第四話 旧市街を抜けて
地下の旧市街の道は真っ暗で、クレアの魔法による空間照明が無ければ、足元さえ見えないだろう。
ずっと昔の戦争の残骸、淀んでいる空間、存在している空気がひどく重い。
その昔、この島は二つの国に東西から進攻された時に、瓦礫となった旧市街。西と東の大陸の大国が、交易の中継地点として発展していたこの島に目をつけた。豊富な真水に、豊かな自然、そして両国の中間にある立地条件、軍事と経済の両面で重要な拠点たりえたのだろう。
数回にも及ぶ大規模進攻は、歴史に克明に記されている。
そして、その戦いの終結も。
ある時から、この国の子供はほぼ全てが双子となり、それを境に国民の全てが魔法技術を有し、圧倒的勝利を収めた――と。
(忌々しい秘術による、歪められた命か)
本来の魔術師の生誕確率は、他国を見れば解るが極めて低い、それを無理に……。
「なぁ」
ハンスが、だるそうな声で話し掛けてきた。
「他の連中は、会社の馬車で回収して帰ってんだろ? 何で俺らは歩きなんだ?」
「それはですねー、制御盤は王城に直結していますので、破壊はすぐに知られてしまうんですよねー。ですから、中枢に突入したメンバーが上に上がった時には、封鎖されていて脱出出来ないからなんですよー」
クレアがすまし顔で言った。
「強行突破すりゃあ良いじゃねえかよ」
ハンスが寝ぼけた事を言っている。
「ハンス兄さん、直前の打ち合わせ聞いていなかったんですか?」
エーリヒが、呆れながら言った。
「ああ、寝てた気がすんな」
「今回はまだ前哨戦ですので、僕達の事は知られる訳には行かないんですよ」
「そう。それに今回の装備品や言霊の魔力波長は、都市国家群『蘭』のを使ったのは解るよな? それも偽装の一環なんだ」
クラウスとエーリヒが答えている。
「なんで、西のコープランドじゃ駄目なんだ?」
「西のコープランドは、王政で私たちの所と似た政治形態ですからねー。戦争に突入されると面倒なんですよー」
「蘭の方は、都市の集合国家だ。町の一つ一つが、小さな国の様な形態を取っている。都市国家全体として動いた訳じゃないからな、そこから攻撃を行った一都市を探すだけで、最低一月は掛かるだろ」
クレアが答えるので、面倒ながら俺も補足した。
「はーん」
結局、軽返事しか出来ないハンス。
「ハンス兄さん、絶対に解っていませんね」
「馬鹿、んな事ぁねえよ」
仲が良いのか悪いのか、騒ぐ三人。
「やれやれだ」
「良いじゃないですかー、楽しそうで」
横を歩くクレアが、可笑しそうに微笑を浮かべながら言った。
「そういえば、このルートの確保は平気だったのか?」
「はい?」
首を傾けるクレア。
「クレアは、俺達みたいな法則支配型の魔術師と違い、空間同調型だろ、戦闘には不向きだ」
「ええ、ですから逃げ隠れは凄いんですよー」
胸を張って言うクレアが、少し可笑しい。
「つっても、たいした違いはねえんだろ?」
「盗み聞きするな、ハンス!」
睨むも、効果は無さそうだ。
「固い事言うなって」
ハンスは、俺の肩に腕を乗せて、体重を掛けて来る。
「煩い、懐くな」
「気にすんな、ってか空間型は俺らみてえに、一個の系列しか使えねえって訳じゃねえんだろ? 単品で、雷とか氷とかしか使えねえ俺らより万能なんじゃねえの?」
俺は、スルーして、視線をエーリヒとクラウスに送る。
「……僕達法則支配型は、世界の基本法則の一つを支配して、魔法にしていますが、空間同調型は、存在確率を変えているんです」
「ははは、ぜんっぜん解んねぇ」
不承不承といった感じで説明するクラウスに、ハンスは能天気な笑顔で、そう答える。
「……空間型は、魔力は空間に溶け込んでしまいますので、シールドが張れません、だから戦闘には不向きなんです!」
ちょっと力を入れて、不機嫌そうに答えるクラウス。
「そうなのか?」
「そうですよー、空間型は限定空間で比較的色々出来ますけど、法則型と違って、遠距離攻撃や、魔力そのものを使うシールドの展開は、出来ないんですよー」
クレアがそう答えて、足を止める。
「さて、つきましたよー。順番に、梯子から上がってくださいね」
「先に行かねぇのかよ」
梯子の横に待機するクレアを見て、そうハンスが言った。
「えっち」
わざとらしく、スカートの裾を抑えるクレア。
「……最低ですね」
「ハンス、お前っ!」
便乗する、クラウスとエーリヒ。
「違ぇよ! 誤解だっつの!」
ハンスは、真っ赤になりながら反論している。
「良いからさっさとしろ」
梯子に手を掛けて、俺はそう言った。
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