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庭園の国の少女  作者: ぎじえ・いり
西の街
24/25

東へ

鋼の鳥をすべて射落とした事で、私の授業を受ける生徒が増えた。

最初の3人も含めて、15もの人たちが私の話を聞き、そして動いている。


ただ、やっぱり私の話は分かりにくいようで、中には出たり出なかったりの人もいたし、その15人以外にも冷やかしのように話を聞きにきて、すぐに来なくなる人もいた。


眼鏡の小人は、どうやら他の魔獣や妖獣の討伐依頼もやって欲しいようで、顔を会わせる度に色々と勧められたけれども、結局受けていない。


いずれこの街を出るのだから、この街の脅威はこの街の人たちが払う方が良いだろう。

そのために、私の持っている何かを伝えようと思った。

技、知識、考え方。

そうしたものが少しでも伝われば良いと、そう思った。


おかしかったのは、一緒になってリデルも弓を引いている事だ。

いつの間にか自分用の弓を、どこからか買ってきたらしい。

ただ、その腕はどうしようもないくらいに下手だった。


「魔法があるんだから、良いんじゃないの?」

「む、何ですか、その上から目線は。私だって2年も3年も引けばモリーアンよりも上手くなっちゃいますよ」


やってれば誰だって覚えられるさ。


誰の言葉だったか考えるまでも無い。

彼の言葉だ。

やらなければ誰でも出来ない。

リデルが出来ないのはやらなかったから。

ならば確かに、これから出来るようになるかもしれない。

ただし、その情熱がずっと続くのかは疑問だ。


「そう。そうね」

「あ、何ですかそれー。その慈愛に満ちたような微笑っていうのも、何だか腹が立つんですけど」


装備も色々と強化する事にした。

改修してもらった青い今の鎧がすごく良かったので、同じ工房で小手とブーツにも魔法で精錬された鉄を付けてもらった。


ちょっとした盾が付いているような物だ。

もう蛮族の粗末な剣くらいなら、避ける必要もないかもしれない。


それに剣も新しい一振りを注文して造ってもらう事にした。

祭儀用の剣も悪くはないのだけれども、鋼の鳥にボロボロにされた時に、もっと丈夫なのが欲しいと思っていた。


鋼の鳥の討伐報酬と、そして授業料とを合わせれば、相当な余裕がある。

リデルも杖を買い替えていた。


リックとリリアンヌにも鎧を造ってもらう?

そう冗談で言うと、リデルは本気にして、工房を探そうとしたので困った。

さすがにそこまでの余裕はないだろう。


それと、今まで付けてこなかった装備をもらった。

そう、もらったのだ。


「なに?これ?いや、何で造られたのかは分かるんだけど」


ギルドで渡されたそれを最初、例の鋼の鳥の死体かと思った。


「ヘルムよ。頭を守る防具」

「いや、それは分かるけど、何であれでこんな物を作った訳?」

「鋼の鳥の爪で矢じりを、って話を面白がって残り物で作ったらしいのよ。ただ、この街の誰もがアレを不吉に思っているから。誰もいらないって話になったらしくて」


頬から耳にかけてを守るように、鋼の鳥の羽根がそのまま付けられている。

額の部分にはご丁寧に鋼の鳥の首が付いていた。


「ああ、安心して。ちゃんと外側だけだから。中の肉なんて入ってな」

「当たり前でしょう」


そんな説明はいらないとばかりに、遮った。

簡単に言えば、兜だ。

ただし、その材料はあの鋼の鳥だった。


頭を守る防具はこれまで付けて来なかった。

視界が狭まるのがどうにも嫌いだったからだ。


「とりあえず、付けてみてよ。サイズは合ってるはずよ」

「どうして私の頭のサイズなんて知ってるのかしら」

「聞いたからよ」

「誰に?」


そう聞くと、彼女は私の後ろを指差した。

そこにはリデルがふわりと浮いていた。


「てへ」

「リデル」

「いえ、何かくれるって言うので、それなら貰っておこうかと」


確かに。

どうやらタダでくれるらしい。

色々とこの街に貢献しているので、その謝礼のようだ。


まあ、要らなかったら別の街で売れば良い。

あるいは持っていれば何かの時に使えるかもしれない。


「どうせなら、もっとあの矢を貰いたいんだけど」

「何本かだったら良いわよ。何せ材料はあるんだから」


息を吐いて、結局はそれをかぶった。


「あら、意外に似合うじゃない」

「本当ですね。色が合ってないのが残念ですけど」

「舞い降りた戦女神、って感じね。ちょっと塗装屋を紹介するから塗ってきなさいよ。その方が良いわ」

「もう何でも良いわよ」


ふたりがあれこれ話すのを聞いていて、私はどうでも良くなっていた。


結局、言われるままに塗装屋へと向かい、鈍色のそれに塗装が施された。

しかし、何度塗っても鎧に合わせた青にはならず、妙に暗く、紫に近い青になってしまう。


呪われてるんですかね。


そう気軽に言うリデルの言葉に、あまり使う気がしなくなっていたものの、そんなに付けた感じは悪くは無い。

上に視線を向けた時に、クチバシの先が見えるのが気になるくらいだろうか。

顔を全て覆うタイプではないので、それほど邪魔ではなかった。


まあ、良いか。

なんだかんだと言いながらも、ちょっと気に入っていた。


そして、なんだかんだの内にひと月が過ぎた。






頼んでいた剣が出来次第、街を出るつもりだったのに、授業の生徒やギルドから引き止められている内に、随分と時が経ってしまった。


今は青い光沢を放つ剣を下げている。

祭儀用の剣は予備としてリリアンヌに荷と一緒に包んである。

その形状はあの橋の剣とほとんど同じだ。

ただし、長さは今の剣の方がほんの少し長い。

授業での訓練で既に振り回していたので、もう体に馴染んでいた。


また少し装備が良くなった。

それが素直に嬉しかった。

良い物を使え。

散々言っていた彼も、これなら文句はないだろう。

体を動かしながら、そんな事を思った。


「さてと、行きますか」

「そうね」


家を開けてしまってきているから。

何度もその科白を繰り返し、今日、ようやく帰れる算段がついた。


相変わらず街はにぎやかで、そこかしこに小さな人の姿が目に付く。

ちらりとリデルを見た。

リデルはリリアンヌの脇でリックとじゃれ合っている。


確認しようか。

一瞬だけ考えたそれを、首を振って打ち消した。


いや、良いのだろう。

既にリデルの意志は聞いた。

気が変わったのなら、言ってくれるはずだ。

言いたい事を言えずにそれを隠せるリデルでもないだろう。


一度来た道だ。

来たいと思えば次はもっと簡単に来れるはずだろう。

だから良い。

それに今聞けばきっとリデルは怒る。


ちょっといたずら心で怒らせてみようか?と思った。

そこに。


「どうしたんです?思い出し笑いですか?」


リックの頭に乗ってリデルが近づいて来る。


「突然ひとりで笑い出すのは、あまり良い趣味とは言えないですよ」


のほほんとした口調で言われてしまった。


リデルもリックも機嫌が良いようだ。

水を差すのも悪い。


「別に。忘れ物はないわね」

「ええ。行きましょう」


リデルが微笑む。


「私たちの家に」


東へ。

良く晴れた、風の強い朝に私たちは出立した。

合成弓 (ビフォア・ザ・ウィンド)

冒険者の矢籠 (ビフォア・ザ・ウィンド)


青錬鉄の剣 (カッツェンジャマー)

祭儀用の剣

スルゲリのナイフ


スチュパリデスのヘルム

左手:黒水牛の小手 → 改修 → 黒水牛の小手+青錬鉄

右手:黒水牛の小手 → 改修 → 黒水牛の小手+青錬鉄

青の鎧 (ケイラス)

牛革のベルト

鹿革のブーツ → 改修 → 鹿革のブーツ+青錬鉄


青錬鉄。胴が酸化して緑青が出るように、鉄に微量の魔力が含まれる事によって起こる反応で、青く独特の光沢を放つ。重さは普通の鉄と変わらない。含まれる魔力の量によって他にも赤錬鉄、紫錬鉄、黒錬鉄がある。

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