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18話 便利な道具
 ランクスの要請に答えて自分の魔法の血を採取した後、レヴィは早々と彼の家から離れることにした。

これ以上ここに長居をしたら自分もランクスの方の将来つらくなるだけだ。

 敵であれ味方であれ、どちらにしてももう二度と彼と出会わないのがお互いにとって最良な選択だろうとレヴィは思った。

別れの挨拶はあえてせずに黙ってその場を去った後、レヴィは自分の心の中になにか虚しい物が通り過ぎるのを感じた。

 暗殺者と標的(ターゲット)──この関係さえなければ自分はランクスやセドナといい友情関係を結べたであろう。

 そう考えると彼らと出会ったことを喜ぶ反面すこし後悔するような複雑な気分になった。

 標的側の人間に好意を持つなんて暗殺者失格かもしれないけど、出来ればお互いの間にこのまま平和な関係がいつまでも続いてほしい。

 だけどそれはたった一つの心無いトップの指示で脆くも崩れてしまう危うい祈りでもあった。

 そう思うとやり場のない悲しさがレヴィの身を襲った。

 こんな気分になるのなら会わなければよかった。後々つらくなるのは自分だけなのだから──

「待って!レヴィ」

 ランクスの家を出てすぐ、レヴィはその声に呼び止められふとそちらを振り返った。

 そこには困惑した表情を浮かべてその場に立ち尽くすセドナの姿があった。

「ねえ、あなたはそれでいいの? あなたを支配している人がランクスの消せって言ったらあなたは本当に──」

「逆らえないんだから仕方ないだろう」

 そういうとレヴィは深いため息をつき彼女に背を向けた

「でも、俺はそうなってほしくないと切に願っている。どうせ叶わない願いかもしれないけどな」

諦めも混じったその一言にセドナは悔しそうに顔をうつむけ一言言った。

「そんなの間違ってるよ」

「え──?」

「本当は嫌で仕方ないのに上の人間が命令したからそれに従うだけ? そんなあなたは彼らの便利な道具でしかないじゃない」

 その言葉にレヴィははっと息を呑んだ。

 自分がイスラーグの武器でしかないとはわかっていたものの、まさか彼女にそう言われるとは思わなかったのだ。

「何度も言うけどあなたは本当に今のままでいいの? 人間扱いもしてくれない魔血の言いなりのままで本当にいいと思ってる?」

「そんなこと──」

 レヴィはその言葉にどう答えていいのか迷っていたその時だった。

 後ろからすっと温かい手が自分の手を取った。

それを感じレヴィははっと後ろを振り返ると、そこには憂いの表情を浮かべた彼女がじっと前を見据えていた。

「私、そんなレヴィを見てられない。嫌な命を受けて私たちの前に立ちはだかるレヴィが──かわいそうよ」

 その言葉を聞いてレヴィの胸は大きく高鳴った

 そして、手と耳から伝わってくる彼女の包み込むような温かさにレヴィの身体は次第に驚くほど火照りだしてきた。

「やめろ!」

 その感触に居心地の悪さを感じたのかレヴィは本能的に彼女の手を振り払った。

「何もわからないあんたなんかに同情される覚えなんてない。俺は──この道を自分の意思で選んだんだ。どんな命令が来ようともそれは自分の意思で処理するしか──ないんだ」

「でも──!」

「いいか! もう俺のことなんてすっぱり忘れてくれ!」

 レヴィはそう履き捨てるとすっと彼女に背を向け悲しそうにもうひとつつぶやいた

「──こんな気持ちになるのなら、あんたなんかと会わなければよかった」

 そういうとレヴィは足早にその場から立ち去った。

 だが一度は振り切った彼女の手の温かさはいつまでもレヴィの中に残っていた。

 なんだろうこの気持ち──

 彼女の残り香のような強い戸惑いと不思議なときめきに打ちひしがれながらレヴィはその足でレヴィはいつものように暗殺者の集まる店「ブラッド・ウィキッド」に立ち寄った。

 だが、店に入ったとたんレヴィはその様子に思わず息を呑むしか出来なかった。

 集まっていた暗殺者たちはみなレヴィが店内に入るなり雑談をやめ、鋭い視線でキッと彼を睨み付けた。

 その色は明らかに怒りや憎しみが見て取れて、中には今にも襲い掛からんとする暗殺者もいた。

 一体何があったのだろう──明らかにおかしい彼らの様子にレヴィは困惑しながらカウンターの中にいるワトゥサに目を向けた。

 彼の顔もどことなく重く沈んだようで、暗殺者とはちがって悲しげな表情でレヴィを見つめていた。

「──どうしたんだ?」

 状況が全くわからないレヴィはワトゥサに一言そう聞くと、彼は悔しそうに唇を噛みながら一言言った。

「ディアスが──死んだ」

「え──?」

 思わぬ一言にレヴィは一瞬言葉を失った。

 確かディアスは昨日のアイリス・ラキア・ティアマートの件で生き残っていたはずなのに──何故?

「ジェラール大佐に昨日の失敗を責められた末、殺されたんだよ──」

「でも、アイツはあのお嬢様の一撃にも──」

「お前が、ディアスの邪魔をしたから最悪な結果になったんだろ!」

 客の暗殺者の一人が一言レヴィを指差しそういうと、それを呼び水にして暗殺者たちは次々と抗議の声を上げる。

お前のせいだ。お前がディアスを殺したんだ──その大合唱にレヴィは呆然とするしかなかった。

「何でだよ」

 レヴィは皆のその態度に顔をうつむけて弱々しく一言呟いた。

「なんで俺たちはいつもこうやって使い捨てられなきゃならないんだよ!」

「レヴィ……」

 その一言にワトゥサは同情的な目で彼を見た。

「もう我慢できない──」

 そう言うとレヴィは踵を返して店を出ようとした。

「俺、イスラーグのところに行ってくる」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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