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あの時、君がくれた言葉。
作者:利木 糸会
 今でもこの季節が来ると思い出す、君がくれたあの言葉。
 君がいてくれなかったら、きっと今の私はなかったはず。
 ありがとう、ありがとう。
 未だにお礼は言えてないけど、心の中ではずっと繰り返してる。

 私を支えてくれて、ありがとう。


 確かあの日はとても寒くて、空は前日の雪が置いていった灰色の雲で覆われていた。
 大学受験の冬。センター試験直後の登校日。
 自己採点を終えた同級生たちの悲鳴や歓声が、教室内に渦巻いていた。かなりうるさかっただろうに、 私の耳には半分も届いていなかった。頭真ッ白け。
 本音を言えば、泣きそうだった。そこが教室でなければ、周りに友達がいなければ、遠慮なしに泣けただろう。ちっちゃい子供みたいに、床に突っ伏してわんわん泣きたかった。でも、よくわからないちっぽけなプライドが、私に「泣くな!」と訴えていた。
「ねぇ、どうだった?」
 友達の一人が、中途半端な苦笑いを浮かべて近付いてきた。
「どうだったも何も……」
 相手の顔見りゃ結果なんて想像つくのに、何で聞いてくんだよコイツ。
 正当だか八つ当たりだか判断しがたい苛立ちを飲み込んで、辛うじて言葉を返す。見えない手にギリギリ締め付けられている喉から声を絞り出すのは、結構な労力を必要とした。気を抜くと、涙が出そう。

 もう一度、自己採点用紙を見てみる。そんなことしたところで、点数が変わるはずないんだけど、確認せずにはいられなかった。
 まだ信じられない。そりゃ、自信満々ってわけじゃなかったよ。でも、でも……何だ、この点数は?
 模試でも過去問でも取ったことのない、ひどい数字。有り得ない。何でそれが本番に出てきちゃうわけ? カミサマ、私に何か恨みでもあんの?
「……努力してきた結果が、コレか」
 ポツリと呟いた。
 言わずにいられなかった。

 長きに亘る、私の輝かしい努力の結晶。それが、コレだよ。
 頑張った。自分でこういうこと言うのおかしいかもしれないけど、頑張ったんだよ、私。世間一般からすれば全然かもしれないし、まだまだ努力の余地はあったと思う。
 でも……頑張ったんだよ。後から思えば、ああすれば良かったとか浮かんでくる。でも、その時の私にできる限界のことを、やったつもりだった。

 最初なんてひどいもんだったんだ。
 テストの順位だって今よりかなり下だったし、小テスト追試喰らったことも、少なからずある。滑り止めに使った私立すら、模試じゃD判定で。本命の国公立は、もちろん論外のE判定。中学では数学八点取ったこともあった。
 それでも、このままじゃいけないって、歯喰いしばって勉強した。努力なんて大ッ嫌いな、この私が。今じゃ、校内五本の指に入る学力ですよ。
 寝る時間削って、ゲームやる時間削って、マンガ読む時間削って、友達と遊ぶ時間削って、自分の時間、削りまくったのに。
 頑張って解いてきた宿題、馬鹿なクラスメイトにいっつも「見せてー」って写されたっけ。先生が直前に説明してくれた内容、「聞いてなかった」とか言いやがった横のヤツに、何回も説明させられたっけ。
 努力して取った成績、「デキる人は良いよね」の一言で、片付けられたっけ。

 あの想いは何だったの? あの努力は何だったの? 全部無駄だったの?
 考えても全然わからない。あんなに、勉強したのになぁ。

「まだ、二次試験があるだろ」
 小さい私の頭を撫でた、大きな手。振り返ると、いつの間にか彼が立っていた。
 どうしても追い越せなかった、我が校きっての秀才児。もちろん常に成績トップでいらっしゃる。
 マンガによくいる「生徒会長」みたいな、黒髪眼鏡の優等生。そしてお約束通りの、無愛想。他の同級生には「氷の王子」なんて呼ばれちゃってる。透明なバリアを全面展開してるけど、それを越えてしまえば、実は優しくて可愛い純情少年なのだ。
 私は、バリアを越えた数少ない一人。何でか気が合って、傍に置いてもらってる。気に入った人間は、大事に扱ってくれるらしい。

 そんな彼の採点表を見てみると、目が眩むような点数。キラキラ眩しくて、すぐに目を逸らした。
何で私だけ、こんなひどい点数なの。合計点数では勝てなくても、一、二教科なら勝ててたのに。
「二次は筆記だもん。無理に決まってるじゃん、四択問題(センター)でこれしか取れてないのに。もう嫌だ、無理」
 私の得点では、志望校の合格ボーダーに一五点以上足りない。ボーダーってことは、合格するかしないか五分五分ってことで。それに一五点以上足りないっていうのは、つまりは絶望的ってヤツだ。
「そういうこと言うなよ、大丈夫だって」
 触れられた手があったかくて、優しくて、つい涙が浮かんでくる。
 ダメだ、泣くな!
「大丈夫じゃないよ」
 勢いで睨みつける。そうでもしないと、涙に負けてしまいそうだった。

「君とは、頭のデキが違うんだから」
 
 自分の血の気が、引いていく音が聞こえた気がした。
 後悔しても、もう遅い。彼の耳に届いてしまっている。
 努力の結果を、さも天性のように言われることの辛さは、身に染みて分かっているのに。痛いほど知っているのに。
 彼が私よりもずっと努力して、勉強に打ち込んでいたことも知っていたのに。それこそ、何回も体調崩しながらでも頑張っていたのに。
 両方知っていながら、どうして口走ってしまったのだろう。完全に八つ当たり。立派な暴言。
 バリアを通過した私が、彼のことを分かっていた私が、一番傷付けた。
 絶対にしちゃいけないことだったのに、自分を守る為に、彼を傷付けた。

 一瞬、悲しみとも怒りともつかない表情を掠めて、彼は笑った。
 私を責めることもせず、ただ不器用な笑顔を作ってくれた。それが、自分にできる唯一のことだとでもいうように。
「大丈夫だよ。一緒に、頑張ろう」


 一緒に、頑張ろう。
 そう言ってもらえたのは、多分初めてだったんじゃないかと思う。
 いつも、無責任に「頑張って」と、投げられるだけだったから。
 素直に嬉しかった。心が軽くなった。涙が止まらなくなった。ちっぽけなプライドは、彼の前じゃ通用しなかった。
 あれから、私また頑張ることができたんだ。無事に、志望校合格できたんだよ。
 周りがバタバタと私立に流れていく中、踏みとどまって走り抜けたのは、お世辞でも何でもなく、彼のこの言葉のおかげ。隣で走っていてくれた、彼のおかげ。
 
 本当に感謝してる。
 ありがとう。
 選んだ道は違うけれど、離れ離れになってしまったけれど、ずっと君のこと想ってるよ。
 安っぽい言い方しかできなくてもどかしいけど、きっと、おばあさんになったって、忘れることはない。
 あの大きくて、優しくて、あったかい手の感触も、不器用な笑顔も。
 この感情が、何になるのかはわからない。恋愛なのか、友情なのか、尊敬なのか。
 でも、そんなことはどうでもいいんだ。何だって関係ないもの。

 いつか、私も君みたいになれるかな? なりたいな。
 大事な人の為に、できれば君の為に。
 たとえ自分が苦しくても、笑ってみせるよ。

「一緒に、頑張ろう」

 って、ね。

 実体験をベースに書いてみました。
 センター試験で落ち込んじゃった方、大丈夫です!自分のやってきたことを信じて、最後まで走り抜いて下さい。
 たとえ願いが叶わなかったとしても、今までの努力は、きっとあなたに何かを残してくれます。
 勉強だけでなく、全てに言えることですが、中途半端に投げ出しても人生やり直せません。やらなくて後悔するより、全力で賭けに出た方が絶対良い。全力でやってダメだったら、結構あっさり引き下がれるもんです(笑)私はそうでした。
 何もやらずに沈んでいるより、やれることを全力でやって下さい。自分の人生一度きり。生かすも殺すも自分次第です。
 そして、周りに落ち込んでいる方がいたら言ってあげて下さい。「一緒に頑張ろう」って。ほんの少しでも、力になれるはず!
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