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死んでいく人たちへ
作:酒主



第5話 最低な男


 カラオケボックスに先に入った加藤がこちらに向かって手を振っている。
「福永さ〜ん、こっちこっち!ここ曲がったところの16番ですからね」
「う、ん、ちょっとトイレ…ミサ、行くろ〜」
(行くろ〜って完全な酔っ払いじゃないですか)
 福永に手をひかれて、トイレまで一緒に行く。女子中学生の連れトイレみたいなもんだ。
ミサは福永がなかなか出てこないので、トイレの入り口で待つことにした。
(16番っていってたな・・どっちだろ)
 ミサが右側の廊下をのぞくと、何やら男と女が険悪なムードでやって来た。
「ちょっ…待って……」
 清楚な感じの女の人だった。カラオケの雰囲気には場違いな、そんな感じがした。
(うわっ。なんか、ややこしそう。福永さんまだかな)
 男が帰ろうとしているところを、つかつかと後ろから、女が追っかけてきて、男の前方をふさいだ。2人は丁度トイレの前で、つまり、ミサの前で口論を始めた。口論というよりは、女が一方的に話している感じであった。
 やきもきしてるミサを全く無視し女は続けた。
「やだ、もう」
 泣いているようだった。
「もう、無理」
 男が一言だけ言った。
 感情の無い冷たい言葉に、ミサはつい男の顔を見た。男は整った顔であったが、女を見据える冷たい視線に、思わずたじろいだ。
 ミサは女子トイレの中に戻ろうとしたが(今、動いたら気まずい)と思い、友人を待ってます的な態度を装い、知らん顔を決め込んだ。
 女が号泣して、男の腕にすがろうとすると、邪魔だ! というように女を押した。
 バタンッ
 細いその女は廊下に投げだされ、そのまま置き去りにされた。
(貫一とお宮か…)
「おまた〜〜!」
 長々とトイレにこもっていた福永が戻ってきた。
「もう〜〜!福永さん、遅いです!」
「何か最近のカラオケはすごいね〜!これ、見てみ〜」
 廊下にある大きな花瓶に抱きついてキャーキャー言っている福永をよそに、ミサは泣いている女の方に目を向けた。
 女は立ち上がることもできず、しばらく泣いているようだった。
(あんなに、人を好きになることができるのかな…)
 激しい恋の終わりを目の当たりにしたミサはそう思った。
「カラオケ、パリジェンヌだって!すごっ!」
 全く雰囲気の読めない福永を引っぱって16と書かれたドアを開いた。加藤が「浪漫飛行」を歌い、皆が酔いしれているところだった。
(やっぱ格好いいなァぁ)
 その後、何かをふっきったようにミサも歌い、その歌声で周りを圧倒した。
何より、後ろで踊る福永には、皆大爆笑であった。
 ミサの歌にはパンチも関心し
「若い子は歌がうまいね〜!」と、ミサの肩をバンっとたたいた。
 おばちゃんは感動すると、人の体を叩く習性があるらしい。
「今度の歓迎会もあんた来なよ!」
「はいっ。お願いします」
 ミサはとても嬉しそうに返事をした。
 結局、2次会でも加藤とあまり話せなかったミサであったが、周囲に少し馴染んできた自分が嬉しくて、何だかうきうきした気持ちになっていた。
 数日後、高津が新しいローテートを連れて、病棟の案内をしていた。詰所に入って来た時、皆、驚いた。
「やだ、格好いいじゃない〜。誰が変わってるって言ったの〜?」
 山中がひそひそ声で恵に言った。
「あんたが、言ってたんじゃない」
とパンチに軽くつっこまれていた山中を見て、ミサは笑った。
「仲原です」とそっけなく挨拶したその男の声に聞き覚えがあった。
 思わず、顔を確認した。
(あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!)
(トイレの貫一だァ〜〜〜〜〜!)













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