こんばんは
もしくはこんにちは。
僕は鈴木孝太郎。
一応大学生。
これからする話は、突拍子もない話で、現実味に欠けてるかもしれないけど、確かに事実なんです。
僕は大学生で、心霊研究のサークルに入っている。といっても幽霊を信じている訳じゃないんです。僕は心霊現象否定派。
…あくまで、少し前まで、だけど。
僕の所属する心霊現象部では、月に一回の頻度で、有名な心霊スポットに行くことになっているんです。
もちろん、僕も行ったんですが。
そして“遭遇”したんです。彼ら…〈闇狩り〉と。
+++++
〈足音の家〉。僕らが行ったのはそう呼ばれる古い日本家屋。
外装は古めかしい木製で、一階建ての一戸建て。だいぶ朽ちてきていて、いかにもという雰囲気を醸し出しています。
「おー、なんか出そうだな〜」
一緒にきた先輩が呑気にいっていました。
因みに、この家に来たのは僕を含めて四人。全員霊研部員です。
ぎしぃぃぃ
玄関へ入ると、埃まみれの床が僕らの体重に抗議します。家の内部は夕方ということもあり、懐中電灯の光が頼りなく朽ち果てた様相を照らしていて、流石に不気味でした。
「先輩…帰りましょう…」
誰かがポツリと言いました。声色には恐怖が滲んでいます。
「なに言ってんだよ。まだ玄関だぞ」
そういうなり先輩はギシギシと軋む床を踏み鳴らしながら奥へ進み出しました。部員たちも恐々進みます。
僕は正直帰りたかったです。物凄く埃っぽくって…。
……て…………
「ん?誰かなにか言ったか?」
居間らしき部屋まで来た所で部長が突然言った。もちろん誰も言葉を発してなどいない。
「誰もなにも言ってないですよ」
「だが確かに…」
………ま゛………
「!!」
「聴こえた…?」
部員が口々に言います。興奮している者、恐怖で青ざめているものなど様々です。
もちろん自分にも聴こえました。
「じ…冗談だよな?」
渇いた声を部長が漏らすが、誰もなにも言わない。
「で…でよう!気持ち悪い」
「あ…ああ…」
「ちょっ…おまえら…」
部員二人が勝手に部屋から出ようとした所を部長が慌てて止めようとしました。ところが…。
…ま……て…
再び声が響きました。底冷えする、低いけれど高い、矛盾した女の声…。
「う…うわぁあああ!」
それが合図でした…。
絶叫した彼らは我先にと押しへしあい、逃げるように出ていきました。
その騒ぎで僕は懐中電灯を思いきり落としてしまい、一人暗闇の中ポツンと取り残されてしまったんです――。
〈闇〉
コレは恐ろしいものです。
視覚が働かなくなると、別の感覚――聴覚が敏感になるようです。僕もそうでした。
がたがたがたがたがたがたがたがた
開きの笑い襖を無理やり開けるように、幾度も音がします。
がたがたがたがたがたがたがたがたがたがた…ぺた…ぺた…
やがて、音が湿った足音に変わりました。
僕は微動だにできませんでした。肌から吹き出す気持ち悪い汗、こわばり、震える体――。
これが恐怖というのなら、僕は二度と体感したくありません…。
ぺた…ぺた…ぺた…
湿った、裸足の足音。少し遠くから、じわじわと、ゆっくり近付いてくる――。
「あ……あ…」
無意識に渇いた声が零れます。
ぞわり、肌が泡立ち、腰骨から内臓と背骨を伝い、沸き上がる寒気。
ぺた…………
やがて、足音が止まる。
ぎしぃぁぁあぁああ
床が独りでに響く。いや、嘲笑する。
「はっ…はっ…」
息が、動悸が、恐怖が、激しく高鳴る。
そして…。
『…み…づ……けた…』
女が嘲笑いました。僕を見て。
白と赤の、紅葉の柄をしたボロボロな着物を不自然なほど着くずして、ずるりと、女が流れる。比喩ではなく、僕にはそう見えました。
不気味なほどゆっくりに、女は静かに動きます。体の間接が全て抵抗力をなくしたように、だらんと垂らして、僕へ向かってきます。
『わた…し……を…みて…』
血の気も生気も無い、青白い手が、僕へ向かって降り出されます。
せまるその手を、女を前に、僕の周りの空気は鉛のように重く、冷え切っていました。
『こ…こ……よ…』
重く、響く声が僕を捉えます。そして女の手が僕に触れるか触れないかというところで――
「伏せろ」
闇が、切り裂かれた――。
「えっ…」
ひゅおう、風を切る音が女に突き刺さりました。
『あ゛…ああぁぁぁあぁああああ゛ああ゛…』
僕の頬を掠め、女に突き刺さったのは、闇でもなぜかハッキリと解る“槍”。
いとも簡単に女の華奢な体躯を吹き飛ばし、腹部に風穴を開けた槍が放たれたところ、つまり僕の背後から、ギシィと床の悲鳴が聞こえます。
「大丈夫か?」
僕に声をかけてきたのは、闇に同化するような真っ黒な服を着た男でした。
「あ…なた…は…?」
僕の質問は途切れ途切れで掠れていましたが、一度僕に視線を合わせたのでおそらく伝わっていたんだと思います。
男は僕の脇をすり抜け、壁に打ちつけられている女に向かいました。
「これはな…、〈伝染神〉っていう存在だ」
振り返らずに男は言いました。
「はやりがみ?」
「そう、言ってしまえば幽霊と同じ」
ガシッと女に突き刺さったままの槍をつかみ、女を両断するように大きく振り切った。
ばあぁぁあああん
まるで空気がはぜるように、女の姿は霧散し、重苦しい空気も一気に消え失せました。
「…あなたは……」
「俺は〈闇狩り〉。社会の裏に存在する闇を狩る存在」
ひゅうん、と槍を振るうと男は僕に向かっていいました。
「ここから早く出た方がいい。まだ〈彼ら〉は君を見てる」
「えっ…?」
まだ見ている?あんなのが?
「ここから直ぐ其処の窓、そこから出られる。まだ近くに居ないから、早く行ったほうがいい」
男の槍の切っ先で指す方向を見ると、闇の中に微かに光が見えました。
「ありが…」
礼を言おうと再び視線を戻した時には、黒服の彼の姿はどこにもありませんでした。
+++++
その後、彼に言われた通りに窓を抜けると、簡単に外に出られました。
既に宵でしたが、家の中よりずっと明るく、平和でした。
僕より先に逃げていた先輩たちは、なぜか来たときに乗ってきた車の前に座り込んでいました。
話を聞くと、なぜ自分たちがここに居るのか、さっぱり思い出せないらしく、狐につままれたような表情でした。
この経験は、あまりに非現実的です。信じてもらおうとは思いません。
ですが、この経験で僕は学びました。
世界にはこういった現象があるということを――。
これから僕は不用意に心霊スポットには近づかないようにします。
皆さんも、気をつけて――。
「天義さーん」
「隆地、遅かったな」
「いや、天義さんが勝手に行ったんじゃないッスか?雑魚ばっか俺に押し付けて」
「悪い悪い」
「まあいいッスけど…。ああ、そういえばさっき大学生たちががたがた震えてたんで〈即席修正スプレー07〉使って少し記憶削りました」
「そうか。……!」
「きましたね」
「ああ…。さて、いくぜ隆地、狩りだ――。」
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