【登場人物】
*シャルギエル=グレアム・ジャンセン(十六歳)……名家ジャンセン伯爵の御曹子。超傲慢怖い物知らずな挑戦的性格で不良に憧れてスラム入りし、ストリートギャングウォリアーの新トップになる。目元までの前髪に腰までの漆黒長髪をした、アクアブルーの瞳の容姿。
*カノン・クラレンス(十四歳)……ストリートチルドレンの少女。スパニッシュ系の気は強いが優しく面倒見がいい。シャルギエルの恋人。赤い巻き毛をミディアムロングに伸ばした、ライトブラウンの瞳を持つ。
*ローディス・エヴァンス(十一歳)……愛称ロード。同じくストリートチルドレンの男児で同居している義姉のカノンを大事に思っている。短い栗毛色の髪に、グレーの瞳をしている。
*忍鷹銀紫(十六歳)……同じくシャルギエルが束ねるウォリアーの一人。常に読書をしている。日系白人でシャルギエルの理解者でもある友人。ミディアムショートでダークブラウンの髪を、ソフトカールウルフカットしてディープブルーの瞳を持つ。
*エリート(二十歳)……温和で優しげな冷静沈着なストリートギャングハスラー(商売人)のトップ。シャルギエルとは別のストリートチルドレンを束ねている。インドとギリシャの混血で褐色肌に金髪碧眼の美青年。本名、ルシフェウス=ベルーガ=エルシャンク・カルディナーレ。愛称ルシファー。
*チェルシー=アンジェラ=エルシャンク・カルディナーレ(二十歳)……元金持ちのスパニッシュ娘。殺人を犯した後自殺を図ろうとしているところ、エリートに拾われる。エリートの妻。赤毛のワンレンストレートロングにへーゼルの瞳の持ち主。
*ダグラス・マックィーン(五十歳)…SCCのボスで、臓器提供移植運搬会社の社長。元外科医の死体破壊型性愛者サイコスリラー殺人鬼。薄茶色の短髪に、こげ茶色の瞳をしている。
【固有名詞】
*SCC……シークレットセレブリティークラブハウスの省略名。スラム街に身を隠すように佇む、裕福な上流階級者ご用達の、地下世界に存在する危険な娯楽場。
【第二章】 ギャングハスラー苦闘編
act,40:ギャングウォリアー×ハスラートップ対談
「何? 今夜ボスが来るって? ……そう。だったら新ウォリアーをボスにも紹介しなくちゃね。この事を、奴を探し出して今夜顔を出すように報告してくれる?」
エリートはニッコリ笑うと、そう手下に伝える。するとその手下は首肯するや素早くSCCを出て行った。事務所に一人残ったエリートは、内心密かに思う。
材料調達か……。子供は今残っている以前拉致してきた分しか、もう残っていない。今夜辺りボスに自分の意見を伝えねば、矛盾が生じてくる。子供の数より大人の数の方が多いからな。
最近エリートは、質より量で臓器密売用人材を調達していた。つまり子供より大人を。本当なら子供の方が市場で、大人の臓器より数倍の高値で売れる。子供のドナーが希少な分、重宝されている証拠だ。しかし最近のエリートは、その高値商品になる子供の調達を避けるようになっていた。その事で責められるのは、容易に想像がつく。その事情を説明する時が来た訳だ。
この時ばかりは少し、シャルギエルのあの無駄に熱い正義感がエリートに必要となってくる。彼を上手く活用してマックィーンを説得させようと考えていた。
エリートは今やチェルシーの夫である。
そして将来は子持ちの父親を夢見る立場として、児童売買から手を引く決意をしたのだ。エリートは別に一つ稼ぎのネタを失っても、他に幾らでもあるので何の問題もない。しかしマックィーンの専門は臓器密売と人身売買だけに、そう簡単に承諾してはくれないだろう。そこで、あの新人ウォリアーの出番と言う訳である。
こんな時に必要な人力になるとは、皮肉なものだな。
エリートは事務所にある、本当ならマックィーンが座るデスクの椅子に身を委ねたまま自嘲すると、ゆっくりとその回転イスを回した。
ちなみにチェルシーは主婦として家で、エリートの義弟のスモールと一緒に家事業に務めていた。スモールは小さくて一見頼りなくても、エリートにとっては一番信頼の置ける心強い味方であり家族の一員なので、チェルシーのちょっとしたガード役としても安心出来る存在だった。
スモール自身も、チェルシーの側で力になれるのを喜びとしていた。子供好きの彼女の優しさは、散々子供を悪用してきたエリートにとっては自己嫌悪を覚える程残酷なものだったが、だからこそエリートの潜在意識が無意識にも彼女の母性を求めたのかも知れなかった。
「お前はこんな俺を笑うだろうな。とんだ腑抜けになったものだと。R……」
エリートは追慕の思いで、小さくぼやいた……。
「おい。シャルギエル。エリートからの伝言を手下から受け取ってきたぞ」
忍鷹がカノンの家に、シャルギエルを尋ねてやって来た。忍鷹はまるでそれこそシャルギエル専属の忍びの如く、彼の身の回りを影から守備しシャルギエルに直接接触させずに間に割って、彼に用があって探し回っているエリートの手下を捕まえると、言伝を引き受けて来るのだ。シャルギエルはそこまでする必要はないと言うのだが、これが自分のやり方だからと忍鷹は忠実な幹部として彼の周囲を守っていた。
「そうか。今夜あのマックィーンが、SCCに来るのか。再会のいい機会だな。さぞかし奴も驚くに違いない」
シャルギエルはそうして不敵な面魂を浮かべる。
「俺も一緒に行こう。万が一の時の護衛だ。外にはビースト達も付かせる。何かあった時の為にいつでも突入出来るよう、兵力を整えておこう」
忍鷹が静かな口調で言葉を添える。そんな彼の用心深さにシャルギエルは苦笑した。
「大袈裟だな。銀紫は相変わらず。一応どこからかアダムの手下達も見張ってるから、大丈夫だと思うぜ?」
「お前こそ甘いな。相変わらず。インターポールだからこそ慎重を極めて、現行犯でしか突入しない。その時にはいつだって、俺達仲間から言わせれば手遅れなんだ。俺はお前を死なせる訳にはいかない」
忍鷹はそのグレイの双眸に怜悧な光を宿し、真摯な表情であくまでもクールに言いやった。シャルギエルは、先日のアダムの言葉を思い出す。
『いいダチ掴んだな。ああいった心が鋼で出来ている奴でなければ、こういう世界で上手く冷静に物事を見極めて行動には移せない』
そしてシャルギエルはふと微笑むと、呟くように静かに言った。
「いつも有り難うな。銀紫……」
「何。礼には及ばん。仲間なら当然の事だ」
そんなクールな忍鷹を、ローディスは憧憬の眼差しでウットリと見詰めるのだった。
将来は是非こんな男に自分もなりたい、と……。
そしてその夜、エリートもシャルギエルもそれぞれ自分の彼女をひとまず各家に留守番させてから、先にSCCで二人は落ち合った。
外では遠巻きからSCCを取り囲むようにして、ビーストを先頭に他のメンバー達も十数名が万が一に備えて、待機している。
先にカウンターに座っているエリートに、声を掛けるシャルギエル。
「この度はお招き頂き」
「――来たね。グレアム坊や」
暫く無言のまま互いの目を合わせる二人。ぶつかり合う、エリートの氷の蒼とシャルギエルの空の青。しかし心なしかシャルギエルは、何か奇妙な違和感をエリートから感じ取った。それは背後に控えている忍鷹も一緒だった。
その目に鋭さが無いのだ。どこか柔和さが漂う、怜悧な瞳。
「……ボスとやらは、まだ来ていないのか」
先に切り出したのは、シャルギエルだった。
「うん。まだだよ。少し君に、ボスが来る前に話しておきたい事があるんだ。個人的にね。きっと君にとっても悪い話ではないと思うけど。そこの日系の坊やも同席していいから、ちょっと上に場所を変えようか。僕の後に付いて来て」
エリートは怜悧な光を宿したまま穏やかに微笑むと、それまで座っていたカウンターから立ち上がり店内に居る手下達へザッと視線を流して、威圧気味に言った。
「奴が――ボスのマックィーンが来たら、車が見えた時点ですぐさま僕等に知らせてくれる? 絶対だよ。分かったかい?」
彼の恫喝的采配に、一斉にその場の手下達十人前後ばかりは速やかに承服する。それを確認すると、改めてシャルギエルへと向き直り忍鷹も一緒に促がした。
「こっちだよ。付いて来て」
そうして二人の間を割ってそれぞれの肩に両手を置いて、軽くポンポンと叩くと出入口の側に当たるカウンターの目隠しになっている、通行口を開け放つ。シャルギエルは初めて来た時に見知っていたが、忍鷹は知らなかったので冷静に脳内へと店の構図を叩き込む。
店に入って向かって右手にあるカウンターの手前側、つまり端っこが人一人通れるくらいの幅で開閉出来るようになっていて、足元の板がバネ式の要領でドアの押し引きで通過すれば勝手に閉じる。そして上のカウンターは跳ね上げ式になっていて、これは手動で持ち上げて戻すと言う作りになっていた。そのカウンター内に入って、カーテンが引かれてある場所を開けるとそこには階段があった。
その先を行くエリートの後にゆっくり続きながら、シャルギエルと忍鷹は無言のまま険しい表情で目を合わせると、それを合図の様にカウンターを通過する。忍鷹がカウンターの上部を下ろそうとすると、すぐにエリートの手下が頭を振って促がした。
「このような雑用は我々に任せて、貴方方はエリートさんの後に続いて下さい」
手下は恐れ多いとばかりの口調で慌てて言いながら、カウンターの上部を下ろした。
例えいがみ合っていようと、シャルギエルも忍鷹もギャングウォリアーのトップと幹部である。彼等にとってはハスラー側の手下と言えど、充分立場は二人の方が上なのだ。なのでエリートが許可した内では、彼等もシャルギエル達を同じトップとして丁重にもてなすように教育を受けているようだった。現にRが現役だった頃、従うトップが別だからと失礼な態度を取った日には、エリートに関係なくあの気性の激しいRの機嫌を損ねて半殺しに遭わされている手下がいるのも、理由の一つにあった。
やがてエリートに連れられて、二人は事務所に通された。
中にはエリート、そしてシャルギエルと忍鷹の三人のみだ。
「ここは本来、ボスのマックィーンが来た時に主要としているけど、彼がこのSCCに居る事はほとんどないから、もっぱら僕が使用してるんだ。勿論、ボスには内緒だけどね。とりあえずソファーに座りなよ。何もサービスしてやれないけど。どうせ警戒して受け入れないだろうからね」
エリートは軽やかな口調で言うと、ニッコリ笑ってソファーに座りテーブルを挟んだ向かいのソファーへと、二人を勧める。
「大丈夫。仕込みナイフとかないから、座った途端グサリなんて心配もないよ」
暫く思い留まっている二人の様子に、更にエリートは愉快そうに言ってソファーの背凭れに身を委ねる。意を決してひとまず二人は静かにソファーに座ると、エリートと向かい合った。
「まずはそこの日系君。君の名前を改めて聞いていいかな」
「……」
エリートの爽やかな口調の質問に、無言のままでいる忍鷹。初めて彼と出会った時の事を思い出したシャルギエルが、代わりに応える。
「こいつは忍鷹だ」
「OK. よろしく忍鷹。実は今回、ボスが来る前に君達に伝えておきたい事があってね。ここは一時休戦を兼ねて、ちょっとした一時友好条約だと思って欲しい」
「休戦して友好条約だと? 一体何を企んでやがる」
シャルギエルは眉宇を寄せると、声を低くして唸るように言った。するとエリートは困惑顔で、クスクス苦笑する。
「まだ何も話し出さない内から噛み付かないでよ。ヤダなぁ。熱血漢はこれだもの。見てると暑苦しくて汗出ちゃうから、落ち着いてくれる?」
「相変わらずてめぇの、そのとぼけた言葉遣いが癇に障るもんでな」
「そんな事言われると、何も話せなくなっちゃうでしょ~♪ まぁとりあえず、黙って聞きなよ。落ち着いて聞いてね! 実はさ、僕、恥ずかしい話なんだけど――児童売買をやめたいと思っているんだ」
「……」
「……」
暫く続く沈黙の中で、エリートだけがニコニコ笑顔で答えを待っていた。
「……――――ぅえ゛?」
シャルギエルは半ばキングオブジャパニーズコメディアン、志村○ん仕込み的な聞き返し方をした。それが可笑しくて、思わずエリートは吹き出す。
「プ! クスクス……君って面白いんだね。だーかーら~! もう子供の犠牲者を出したくなくなったんだよ。それで子供達の命を守る為にグレアム。君のその暑っ苦しい正義感が必要になってきたんだ。でなきゃボスのマックィーンに認知して貰えないからね。その件について、僕の味方になって欲しいんだよ」
「――!」
「――!?」
再び長らく続く沈黙。しかし今度はさすがの忍鷹まで目を見開く程、二人の表情からは驚愕が露になっていた。そんな二人の様子に苦笑するエリート。
「な、な、何故そんな嘘を言うんだ!!」
やっとの思いでシャルギエルが辛うじて吐き出した言葉が、それだった。まるで負け組みが見せる逃げ口上にも聞こえる。
「ヤダなぁ。そんなつまんない嘘言って、何の得があるってぇのさ。子供に手を出しませーん! とか言いながらまた手を出すとでも? ガキの喧嘩じゃあるまいし、そんな見え透いた低劣な約束はしやしないよ。まぁ、心が少しばかり丸くなったとでも思ってよ」
そう静かに言い聞かせると、エリートはフワリと優しく微笑んで見せた。そんな彼を凝視したまま固まるシャルギエル。そしてそのまま視線をエリートから逸らす事無く、呟くようにして言った。
「……おい……。忍鷹。俺を……殴ってみてくれ」
――――バキィィッ!!!!
即座に反応した容赦なく無駄も無い忍鷹の右フックに、危うくシャルギエルは意識を失いかけた。どうやら忍鷹も、これが夢か現かを何かで試してみたかったらしい。素手でシャルギエルを殴った事で痛みを覚えた拳に、驚いたようにまじまじとその手をいろんな角度から見詰めている。
これにはさすがのエリートも仰天して、口をポカンと開けて目をパチクリさせていた。
「いつつつ……。――こんのアホ銀紫!! 少しは前置きと手加減くらいしやがれ!! 危うく夢にとって代わるところだったじゃねぇか!!」
シャルギエルは倒れ込んだソファーから体を起こすと、漆黒の長髪を振り乱して口端から血を流しながら我鳴り上げ思わず、横に座っている忍鷹をファーストネームで呼んでしまった。
しかしエリートは別段その点に触れる事は無く、愉快そうに笑いながらテーブルに備えていた紙ナプキンを、シャルギエルに差し出す。
「これで夢じゃない事が、よぅく分かったでしょう? アハハハハハ!!」
「何だお前!? 何か変なキノコでも食ったのか!? いきなりまともな事言うんじゃねぇ!! 殺人鬼を相手するよりも、お前から聞くその発言は脅威だわ!!」
シャルギエルは喚きながらエリートが差し出す紙ナプキンを取り上げると、それで口元を拭う。そんな彼を可笑しそうに笑いながら、エリートはサラリと言った。
「いや実はね。心を入れ替えたんだよ。結婚を機に」
再び動きが止まる、シャルギエルと忍鷹。
「――いや、もうそサイレントコントは要らないから。なかなか話が進まないでしょー!」
さすがのエリートも、大概ならこの反応に飽きてきたらしく、呆れ気味に言いやる。
「お、お、お前が思考をフリーズさせるような事を、さっきからポンポン軽々しい口調で簡単に垂れ流すからだ。どうした? うん? そんなおめでたい事ばかり言ってる辺り、ついにお前も麻薬で現実逃避にでもひた走って……」
半ば馬鹿にしたように、まるで聞き分けの無い子供を宥め賺すような口調で、シャルギエルは呆れ果てている。しかし突然堪忍袋が切れたようにエリートが、態度を豹変させた。
「――至って素面だ。いい加減にしろ。お前のそのおチャラ気にいつまでも付き合う気は、毛頭ない。直にあの変態ボスが到着する。それまでに口裏を合わせておきたい。分かったら真剣に向き合え」
突然ふとエリートはそれまでの笑みを消して無表情になると、冷淡な口調であしらい本来の人格を露出させた。
「……お前……マジか。エリート」
これで漸くシャルギエルも真摯に対応する為、改めて姿勢を正してエリートへと向き直る。それでも出た言葉はこれだった。
「でき婚か?」
「違う。なめているのか。正当だ。一人の女と一生を共にし、その子供に自分の生涯全てを捧げる覚悟を決めた。今の地位も、スモールと言う俺の義弟が十五、六歳頃に譲り渡して、ギャングから身を引くつもりだ。その手始めに己の行動を改めて他所の子供を、保護していこうと思ってな。妻の子供好きの優しさが俺に災いしたらしい。妻が嫌がる行為はしたくはないし、思い起こせば俺にもガキの内から辛酸を舐めてきた身の上。これを切っ掛けに自棄はやめて、同じ人生の子供を減らしてやりたくなった。今妻は、俺の家でその義弟と一緒にいさせている」
「エリート……」
これを聞いて単純に感動するシャルギエル。一方白けた表情で聞いているのは忍鷹だった。
散々しておいて、いざ自分が親の立場になるからと心を入れ替え、若気の至りにすり替えて反省を兼ね今後は子供へ、慈善活動か。つくづくおめでたいものだ。
そう内心思いつつ、腹の中でエリートの事を嘲笑する。
だが、だからと言って反対も否定も出来ない。過去はどうあれ、二十歳の身空でそれに気付いただけでも一つの大きな進歩だ。それを責める訳にはいかない。そんな事など、他人に言われるまでも無く重々承知の上だからこそ、こうした思い切った行動を取ろうとしているのだから。本当だったら腑抜けたトップとして、抹殺モノであるがそれを何とか覆そうとまでしているのだ。
なかなかそう簡単には出来る行動ではない。いわばこれからギャング風情のガキ二人が、アングラ業界に根を張るボスに歯向かおうと言うのだからだ。しかもエリートにしてみれば、自分を拾ってくれた師匠みたいなものだ。尤もエリートはそのマックィーンを見下して育ってきたが。
何にせよ、時にはチャンスを与えなければ、人は成長しないものだ。
「だが、あの男の事だ。俺のこの意見に到底首を縦には振るまい。よってお前のその正義感とそして、これはお前にとって賛成出来んだろうが、一部の目くらましの為の犠牲者が必要だ。その件で今夜ボスと取り引きをしようと思っている。お前はボスの事をまだ知らんだろうがな、あいつは死姦及び死体損壊性愛者の嗜好癖のある連続殺人鬼だ。だからその趣味を楽しむ為にも、人身売買は手放す訳にはいかないのさ。よって、子供の代わりに大人にその生贄になってもらう。そう進言する予定だ」
ここまでエリートは淡々と語ると、シャルギエルを見て反応を伺う。
「ここのボスがネクロサディストの連続殺人犯だと!? ただの噂に聞く臓器密売人だけじゃなかったのか!」
シャルギエルは驚愕した。臓器密売人は知っていたが、殺人鬼と言うのは今初めて聞くからである。
そして今までとぼけていた為、どうせマックィーンに会えば自分の立場を知られる事を考えて、嘘を含めながら自らの正体をこの際エリートに打ち上げた。
親に反抗してスラムに来た伯爵家の息子で、父の立場を通してマックィーンとは顔見知りだったが、まさかここのボスだったとは知らなかったと言う具合に誤魔化す。
「そうかお前……。上流階級の息子か。クッ!皮肉なものだな」
エリートは言うと、自嘲とも嘲笑ともつかない笑いを見せた。
シャルギエルはアダムから、エリートの正体を聞かされて知っていたが、インターポールと繋がっている事を隠す為に今はまだ何も知らぬ振りをした。勿論忍鷹にも知らせていない。エリートの正体を知る者は外部では、インターポールはともかくシャルギエルとカノンの二人だけだ。カノンに至ってはエリートの本名の愛称に恐れて、口に出すのも嫌がるくらいだから、口外の心配はなさそうだった。
エリートの出生の秘密は警察関係が徹底して調べない限りは、決して世間では知り得ない情報だ。もしここでうっかりエリートに正体を知っている事を明かせば、勘の鋭い彼の事、すぐにピンと来るだろうと予測して用心したのだ。
なので今エリートが口にした言葉の奥にある意味合いが、シャルギエルには何となく分かった気がした。ひとまず気持ちを切り替えると、改めてシャルギエルは意見した。
「しかし俺としては、大人の犠牲者も賛成しかねる」
「そう来ると思ってだ。我々相応の意見をボスに伝える。奴にとっては俺の意見はともかく、お前の意見は尚の事賛成出来んだろう。つまりそれぞれ意見が三つに分かれる訳だ。それを想定した上で俺から一つ、提案がある」
「提案?」
シャルギエルは顔を顰めると、胸元にある長髪をサッと後ろに払った。
「ああ。三つの意見の内からどれを今後の方針にするのかを、平等に決定させる為にゲーム、つまりカジノ勝負で行く」
エリートは言うと、俄かに目を光らせた。その言葉にシャルギエルは動揺すると、戸惑いながら口にした。
「カジノだと……? 俺正直――」
「だろうな。そんな事くらい、初めてお前があの町カジノに来た日から、一目で分かった。こいつはカジノを何一つ知らないとな」
「う……っ」
「よって、少しの猶予を与える。ボスには今回、今居る分の在庫人材を渡してひとまず時間を延ばさせておく。だからお前が得意そうなゲームを選んで勉強して来い。よって、ゲームの決定権はお前にくれてやる。OKか?」
エリートは静かに言うと、それまで前のめりに倒していた上半身を起こして、改めて背凭れに身を委ねる。それを確認しながら、シャルギエルは首肯する。
「ああ……。分かった。いいだろう」
その時丁度、部屋の内線にコールが鳴り響いた。ハッとするシャルギエル。それを見てエリートはふと笑った。
「限のいいところでボスのお出ましだ。――じゃ、そういう訳だから宜しくね! グレアム坊や♪」
そうしてエリートは再び人前用の、とぼけた口調に戻すとニッコリ笑って立ち上がり、二人も一緒に促がした。
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