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奥津城(おくつき)
作:徳次郎



再会(3)


 帰り道、駅までとは逆方向だが、志穂はあの並木道を通りたくて遠回りした。まだ緑の葉の銀杏並木が続く通りへ出た彼女は、立ち止まってじっとその向こうを眺めた。住宅の狭間から中学校の校舎の一部分が見えた。
 以前は白かった歩道の手すりが水色に塗られてはいたが、昔と変らない景色がそこには広がっていた。
 その時、スーッと目の前の建物や自分の影が突然消えた。
 志穂が空を見上げると、真っ黒な雲が上空を埋め尽くして、さっきまで輝いていた太陽は消えていた。
 サーッとシャワーのような音がして、みるみる路面が黒ずんで濡れていく。アスファルトの湿った匂い。志穂は、それさえも懐かしく感じていた。
 彼女は果物屋の庇がかかる一番端の自動販売機の横に身体を入れ、雨を凌いだ。
 地面に雨粒が落ちるのを見ていた志穂が顔を上げると、少し先から、傘を差した少女が二人、じゃれ合いながら歩道を歩いて来るのが見えた。
 紺色の制服を身にまとい、黒い髪が傘の下から覗いている二人は中学生だろう。
 志穂は思わず目を凝らして前のめりに見入った。
 あまりにも見覚えのある二人。
 あの、水色の傘…… あれは、あたしだ。でも、何で…… 今よりも幼い顔立ちに真っ黒な髪が揺れている少女は、確かに昔の自分だった。
 隣の赤い傘は千絵。
 正面から歩いてくる二人は、中学時代の志穂と千絵だった。
 志穂は呆然と二人の少女を見つめていた。
 さっき見た千絵とは比べ物にならないほど瑞々しい笑顔。
 二人の少女は目の前まで来ていた。二人が目の前を通り過ぎる時、志穂は何故か顔を伏せた。
 無邪気な頃の二人に、今の自分が後ろめたさを感じたのだ。親友と感じながら、何年も連絡を取らなかった自分が恨めしかったのだ。
 下を向いたその視線に、通り過ぎる千絵の鞄が映った。
 そこには、綺麗な青色をした、熊のキーホルダーが小さく揺れていた。



 家に帰り着いた志穂は、急いで自分の部屋へ入り、机の引出しを開けた。そして、この前拾った熊のキーホルダーを手に取る。
 間違い無い。これは千絵の鞄に着いていたものと同じだ。いや、おそらく千絵のモノだ。
 志穂には何故だかそう確信できた。
 しかし、何故。どうして千絵の持ち物だったものがあたしの家の玄関に?
 ふと、里美が見たという少女の事を思い出した。彼女の見たという中学生。あたしを知ってるというその中学生も、これと同じキーホルダーを着けていたと言っていた。
 まさか……
 志穂は里美の携帯に電話した。中学時代の写真を探して、遠足の時に撮った千絵の写真を見つけると、写メールを使って複写した画像を送った。
 折り返し里美から電話が来た。
「もしもし」
 志穂が電話に出ると、里美は
「あの娘誰なの?」
「あたしがここに来る前に、世田谷の中学にいたときの友達よ」
 里美は少しの間沈黙していたが、重そうな口調で
「その娘、最近亡くなった?」
「ううん。今日会ってきた。身体の具合はよくなかったけど」
「そう……」
「里美の会った中学生って?」
「この娘だわ。間違い無い。もっと顔色は悪かったけどね」
 やはり、里美の前に現れたのも千絵だったのだ。しかし、何故。
「実は、今日その娘にあった帰り道で、あたしも中学生の千絵と会ったの」
「本人に会った後で?」
 里美が怪訝に訊き返した。
「なんだか、千絵が何かをあたしに訴えているような気がして」
「でも、その千絵って娘は、確かに生きてるんでしょ?」
 志穂は少しだけ返事に迷った。
 確かに千絵はあそこの家にいた。しかし、あの生気のない彼女を思い出すと、あれが本当に生きた人間なのか疑問さえ沸き起こるのだ。
 志穂はゆっくりと肯きながら
「うん」と小さく応えた。








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