「東京タワー!!」
『オタクとギャル男の東京伝説』という謎のキャッチフレーズのついた新鋭の漫才コンビ『トーキョーハンター』の決まりギャグがステージで炸裂する。
──と言っても東都大学のお客の反応はイマイチだ。
大笑いしている声はごく一握り、大半は笑いもせずに呆然とステージ上の彼らを見つめている。
「いやぁ、今日もつかみはOKですなあ。オタクのマサシ君」
「さすが天下の東都大学!笑いのツボがいつもと違う」
「ほう、そうかい。どこが違うのか行ってみちゃいなさい!」
「そりゃ、いつも見たいにガンダムネタじゃ笑いは取れないっしょ!だってここにいる人たち頭が3倍早く働くニュータイプなんでそ?」
「おいおい、いつものようにガンダムネタで攻めてるじゃないか。マサシ君」
「だっはー!! 今のところ笑うところよ」
──何だ、こいつら……
遠巻きに『トーキョーハンター』のネタを見ながら悠輔は思わず顔を引きつらせた。
全くもって笑う箇所が見当たらない。何が面白いのかさっぱりわからない。
おもしろいのは秋葉原のオタクと渋谷のちゃらい兄ちゃんが漫才してるという絵面だけ。
それ以外はまったくもって素人以下の芸だ。
「いいか、エータ。オタクって人種はこうやって勉強するんだ」
「ほうほう……」
「今手元には3人のマリオがいます。このままでは到底クッパには勝てそうにありません。そこで無限増殖を使うことにしました。さて何人マリオは増えるでしょう」
「んー……って、マリオって99人以上増えないじゃねえか」
「そうなの。だから俺99以上の算数は無理なんだ~」
「おいおいー。それじゃあここの会場の東大生の皆さんにオタクは馬鹿だっておもわれるぞぉー!」
「大丈夫、グラディウスだと149857298点言ったことあるから」
「それはそれで凄いけど、数学にはなってないじゃねえか」
「だっはー!! 今のところ笑うところよ」
悠輔は深いため息をつくとふと隣にいる早紀をちらっと見た。
信じられない──こんな笑えない芸人なのに早紀はおなかを抱えて笑っていた。
あの芸人のどこが早紀のツボだったのかはわからないが、彼女は何かに取りつかれたかのように笑い転げていた。
「あ……あのさ。早紀……」
悠輔は困惑しきった顔で彼女に話しかけた。
「あの芸人笑える?」
「何言ってるの? めっちゃ笑えるじゃん」
「……そうかなあ?」
そう言うと悠輔は首をひねった。
ステージ上のオタクとチャラ男はまだ何かネタをやっているが、やっぱりどこかが気に入らない。
「ダメだ。僕、あいつらの芸風受け付けない」
「え?そうなの? 私は今年のM1は彼らが躍進すると思うけどな」
「それマジで言ってるの?」
「うん、結構面白いじゃん。これからの芸人よ」
「そうかあ……」
そう言うと悠輔はしかめっ面をして彼らの芸を見たが、もはや大人しく座って見ていられるクオリティではなかった
悠輔はイライラをかみしめるような表情を浮かべ席を立ちあがった。
「ごめん、トイレ行ってくる」
「え?でもまだまだ芸人出てくるよ」
「すぐ帰ってくるよ。我慢できないんだ」
悠輔は不躾にそう言うと人込みを割って客席から消えて行った。
「悠輔ー! もうっ! いっつも勝手なんだから……」
まるで煙のように消えて行った彼氏を呆然と見送りつつ早紀は、またしても繰り出された『トーキョーハンター』のギャグにげらげらと笑い転げた。
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