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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

パケット代で子供が死ぬ時代

作者: NOMAR

 

 サイレンが鳴る、朝食中。これが最後の食事になるかもしれないけど、味わう暇も無くかきこんで装備を取りに行く。AK とヘルメットを持って走って外に、撃ち合いは既に始まっている。


 土嚢を積み上げた防壁に身を隠してヘルメットの顎紐を締める。キュウが来てからみんなに配給されたヘルメットのおかげで、死人が減ったこともあるけど、塹壕から顔を出して銃を撃つのにヘルメットが有るのと無いのでは全然、気持ちがちがう。落ち着いて狙って撃つことができるから、以前より命中率があがった。


 銃を構えてこっちに向かって走ってくる子供を狙って撃つ、撃つ、撃つ。銃を持ってる奴より、胸に爆弾を抱えて突っ込んでくる奴のほうが危ない。ソイツらを見つけては足が止まるまで撃ち続ける。隣の仲間と目線で合図して、交代でリロードする。弾幕を途切れさせないこのやり方もキュウに教えてもらった。

 動く敵がいなくなるまで撃ち続けて、今回の防衛戦は終わった。


「おーし、やめやめー、撃ち方やめー」


 キュウの声が聴こえた。慣れてきた僕らは敵が動かなくなった時点で撃つのはやめてた。けれど、興奮したのか新人が叫びながら動かなくなった敵にまだ発砲してたので、弾切れを待ってから銃を取り上げた。すかさず仲間の1人がその新人のケツを蹴りあげて正気に戻す。


 こちらも何人か死んだけれど、今回も鉱山の防衛に成功。そして後始末。死んだ敵からまだ使えそうな銃と弾を回収。ピンを抜いたままの手榴弾を握りしめたまま死んでるのがいたから、みんなを離れさせてから銃で撃って爆発させる。あとは死体を運んで1ヶ所に集めてガソリンをかけて火をつけておしまい。


「よく気がついたな、えらいえらい」とキュウに誉められた。前に死体あさりした仲間が死にかけた敵の自爆に巻き込まれたことがあったから、よく見るようにしてます、と答えたら、

「これからもその調子で頼むわ」と、いつものにやにや笑いで背中をポンと叩かれた。

 キュウに誉められると一人前になれたみたいで嬉しい。



 10人ちょっとの死体の山が火に包まれて燃え上がる。また敵が来ないか警戒しながら燃え尽きるのを待っていると1台のトラックが走ってきた。見覚えがある味方のトラックだけど、地面に伏せて銃を構える。キュウが通信機で確認している。


「来るのが遅ぇんだよ、いや、終わるのを待ってたんかな」


 キュウの合図で僕らはもとの見張りに戻る。トラックは武器弾薬の補給で、そのまま通り過ぎるはずなのに、今日は停止して人が降りてきた。僕らのボスだった。ボスはキュウと話をしに来たらしい、というかご機嫌伺いというか、金が欲しいという話みたいだ。ボスといっても僕らのような孤児を弾除けに使っている地元のマフィアのボスで、キュウは新しくスポンサーについたニホンの企業のエージェントだから、キュウの機嫌を取りつつ金が欲しい、と言ってる。


 キュウはにやにや笑いながら、この鉱山が奪われたなら資金は打ち切る。かわりの武装集団はいくらでもある。いい目をみたいなら補給物資をきっちり早く持ってこい。と言ってる。

 僕らは回りを警戒しながらも、二人の話から耳が離せない。いつも偉そうにしてるボスの取り巻きが、キュウにペコペコしてるのが可笑しくて、笑わないように唇を噛んでがまんする。



 キュウが来てから僕らの生活は大きく変わった。ニホンの企業のエージェントで鉱山を取りに来た、と聞いている。ニホンという国はおおっぴらに抗争ができないので、よその国でも地元のマフィアを使って代理抗争をしているそうだ。

 この鉱山も一月前は別のマフィアの縄張りだった。キュウの雇い主の企業が本腰を入れてライバル企業のシェアを取ることに決めたことで、キュウがたくさんの銃と弾薬を持って来た。そのうえ、全員分のヘルメットもあるしキュウが教官になって僕らの訓練もしてくれた。


 キュウがいなかったら僕もハンドガンひとつで敵に突っ込んで死んでたと思う。キュウの射撃訓練と格闘訓練のおかげで僕らはこの鉱山を乗っ取ることができた。何人か死んだけれど、手柄を立てたことで生き残った僕らは朝と夕に1日2回食事がもらえるようになった。

 鉱山を守り続けることができれば今の生活を続けられる上に、服とか靴にお金まで貰える。

 マフィアの弾除けの兵隊で死んだ仲間を思い出すと、信じられない幸運だと思う。


 そんなキュウは人気者だ。僕らにとっていろいろな知識と技術を教えてくれる教官であり、頑張ったらお菓子をくれる優しい兄貴分であり、後ろから怒鳴りつけるだけのマフィアと違いいっしょに戦ってくれる頼もしい仲間であり、僕らを勝利に導いてくれる賢い指揮官でもある。

 僕らの仲間にはキュウを神の使いだと、拝むのもいる。ニホン人で本名はキュウキタなんだけど、僕らにはキュウキタと発音するのが難しいのでキュウとよぶことになった。

 いつも顔の下半分はにやにやと笑っているけど顔の上半分は少し怒っているような複雑な表情をしている。でも訓練の合間や休憩中に僕らが質問したり、教えて欲しいとお願いすると、「ヤレヤレ」と言って答えてくれたり、手本を見せてくれる。そんなときは目を細めて顔全部が嬉しそうになる。「ヤレヤレ」というのがどんな意味か分からないけれど。


 キュウと二人で話す機会があったので、以前から疑問に感じていたことを聞いてみた。この鉱山をニホンの企業が欲しがる理由だ。中の採掘を見たことは無いけど、金塊とか宝石が採れるんですか? と、


「ここで採れるのは、ある意味では宝石以上のもんだな。タンタルっていう希少金属だよ」


キュウの話は難しいものだった。わかったことは、タンタルという金属はコンピューターに使われるコンデンサの材料になるということ。性能がよく、なにより小型のコンデンサはタンタル以外では作れない。スマートホンやタブレットといった小型のコンピューターには必須ということだった。


「タンタルは採掘できるとこが少ねぇからな、日本なんて小せぇ島国のくせにネット依存だから採るのに必死よ。ここも無茶なペースで採掘してるから、回りの環境が変わって現地固有種のクロサイやカバが絶滅寸前だよ。キッチリ調べてみれば解るんだろうが、小さいのはいくつか絶滅してんだろうな」


 そう言ってキュウはコーヒーを飲んで窓の外を見た。口元は笑っているようだけれど目は怒っているように見えた。


「スマートホンやゲーム機で遊んでいる奴らも、その通信料が巡り巡って地球の裏側で子供の殺し合いの弾代になっていることを知っているのが、どれだけいるんだろうな」


 キュウの言ってることは難しくてところどころ解らないこともあったけど、解った部分だけでも考えて答えてみた。

 サイやカバが死んでも僕の生活には関係が無いし、タンタルに価値があってこの鉱山にお金が流れるおかげで、今僕は生活できている。この鉱山が無ければ、僕のようななんの取り柄も無い孤児はとっくに死んでるのだから。ニホンにタンタルが必要なら、その間は僕は毎日ご飯が食べられる生活ができるので有難い。


「そうだな。その日その時を生き延びるのが、一番大事なことだな。そのためには何処かで誰かが死ぬのも仕方の無いことだよなぁ。……お前らには、いつも教えてもらってばっかりだな」


 キュウがそんなことを言うのでびっくりした。教えてもらうのは僕らで、キュウに何かを教えたことなんて一度も無いのだから。


 ある訓練の時に誰かがキュウに質問した。ニホン人はみんなキュウみたいに凄いんですか? と、


「俺は落ちこぼれだよ。日本で生きていけないから、この国に来たんだよ」


たぶん冗談なんだろう。キュウ以上の戦士がゴロゴロいるような国ならどこで戦争しても負けないんだから。

 それでもニホンという国に興味が湧いた。これから先、生き延びることができたらニホンという国を見てみたい。キュウが育った国はどんなところなんだろう。

 来月、僕は12歳になる。明日にも運が悪ければ死ぬかもしれないけれど、これからも死なないように、生きていこう。

 いつかニホンに行けるように。



                   終





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― 新着の感想 ―
[一言] タンタルって、ああこれだったんだと気付かされました。 何のためにこんな書類書いてたのか、こういう理由だったのかと分かりました。 何の事やらかもしれませんが、ありがとうございます。
[気になる点] 数件短編がありましたが、 鉱山と タンタルと コンデンサとか ミサイルとかって、 もしかして実話なのでしょうか…… とても恐ろしい。
2017/06/18 20:35 退会済み
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