「今日の午後二時ごろファッションビル『シャイニーズ渋谷店』でまたしても通り魔事件が発生しました。午後のショッピングを楽しんでいた若い女性たちでにぎわっていた店内は大混乱。犯人は女性4人男性2人を切りつけ、うち2人は重傷を負って近くの病院に運ばれました」
悠輔たちが去ってまもなくしてあのファッションビルは黄色の規制線がぐるぐると張られていた。
いつも人でごった返している場所であるが、今日だけはさすがに様子が違う
たくさんのテレビカメラ、記者やレポーターなどのマスコミ関係者に制服を着た警察官、そして何十にも重なった若い野次馬たちがその店をぐるりと取り囲んでいた。
「しかし、この店にある救世主がいたと言うのです。目撃者によると犯人はある青年によって取り押さえられたという話です。彼はその後騒ぎのそばから姿を消してしまい行方がわかりませんが、彼がいなければこの事件はもっと大惨事になっていたことでしょう──」
能天気にカメラに向かってピースサインをする馬鹿な野次馬たちを抑えながら年配の女性リポーターは淡々と原稿を読んでいる。
その横を一人の男が規制線に向かってのそのそと近づいていった。
ぼさぼさの黒髪にいかにも眠たそうな瞳、服装は制服の警官であるがどことなく着崩していてどこかだらしない印象を与えた。
そんな彼を見て、近くにいたかっちりと制服を着た警察官は声を掛けざるを得なかった。
「ちょっと、君。どこの署の者だ?」
「俺? 渋谷署だけど?」
彼はぼりぼりと頭をかきながら一言言った。
「じゃあ所轄のところのか……それよりも、君。何だねそのだらしない服装は!」
「これが普通ですけど?」
「そうじゃなくて……一応ここは事件現場で一般市民やマスコミがたくさん見ているんだ。そういうところくらいいつもより気合入れて──」
「どうでもいいけど、早く入れてくれませんか? 俺、仕事あるんで」
「仕事──」
その言葉に警察官は彼を訝しげに見つめた。
いくら自分が警察官だと名乗っても彼の年や背格好を考えて中で捜査する立場の人間じゃない。
そんな彼を入れるべきなのか、否か──
「聞いてるのか?」
彼は特段にゆっくりと警察官に語りかけた。
いつの間にか眠たそうだった彼の瞳は奥で不思議な青白い光を放ち始めていた。
「俺はこの中に入らなければならないんだ。後で後悔したくなければそこをどいてもらいたい」
彼のその言葉を聞いて警察官は不思議な感覚に襲われた。
自分より年若く階級も明らかに低そうな男であるのに、彼の身体からは強い威圧感が見る見ると吹きだしている。
それに彼の眠そうであり鋭そうでもある不思議な瞳を見つめると、自然と彼の言ったことこそ正しいと思えてくるのだ。
頭の中がその不思議な感覚でぼんやりともやに覆われていった次の瞬間、警察官の身体は無意識のうちに動き出し彼に道を譲っていたのだ。
「どうぞ……」
その言葉もまったくの無意識のうちのもの。
次の瞬間、警察官はふと我に返りその言葉を訂正しようとしたがもう時は遅し。彼は悠々と現場のファッションビル内へと入っていった。
一体、何なんだ……あいつ。
頭を覆っていたもやを振り払うかのように頭を振るう彼の横でテレビ局のレポーターは原稿の結を読み始めていた。
「──なお、容疑者の男は心肺停止の状態で病院に運ばれ治療中です」
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