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◆Mission02 ◆アフリカの太陽
015  /それは『敵』



「あまりムチャはしないで……」
 言おうとは思ったが、心で呟やくことで済ませた。
 黒光りの機体の中にキャッツアイのような光の筋が見える目前の敵は、データが少ないだけでなく、倒せそうに無いのが分かる。
 それは圧倒的な銃火器と性能の差、パイロットが未熟だと感知した事実を差し引いてもだ。
(何だか、とても凄みを感じる)
 敵方パイロットからの交信も無く、無言の気迫ではない。
 禍々しさ。そんな力だ。
 オウスが先を走り、黒い物体が後を追う。フレニーは更に背後からジリジリと距離を縮めている。当然パイロットは後ろも「見ている」はずだ。
 岩陰に隠れるように入りこんでは、ふいにジャンプする。
 敵はそれに惑わされながらも、上空に待機してフレニー機を確認していた。
「もう少し、数があれば良さそうだな!」
 オウスが試験走行の途中で言う。
 双方の別モニターには、仲間の機影が徐々に映りこんでいた。
「相手はそんなに器用ではないから、数での撹乱なら今のうちね」
 そう言って、()けている背後から熱線(レーザー)を打ち込んだが、相手はふわっと軽く身を揺らしてかわした。奇妙にも、それは優雅な動きに見えた。
「何て身軽なっ」
 ある意味、感嘆の声を上げる。
 それにしても、長距離からの攻撃といい、出会いがしらのロケット弾打ち込みといい、随分なデビューではあったが、なぜか今はオウスの後ろに着いていくだけなのが不可解ではある。
 面白そうな機体だ。
 それに、パイロットも。
 オウスは久しぶりの感触を楽しんでいるはずだと、緊迫する空気の中でフレニーは安堵しながら、タイミングを図った。
(あなたは遊びかもしれないけれど……)
 そう念じながら、粒子ビームの出力を上げて照準を絞る。
 一撃で叩けるとは思わないが、それでも跳ねるくらいの時間は稼ぎたい。データも手土産にはなる。
 オウスとフレニーの間に敵を挟んだまま、随分な距離を走るという奇妙な編成だったが、フレニーが追けていた角度を変えるべく、ついと横へスライドさせた。
 機体が斜め後ろの位置につくと、トリガースイッチの指に力をこめる。
「いけっ!」
 願望に近いそれを、口から吐き出した。
 敵に少しはダメージを与えるべき光の筋は、黒光りする機体をスレスレに避けて、遠く空気中のチリに弾けた。
 モニターのデータには、オウスの行く先に急激な地形の落差がある事を示している。
 進路について通信を入れようとした瞬間、オウスの声が飛び込んでくる。
『この崖を飛びたいんだが?』
 またフレニーに怒られるかと思ってのお断りだったのだろう。
「近接する本隊の補給をアテにしているのなら、多少の賭けね」
『だが、本隊合流には、この崖を降りるのが早いんだ』
「応援要請する」
『ロンワイなんか呼ぶなよっ』
 ライバル意識をむき出しに叫ぶと、オウスは一方的に通信を切った。
 現在地より直線三キロに崖があり、さらにその崖から十時の方向に戻るべき本隊が四十キロ先にいる。
「予定より早い。……良いことではあるけれど」
 愚直なほど真っ直ぐにオウスの後ろを走る機体を眺めながら、フレニーはアタマの予定表を確認した。
 相変わらず敵は何もしない。
 最初の力任せな打ち込みはどうしたのかと思うくらい、大人しい。
 何を考えているのだろう。
 ふと、その顔が見たくなった。
 敵だとか、憎いだとかを口にしても、相手にも人の顔が有り、そして表情がある。
 どんな顔をして、どんなことを考え、何を云うのか。
 それを知りたくなるのは、そこに居て、それと対峙している人間の特権だ。
(まだ……不器用な生き方なのかもしれない)
 フレニーは人として、そう思った。
 それから、単独すぎる行動も気になる。
 どんな指揮系統で動いているのだろう。
 そうこうしているうちに、崖っぷちはすぐそこに迫っていた。
「……行くぞっ!」
 直接は聴こえないが、間違いなくオウスは気合を入れて叫んでいる。
 上体(ボディ)が前にスライドして、可変翼が横へと広がった。
 エンジン・ノズルが火を吹く。
 三機は、次々と二次元移動から、三次元の空間へと舞った。
 本隊とは数十キロの距離を保ちつつ平行移動するため、僅かに右へ回頭する。
 オウスのモニターには、本隊から二機の攻撃機が出たのが映った。
(……持ちそうで……いや、持たせるべきなんだが……)
 飛行形態はエネルギーのロスが大きい。
 なるべく地上スレスレに高度を落とし、地上効果に頼りつつ着陸態勢を取ろうとする。
 真後ろに敵機が追いていながら、随分大胆なことだとは思うが、それでもこんな芸当ができるのは、フレニーが居る事に他ならない。
 耳元に呼び出しが来た。
『ロンワイだ』
「お前かっ」噛み付かんばかりに応じる。
『少し距離をとれ。貴様にも当たる』
 実弾にするか、エネルギー弾にするかは言わない。
 どちらにしろ、少し威力の大きなものには違いない。
「そう言われてもホバリング能力は、向こうが上でな……フレニー! 少し威嚇射撃とかどうだ!」
『準備はしている! 高度が高くて下が丸見え』
 オウスが出力を上げ、フレニーが斜め後ろから銃撃を浴びせ始めた。

 ガカカカカカカッ!

 機体には当たったようだが、大きなダメージには程遠い。
 しかし、隙はできる、
 ふと、その黒い物体が、自分の身体の何処が怪我をしたのか確認するような素振りがした。
 これから二機増えるのは、いくらなんでもわかっているとは思うが、まるで大きな動物の赤ん坊ではないか。
 ロンワイと出た、もう一機の機体から大口径の光の筋が発射されたのが確認された。
「オウス!」
 実に簡単でよくある手段だが、その掛け声と共に二人は急激にスピードを落とし、あっという間に敵機の遥か後方へ下がる。
 急に追尾していたものが居なくなると、一瞬戸惑うのは一般の道路走行でも同じだ。
 建て直しの判断が遅れれば、それは次の瞬間に砂漠の砂礫と同等になる。
 キラリと地表近くに星のような光が瞬いた。
 つんのめったような黒い機体は、下に向けたノズルから激しく噴出させて、より高みへと昇ろうとした。
 地上を縫うように目指してきたとはいえ、高度は二十メートル近くは取っている、そのすぐ下をエネルギーの束が掠める。
 機体の上昇とエネルギーの通過で、その辺一帯が砂煙で見えなくなった。
 当たらずに反れた粒子ビームは砂煙の中から飛び出して、さらにその先にある岩壁に激突する。

 ドゴゴォォオオオオン……

 青い空の下、ずっしりと低めの大音響と共に岩壁は酷く抉られ、砕けた石を雨あられと降り注がせた。
「ちょっとデカすぎやしねぇか!」
 眉をしかめてオウスが怒鳴る。
「音がだよ!」
 砂埃から姿を現した景観は、見るも無残な姿を晒している。
 この音と震動はウォクトワイス軍にも検知されているだろう。
 早めにこの場を撤退しないと、多少、規模の大きい偵察部隊が来る恐れがある。
『どうせ衛星で見られてるんだろうよ。気にするな』
 フォローにならない言い草で、ロンワイは余裕をかました。
 一方、砂埃の中からは黒い機体も辛うじて被害を免れたように飛び出してくる。
(……いけない)
 フレニーは微妙な変化を察知した。
 真に迫る身の危険を生の肌で感じたと言うのだろう。
「刺激が強すぎたのかも」
『怒ってるんだ?』
「怒ってるというより、なんだか、とても攻撃的な……」
 怒る、と言う感情論で表現は出来なかった。
 明らかに敵と認識し、そして“攻撃モード”に入ったのだ。
 では、今まで我々を何だと思っていたのか?
 フレニーは唇を噛み締めたが、それは悔しさからではない。相手の反応が読めないことに苛立ったのだ。
「外見から推察されるスペックと、パイロットの資質だと……相手がベテランなら敵わないが……」
 言葉に詰まったフレニーの言を次いで、ロンワイが通信に割り込んできた。
『―――合流だ。どちらにせよ、俺たちはこの場を撤収しなくてはならん。ここを戦場にしに来たのではないのだからな』
 モニター内では、せわしなく黒い機体の分析に勤しんでいた。
 黒い機体の所々で、何かがチカチカと光る。


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