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最果てのパラディン 作者:柳野かなた

〈第一章:死者の街の少年〉

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「しかし、くっそ。やっぱ筋肉ねぇと不利だなぁ……」

 決着がつくと剣を収めて、ブラッドがぼやいた。
 相変わらずツッコミどころが多い発言だが、意図は分かる。
 僕もそれについて、何かを言おうとしたところで、

「……ブラッド?」

 底冷えするマリーの声が響いた。

「げっ。マリー……」
「げっ、とは何ですか、げっ、とは」

 腰に手を当てたマリーが、いかにも怒っていますよ、といった風にブラッドを睨む。
 なおミイラであるマリーに眼球はないので、これがまた怖い。

「……あの技、もう使わないって言いましたよね?」

 あの技? もう使わない?

「な、なんのことだっけな?」
「とぼけない! あの、肋骨使って相手の武器を巻き込む技ですっ!!」
「いや、でも、今はもう内臓とかねぇし……」
「はぁっ!? ブラッド、あれ生前にやったの!?」
「やったんですよこの人!!」

 憤懣やる方ない、といった調子でマリーは続ける。

「信じられないでしょう!」

 頷く。
 信じられない。

 アンデッドならではの技だと思ってたけど……そういえばアンデッドは成長しないのだ。
 基本的に、繰り出す技なんかは生前に準拠する。
 つまり、生前にあの頭おかしい動きをしたことがなければ、あんな真似はできないのだ。

「あの時は、《貫通ペネトレートゥス》の《ことば》が刻まれた刺突剣を持ったデーモンが相手でした」
「俊敏なヤツでな、得物の相性も悪くて、俺抜けてマリーに突っ込みそうだったんでつい……」
「ついじゃありません!!」

 つい、胴体エサにして肋骨で巻き取って捻じ倒して首刈った?
 …………正気の沙汰じゃない。まさに《戦鬼》の所業だ。

「よ、よく生きてたね?」
「祝祷術なしだったら死んでたに決まってます!」
「だからオメーの祈りアテにしてやったに決まってんだろ!」

 うわー…………
 そういう戦術が、成立、するんだ。
 そしてマリー庇ってのことだったんだ……

「私は! 貴方が即死したんじゃないかと! 本気で心配したんですからね! 二度とやらないで下さいと言ったでしょう!」

 珍しく、マリーがガミガミと怒っている。
 うん、ブラッドの気持ちも分かるけれど、マリーの気持ちも分かる。
 ……そりゃマリーも怒るよ、ブラッド。

 ひとしきり怒られるブラッドを、僕は苦笑して眺めていた。
 流石に僕でも、なんとなく分かった。

 ――犬も喰わないなんとやら、ってやつだ。



 ◆



「あー、ともあれ、だ」

 ごほん、とブラッドが咳払いの真似をした。

「ウィル、俺には勝てなかったが、これだけできりゃあ上々だ。……俺には勝てなかったが! 俺には勝てなかったが!!」
「二度も強調すんなよ! やらしいなぁもう!!!」

 くっそぉ。まさかあんな変態機動、予測できるわけがないだろ!!
 ちゃんと事前に大威力の大剣の捌き方も、ウェイトの軽さを突く方針も決めて、攻略法組んできたのに全部ハマった上でひっくり返された!

「はっはっは、今どんな気持ちだ?」
「うがぁぁああっ!! 次は絶対、真正面から完封してやる!」

 そんで、「ねぇねぇ今どんな気持ち?」とか言ってやるんだ!!

「はっはっは、その意気、その意気だよウィルくぅん?」
「調子に乗らない!」
「いてっ」

 はたかれてやんの。いい気味!

「もうっ、真面目にやりなさいっ! 話が進まないでしょう!」
「へーい……」

 マリーのお説教に、ブラッドがしぶしぶ頷く。

「しかし、あれだな……なんかそれっぽい必殺剣とか奥義技でもあれば、いま伝授してやれたんだけどな」
「ないの?」
「ないな」

 ブラッドはあっさりと断言し、肩をすくめる。

「俺は、お前を単なる『俺の模造品』に仕立てたつもりはねぇ。
 だから、俺の戦い方とお前の戦い方は違う。俺にとっての頼れる技が、お前にとっての枷になるかもしれねぇだろ?
 それに、前にも言ったとおり、技なんて限定状況下で使うもんだ。一つの技を頼みにしてもしょうがねぇ」

 滔々と語られる言葉は、落ち着いたもので。
 歴戦の戦士の風格のようなものを感じる。

「それより基本だ。今まで覚えてきたことを、ちゃんといつでも使えるようにしとけ」

 とん、とブラッドが拳で僕の胸板を突く。
 マリーがそんな僕たちを見て、微笑む。



「俺もマリーも。……大事なことは、もうみんな、教えてあるさ」



 熱のない骸骨の拳。
 でも、そこから胸の中にじんわりと広がる、暖かいものを確かに感じた。
 だから少しだけ勇気を出して、


「はい。……お父さん、お母さん!」


 胸を張って、笑ってそう答えた。


「はは、お父さんだぁ? そういや、そういうことになるのかねぇ」

 ブラッドがからからと笑った。

「なりそうですねぇ。ふふ……」

 と、マリーがおっとりと笑う。

 僕はなんだか気恥ずかしくなって、照れたように頭を掻いた。
 それからひとしきり、僕とブラッドとマリーは笑いあった。

 居心地がよかった。
 心の底から、名残惜しいな、と思った。
 春になれば、離れなければならないのが、無性に名残惜しくて仕方がなかった。



 ◆



「……そうだな。まぁ、奥義は教えられねぇが、親離れの証ってことでな」
「?」
「コイツをやるよ」

 ひとしきり笑った後、ブラッドが剣帯を解いて差し出したのは、決着に使ったあの魔剣だ。
 あの禍々しく妖艶な、艶消しの黒い片手剣。

「俺の所蔵する魔剣のなかでも、最強の一振りだ」

 ……最強? ブラッドの手持ちで? えっ、流石にそれは、

「勝ってもないのにそんな、」
「親離れの証だっつったろ? ほら、抜いてみろ」

 と、ブラッドは僕の手に、強引に剣帯ごと片手剣を握らせた。
 僕は躊躇いがちに剣帯を巻くと、おそるおそる片手剣を抜いてみる。 

「…………」

 艶消しの黒い、両刃の片手剣(ブロードソード)
 やや膨らんだ切っ先の辺りに重心が寄っていて、切断力が高そうだ。
 装飾はどこか禍々しい印象を受け、刀身を走る真紅の文様は妖しく艶美。

「銘は《喰らい尽くすもの(オーバーイーター)》。
 魔剣の格としては最上級。神々の《木霊エコー》が相手だろうが、刃さえ届きゃ斬れる格だ。
 刻まれてる《ことば》は極めて難解だが、効果で言えば一語」

 ブラッドは淡々と語る。



「この剣で生命力を有する存在を斬ると、斬ったぶんだけ使い手の生命力が回復する」



 ……え?

「え、待って。聞き間違い?」
「この剣で生命力を有する存在を斬ると、斬ったぶんだけ使い手の生命力が回復する。……聞き間違いじゃねぇよ。」

 乱戦で何も考えず振り回してるだけで最終勝者になれる剣だ、とブラッドは言った。
 その意味を想像して、僕は青くなる。

「お前は賢いし、もう察しはついてる様子だが……念のため言っておく。できるだけ抜くな。頼るな。人にも見せるな」

 ブラッドは淡々と語る。

「コイツは持ち手を『強くなった気』にゃぁさせてくれるが、持ち手の精神を高める部類の名剣じゃねぇ。
 頼ればそのうち、お前の剣は傲慢でいい加減なものになって、見る影もないほどに弱くなる。
 そのまま舞い上がって、格上に遭遇するか、毒を盛られるか、遠巻きに射手に包囲されて、あとは真っ逆さまに奈落の底だ」

 そういう意味で、真性の剣なのだとブラッドは言った。

「ま、不死者になってる俺にゃぁ生命力ってもんはねぇから、こいつを持っても吸いも吸われもしねぇ。すっかり無用の長物だ。
 だからこの際、お前にやるよ。色々言ったが、お前なら大丈夫だろうし、使いどころも分かるだろ」

 マリーも、同意するように頷いた。
 二人は僕が、こんな恐ろしいものを扱いきれると信じているのだ。

 前世の記憶がよぎり、少し、胸が疼いた。
 二人が信じてくれるほど……僕は、大した人間なのだろうか?

「さぁて。魔剣を渡すとなりゃその来歴も語るのが、いにしえよりの戦士のならわしだ! この剣について語るとしようや!」

 そんな一瞬の憂慮を打ち消すように、明るい声が響く。



「もちろんこの剣にまつわる……お前が知りたがってた、俺たちと、お前の来歴も一緒にな」



 それは。
 それは、僕が、ずっと気にしていたことだ。

「……! ブラッド……」

 ブラッドはマリーに視線を向ける。
 マリーは、微笑んで、頷いた。

「ウィルは、もう一人前ですからね」
「……でっかくなったら教えてやる約束だ。お前はもう十分、心も身体もでかくなった」

 ちょいと長いが、語ってやる、とブラッドは言った。


「それはこの大陸を征服せんとした悪魔たちの王のなかの王、《永劫なるものどもの上王》の話であり。
 多くの英雄と、そして俺たちの敗北と死の話」


 ざぁ、と。
 丘の麓の墓地を抜けるように、寒々しい風が駆け上がり、抜けていった。



「――そして、お前がここで育った理由の話でもある」

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