19話 使えない武器
「えらく遅かったじゃないか」
レヴィがイスラーグの部屋に足を踏み入れようとしたその時、図ったようなタイミングで不意に話しかけられた。
レヴィははっとそちらを振り向くと、レヴィの登場を待ち受けていたかのようにイスラーグが不敵な笑みを浮かべこちらに近づいていた。
「仲間の死をほったらかして、今までどこで油を売ってたんだい? 僕は君なら真っ先に飛んでくると思ってずっと待ってたのに──」
「なんだと──」
「ギルドで聞かなかったかい? ディアスの死は君のせいだって暗殺者たちは騒いでいただろう。なにせ昨日のディアスの任務は君さえ邪魔しなければもしかしたら適っていたかも知れないのだからねえ」
その言葉を聞いてレヴィははっと息を呑んだ。
まさかこいつ──俺をおびき寄せるためだけにディアスを殺したって言うのか?
そう思った瞬間、レヴィは憎しみに燃えた目でイスラーグを睨み付けた。
「殺すことはないだろう──」
「甘いね。彼は自分に与えられた任務を達成できなかった上に一人だけ生き残って逃げたんだ。そんな使えない暗殺者僕はいらないね」
「でも、ディアスがあそこで生き残ったからといってあのお嬢様を一人で誘拐するのは不可能だ! あんただってそれくらいわかるだろ」
「ああ、アイリス嬢が稀に見るすばらしい魔女であることも、どんなに非魔血の暗殺者を積んだって彼女には勝てないこともわかってたよ」
「そこまでわかってて──」
イスラーグのその言葉にレヴィは絶句するしかなかった。
「ディアスがアイリス嬢の実力をどれだけ知っていたのかは──彼が死んでしまったから問いただすことは出来ないけど、どちらにしろ低く見積もりすぎたことは確かだ。その結果を彼に報いただけ。僕がしたのはたったそれだけさ」
「てめえ……」
その言葉を聞いてレヴィは唇をぎゅっとかんだ。
「俺たちのことなんだと思ってるんだ──あんたにとっちゃ俺たちは都合のいい武器でしかないかもしれないが、使い捨てするのだけは勘弁ならねえ!」
「あれ? 言わなかったかな?」
そう言うとイスラーグはにやっと不気味な笑顔を浮かべた。
「僕は僕にとって使える便利な武器しか持たない主義なんだ。切れ味のないもの、一度錆びついたもの、そして僕に歯向かうものは一切必要ないね」
「───」
レヴィはその言葉に対しついに沈黙してしまったその時だった。
意気消沈したレヴィの不意を突いてイスラーグの手が首を鷲づかみにしたのだ。
「それとも──君も彼と同じ使えない武器なのかい?」
「え──?」
その言葉を聞いてレヴィは目を丸くして目の前のイスラーグを見つめた。彼はとてつもなく冷たい表情を浮かべ自分を緑と青の瞳でじっと見ていた。
「さっき言ったよね。僕に歯向かう者も使えない武器のひとつだって──」
その言葉を言った瞬間、レヴィの首元を掴むイスラーグの手の温度が急激に冷たくなっていくのを感じた。
彼の手の感触はもはや冷たいを通り越して鋭い痛みしか感じない。
そう、彼の冷たい手はレヴィの体温をどんどん奪っていたのだ。
生理的に震える身体、凍りつく唇──そんなレヴィを見つめながらイスラーグは高々と笑って見せた。
「君はブラッドウィキッドの暗殺者たちの中でもっとも強くて使える武器だったよ。だけどね──そんな君でも僕に逆らったりしたらディアスと同じように命はないと思っていたほうがいい。だって優秀な君も数居る武器のひとつでしかないのだからね」
そう言い放つとイスラーグはレヴィの首から手を乱暴に突き放した。
レヴィはその場に力なくうずくまると激しく咳き込んだ。身体は芯から冷え切って手足の感覚さえなかった。
「そんな君に一度だけチャンスを与えよう」
そんなレヴィをイスラーグは冷たい緑と青の瞳で見下ろした。
「たった今決めたよ。君がランクス・ミシュランを襲ってきなよ」
「え──?」
レヴィは朦朧になりながらもその言葉に強く反応した。
「これは君の忠誠心を試す大事なテストだ。あんなに嫌がっていたこの任務をちゃんと果たせたら僕は君を許してあげるよ」
「許す──だと」
その言葉にレヴィは顔をゆがめた。
「君だってディアスみたいな悲しい末路を歩みたくないだろう? 誰だって死にたくなんてないんだ。そういえば死ぬ前のディアスもそんなことほざいていたなあ」
「貴様──!」
レヴィは憎しみをこめてそう唸り立ち上がろうとしたその瞬間、目の前をすっと冷たく輝く刃が通り過ぎた。
はっと息を呑んだその時にはイスラーグが自分ののど下に氷の魔剣が突きつけられていた。
「──僕はいつでも君を殺せる」
イスラーグは悦に入ったような瞳でレヴィを見つめた。
「君がここで首を縦に振ってくれるのなら、今回だけは君を見過ごしてあげよう。でも、それでも嫌だというなら──どうなるか君だってわかるよね」
その言葉を言いながらイスラーグはレヴィの肌に氷の刃をぴたっとくっつけた。
身を切るような冷たい感触にレヴィの身体は自然に再び震え始める。その様子を見てイスラーグは面白がるように笑った
「ほら、君だって死ぬのが怖いんだろう。だからそんなに震えているんだろう。どうだい、そろそろ僕に屈してもいいんじゃないかな? 君だって死の恐怖がずっと続くのは耐えられないだろう?」
その言葉にレヴィは諦めたかのように悔しそうに顔をうつむけ唇を強く噛んだ。
「悔しい──!」
一言そういうとその場にうずくまったレヴィの頬を自然と涙の筋が流れ落ちた。
これほどの敗北感を覚えたのは生まれて初めてであった。
「と言うことは、僕の提案に乗るということかい?」
その様子を満足げに見つめながらイスラーグは一言そういった。
だが、レヴィはそれに対し肯定も反論もせず、ただ黙ったまま悔し涙を流すだけだった。
「──よし、わかった」
それと見てイスラーグはレヴィに突きつけていた氷の魔剣をすっと収めると、勝ち誇った緑と青の瞳で彼をじっと見下ろした。
「決行は、明日夕刻──暗殺魔法士である君にとっては非魔血相手なんて簡単すぎる任務かもしれないね」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。