「この
晩熟ウソッパチ野郎…ぬぅわぁにがキスはまだだ。このブリッコ野郎が…。しっかり短期間で一つのベッドで一緒に寝るところまでイってんじゃねぇかこの盗っ人野郎…これでまだ
童貞なんてぬかしたらその役立たずのゴールデンボール叩き落して粉々に砕いてやっからなぁ…。何だかんだで付き合い始めたら進むのが早ぇときてやがる、このクソ箱入りボンクラが…。この義弟のオイラの前でしっかりぬけしゃあしゃあと見せつけやがって…。この新鮮なオイラのシスコンハート…ファーストインパクトを受けた、初めての十歳の冬だぜ…」
翌朝七時過ぎ頃に目を覚ましたロードは、
初っ端からノックアウトを喰らわせられたシャルギエルとカノンの二人仲良く眠る姿を目の当たりにして、顔を引き
攣らせながらぼやいた。
まぁ勿論まだキス止まりの二人ではあるが、義姉想いのロードはカノンの乙女を汚された気がして若干幼心にショックを覚えずにはいられなかったのだ。なのでどうせ一緒に寝るまでの仲であるからには、いっそ肉体関係の仲である覚悟を受け止めていなければこれで“実はまだチェリーとバージン同士です♪”なんておめでたい事ぬかした
暁には、シャルギエルの脳天に
踵落としをかましてやりたくなるぐらい義弟としてこの
紛らわしい行為に腹が立つ。なので、
敢えて半ば無理矢理そう考えるように心掛ける事にした。
「ふ…ふ…ふふふ…ふ…」
声を震わせながら何とかこの
陰鬱な状況を笑って受け止めようと努力するロード。その
稀薄に儚げな、それでいて不気味さも含んだ笑い声に気付いて、シャルギエルが目を
瞑ったまま口を開いた。
「…ん…何朝から笑ってんだロード…こっちは昨夜SCCの監視から戻ったのが二時過ぎでまだ眠いんだよ…。夢見が悪いのか知らんが朝から変な笑い方するのやめろ…」
シャルギエルが眠たそうな声でぼやくのを、夢見じゃなく目覚めが悪いわ!! と言わんばかりにキッと睨み付けるとロードは静かに言い返した。
「いやまさかオイラの側でそんな光景見せ付けられるとは思わなかったからよ。つい、な…。ふふ…男と女…例えまだガキでも不潔だなんて
野暮な事は言いやしねぇ…。カノン姉ちゃんを幸せに、幸せにしてやってくれよ…。不幸にしたらその口に手ぇ突っ込んで
咽喉チンコ引っ張り出して、てめぇのモノをもう一つ
歪に増やしてやっからそう思え…。じゃあオイラは整備士見習いに行ってくらぁ。 念には念に忠告しておくが責任持てる年になるまで生でせずにくれぐれもコンドーム必然だからな! じゃあゆっくりと休みな!」
ロードは最後に語気を強めると、その場を振り切るように外へと走り出て行った…。だが生憎シャルギエルはほとんどロードの言葉を聞かぬまま、二度寝に
陥っていた。
しかし寝たふりをして聞いていたカノンは、シャルギエルの胸元に顔を埋めたままクスクス静かに忍び笑うのだった。で、シャルギエル本人はというと、未だにカノンと一緒に寝ている事に気付いてもいない。
ん…少し冷えるな…寒い…さすが風穴の開いた家では掛け布団だけでは追いつかん…あれ…? あ、
暖けぇ…これヌクヌクして心地いい…これ暖まる…。シャルギエルは夢現で左腕に触れる温もりに身を委ねるべく、引き寄せて身を埋める。そして少ししてから思った。
あ…これロードか…。ロード男じゃねぇか。いくらガキとはいえ野郎同士で抱き合って寝たら男として終わりだろう…。そう思い直してその温もりから離れると、掛け布団を引き寄せて
包まる。
「………………」 やっぱ布団だけじゃ
寒…。
「………………」 アレ…? ってか前にロードと話したような…あいつ先に起きたんじゃなかったか…?
「…………さむ」 と言う呟きに、シャルギエルは構わず思う。そりゃそうだろうよ。俺が布団全部取り上げて…あげ…て…。………………―――――え? 今の声…?
ぱちりと目を開けるシャルギエル。と、目前には長い
睫毛に色白のプックリと愛らしい口唇と、幼さの残る少女の寝顔…………―――――。
ガバリと飛び起きるシャルギエル。そして自分だけが包まっていた布団に気付き、それを大慌てで相手に投げ掛ける。頭は目覚め早々パニックだ。
え!? 嘘だろ!? 何故だ! 何故俺の隣にカノンが寝ている!? っつーか一緒に寝たっけか!? あれ!? 俺か? 俺の方が間違えたっけか!? いやいや待て待て。確かに昨夜こいつは、俺にベッドを譲って自分はロードと一緒に寝るからって言った筈…。俺の聞き間違いか!? シャルギエルは無言の
身振り手振りで必死に頭の中で
反芻する。
「……起きたのシャルギエル」 「わあ!!」
突然のカノンの言葉に重ねるように驚いたシャルギエルは、声を上げてその場を飛び退く。なので当然そのままドサンとベッドから落下した。
「いたたた…。あ、いや、違うんだカノン! これは何かの間違いで、俺は別にそんなつもりでお前の寝込みを狙ってベッドに潜り込んだとかそんなんじゃなくてだな! その何つーか…!!」
四つん這いの格好でシャルギエルは必死に片手をアタフタ振って見せる。その姿を見てカノンはクスクスと肩を揺らして笑い始めた。
「あたいだよ。あたいの方からあんたの寝込みを狙って添い寝したの。あんたは何も悪くないし
疚しくもない。ただ寝ていた。それだけさ」
ベッドの上からうつ伏せの体勢で頭を
擡げて覗き込みながら、まだ少し眠そうな目で口にする。
「……………マ、マジで?」 「うん。超マジ♪」
呆然とする彼に、人事のようにニッコリ笑うカノン。
「な…何だよ…それならそうと初めっから教えてくれりゃあいいのに…。全く、ビクった…」
溜め息を吐くと彼は立ち上がり、ダウンジャケットを着込む。風穴の開いた家では室内でも厚着をしなければ寒くて動けないのだ。そしてもうコンロの代用から解放され、今はミニ焚き火缶となった一斗缶に薪をくべ火を点ける。御曹子であるシャルギエルも今や手付きも慣れたものだ。邸宅の執事やメイド達が彼のこんな姿を見たら、驚愕の余り満足に夜も眠れなくなるだろう。それぐらい周囲に言わせれば彼のこの行為は有り得なく恐ろしい行為に等しいのだが。
そして次にコーヒーを
淹れる。もう彼が持ち込んだカセットコンロのお蔭で、湯を沸かすのにも余計な手間が掛からなくなっていた。
「お前も飲むだろう?」 と言いながらカノンの分も一緒に作る。カノンはベッドで布団に包まったまま上半身を起こして、そんな彼の背後をウットリと見詰める。
「心地良かったよ。シャルギエルの懐。あぁ、これが幸せってヤツかなぁって思いながらさ、安心感に満たされながら眠ったよ」
そのカノンの言葉を無言のまま背中で受け止めた彼は、ゆっくり振り返ってふと口端を上げた。
「それだけで満足してんじゃねぇよ。それ以上の今まで味わった事のない幸せを、もっともっとくれてやる。たらふくになって、もう動けないってぐらいにな」
シャルギエルは静かに言うと、コーヒーカップを彼女の手に渡して、再びそのベッドに彼も腰を下ろす。サンキュ、と軽く呟くカノン。ん、と軽く頷いて彼女の瞳を見詰めるシャルギエル。
そしてお互い、モーニン、と囁き合いながら口付けを交わす。二、三度キスを交わした後、カノンが「痛…」と顔を
顰めた。シャルギエルが彼女の下唇を軽く噛んだのだ。
「俺を朝から驚かしたお返しだ。今度一緒に寝たい時は黙ってないでちゃんと言えよ。じゃあねぇと…お前の温もりをじっくり味わって身を委ねられずのままでいなければならなくなる…。それじゃあまるでお預けを喰らった犬だ。勿体無い事させるな」
シャルギエルはふと優しく微笑むと、カノンの頭をクシャッと撫でてコーヒーを口にする。
「それって…」 と呟くカノンに、クスリと笑って彼は否定する。
「そんなんじゃねぇよ。今はまだ添い寝して抱き締め合うだけで十分だって事だ。俺は焦っちゃいねぇよ。それじゃあまるでがっついた獣みてぇじゃねぇか。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりお互いを知っていけばいい。先を急いでも得するよりか損するばかりだ。一緒に少しずつ大人になっていきゃいいんじゃねぇのか?」
シャルギエルは優しく言うと、軽くつまむように親指でカノンの白い頬を撫でた。そんな彼の手の温もりを頬に感じながら、うんと頷いて彼のその手に自分の手をカノンは重ねた…。
シャルギエルとカノンは、地下鉄降下口前で
忍鷹と落ち合った。
昨夜撮ったデジカメの画像をパソコンでプリントする為、シャルギエルの私邸に一緒に行く約束をしたのだ。
すると工場地帯の方から言い争いが聞こえてきた。
「なぁいいだろ。五十だ。五十ドルやるから一発ハメさせてくれよ」
「やめてったら! 確かにあたしは貧しいけど、金で体を売るほど
落魄れちゃいないのよ! この体を委ねるのは“Love”の相手だけよ!」
見るとまたもやアースンだった。相手は恐らく男色好みの男なのだろう。しきりにアースンを口説いている。
「じゃあ付き合おうぜ俺達。な? そしたらヤラせてくれるか?」
その二十代の男は必死だ。
「やらせるやらせないの問題じゃないってのよ! 何よその建て前だけの言葉! 全っ然ラブが感じられないわ! あたしはね、そんな下品な口説かれ方よりももっと大人で、情熱的でクールな口説かれ方じゃなきゃときめかないの。例えばオッシー様みたいなクールなハンサムガイだとか…とにかく、一昨日出直していらっしゃい!!」
アースンは
煩わしそうに向こうへ早歩きしながら相手の男をあしらっている。すると、もう見込みがないと諦めた男が腹癒せに捨てゼリフを吐き捨てるべく口を開く。
「ケ! 何贅沢言ってんだ!
所詮カマ野郎を誰が本気に熱上げると思って…」
「どぉわぁーれが“ボンビー
釜揚げヒート野郎”じゃこの発情鬼畜ジジイがあぁぁーーーー!!!」
相手の言葉が終わらない内に、アースンは
激と共にその男の股間を突き上げるような荒技、“
昇竜蹴”を叩き込んだ。
「あっ! 痛…!!」 思わずシャルギエルの呟きと共に忍鷹も共に二人して顔を背ける。
彼等も他人事とはいえ同じ男として見るに耐えない思いがあるのだろう。男なら自然な反応かも知れない。そんな二人にキョトンとするカノン。
蹴り上げられた男は、白目を剥いてその場に崩れ落ちる。余りの激痛を受けると人というのは声も出なくなるらしい。
「人がせっかくおしとやかに断ってやってんのに図に乗りやがってあたしに言っちゃあならねぇタブーを口にしやがって…! 今度またあたしに気安き声を掛けてきたらそのなまくらバッドに火ィ点けてマスタード塗りたくってフランクフルトに仕上げてからおんどれの口の中に捻じ込んだるぁ! この使い損ないの意味無しチンポ野郎!! てめぇみたいな奴ァモグラが開けた土穴にモノぶち込んで、地球相手に腰振ってろやボケ!!」
吠えるだけ吠えてスッキリしたアースンは、ツンと澄まして工場の中へと姿を消した。残された男は、「誰もそこまで言ってない…」 と呻きながらトントンと腰を叩きつつまだ苦悶に身を歪めていた…。
「…一応あいつを口説く怖い物知らずな物好きもいたもんだな…」
「しかも“オッシー様”とか言ってなかった? アースン…」
シャルギエルは口元を引き攣らせ、カノンは忍鷹をしみじみと眺める中、今の出来事を無理矢理見なかった事にしようと脳裏から懸命に排除しながら、忍鷹は低い声で吐き捨て階段を下り始める。
「早く行くぞ」
「あ、現実逃避かこのヤロー。この色男め」 「見なかった事にもしたくもなるさ…」
忍鷹の背中を追い掛けながら、シャルギエルとカノンは言った…。
シャルギエル私邸にて。
彼はパソコンでの写真の処理を忍鷹に任せて、私邸に呼び寄せた自分専属のカリスマ美容師フランクに、お風呂の後の髪の手入れをさせていた。
「あんたいつもこうしてもらってんの?」
覗き込んで来るカノンに、シャンプー台に頭を委ねるシャルギエルは頷く。
「こうするのが我が家の
常套手段だ。体ぐらいは自分で洗うけどな」
「はぁ〜…。まるで王子様だねぇ」 感心するカノン。
「王子様みたいなもんだよ。日々の生活は王族とかと対して変わらないんじゃないかな。ただ爵位と家の広さが違うだけで。ですよね。お坊ちゃま」
フランクはシャルギエルの髪を
弄りながら、彼を間に挟んで向かいに立っているカノンに言ってから、シャルギエルに同意を求める。
「ああ。フランクはな。家族や他の使用人とは違って気楽に付き合い易い奴でな。俺より十歳も年上だが気軽にプライベートな話もし易い。その辺
弁えてくれていて家族の前と俺個人だけの前じゃ、意識や気持ちの切り替えも上手い。ちょっとした兄貴みたいなもんさ」
「おやおや。そんなに私なんかを褒めちぎったりしてどうしたんですか? やっぱりお坊ちゃまでもさすがに彼女の前だといい人を演じたくなるもんなんですねぇ」
「フ、フランク!! 余計な事言うなよ!!」
顔を真っ赤にして頭の方に手を伸ばすと、シャンプー台に溜めてあるお湯を彼へと払う。
「おっと! やーっぱり図星でしたか! な〜るほど。君がシャルギエル様の…」
じっくり眺めてくるフランクに、カノンはたじろぐ。
「女を見る目、あるじゃないですか。この子は磨けば磨くほど輝きますよ。いい原石見つけましたね」
そしてリクライニングの背凭れを起こすと、タオルをシャルギエルの頭に巻いた。
「どうです? 宜しければ少しだけこの子の髪を弄って差し上げましょうか? 毛先も痛んでいるようだし、スタイルも大雑把でバランスが悪い。折角の美しい筈の赤い巻き毛の魅力も半減している」
どんなに服装で誤魔化しても素朴な髪型は
垢抜けていない。

「え…!? あたいを…!? そ、そんな、髪弄られるの初めてだから緊張するしいいよ…。それに今までずっと自分で適当に切っていたから別に…!」
恥ずかしそうに慌てふためいて、自分の髪を両手で押さえるように撫で付けて誤魔化しながら、シャルギエルの目を見て助けを求めるカノン。
「いいじゃねぇか! やってもらえよ! いい機会だ」
カノンの気持ちを他所に気楽に同意するシャルギエル。
「そうそう。折角彼に
見初められたんだろ。だったらもうそのつもりで更なる美を高めるのはレディーとしての常識。私はそこらのモデルを手入れするよりも、原石をどこまで磨いてその子の魅力を最高頂まで極められるかの方がやっていて楽しいんだよ。身分なんか関係ない。君がどこ出身かなんて聞く気もないさ。世の中ね。どれだけお姫様と呼ばれる立場でも、こっちからお断りなぐらいのブスもいるんだぞ。それに比べ美しかったら美しくなれる程元からいい原石を兼ね備えている女の子は、どんなに貧しくてもその魅力で本人が望まずとも上へと昇って行ける。何故なら、周りが美を求めて放っとかないからさ」
フランクはカノンを説得するように語ると、それに感心したシャルギエルがフランクと手を叩き合って椅子から立ち上がる。そして腕と腕を互いに交差させる形で合わせると、カノンにフランクは空いた椅子を勧めた。
「そうと決まればやってもらえよカノン。ちょっと俺のドライヤーが終わるまで待ってもらうが…」
「この際ドライヤーぐらい御自分でやって頂きますよ。決定したからにはもう今は貴方よりこの子が優先だ」
椅子に座らせたカノンの髪を触りながらフランクは、目を輝かせている。カリスマ美容師の腕が騒ぐのだろう。
「ふ。お抱えにしている主に対してこのザマときやがる。別にいいさ。気を楽にして整えてもらえよ」
シャルギエルはカノンにウインクすると、リビングで十人ぐらい座れそうな広いテーブルの上に置いたノートパソコンの画面と睨みあっている忍鷹の元に向かった。彼はテラスを背にした方の端に座っている。
「まさかPCまで扱えるとは軽んじてたよ」
「学校で教わるだろう普通に。どれだけ庶民を
侮る気だお前は。付け上がった考え方してるといつか逆に馬鹿にされるのは自分だぞ」
忍鷹は相変わらずPCに目を向けたままサラリと応酬する。
「…お前の言い方はトゲがあるんだよ。傷付くだろう」
シャルギエルはブスくれる。
「そいつはお互い様だ。
傲慢ちきな御曹子。己の欠点なんざ人に言われるまで自分で気付かないものだ。傷付いて世を知る事こそ利口への近道になる」
忍鷹は不屈の笑みを見せると、テーブルに散乱するプリントした写真を掻き集めて、シャルギエルがいる向かい側へと投げて寄越した。
「サンクス。うむ…。バッチリだな。今に見てろ…。Rに代わって俺がSCCの出入りを可能にしてやる。その時が決戦の火蓋が切って落とされる時だ…。ひとまずイブのパーティーで会おう」
シャルギエルは写真に写る父親の部下でもある、臓器売買を裏ビジネスにしている男を指で弾いた。
「宣戦布告は大いに結構だがな。先にその頭どうにかしろ。まるで女の風呂上りのように見えて気色が悪い」
忍鷹はシャルギエルから
馥郁たるアロマソープの香りと、頭に巻かれたタオルとバスローブ姿を前にげんなりした表情で言った。
「アラそ〜ぉ? ひょっとしてその気にさせちゃったかしらん♪」
シャルギエルがふざけて腰と頭にそれぞれ手を当てて、体をくねらせるとウインクする。
「よさんか! そういう人種はアースン一人だけで百人力なぐらい十分だ!」
彼の愚劣に少しムキになる忍鷹に、「あいつに惚れられてるもんなーお前」 と言いつつシャルギエルは高らかに笑いながら洗顔場へと姿を消した。
それを溜め息交じりで見届けながら、「それにしても…」 と忍鷹は一人残ったリビングで呟くとチラリと横目でテーブルの中央を見
遣った。
そこには液体チョコレートとチーズが、それぞれの自動フォンデュ機によって吸い上げられては滝の様に永遠と流れ続けていて、周りを囲むようにしてカットフルーツが並べられてある。
甘ったるい香りに満ちすぎたここは、胸焼けがしてくる。
すっかり
辟易した忍鷹は、それを何とか誤魔化そうと丸ごとフルーツが盛られているガラス器に
徐に手を伸ばした。
そしてスターフルーツを掴むと丸ごとのまま豪快に
齧り付く。その様はこのハンサムな男にして実にワイルドで男らしい。口の中に爽やかでスッキリとした味が広がる。続いて更に、ミントティーを
啜る忍鷹であった。
「……おい…もう夜になったぞ…。一体いつになったらあの娘の改善とやらは終わるんだ…」
「ああ…俺もまさかここまで時間が掛かるたぁ思いもしなかった…。フランク
曰く女は何かと時間が掛かるそうだ…」
忍鷹とシャルギエルは娯楽ルームでビリヤードで暇潰しをしていたが、半分くたびれた感じに時間を持て余していた。いくら暇潰しをしようとしても、さすがに連続はきつい。シャルギエルに至ってはもう退屈さに横で忍鷹の番の時は、ダーツをプレイしているぐらいだ。
その時内線が鳴った。
シャルギエルは壁掛けの電話の受話器を取り上げる。
「何だ」
“お坊ちゃま。夕食はいかがなさいましょう”
「夕食、かぁ…。そうだな。三人前をこっちに運んでくれ」
“かしこまりました”
受話器を置く彼に、
忍鷹はあくまでも冷静に訊ねる。
「…いいのか。御馳走になって」
「構わんさ。遅くまで引き止めちまってんだ。しかも
銀紫がプリントアウトしてくれている間に、こっちもバスタイムに興じる事が出来て助かっている。ほんの礼だ。気にせずうちのシェフの味を味わっていってくれ」
シャルギエルは矢をポイとダーツに投げると、大きく伸びをした。と、同時に携帯電話が鳴る。
「今度は何だ…。ん? 公衆? ―――――ハロー?」
“ハローじゃねぇよこのスケベ野郎! 人の姉をいつまでも引っ張り回して何処にしけ込んでるつもりだ! もう七時だぞ!”
ロードだった。朝が朝だっただけに、けたたましい声で喚き込んできた。
「いやぁ悪ぃ! 銀紫も一緒に今俺ん家にいるんだがカノンが俺の専属美容師に認められちまってなぁ。俺等二人もすぐ帰るつもりでいたんだが、待てと暮らせどこいつが終わんなくてよぉ。俺等も参ってんだよ…。だから悪ぃけどお前テキトーに夕食済ませてろ。十時までには帰れるだろうから」
シャルギエルは自分の長髪をクルクル指に巻き付けながら言う。
“え? カノン姉ちゃん今美容師に髪弄ってもらってんのか!? そうかそうか。そいつは結構。さぞかし美人になって帰って来るんだろうな。楽しみだぜ…。で、お前等は夕飯どうすんだ?”
「俺ん家で銀紫とカノンに御馳走して帰るさ。待たせて申し訳ねぇからな」
ビリヤードの球を手の中で
玩びながら口にする。
“ナ! ナニー!! フザケんなズルイ! ズルイじゃねぇか! こうなったら何かテイクアウトして帰って来い! うちの姉を昨夜テゴメにした代償だ!! じゃあな!!”
ロードは喚くだけ喚いて一方的に電話を叩き切った。その余りの声の剣幕に、相手の声がしっかりシャルギエルの半径一メートルぐらいまで響き渡っていた。シャルギエルはその勢いに硬直してしまっている。ポトリと球が台の上に
虚しく落ちて転がってゆく。
「………
手籠め…? お前…まだ幼いあの娘に手を出したのか……? いくら付き合っているとは言え肉体で繋がるばかりが全てではないのだぞ…。もう少し計画的に付き合え。本能任せじゃなくな」
その
長躯をビリヤード台に軽めに腰掛けて、腕と足を組んだ忍鷹は冷ややかに言った。と同時に横で
漸く我に返ったシャルギエルが目を丸くして赤面になり、「い゛ぃ!?」 と振り向き手をバタつかせながら大慌てで否定する。
「ちっ、違う! 俺は潔癖だ! 何もしてない! ホントだ! カノンの奴が勝手に俺が寝ている内にベッドに潜り込んでいて、気付いたら一緒に寝ていただけで、俺もマジでビクッったんだから! ってーかあのロードのガキャア、一体何思い違いしてんだか! 帰ったらしっかり知らしめてやる!!」
「…やれやれ。おめでたいこって」
忍鷹は溜め息交じりでそっぽ向きつつ呟く。
すると奥からフランクの声が響いた。
「大変長らくお待たせ致しましたー! 完成しましたよ! ジプシークイーンの御登場ー!!」
「…彼女のお出ましだ。行くぞ」
忍鷹に促がされ、シャルギエルは気まずそうに後ろに付いて娯楽ルームを後にした…。