の嫁なのか!」

「どうしたの? 一体……」

 急に態度を変えたレヴィを見てエリオルは思わず呆然と彼を見つめた。

「俺は──キレたんだ。俺の仕事を邪魔しやがるあいつらの存在にさ……」

「へえ……」

 そういうとエリオルもゆっくりと立ち上がりレヴィの顔を面白そうに見つめた。

「つまり暗殺者としてのプライドが傷ついちゃったってわけね」

「まあ、そういうことだ」

 レヴィはそういうと腰から一対の黒い刃を抜いた。

「俺はヤツラの任務を邪魔したいだけ。あんたは好き勝手に旦那を助けたらいいさ」

「へぇ……まさかあんたとこんなところで目的が一致するとは思わなかったわ」

 そういうとエリオルはにやっと冷たい笑みをレヴィに返した。

 それを見てレヴィは手に持った一対の刃をひとつに合体させ始めた。

「あんた何人やれそう?」

「舐めないで。これでも現役時代は数十人の魔血相手に戦ったのよ」

「そうか……じゃあ、お手並み拝見とでもいこうか」

 レヴィはそう言った瞬間、手に持った合体させた二つの刃を夜闇の中に美しく解き放った。

 それはブーメランのように空気を切り裂き、そして辺りを警戒していた一人の魔血の首を音も立てずに奪い取った。

 どさっと大きな音を立てて崩れ落ちる魔血の暗殺魔法士の躯──それを見たイエロ・ティグレの面々は一気に殺気だった。

「敵襲──!」

「何者だッ!」

 見えない敵の襲撃に色めき立つイエロ・ティグレ──彼らは徐々に束になりながら魔剣を構え戦闘態勢に入っていく。

 しかし、次の攻撃は彼らの足元からやってきた。

「我が血に流れ棲まう火の『蛇』よ。汝に告ぐ。汝の燃え滾る力にて地獄の業火を現世に喚び覚ましすべてのものを──燃えつくせ!」

 その瞬間、彼らの足元から手のように絡みつく黒い炎がめらめらと湧き上がった。

 あまりにも急なことで不意をつかれた彼らの中には防御が間に合わずそのまま黒い炎の手に地の底に連れさらわれる者もいた。

 だが、生き残った彼らはこの一撃で相手の正体を確認したのだ。黒い炎を操る男は一人しかいない──間違いなくあの濁血だ。

 その瞬間、黒い炎のど真ん中から黒ずくめの男が音もなく飛び出し、そのまま一人の魔血の腹を黒い刃で掻っ捌いた。

「貴様──!」

 大きな傷を受けた魔血はうずくまりながら立ちはだかるレヴィををキッと睨んだ。

 きっと彼らの目から見れば自分は頭のいかれた暴走野郎にしか見えてはないだろう。

 だが──そう思うなら、そう思えばいい。俺は自分の信じた道をただ進むだけなのだから──

 その瞬間、レヴィは高まる殺気を感じ瞬時に黒い刃で別の魔血の魔法の刃を受け止めた。

 さすがイエロ・ティグレ──あの魔法でくたばった人数のほうが少ないとはなかなかやるもんだ。

「裏切り者には死を──!」

 そう言ってもう一方の魔血がレヴィに向かい魔法の刃を煌かしたその時だった。

 とてつもない細い光が一瞬にして彼の額を射抜いた。

 魔血は魔剣を構えたままぴたりと動きを止めそしてぐたりと倒れこんだ。

「レヴィ! 頭下げて──!」

 エリオルのその言葉を聞いてレヴィは鍔迫り合いしていた刃の力をすっと抜くとすばやく身体を屈めた。

 その瞬間、エリオルの両手から蜘蛛の糸のように細く刃物のように鋭いワイヤーが四方八方に飛び散った。

 それはまるで命を持っているかのように激しくうごめき、次々と魔血たちの身体を瞬時に切り落としていく。

そのあまりの速さに魔血の暗殺魔法士たちは初めて顔に恐怖の色を浮かべた。

「──やるじゃん」

 その様子を見てレヴィは思わず口笛吹いた。

「なあ、今からでいいから俺と組まないか? そしたら最強だぜ──」

「馬鹿いわないで。あんたみたいな魔法の使える暗殺者と組んだら私の名声が下がるじゃない──」

そういうとエリオルは手元のワイヤーを煌かせながら鞭のようにふるった。

 目の前にはまだまだイエロ・ティグレたちがたくさ彼らの前に立ちはだかっていた。

「ともかく無駄話はランクスを助けた後! あんたもプロだったらまじめに仕事しなさいよ!」

「はいはい、わかったよ──!」

 そう言うとレヴィは両手に一対の黒い刃を構えて、目の前のイエロ・ティグレを睨み付けた。

 まだ、教会は遠い。だけど、自分たちが暴れれば別働隊のイエロ・ティグレも焦りだすに違いない
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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