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最果てのパラディン 作者:柳野かなた

〈第二章:獣の森の射手〉

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「……なるほどな」

 街を出て、メネルと出会うまでの経緯を話すと、メネルは黙って聞いて、あっさり頷いた。
 疑った様子がないことに、むしろ僕のほうが驚いてしまった。
 彼に対して秘密にしたままでいたくなかったから、思わず語ってしまったけれど、唐突なホラ扱いは覚悟していたのだ。

「疑わないの?」
「つーかむしろ納得した。
 ……一応どこぞの遠い国の貴族のボンボンだって無理やり納得してたが、それだって怪しく思えるくらい変なとこあったしな」

 これくらいすっ飛んだ来歴のほうがまだ納得できる、とメネルは言った。

「前世の記憶を持って生まれ、最果ての遺跡で不死者となった三英傑に育てられ、灯火の神の加護を受けて不死神の《木霊(エコー)》を殺す、か。
 ……ビィが聞いたらキャーキャー声をあげて喜ぶだろうぜ、話してやるか?」
「ア、アハハ……追い追い決意ができたら、他の人にも話してみるよ」

 ビィに聞かせたら絶対広められる……
 けど、考えてみると元から嘘臭い話だから、歌が広まっても普通の人には「絶対それ、話盛りすぎだって!」とでも笑われて流されそうだ。
 とすると、ビィにも話して聞かせて問題ない、のかなぁ。うん。
 ……僕が恥ずかしいという以上の問題はないな!

「……さて、そんでだ」
「うん」
「狩るんだろ、キマイラ。もちろん、お前一人じゃなく、だ」
「そうだね」

 あのキマイラは、危険だ。
 ガスの授業で聞き知っているものより、二回りくらい体格が大きい。
 オマケにあの罠……人間なみに知恵が回って、例の瘴気を帯びた魔獣の群れまで統率している。
 魔獣の群れに関しては、あの時あらかた斬り捨てたと思うけど、残余がいない保証はない。

 あのキマイラの様子は、今でも思い出せる。
 飛竜以上の巨体。率いる魔獣の群れ。
 満ち満ちた、ちいさきものどもへの侮蔑、嘲笑、悪意。
 ずる賢そうに光る瞳。
 仕掛けられた罠。
 ……あれは、狩らなきゃダメだ。

「……雪辱戦(リベンジマッチ)といこうか」
「おう、やられっぱなしは癪だからな」

 僕たちは――傷だらけの顔をほころばせると、こつんと拳を打ち合わせた。



 ◆



 それから村の方に戻ろうとしたら完全武装のレイストフさんやアンナさんたちがやってきて驚いた。
 そういえばビィとトニオさんがどこにいっていたのかと思ったら、彼らに「僕の様子がおかしい」と伝えに行っていたのだ。

 確かにさっきまでメンタル大荒れで動きが雑を極めた上、喧嘩慣れの無さが原因で、見事にメネルに不覚を取ったけれど……
 僕が平常通りの心技体で暴走したらもう、完全武装の冒険者集団で押し包みでもしないと力ずくで止められない。
 というかメンタルさえ十全なら、それでも翻弄する手の3手や4手はぱっと思い浮かぶ。
 トニオさん辺りが万一を考えて、できる限りの手配りをした結果がこれなのだろう……ラスボス対策みたいだな!
 と、そこまで考えた時、ビィが涙目で僕とメネルに飛びついてきた。

「ウィル、メネル……!」
「わっ、と。ビィ」
「よぉ」
「良かった……良かったぁ……ごめん、ごめんね……!」
「ううん」

 と、ビィの頭をぽんぽんと撫でた。

「むしろごめん。なんか勝手に暴走して、物凄い心配かけて……」
「……心配した。すっごく心配した! ウィル、突然、顔はいつも通りなのに凄い怖い気配して出て行くから……!」
「ホント、ごめん。……もう誰も傷ついて欲しくなかったから、全部、一人でやろうと思って。そしたらメネルにぶん殴られた」
「なに一方的に殴られたみたくいってやがる、クソ、しこたま人の顔面殴りやがって」

 あはは、と苦笑した。
 ……うん、簡単に言ってしまえばそういうことだ。
 僕は全部一人でやろうとして、ぶん殴られた。
 まとめてしまえば、なんだか馬鹿馬鹿しく聞こえる。

「強者の病だな」

 レイストフさんがやれやれ、と言うように呟いた。
 その隣に居たアンナさんもほっとした様子だ。
 強者の病。
 ……確かにこれは、ある程度、強い人間こそ取り憑かれる考えなのかもしれない。

「強く、優秀なものほどかかる病だ。それがそいつの命を奪うこともある」

 あのまま突っ走っていたら。
 ひょっとすると、本当にそうなっていたかもしれない。
 メネルが居てくれて、よかった。

「すみません、本当にご心配をおかけしました。もう大丈夫です。
 ……今度こそ、キマイラを倒しましょう」
「次は不覚は取らねぇ」

 僕とメネルが言うと、レイストフさんや冒険者さんたちはこくりと頷き、口々に応答の声を返した。
 けれど、

「……二人とも、いいの?」

 ビィはそう言った。

「ウィル。えっとね。やめちゃってもいいのよ? 英雄なんて」

 そう言われて、僕はびっくりした。

「ビィがそう言うとは思わなかったな」

 ビィは、僕に英雄性を求めていると思っていたからだ。
 疑問を口に出すと、ビィはしゅんとした様子でこう言った。

「あたしはウィルが英雄たらんと振る舞ってると思ってたから、歌にもしたし、あんな風に怒っちゃったけど……そうじゃなかったのよね。
 なのに英雄扱いなんてして、色々求めるから責任感を感じちゃって、あんな風に……」

 え。
 あ、いや、それは違う。

「待って、ビィ。別に、僕は英雄扱いはどっちでもよかったんだよ」
「えっ?」

 本当に。ブラッドやマリー、ガスと同じになれるならそれは嬉しいことだし、逆にそうでなくても構わない、くらいの気持ちだ。
 僕は英雄であることに、良くも悪くもこだわりはないのだ。
 秀でた存在として、多くを求められるならそれはそれで構わない。逆にそれで得られる利便性もあるのだし。
 どうせ神さまに英雄めいた振る舞いを誓った身なのだ、いまさら惜しむものもない。

「ただ、自分が思ってたよりメネルに頼りすぎてて、それでメネルを瀕死の状態にしちゃったことに責任を感じて……」
「頼りすぎ? ……って、あ。あー……」

 ビィも何やら思い当たるところがあるのか、今までの僕の言動を思い返して呻き始めた。
 そういうことかー、と呟いている。

「なんか、いろいろ勘違いしてた……ごめん」
「いや、こっちこそ、ビィの一言でいきなり変な責任感じて変な突っ走り方して、ホントに申し訳ないというか……」

 なんとも恥ずかしい。実際に、厄介な錯誤を抱えていたとはいえ、あの時の僕は何かおかしかった。
 ……原因の一端が、《喰らい尽くすもの(オーバーイーター)》にある可能性もある。
 あれは危険な魔剣だし生き物を斬る必要があるから、あまり試したくはないけれど、何かの機会に検証の必要があるかもしれない。

 強力な魔剣で切り抜けたことは伝わっているようなので、剣の来歴は伏せて、一応そういう危うい魔剣を持っている旨は皆に伝える。
 ビィはこんにゃろ、と《喰らい尽くすもの(オーバーイーター)》を指でつっついた。

「ウィルをたぶらかして。あんたも歌にしてやるから覚悟しなさいよね」

 ビィにかかると何でも歌になるのだなぁ、と思った。
 今度は僕は、邪悪な魔剣に誘惑される聖騎士か……光と闇が両方そなわり最強に見えそうだ。

「……ねぇ、ウィル。
 あたし、ウィルが英雄が嫌になったら逃げるのも捨てるのも止めないし、手伝いだってするわ。
 メネルも同じよ。あんな大怪我までして……嫌ならやめちゃっていいんだから」

 ビィは真剣な表情で、そう言った。

「あたしは常に友だち優先。ウィルとメネルは友だちだから、あたし、できるだけ二人が願う方向がいいわ。
 一緒に戦うことはできないけど……何かあったらちゃんと相談して。無言で突っ走らないで」

 ……友だち。
 その言葉が、なんだか無性に胸に染みた。
 トニオさんが無言のまま、僕に向けて、ひらひらと手を振りながら笑いかけてくれた。

「……大丈夫だよ、ビィ。僕は望んでやってる……そして、今後は相談しますほんとゴメンナサイ」
「俺もだ。嫌どころか、あのクソ魔獣に一発ぶちこんでやらねぇと気が済まねぇ」

 そっか、とビィは赤く腫れた目で頷いた。

「なら、成果はたっぷり歌にしてあげないとね!
 今度はメネルも活躍させたげる!」

 ぐっと拳を握りこんでの宣言。

「やめろォっ!?」

 と、今まで他人ごとだったメネルが眼の色を変えて叫びだす。

「ええー? いいじゃない!」
「俺はコイツみたいに見せ物にされてニコニコ笑ってる趣味はねぇんだよ!」
「けちー! どうせアンタ、大好きなウィルに付き合って英雄街道歩む気なんでしょ! そこは呑みなさいよね、つむじ曲がり!」
「うるせぇ! あと誰が大好きだ!」

 二人がばたばた追いかけ合うのを見て、皆どっと笑った。
 僕も笑った。
 ……仄暗い使命感は、気づけばすっかり消え去っていた。



 ◆




 それから色々と済ませて、僕たちは作戦会議に移行した。
 お借りした村長さん宅の一室で、前回の戦場の略図を描く。

「つまりあの谷周辺がキマイラの住居であり、狩場と考えるべきだろう」
「あれほど良い地形はそう無いしな」
「追い込み放題の空中から襲い放題、キマイラ優位もいいとこだ」
「……なぁ、ウィルのバカが単騎で突っ込もうとしたが、そしたらどうなる」

 レイストフさんは少し考えて言った。

「飛竜殺し……かつ極めて強力な魔剣持ちのウィリアムが、負けるということはあるまい。
 だが、あれは魔獣を統率していたフシがある。統制を失った魔獣がバラバラに散った場合……」
「あ…………」

 完全に見落としていた。
 ぞっとした。
 万が一、あのまま突っ走って一人でキマイラを血祭りにあげていたら――
 帰ってきた時、待っている風景は、つまり、そういうことになっていたのだ。

「メネルドールに感謝しておけ」

 レイストフさんはむっつりとそう言った。
 ……はい。まったくです。

「それで、どう殺す」
「巣を探り、寝込みを襲えばどうだ」
「大物殺しの定番だな」

 冒険者の人たちが語り合うが、

「あ、それはダメよ」

 とビィが言う。

「あの手の多頭魔獣はそれぞれの頭が順繰りに眠るのよ?
 だから合計の睡眠時間は長くなるけど、『全ての頭が眠ってる時間』って存在しないから」

 それを聞いて、皆がうへぇ、という顔をした。

「定番の奇襲攻撃不可とか最悪だな」
「くたばれクソ魔獣」
「だが知らずに踏み込まんで済んだ、ありがとうよ」
「ふふー、ちょっとくらいは役に立たないとね」

 思考を回す。
 さて、どう仕留めようか。

 キマイラが予想外の巨体で、予想外に知性が高く、そして大量の手駒を抱えていることが分かった。
 ここまで相手の札が割れれば――


 正直、僕自身は、もう負けようがない(・・・・・・・・・)


 一人でだって、暴走していたって勝つには勝てるのだ。
 あとは、どういう形で勝ちたいかだ。

「…………ウィルさん」

 声をかけられた。

「トニオさん」
「必要な物資が御座いましたら、ご用命ください」

 助けになりますよ、と彼が微笑んだ。
 ありがとうございます、と僕も微笑んだ。
 材料が揃う。思考が回り出す。
 無数の策が検討されては消えてゆき――

「皆さん」

 僕は頭のなかで策をまとめると、



「わざわざ苦戦する気もないですし……まとめて蹂躙しましょうか」



 にっこりと微笑みながら、そう言った。

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