今日も玄米茶が美味しい。
作者も玄米茶が好きです。
私の好物は玄米茶だ。
好きな食べものを聞かれたときに答えると、決まって友人たちは顔を見合わせて、苦笑いする。
「なにそれ」
そういう子すらいる。
まあそうだろうなと思いながら、私は友人たちのとりとめない話を聞き続ける。
「ね、美味しいシャーベットのお店見つけたの。行かない?」
「ごめんね、私ちょっとバイトがあって」
苦笑いしながら友人が立ち去って行くと、私はこっそり安堵して、学校から出る。お昼ご飯もそうだけれど、私は一人で食べなきゃいけない。みんなとは違うから。
バイト先に着くと、むわりとそこらじゅうから血の鉄臭い匂いがした。裏口からだから仕方がないけれど、この匂いだけはどうしても慣れない。
覚悟して入った場所は、二日前とそう変わりない職場だ。
「ちわー」
「お、着たね。タイムカード通しておいて」
肉の塊をいくつかに切り分けながら、私は店長さんと話をする。
「ユミちゃんは、手際がいいからねえ。きっといいお嫁さんになれるよ」
「あ、ええ、そうですか?」
「うんうん。今度はこっちをよろしくね」
思わず顔が引きつった。
「あ、ああごめん。そうだよねえ、臓物系は荷が重いか」
「あ、あの、やります」
私はそれにザクザクと刃を入れて行く。
「いやあ、助かるよ。最近、中身の入りがいいからね。解体の方も一手間なんだ」
「そうなんですね」
バイトが終わると、私はビニール袋を手渡された。ずっしりとした重さ。
「ユミちゃん、これ食べてね。うちの家内が作ったのなんだけど、美味しいから」
「あ、ありがとうございます」
ヘラッと笑って返して、私は自宅のドアを開けて、それからしゃがみこんだ。
怖かった。
みんな全然変わらない格好をしているのに友達も全員同じ人なのにどうしてそんなものを食べているんだおかしいじゃないかこわいこわいおかしい私だけがヒトを食べていないそれがバレたらどうなるんだろうこわいスーパーもご飯を食べるところも何もかもが赤いお肉だけでいっぱいでわたしは恐ろしい建物も街並みも前と全然変わっていないのになんでそんなことになっているんだ。
袋の中身をそっと覗く。
一本の、腕が、皮を剥がれて。
「うぅうううううぅうううっ」
もう吐かなくなったけれど、気持ち悪いことに変わりはない。
シャーベットを断ったのは、つまりはそういうことで。
「誰がンなもん食べると思ってんの……どうして精肉加工から、仕事が人間バラシに変わってると思える……!」
やだなあ。
バレたらどうなるんだろう。
美味しく食べられちゃうのかな。
私はそっと貰った腕をゴミ箱に入れて、それからよろりと家の片隅に積んである缶詰に手を伸ばした。
余裕で数十年は生きられるようなその量が一ヶ月前に出現してから、全てがおかしくなった。
私が食べられるのは、これだけ。
ただ一種類の、栄養バランスだけはバッチリな缶詰。美味しさなんてかけらもないけれど、他のものを食べたくないなら——これを食べるしかない。
うっかり間違えてカートンで買った玄米茶が、とっても美味しく感じる。
私は二度と甘いものもお魚もお野菜も何もかも食べることはできないだろう。
不思議なことに調味料一つないこの世界で、私は一人、毎日バレないように缶詰を開けて、家の玄米茶を飲むのだ。
お読みいただき、ありがとうございました。
他の作品連載中に懲りずにまたまたホラーを書きなぐっております。面白いんだもの仕方ないね。
別のホラー作品もございますので、よろしければそちらもお立ち寄りください。
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ほんの少しだけ加筆・修正しました。
おおよそは変わりません。