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37話
どういうわけか、放課後クラスのみんなで遊びに行こうということになった。
岡崎曰く、『僕たちよりいっそう団結を深めたね!お祝いだよ全員集合パーティ』らしい。
長たらしい上に、分かり辛い。
何気に8時だよ全員集合をもじってくるあたり、岡崎お前、何時の時代を生きているんだと言いたくなる。
そこに今時の若者の風潮、『パーティ付けとけば何でも楽しそうでオッケーじゃね?』な思考も混じっていると来た。(だいたい、たこパやら鍋パなんてのはパーティだなんて認めない。パーティとは、もっとセレブでおハイソな貴族のお遊びであると私は認識している)
それでも、クラスのみんなは大いに盛り上がっていて、クラスの殆どが参加した。

私もなんだかんだ文句を言ったけど、初めての放課後パーティーを大いに楽しんだ。
ボーリングでガーター連発して、無表情でストライク連続の椎名君を羨ましくも恨めしく眺めたり。
カラオケで岡崎の歌うバラードに不覚にも感動したり。
四季子のタンバリンを振る手首のスナップが素人とは思えなかったり。
そんな新たな発見。
最後は、ファミレスにドリンクバーだけで何時間も居座って色んな人と喋った。
何時も話す子も、初めて話す子も関係なく皆と、めまぐるしくもくだらない話しをした。 
あ、この子こんな声で笑うんだ。
そういう初めての、発見。

そうやって、みんなで遊んでいる時ふと思った。
もし、夏目さんと出会うこともなかったら、こんな風に毎日放課後遊んだりしてたかな?
普通の女子高校生みたいにみんなで放課後寄り道して騒いで遊んで、それから――。


※※※

ふと、隣を歩く椎名君の顔を見上げた。
解散となってから、自然と私の送り役を申し出た椎名君。
それについて、クラスのみんなはもう邪推したり捲し立てたりはしてこなかった。
四季子だけはこっそり、「葵の恋事情おしえなよね。今度ガールズトーク決定」と耳打ちしてきた。

恋愛か。
自分とは、全く別次元の物だと思っていた。
むしろ思おうとしてきた。
漫画やドラマや友達の話しを聞いていて、何故彼女たちはこんな事で悩むのだろうと感じることもあった。
好きなら、側にいればいい。ずっとそばに。
だけど、そんな単純じゃなかったんだ。
恋は“する”ものでは無く、“おちる”もの。
理性とは裏腹で。
苦くて、苦しくて。
矛盾が一杯で。
綺麗でも淡くもなくて。
もっとずっと生身で、人間ぽさが全開になる感じ。

「なに」

椎名君が、首を傾げて私を見る。
椎名君を見たまま思考の海に嵌ってしまったせいで、ずっと凝視する形になってしまっていた。
あせって、言葉を探す。

「えっと。楽しかったね」

出てきたのは幼い子供のような言葉だけだったけれど、椎名君は何も言わずに一つ頷き目を細めて私を見た。
そうやって時折、私を見ることが増えた。
くろすぐり色の瞳を細めて、愛でるみたいに私を見てくるのだ。
正直、流れ出る視線の甘さにまいってしまいそうになる。

不自然にならないように顔を俯け、冷えた鼻先を暖めるように両手に息を吹きかけた。
すると、突然ふわりと首に暖かな感触。
椎名君が自分のマフラーを、何も無い私の首に巻き付けてくれていた。
思わず身を固くして、ジッと立ち止まる。
寒いのに、顔だけ湯気が出るんじゃないかってくらい熱くなる。
椎名君は、いたって普通にこういう事をする。
よく考えたら、さっきからずっと、歩道の車道側は椎名君だ。
ああ、もう。こんなふうに、あけすけに大事にされると、どうしたらいいのか分からなくなる。

「・・・ありがとう」

「うん」

「椎名君、寒くない?」

「ん」

「もう、冬なんだね」

「ん」

初めて送ってもらったのは、金木犀の香る秋だった。
無言が耐えられれなくて、私ばっかりが喋っていた。
今だって、私ばっかりが喋ってるのに、あの頃と確実に違うことがある。
視線と空気が、全然違う。

いま、椎名君との空気が居心地良すぎて、のぼせすぎて、私は最も考えてはならないことを思ったんだ。

もし、夏目さんと出会うことがなかったとしたら。
普通の女子高校生みたいにみんなで放課後寄り道して、騒いで遊んで、それから――。
それから、若しかしたら椎名君と・・・。
身近なクラスメイトと恋をしたかもしれない。

「「あ」」

二人同時に声をあげ、空を見上げた。

「初雪だぁ」

空からちらりちらりと、ふり降りてくる雪。
ああ、ほんとうに、もう冬なんだなぁ。

そんなことを思いながら、目線を何気なく周りに移した。
そこで、見つけた。
近いけど遠い反対の歩道に、街路樹の間に、その人を見つけた。

「・・・!」

見慣れた蜂蜜色。
だけど、見慣れない黒いロングコートを着た長身。
寒気の中で、青灰色は驚くぐらい冷たくて。
車が視界を通り過ぎる一瞬、その目が合った。

それから、また目を疑うような光景が飛び込んでくる。
夏目さんの後方から、目を瞠るような美女が現れたのだ。
彼女の手が、黒いコートの腕に絡む。

一瞬見えた青灰色はすぐに目を伏せ、かすむような寒気が彼をさらってしまう。
スローモーションのようだ。
赤いマニキュアが、彼の腕に絡む。
流れるように彼らは奥の道に消えていく。

ただ呆然と見つめた。

うそだ。

少しだって動く事が出来ない。
何一つ、耳に入らない。

私の世界が、音を立てて、崩壊する。

うそだ。

太陽を失った、地球はどうなるのかと、以前考えたことがある。
答えなんか容易く導き出せた。

答えは・・・ただ、闇と共に破滅に向かうのみ。

嘘だ。

ぐらりと視界が揺れた。
比喩ではなく、本当に。
立っていられなくなって、ぐらりと足元が崩れる。
椎名君が咄嗟に支えてくれて、焦ったように私に何か言っているのが目では認識出来ているのに、頭がついて行かなくて、何も反応できない。

ただ、そこに残像でも探すように、空虚を見つめる。

おかしい、よ。
何だか身体が冷え切って、言うことをきかない。

手を目の前に翳すと、僅かに震えていた。
寒さとは別種の震え。
掌を見つめていると、そこにふわりと雪がすべり落ちてくる。
震える手で力なく握ると、それは跡形もなく消えた。

嗚呼、これは現実なのだろうか。

私、夏目さんに拒絶、された、の?

ガラス玉の瞳が、まるで無かったかのように、私を世界から弾きだした。

・・・寒い。
死んでしまいそうに寒い。

人は、受け入れられないことを知った時、とても絶望する。

それが、愛している人なら・・・なおさら。

絶望より、深く――。

心が凍って動かなくなる・・・。



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