BATTLE! BATTLE! BATTLE!
38話 BATTLE 2 悠輔VSともえ
「きゃぁ! 悠輔!」
彼の姿を見て真っ先に反応したのはともえであった。
「いやーん。やっぱり悠輔は似合わない眼鏡よりその格好が似合うぅ~! もう、超カッコイイ!」
ともえのその一言に悠輔は無言のまま冷たい視線で返した。
その視線には若干の怒気も混ざっていた。
「お前……ボクを助けたのか?」
邦彦は大きな身体をよろめかせながら悠輔の方を向いた。
だが彼はその一言を笑い捨て言った。
「助ける? 馬鹿を言うな。僕は早紀を救いたいだけだ」
「やだー。悠輔まだあの女に未練があるのぉ~」
その一言にともえは不機嫌そうに口をとがらせた。
そんな彼女をまるで軽蔑するような視線で悠輔は見下した
「君は最低の忍者だ」
「え……」
その一言にともえの表情が凍り付く。
だが悠輔は口撃を止めることはしなかった。
「君が僕に何の恨みがあるかは知らない。だけど、一般人の早紀を僕たちの争いに巻き込むなんて僕は君を──否、戸隠流を軽蔑する」
その言葉を聞いて邦彦は言ってはいけないことを言ってしまったなと思った。
その証拠にそれを聞いたとたんともえはわなわなと身体を不気味に震わせていた。
「ひどい……悠輔」
ともえは泣きべそをかいていた。
「だいたいさぁ……あんたが一般人と付き合い出すのが元凶じゃないの! 伊賀藤林流の家元ならそれなりの相手と付き合いなさいよ!」
「誰だよ。そのそれなりの相手って──」
悠輔はその一言に半ばあきれ顔で深いため息をついた
それを見てともえはさらに怒りを瞳に溜めた。
「バカ! いい加減に思い出しなさいよ! 元許嫁の顔くらい──!」
「は──? 元許嫁?」
その一言に自信ありげな悠輔の表情が初めて曇った。
それは全くの寝耳に水だった。
何かの間違いだろう──いつから伊賀藤林流は戸隠流とそう言う関係になったんだ? 長年対立しあってた流派じゃなかったのではないのか──?
「やだぁ……本当に忘れてる」
悠輔のその困惑した表情にともえは不機嫌そうに口を曲げた。
「ねえ、覚えてないの? あんたが15の時だと思うんだけど。こーんな可愛いくノ一のお見合い写真見せられなかった?」
「……?」
その一言に悠輔は首をひねった。
悠輔はどうしても思い出せなかった。過去にあった婚約の話も少女だったともえの面影も──
「ごめん、本当に記憶にないかも……」
「えええ! そんなぁー!」
その一言にともえは衝撃を覚えた。
「何かの間違いじゃない! あたしは5年間ずーっと悠輔のことを思って生きてきたのよ! それなのに何? あんたはそれを知らないで一般人の早紀と付き合ってたの!?」
「そんなこと言われたって。そんな婚約、記憶にないもんはないんだ」
「あああ! もういい! 期待したあたしがバカだった!」
そう言うとともえは鎖鎌の切っ先を悠輔めがけて構えた。
「藤林悠輔!もう一度言うわよ──あたしとあの女どっちが伊賀藤林流の家元にふさわしいと思う!?」
「そんなこと急に言われても……」
悠輔はその言葉に困惑しきりの顔を浮かべたが、すぐに彼は冷静を取り戻した。
鋭い真紅の瞳でともえを射貫くと重たい言葉で一言言い放った。
「だけどこれだけは言える。僕はくノ一を恋愛対象に絶対にしたくない。君を見て強くそう思ったね」
──ああ、また言ってしまったな。
遠巻きにその様子を見ていた邦彦は悠輔の言葉に対しそう思った。
その瞬間、邦彦が危惧したようにともえの中で何かがキレたようだった。
「ひどい──」
彼女はそう言うと半泣きになりながら悠輔を睨んだ
その瞳は深く暗い闇を湛え、唇をぎゅっとかみ、右手で再び大きな鎖鎌を振り回し始めた。
「こんなにあんたを想っているのにそんな言い方ひどすぎる! いくら悠輔でも──その言葉は許せない!」
そう言ったその瞬間彼女は悠輔めがけて鎖鎌を放った
ひゅんと風を切り音速のごとく回転し悠輔を襲う刃──
だが悠輔の真紅の瞳はその軌道を完璧に予測していた。
彼は軽く身体を反らしその刃を回避する。そして後に続く鎖を片手一本でつかむと彼は鋭い瞳で彼女を見た。
「これが君の答えかい?」
「ええ、そうよ」
そう言うとともえは病的なほどの笑顔を浮かべた。
「あたしはあんたを殺してでも一緒になる。それがあたしの──答えよ!」
ともえはそう言うと悠輔に握られた鎖を強く引いた。
その瞬間、まるで生命が宿ったかのように再び悠輔に襲いかかる鎌。
悠輔は瞬時に鎖から手を離すと軽く跳躍してその一撃を難なく回避した。
「わかったよ」
とんっと軽やかに地上に舞い降りた悠輔は腰ベルトに付けた一対の釵を勢いよく抜いた。
それをまるで遊ばせるように手の中で回転させながら悠輔は真紅の瞳でともえを見た。
「それが君の答えなら僕も答えよう。この刃でね──」
そう言った瞬間、悠輔は地面を蹴りともえめがけて獣のように躍りかかった。
それに対しともえは鎖鎌を自らの頭上で激しく振り回しそして一撃一撃を放ち続けた。
ともえの鎖鎌は一直線に走り抜ける悠輔に次々のように襲いかかった。
それはまるで彼女を守るように暴れ回る龍のよう。一撃がくる度に激しく地面をえぐっていく。
しかし悠輔はその龍の一撃の一つ一つを見落とすことはなかった
彼は一撃がくる度に瞬間的に速度を上げそれを難なくかわしてみせる。その様子は瞬間移動でもしているかのようだった。
それを見てともえは瞬時に戦術を変えた。印を結び素早く呪文を唱えると彼女の周りに生命が宿った小さな紙が無数に現れた
それは紙の刃のように悠輔めがけて一気に襲いかかった。
だか、悠輔はそれを見ても焦るそぶりを見せなかった。
悠輔はカッと真紅の瞳を見開いた次の瞬間、彼の周りは激しい灼熱に包まれた。
ともえの紙の刃はあっけなく彼の前で音もなく燃え尽きていった。
「火遁結界──!」
それを見てともえは激しく動転した。
伊賀は火遁を得意としているとは聞いていたが、これほどまで瞬間的に最高位の術である火の結界を作り上げるなんて──なんて言う使い手なのだろう。
「どうしたの? もう妖術は終わり?」
揺らめく灼熱の陽炎の中、悠輔は真紅の瞳を光らせにやっと笑って見せた。
そして次の瞬間、彼は小さく手をかざすとそこから大きな炎が立ち上った。
「それならおとなしく──死ね!」
そう言ったその瞬間、悠輔の周りをうごめいていた炎がまるで彼の命令を聞くかのように大きく燃え上がりともえめがけて襲いかかった。
まるで巨大な二体の蛇のごとく蛇体をくねらせともえに食らいつく炎。
しかしともえはその炎を高く跳躍し飛び越えると、下界で炎を操る悠輔めがけて手をかざした。
「こうなったら……結界ごと吹き飛ばしてやる──!」
ともえはそう言うと息を深く吸い込み再びあの技の構えをとった。
ともえは自信があった。これが決まれば悠輔の炎の結界も解けるし、彼に深刻なダメージも与えられる。
形勢逆転を狙った一か八かの大技──それが戸隠流奥義『音撃』だった。
彼女が口を開いたその瞬間周りに音の衝撃波の輪が放たれた。
その声は激しく大気を震わせともえの辺り一帯を文字通り吹き飛ばした。
──やった!
その瞬間ともえは勝利を確信した。
土煙の中もはやそこには悠輔の炎の気配もなにもない。
ともえは下に向けてにやっと病的な笑みを浮かべたその時だった。
それは飛び上がったともえの背後に立ち上った殺気だった。
「──!」
ともえははっとしてそちらの方を振り返る。しかし、もうそれは遅かった。
すぐ背後には先ほどの『音撃』を直撃したはずの悠輔の真紅に光る瞳──そして彼の手には鋭い釵が握られていた。
次の瞬間、悠輔は隙のできたともえの首筋に釵を激しく打ち付けた。
ともえは何もできなかった。そのまま地面に叩きつけられることしかできなかった。
立ち上る土煙。
決定的な一撃を食らったともえは痛む身体を必死に起こそうとした。
だが、ともえにもはや反撃する力など残っていなかった。
「くっ……結構効くな。戸隠の『音撃』は」
地面に優しく降り立った悠輔は、その瞬間耳を押さえ身体をふらつかせた。
どうやら先ほどのともえの一撃は全くの無効だったワケじゃなかったらしい──
「──なんで?」
ともえは痛む身体を起こしながら悠輔を見た。
「何で私のあの術をかわせたの? 意味わかんない」
「ああ……これだよ」
悠輔はそういうと耳から何かを取り出てそれをともえの方に投げた
耳栓──それを見てともえは絶句した。
「しかし、これをしてこのダメージっていうのはちょっと恐ろしいな。なかったらと思うとぞっとするよ」
「……」
その一言を聞いてともえは黙ったまま悔しそうに土もろとも拳を握りしめた。
悔しいがこれ以上の反撃は無理──自分は悠輔に完璧に負けたのだから
「さてと……どうしようかな」
そう言うと悠輔は釵を手の中で踊らせながら蹲るともえの方へと近づいた。
「殺せばいいじゃない……」
そんな悠輔を見てともえは悔しそうにそうつぶやいた。
「あたし、悠輔に殺されるならそれはそれで本望だよ。さあ、早くやっちゃったらいいじゃない!」
「うーん、彼女そう言ってるけど……応変流の頭領さんはどう思う?」
そう言うと悠輔は奥で片膝をつき耳をかばう邦彦を見た。
「ボクは……」
「大体、どういう事情があるか知らないけど彼女は君の獲物だったんでしょ?」
その一言に邦彦は怒ったように悠輔を睨んだ
「情けで譲ってやるっていいたいのか!」
「あいにく僕はそこまで優しくない」
「じゃあ、何なんだその態度は──ボクに了解取る必要ないだろ!」
その一言に悠輔はにやっと邪悪な笑みを浮かべともえの手を踏んだ。
徐々に力の入る悠輔の足に、ともえは激痛に苦悶の表情を浮かべた。
「僕は君に借りを作ってやりたいんだ」
「借り?」
「そう、応変流と戸隠流になんの因縁があるかは知らないけど、僕が今彼女を殺さずに君に譲ればそれはそれで借りができる。そうすれば君たち応変流は僕たち伊賀に頭が上がらなくなる……」
その一言を聞いて邦彦の表情が一気に怒りに燃えた。
かっと見開いた鋭い瞳で悠輔を睨み付けると、まるで牙を見せるように歯を食いしばった
「お前──それが目的か!」
その言葉に悠輔は邪悪な高笑いをあげた。
そして真紅に染まった瞳で邦彦をにらみ返した。
「当たり前じゃないか。この状況を利用しないわけにはいかないだろう」
「くそっ!」
そう言ったその瞬間、邦彦は手を前にかざし悠輔めがけて闘気を放った。
まるでともえから離れろと言わんばかりに──
悠輔はそれを軽く跳躍でかわすと、言われたとおりにともえから離れて着地した
「それが君の答えか……」
そう言うと悠輔の瞳がまた真っ赤に光った。
邦彦はゆっくりと巨体を揺らし立ち上がり彼を睨み返した。
「藤林悠輔──お前を生かしてはおけない」
「ふうん……面白いこと言うじゃない」
「伊賀と戦うことはこの勢力争いに参戦すること──応変流としてそれを避けてこようとは思ったがもう我慢できない! お前を倒さなければこの戦いは永遠に終わらない!」
そう叫ぶと邦彦は岩のような拳を振り上げ地面を思いっきり殴りつけた。
その瞬間、彼の周りから地面を割るような激しい衝撃波がものすごい勢いで走っていく。
悠輔は瞬間的に側転してそれをすんでの所でかわした。
しかしその次の瞬間土の波のような衝撃波は地面をいとも簡単に引き裂いていった。
「土遁──か」
巻き上がった土煙の中悠輔は釵を構えながら一言そうつぶやいた。
なるほど──この舗装されてないむき出しの地面ならば彼のお得意の土遁が使いたい放題というわけか……
「面白い。ならばこちらは火遁で迎え撃とう!」
そう言うと悠輔は素早く印を結んだ次の瞬間、彼の周りに再び紅蓮の炎が纏わり付いた。
そして手を水平に振ると数個の火の玉が邦彦めがけて猛スピードで放たれた。
それを見て邦彦は瞳を閉じてもう一度手をかざし自らの周りに闘気を纏わり付け始めた。
そして溜めた闘気を解き放つため目をカッと開いた──その時だった。
ザンっ!
悠輔と邦彦の間に一本の真っ赤な棒が突き刺さる。
その光景に悠輔も邦彦も驚きを隠せなかった。
「誰だ──!」
悠輔はキッと虚空を睨んだ。
そこには黒と金のツートンカラーのソフトモヒカンにじゃらじゃらとピアスをした一人の男──腕に摩利支天の入れ墨を彫った風魔忍者の風間英太が棒の上に器用に一本立ちしていた。
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