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15話 思わぬ客
 昼下がりの活気あふれる街の中、レヴィは悶々とした気持ちを抱え大した当てもなくその人たちの間を縫うように歩いていた。

 目の前に見えるものは帝都の下町の活気に満ちた人々ではなく、自分の首にかかっている赤いスピネルに絡みつく銀のサラマンダー。

 母との別れの際このペンダントを受け継いで早十年。

だけど自分にとって今までそのペンダントは母の形見以上の意味を持たず、それ以外の意味など全くもって省みたことが一度もなかったような気がする。

 確かに誰もが口にするように母さんみたいな非魔血の一女中が持つにはこれは少し不自然な代物かもしれない。

 大多数の心無い人は言うだろう。どうせどこかいいところの屋敷からくすねてきたんだろう、と──

 だけど、それを証明はできないけど断言はできる。それが大きな誤解であるということを。

 レヴィはふと足を止め、首にかかったペンダントを手に取りまたじっと見入った。

『そのペンダントがあなたをお父さんの元に誘ってくれる──』

 それを見た瞬間、別れの時に発した母の最後の言葉が耳の奥に響き渡った。

 いつもその言葉の意味に思いを巡らせては答えが見つからず諦めるばかりだったけど、今日だけは違う。

 なぜなら──このペンダントの本当の意味を今日知ったのだから

『このペンダントは我がティアマート家の紋章だけど……』

 あの強気な魔血令嬢アイリス・ラキア・ティアマートが自分と全く同じペンダントを持って言ったその言葉。

 それがすべてを物語っている──とでも言いたいのか?

 ──馬鹿らしい。

 こみ上げたその思いを振り払うかのようにレヴィは苦笑を浮かべた後、再び足を進め始めた。

 たかがペンダント一つ一致したくらいですべてを関連付けるなんて自分はなんて愚かなんだろう。

 ティアマート家なんて名家中の名家だ。そんな名門の紋章だとしたらそれなりの模倣品だって星の数ほどあるに違いない。

 きっと母さんのペンダントだって世にたくさんある偽物の一つであるかもしれないのに──

 でもどちらの考えも憶測に過ぎないし確証性がない。

 結局、母さんのあの一言を解決するような決定打にはならないってわけか──

 歩きながらそんなため息を思わず漏らした、その時だった。

「レヴィ!」

 耳慣れない声で名を呼ばれレヴィはぎょっとした様子でそちらを振り向いた。

 そこには、昨日不意に出遭いそのまま説教まがいのことを言われたあの不完全魔血の少女、セドナが人目を構わず大きく手を振っていた。

 何で──よりによってこんなときにこいつと出会うなんて──

 それを見てレヴィは激しい戸惑いを覚えたどころか、思わずそこから逃げ出したい衝動に駆られた。

 だがレヴィが躊躇している間にセドナは馴れ馴れしく彼に近づきにっこりと笑顔を浮かべた。

「どこに行ってたの? あなたのこと探してたのよ」

「探してた──?」

 その言葉にレヴィは訝しげに彼女を見た。

「これ以上俺に何の用があるんだ? 話は昨日ですべて終わったんじゃないか?」

「ううん。ちがうの」

 そういうとセドナはレヴィをまっすぐな視線で見つめた。

「あなたに会いたいって人がいるの」

「俺に──?」

 セドナのその言葉にレヴィは思わず息を呑んだ。

 なんて物好きな奴だろう。こんな自分にわざわざ会いたいって人間は──

「誰だ?そいつ」

 その問いにセドナは眩いばかりの笑顔を浮かべ言葉を進めた。

「昨日私と一緒だったエリオルって覚えてる?」

「ああ、あのちょっと凶暴な──」

「ええ、その人」

 レヴィの言葉にセドナは笑いを吹き出しながら言った。

「今日あなたに会いたいって言ってるのはそのエリオルの旦那さんのランクス・ミシュラン。結構名の知れた科学者だからレヴィも名前くらい知ってるかもね」

 レヴィにとってセドナの言った人物の名前は名を知ってるどころの話のレベルじゃない相手だった。

 とんでもない相手が接触してきたものだ──レヴィは高鳴る気持ちを抑えることができなかった

 レヴィにとってランクス・ミシュランという人物はもしかしたら標的になる人間。セドナたちはそれを知ってて自分とランクスを接触させるのであろうか?

「いいのか、俺みたいなのがそいつに会って──」

「え?」

「いや──なんでもない」

 レヴィはそれ以上セドナに告白することができなかった。

 言えるはずがない。ランクスが標的の一人だなんて、絶対言えるはずがない。

「大丈夫よ。ランクスはあなたに興味深々みたいよ」

「え──?」

 その言葉にレヴィは思わずセドナを見合わせた。目の前の彼女は罪悪感に苛まれるくらい無邪気に笑っていた。

「あなたの協力があればランクスの研究は革新的に進むことは間違いないわ。だって、検体である魔法の血が手に入るんだもの。そうすれば──」

「そうすれば?」

 その一言にセドナは晴れ晴れとした笑顔を浮かべた。

「彼の研究が実証されれば、魔血と非魔血の違いは理論上なくなるかもしれないの。そうすれば──魔血も非魔血も同じ人間だと証明できるかもしれない!」
久世さくらのはげみになります!
暗殺魔法士に拍手!


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