息を呑む
忍鷹。暫く車の方を見詰めるが、一向にドアが開く気配がない。
無言のまま彼は、縛り上げられてしまったレゲエを残り二人と一緒に纏めて置くよう、手だけで示してメンバーを現場に戻す。
忍鷹は静かにシボレーへと歩み寄り、注意深く窓から車内を覗き見る。だがしかし、そこには誰もいなかった。改めてドアまで開けて確認する。
……いない……。今の奴の、ただの切願から咄嗟に口走った名前か? 忍鷹は僅かに眉宇を寄せると、改めて辺りを確認するも、別に人に気配は感じられなかった。ひとまず戻って、Rへの応戦だ。
忍鷹は踵を返すと、廃車置場へと駆け出した。と同時に現場の方から絶叫が響き渡る。慌てて速度を上げて現場へ駆け付けると、ビーストが
痙攣しながら倒れている。
「ビースト! どこをやられた!?」
忍鷹が駆け寄って訊ねると、顔面血塗れで必死に笑って見せながら、呻いた。
「腕と足それぞれ一本ずつ……折られた……悪ィ。俺はもう動けねぇ……喧嘩屋の看板を掲げておきながら……とんだザマ……だ……グウっっ!!」
「イヒヒヒヒヒ……ヒーヒャッヒャッヒャッヒャ!! ニヒニヒ……確かにその通りだよなぁビーストよ。こいつはとんだ俺の見込み違いだったかぁ!? ニャーギャギャギャギャッハーー!!!」
Rは愉快過ぎて腹が痛いと言わんばかりに腹を抱えこみ、ヨロめきながら大爆笑している。

「てめぇの相手はビースト一人だけじゃねぇぞこのカス野郎があ!!!」
怒声と共にシャルギエルがRに背後から飛び掛ってきた。それをRは振り向き様にガッチリと、両手で彼の二の腕を掴んで受け止めてから、耳元で
艶めかしく囁いた。
「だから好きなんだよてめぇの事が。つくづく俺を、楽しませてくれる……」
そうしてベロリとシャルギエルの頬を舐め上げた。
「くそ……! ふざけやがって……!!」
シャルギエルが顔を顰めて、Rの手を振り解こうともがく。そんな中Rが
叫喚すると共に、シャルギエルはフワリと宙を浮く。被っていたニット帽が脱げ、纏め上げていた彼の漆黒の長髪がバサリと広がる。
「お楽しみは最後にお預けだベイビー! てめぇはそこからゲスト宜しく高見の見物でもしておくんだなぁ!!」
激しい衝撃と共に、気が付くとシャルギエルはコンテナの上にいた。慌てて下を見下ろし愕然とする。あの骨張った体のどこにそれ程の俺を投げ飛ばす馬鹿力があるんだ……!!
忍鷹もコンテナの上に投げ飛ばされたシャルギエルを見上げて、見開いた目で固唾を呑んでいる。
「ヘイヘイ! そこの二番手! 余所見をしている場合じゃねぇぞジャパニーズ!!」
Rは身軽にステップを踏みながら、忍鷹にパンチのラッシュを仕掛けてきた。ガードをしたものの、その内の何発かがボディーや顔にキマる。
「ぐふ……!!」
忍鷹はよろめくと背後にあった廃車に身を委ねる。
「アレアレ〜? ひょっとしててめぇ、あるのは逃げ足専門の脚力だけかぁ〜? こりゃひょっとして打たれ弱いかもなぁ!? だとしたらとんだクズを無駄に追い掛け回して捕まえちまった ―― ぜ!?」
Rは言葉が終わらない内に顔面に衝撃を受け、ヨタついた。鼻血が流れ、口端も切れている。
「……は? 今お前俺蹴った? まだ話終わってねぇのに、蹴っちゃったか? ジャパニーズ?」
彼は目をパチクリさせて確認する。
「フン。無駄に長い
戯言は…… ―――― スキだらけだクソチャイニーズ!!」
忍鷹は言い終わらない内に、怒涛の如く足蹴りの連続をRの全身に放ちまくった。
全撃を喰らって同じく背後の廃車に吹っ飛び叩き付けられたRは、ズルリと右側に体が地に引き寄せられるのを、グンと右足に力を込めて踏ん張った。
そして、右側に傾いたままの体で暫く深く俯き、項垂れていた
頭を徐々にゆっくりと持ち上げたかと思うと、その窪み落ち込んでいる双眸から、禍々しい光を放った。
「……何……? この……俺、が…… ――――――
中国人だと……!? なぜだ……なぜそう思った……あぁ!? このクソジャパニーズ……」
そう唸り声を上げるRの口からは、だらしなく血の混じった
涎が滴り落ちる。
「……? さぁ。別に。ただ何となくそう思っただけだが。勘ってヤツか?」
抑揚のないクールな声でサラリと言って除ける忍鷹。“中国人”。この響きが、今覚醒状態のRにどれだけ危険でタブーであるのかを、
生憎この日系白人は知る由もなかった。そう。つまり、
逆鱗に触れたのだ。
「ふ……ざけるなあぁぁーーっ!!! あんなクソ北京野郎と一緒にすんじゃねえぇぇぇーーーっっ!!!」
Rは我鳴り上げると、側にあった鉄パイプを手に取って振り上げるや否や、忍鷹に突進してきた。それに
賺さず忍鷹も、少し離れた廃車の窓に無造作に数本突っ込まれている鉄パイプに掴み掛かると同時に、素早く一本引き抜く。
そして目前まで迫り来るRが振り下ろした鉄パイプを、慌てて右回りに体を転身させて逆袈裟斬りの形で受け止めた。甲高い金属音が夜の静寂の中、反響する。
ぐ……!! 何て重さだ……!! Rの鉄パイプを受け止めた衝撃に、忍鷹は顔を顰めながら驚愕する。
イカレるRは片眉を上げると、更にその鉄パイプを忍鷹の左胴目掛けてスイングする。それを素早く忍鷹は上に向けていた手を左下に向けて肘先を上にし、鉄パイプを左胴のガードに回すと、Rから放たれた胴を受け止めた。
火花と共に再度金属音が響き渡ったが、その反響が止まぬ内に忍鷹は渾身の力でRの鉄パイプを弾き除け、瞬時に彼の小手を打ち払った。
「ィギャッ!!!」
Rは悲鳴と共に持っていた鉄パイプを放すと、忍鷹から叩き込まれた手をもう片手で押さえる。そして苦々しく全面を歪めてRは彼を睥睨したかと思うと、またもや微かに唇を震わせて、やがて醜悪な笑顔を浮かべて声を引き攣らせ始めた。
初めはそれが悦楽の笑いの表現だとは誰も気付く事は不可能なくらい、醜く歪んだRのその面相は遥かにそれと呼ぶには程遠い“笑顔”だった。
そう。それは笑顔なども凌駕した、最早そうとは呼べない…… ―――― あらゆる悪辣を淘汰した、至極嗜虐な下卑た喜色満面。まさにとんだ僥倖に狂喜狂乱していたのだ。
その余りにも酷いRの奇異さに、忍鷹もさすがに慄然さを覚え剣呑な思いに駆られた。
「そうか……ジャパニーズ……ブシドーとかってヤツか……」
「……侍の血が守護してくれる」
Rの言葉に、彼を見据えたまま忍鷹は答える。幼い頃に父から短期間基礎だけを学んだ、俄か剣術だが。
「それに俺の父が
極道だったのもある」
彼の抑揚のない声で発せられたそれを聞くとRは、ガパリと
顎を開口し、だらしない声を発生させ始めた。
「ギヒヒヒヒ……ニヒャヒャヒャヒャ……ニギャーヒャヒャヒャヒャ!! キヒキヒ……ニャギャギャーーーーッッッ!!!!」
まるでハイエナの鳴き声のような不気味な笑い声を放つと同じくして、ダラダラと血雑じりの涎が垂れ流された。
「感謝するぜ神風Boy!! てめぇらジャパニーズが
覚醒剤を戦時中に発明してくれたお蔭で、今こうして俺は最強でいられる事をな!!」
少し発音が模糊し始めて、Rが何を言ったのかコンテナの上にいたシャルギエルには聞き取り辛かったが、目前にいた忍鷹は僅かだが部分的に聞き取った。クリスタル!? そうかこいつ!
「グレアム! こいつ覚醒剤をやっている! メタンフェタミンだ! そしてマリファナのミックス!!」
忍鷹は声を上げると同時にRに回し蹴りを放ち、そしてよろめいているところを容赦なく、正面から
鳩尾に矢の様な蹴りを叩き込んだ。
Rは勢い良く吹っ飛ぶと、数メートル先でドシャリと倒れ込んだ。
「ゴ! グホホォッ!! ガッゲヘェッ!!」
Rは転がり起きると、四つん這いにこちらへ尻を向けた形で嘔吐する。そして全身で息をしながら、ユラリと遅鈍に立ち上がりながらも尚模糊する口調でブツブツ呟いた。
「ヒャッヒャ……そうさ……しかも百パーセント……純白のな……まるでこの真っ白い大地の様に……」
そして勢い良く忍鷹へと振り向きながら咆哮した。
「しっかりキメてきたさ!! 雪ネタそのものをなぁ!!」
その直後に続く、まるで爆竹の様な破裂音。気付いた時には遅く、Rの手には銃が握られていた。S&W。M10。通称ミリタリー&ポリス。弾倉六発入りのダブルアクションだ。名前の通り、よく一般兵や警察が常備している基本銃だ。二発の銃声。
「く……!」
忍鷹の足元に血が流れ落ちる。
「忍鷹!!!」
シャルギエルは絶叫してコンテナの上で立ち上がる。と同時にそれを遮るように、彼はシャルギエルに怒鳴った。
「来るな!!!」
ビクリと硬直するシャルギエル。
「……俺は大丈夫だ。まだやれる」
忍鷹はRを見据えたままそう声を掛けた。一種の、Rへの挑発でもあった。
「ほほ〜ぅ! 抜かせ小僧! さすがはジャパニーズ。捨て身で特攻する神風種族なだけあるなぁ! 死ねぃ! この死に損ない人種がぁ!!」
Rは怒声を上げると再度発砲した。今度は三発。銃弾が着弾し、めり込む様な呆気ない音。忍鷹は銃弾を上半身に浴び、その勢いで背後の廃車にぶつかると、ズルズルと体がずり落ち足元から崩れると、廃車に凭れ掛かるようにしてガクリと頭を項垂れた。
その内の一発の流れ弾が忍鷹が倒れ込んだ廃車の、前方位置に縛られ座らされていたクレイジーの頭部に命中し、力なく彼も倒れ込む。それを見た残り二人のコリアとレゲエが悲鳴を上げる。
「そういやてめぇら二人……さっき逃げたっけか……? 終わったらお前等も処刑だ……クスクス……」
Rは自分の手下に静かに吐き捨てる。途端、二人はどっちみちもうダメだとばかりに、放心状態に陥ってしまった。
他の十五歳メンバー達は、忍鷹がシボレーまでレゲエを追い駆けている間に、シャルギエルがRの手下の動きを封じたなら、残るR一人はリーダー三人で相手にするから身を隠しておくように伝えていた。
「おい……! 忍鷹……!! しっかりしろ忍鷹ぁぁ!!」
ずっと離れた場所で、骨折が原因で身動き取れなくなっているビーストが、必死に声を掛ける。一方Rは、もう既に向きを変えてシャルギエルのいるコンテナへと、間近にある軽の廃車の上に飛び乗っていた。
既に彼に背を向けていたRを確認すると、射殺された筈の忍鷹が顔を上げ、自分の様子を伺うシャルギエルとビーストに頭一つコクリと頷いて見せた。
二人はそれを確認してからひとまず安心すると、尚Rを意識してシャルギエルとビーストは建て前の演技を続ける。
「忍鷹が……忍鷹が
殺られた……! 死んじまったぞグレアムゥッ!!!」
半泣きの様な声を出して、さも悔しげに喚いてみせるビースト。
「くそ……くっそぉ……よくも、よくもあいつを殺しやがったなクソモンキー!!」
シャルギエルも仲間をやられた憎しみを演じて見せながら、ついに自分のいるコンテナまで這い上がってきたRに殴り掛かる。ところが。
またしてもシャルギエルはRに軽々と持ち上げられて、更にもう一段高くなっているコンテナの上へと、放り投げられてしまった。
「な……に……?」
シャルギエルは驚愕する。すると下にいるRがニタつきながら言った。
「言ったろう。お前は俺の最後のお楽しみだと。ホラ。行けよ。もう一つ上のコンテナに。またわざわざ俺に上げてもらいたいのか? ベイビー。やっぱり最後の締め括りは見晴らしのいい頂上で楽しまなきゃなぁ!!」
そしてRは
マリファナを口にすると、その紙巻の先端に火を点ける。
「ふ……さすがは猿だぜ……いいだろう。てめぇのリクエストに応えてやる。後悔すんじゃねぇぞ」
シャルギエルはタンカを切ると、背後にあるもう一段積み重ねられているコンテナに上る。その間Rはのんびり
マリファナを味わっていた。
下を見るとゆうに四階建てくらいの高さはある。ここから落ちれば、死にはしなくても重傷を負うのは免れないだろう。やがて漸くRもシャルギエルの立つコンテナに上り始める。
コンテナは横向きの形で、ズラリと奥に向かって十数台分は並べられている。なので縦幅はあるものの、横幅はコンテナ一つ横向きにされた幅しかない。縦はあっても横は決して広いとは言えない。
「どうだ。ここからの見晴らしは。まさかビビッて腰抜かしちゃいねぇよな?」
そう言ってくるRの言葉は、所々模糊してはっきりとよく全てを聞き取れなくなっていた。何故だ? どうしたんだ突然。少しずつながらも段々とRの呂律が回らなくなってきている……よく見ると、コンテナをよじ登ってきたその腕も微かに震え始めている。
体力が減ってきているのか……? シャルギエルはそう思いながら、Rの顔を直視するが、彼は別に相変わらず優越感ある不敵な面魂を浮かべている。どうなってんだ? 一体。シャルギエルは理解に苦しんだ。
実は厳寒の中でのビーストと忍鷹との遣り合いで、体力の使用は勿論だがダメージも受けているのもあり、思いの他覚醒剤の効果が予定の時間より短縮されてしまったのだ。
そう。覚醒剤の効力に頼りきったせいでその分だけ持続効果も減ってしまい、ネタ切れの反応が現れ始めていたのである。
しかしミックス使用ですっかり精神が飛んでトランス化しているRには、そんな僅かずつの変化などには気付かない。まだ大丈夫だと本人は思い込んでいた。
口に咥える紙巻を二本指で挟むその手も、微かに震えているにも関わらず。そんな自分にまるでRは気付かずに、大きく深く、マリファナの煙を肺へと吸い込んでいる。
……あのバカ。自分のネタ切れに気付いていないのか。
コンテナの上のRの様子を見ながらそう心中密かに思う傍観者が一人。エリートだ。
騒ぎを聞いてから、彼はシボレーから降車するとそこから一番近いところにある二台奥の廃車に滑り込んだ。そして放置されている廃車同士の隙間から、向こう側の開けた空間でおっぱじまった抗争を、エリートは他人事の様に傍観していたのである。
別にRを助ける為に自分も現場へ飛び出して、熱く男の友情に任せて一緒に反抗者達相手に、Rと手を取り合って戦おう!! ……なんて気持ちは微塵もこの男にはなかった。
どんなに常時行動を共にしているパートナーだとしても、RはR。自分は自分だ。裏切りや腰抜けとかなんかでは毛頭ない。ただ単純に、自分には無関係の出来事として成り行きを楽しんでいる。それだけの事なのだ。
さぁR。運はどちらの味方をするのか、
見物だな。せいぜいその短くなった命の蝋燭、間違って自分で踏み消してしまわないよう気を付ける事だ。俺はあの日カジノ店で確かに警告しておいたのだから。
自分の首に鎌を当て今か今かと切り落とすのを待ち構えている死神を、お前の思い通りドラッグ漬けにして操作出来れば、結構な事だがな……。吉と出るか凶と出るか。それはR。お前の運か。はたまた新人坊やの力量と頭脳か。
天秤に掛けられるのは決してお互いに同じものではないと言う事が、今のお前が置かれている心許無い立場だ。ミックスジャンキーウォリアーさん。自分で撒いた災いの種とその自業自得。どう上手く乗り切れるか興味深い限りだよR……。
それにしても……。エリートは冷静に事の成り行きを見届けながら、ブルリと震えた。…… ―――― 寒い。とっとと決着付けてもらって、早くシボレーの中でヒーターで温まりたい……。
内心密かに、己の一刻も早い温暖を祈るエリートだった。
「飛び道具持ちかよ」
グッとシャルギエルが顎を引いて睨み付ける。
「おっと! スマンかったな! てめぇは丸腰か! いや〜ぁ、せめて
平等に上がってくるついでに鉄パイプの一本でも、手土産に持ってきてやりゃあ良かったな。なんだったら今から取りに戻るか? 俺ァここで待ってっから、よ!?」
口に咥えていた筈の紙巻が吹っ飛ぶ。Rの言葉が終わらない内に、シャルギエルのパンチが左から入った。更に往復で右にももう一発。おまけに顔面に真っ直ぐ鋭い蹴りが入った。Rは後ろにバタリと倒れる。
「マジ話長ぇなボケジャンキー。スキだらけだ」
「が、けぺ……ぶ……」
Rは言葉にならない声を出して、片腕を突いて斜めに上半身を起こしながら、もう片手で顎を左右にずらす。ガキリ! と鈍い音と共に外れた顎がはまった。そしてププッとまるでぶどうの種を吐き捨てる要領で、折れた数本の歯を吐き捨てる。
口からだけでなく、鼻からもヌルついた血が溢れ出している。
「大丈夫か? 鼻の方は。チャイニーズは鼻が低いから折れはしねぇか」
シャルギエルは皮肉たっぷりに揶揄しながら、軽くトントンとステップを踏む。
「……てめぇまで……この……俺を北京扱いしやがんのかよ
兄弟……ク……クスクスクス……悲しいなぁ……実に悲しいよ……せっかくいいファミリーになれると……そう、思ったのによぉ!!!!!」
Rは自嘲雑じりの笑いと共に、激昂の咆哮を上げた。気が付くと、銃声と共にシャルギエルは体から鮮血を噴き出していた。
「な……!!」
本人も予想外だったらしく、驚愕を剥き出しにしながらシャルギエルは傷口に手を当て、その場に立ち竦む。
「チィ。頭狙ったつもりだったが、外したか」
Rはニタリと笑う。ネタ切れのお蔭で手の震えが狙った頭部を外して、シャルギエルの肩に命中したのだ。右鎖骨の上辺りと言うべきか。その派手な流血の様子に、さすがに予定外だったビーストと忍鷹も咄嗟に息を呑む。
そう。実は他の十五歳メンバー全員を含め、防弾チョッキを身に付けていたのである。だから忍鷹の出血もよく見れば足元や腕を掠った程度だった。そう判断したからビーストとシャルギエルもそれ程心配はしなかった。
忍鷹もわざと上半身の防弾チョッキに被弾する事により、少しでも多くの銃弾を減らそうという、計算があっての事だった。二発着弾し、それでも立ち上がると不自然なので、忍鷹は敢えてそこまでで絶命した振りをした。
彼が見たRの銃から判断するに、弾倉は六発。内五発は忍鷹が敢えて受けた。一発はRの手下に被弾してしまったが。だから計算では残りは一発。その一発だけなら、何とか上手く避けられるだろうと考えた。
まさか運悪く防弾チョッキから外れて、しっかりその身に着弾するなんて、考えが甘かった。しかもやたらとRが“チャイニーズ”に過敏に激怒するのも予想外だったので、軽いノリで挑発したつもりが余計彼の逆鱗に触れていたのも、以外だった。
だからもし彼がネタ切れを起こしていなかったら、シャルギエルはそのたった一発を頭に受け、死んでいただろう。
「残念だぜフレンド! あばよ!!」
Rは
止めとばかりに引き金を連続して引いたが、忍鷹の計算通りすっかり弾は空になっていた。Rはそこまで考えずただ適当に発砲し過ぎてしまった。折角の止めを不意にする。
チッと舌打ちしてからRは銃を投げ捨てると、咆哮を上げながらシャルギエルに殴り掛かって行った。シャルギエルは後退して少しでもRから距離を取ろうとする。だがもう後に続くコンテナはなく、それ以上後退したら落下してしまう。完全に道を絶たれた。
シャルギエルは肩の激痛に呻き、脂汗を噴き出しながら迫り来るRを凝視し、彼からの攻撃に身を構えた。と同時にRがシャルギエルに掴み掛かり、クルリと反転させると押し倒した。そして覆い被さると同時に、腹部に膝蹴りをお見舞いする。
「ぐぅっ!!」
シャルギエルは身を縮める。そしてRからのパンチを顔面に数発受けると、今しがた被弾したシャルギエルの右肩の出血部に気付いたRが、グッと親指を傷口に押し込んできた。
「ふ……ぅ……っっ!! あああ゛ああ゛あ゛あぁあぁぁっっ!!!!」
シャルギエルは脳天を突き上げる激痛に耐え切れず絶叫する。
「ふふふ……うふふふふ……いいね……いいよベイビー。最高だぜ……もっとだ……もっとそのいやらしい声で喘いでくれよ
嬢ちゃんよ……ああ、あああん! 感じる! 俺も感じるぜ俺の愛しのベイビーボーイ!! もっと、もっとだ! このまま俺を一気にイカせてくれぇ!! あはぁ! あんあぁ〜ん!! ……クス! キヒヒャヒャ……ギャーハハハハハハアァーーー!!!!」
Rはシャルギエルの絶叫に陶酔し、身悶えして言いながら、親指を更に奥深く傷口に押し込み、グリュグリュと指先を捏ねる。
そう。それはまるで、セックスで己のペニスを穴に突っ込み、腰を振る仕草を連想させるように。