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VRMMOの基本

酒飲みながら、いろいろな作品を書いていたら、いつの間に書けてしまったのでアップしますw

 誰の勧めであったかは忘れた。


 失恋の痛手というか、目の前で浮気されて逆切れされたとか、相手が俺よりも収入が高い大手企業の社員だったとか、貯金で指輪選定中だったとか、まぁ色々だ。
 愛とか恋とか本気になったほうが負けだと言われてしまえば、もう泣きたくなる気持ちすら捨ててしまえる。


 そんな痛手を乗り越えるべく、婚活なるものをしてみたが、十人十色の個性を「結婚したい女」一色に染められた姿を見ると、実に涙ぐましいものがあり、正直色々と萎えてしまった。


 純粋な恋愛を語るような年でもない、などと嘯いて、マンション買ったり車買ったりしていたら、こう、落ち着いてしまった。

 いわゆる、大市民的に。

 とはいえ、人との関わりなしで生きられるわけでもないので、関わる趣味を、と言うことで始めたのがVRMMOであった。

 発売から数年経ってもなお人気の高いジャンルだが、敷居は更に高い。
 まず、高速ネット回線必須。
 次に専用カプセル型筐体を据付工事できる住宅事情であること。
 さらに月間課金一万円を払い続けられること。
 この時点で一般中高生は排斥される。
 そうなると、金に余裕のある両親を持つ子供、金に余裕のある両親を持つおっさん、金に余裕のあるおっさん、とまぁ、オッサンばかりになっているらしい。
 ネカマは禁止らしいので、さぞむさ苦しいゲームになっているのかと思いきや、NPC、いやシステム側キャラクターが接待プレイをしているらしく、男女比率は比較的安定しているそうだ。

 ・・・接待プレイ。

 月間一万円の定額キャバクラに通っているようなものかも知れ無いと思うと、いささか腑に落ちないものがあるが、まぁいい。

 このVRMMO、中で過度な運動をすると実際の体もかなり動く。
 勿論、機器を壊さない程度だけど、これがダイエット効果がある、といわれている。
 逆説的に恐怖で漏らしたり脱糞したりもあるらしく、カプセルに入る時には全裸推奨、オムツ推奨だったりする。

 成人用オムツをはいて全裸プレイ。

 やはり激しく敷居が高すぎる。
 汗なんかも非常にかくので、カプセル内の消臭薬や専用マットの交換、ノーマットシートへの交換などもあるとか。
 まぁ、どれだけプレイするかによりけりだな、というわけで、初プレイは連休初日0時ということで。





 ログインして驚いたのは、チュートリアルの長さだった。
 キャラ設定から名前の変更、体型や顔のエディット、そしてチュートリアルクエストまでセットになって、もう、本当に様々。
 適当にスライム倒しておしまいという前情報とは違い、狩の仕方から獲物のバラ仕方。物の作り方や修繕の仕方、薬草の摘み方や薬の作り方、料理の作り方や保存食の作り方。
 体感しきってみると3ヶ月ほど費やした感じだ。
 これで外の時間はどれだけ経っているのやら、とメニュータイムを見たら、なんと一時間と経っていない表示だ。
 すげー加速度、というか時間密度をこんなに上げて、俺の脳みそ焼き切れてないだろうか、と思わず思ってしまったほどであった。
 ともあれ、一通りの職業訓練が済むと、各職業のファーストアイテムをもらえた。

 ・初心者戦士の剣
 ・初心者狩人の弓
 ・初心者魔術師の杖
 ・初心者採取者のナイフ
 ・初心者製作者の道具
 ・初心者薬剤師の道具
 ・初心者調理師の道具
 ・初心者冒険者セット

 なんだろう、最後の一個以外Wikiで見たことが無いものばかりなんですが。
 ともあれ手に入れたものを確認してみると、「初心者」の名の付くものは、耐久度が存在せず、基本、非破壊なのだそうだ。
 勿論、威力性能共に低い。
 しかし初心者用の狩場では十分な性能であり、無料なのがありがたい。
 チュートリアルでは、遠距離弓、中距離魔法、近距離剣と使い分けて戦闘をして始めて合格がもらえるというのだから、このゲーム、チュートリアルまで破格の敷居の高さだ。

『チュートリアルが終了しました。あなたは全チュートリアルを最優秀な成績で終えられましたので、「初心者マスター」の称号が送られます。この称号は、全プレイヤーの中で最初に全チュートリアルを終えられた者への称号です。また成績優秀者には全ステータスへの補正がかかります』

 ・・・何が起こってるんだ?
 思わず内心の冷や汗とともに、目の前に現れた称号取得を報じるウインドウに話しかけてみる。

「えーっと、質問いいですか?」
『はい、ユーザーの質問を受けましたのでコールセンターに引き継ぎます』

 無駄に高性能だな、と思っていると、目の前に「いかにもオペレーター」という女性のウインドウが開く。

「はい、カスタマーオペレーター、樋口が対応させていただきます。ご質問の内容は、称号について、ですか?」

 そう、この称号。
 普通にチュートリアルして、普通に頑張って、普通に終えたはず。
 なのに、なんで初心者マスター?

「はい、確かにゲーム内時間三ヶ月が初心者チュートリアル全網羅に必要な時間なのですが、これには個々のお客様の時間圧縮耐性が関わってきます」

 時間圧縮耐性?

「はい。同じ一秒を何倍に出来るか、それはお客様の体質によるところが大きく、最短10倍、最長となりますとおよそ七百七十七万倍強というお客様ご自身が最長です」

 あー、つまり、最速というのは時間圧縮耐性に関わる話で、というのは了解。
 じゃ、最優秀というのは?

「チュートリアルクエストのクリア条件を満点で通過なさった方ですので、これ以上の優秀者は出ない、という判断から最優秀と成っています」

 なるほど、納得。
 ところで、この称号って、他人が知ってるものなのかな?

「いいえ、ご自身が情報発信なさらない限り、他人の知るところではありません」

 よっしゃ、じゃ、今日はこれでログアウトしますけど問題ないですよね?

「え? これから始まりの町に入られるのではないのですか?」

 いや、ほら、あんなアナウンスがあった後、見るからに初心者が現れたら変に注目されるじゃないですか。そういう注目を初めから受けるのは面倒です。

「解りました。では、明日からのプレイ、お待ちしてます」

 ほいほーい




 ログアウトして目に入ったのは、全裸オムツの自分。
 ・・・せめてインナーを着よう、そう心に決めた俺であった。







 ネットも騒がせた「初心者マスター」。
 ソロで色々とやっているが、今のところばれている様子はない。
 というか、このゲーム自体が成長中なため、グランドクエストに人が集中して始まりの町は大いに過疎っていたわけで。
 だからあのアナウンスのときは注目された町も、二週間ほど経った今では忘れ去られた町になっていた。
 そんな町で俺は、本物のNPC相手に会話し、お使いクエストをこなしたり職長ランクを上げたりとゲームを楽しんでいた。

 で、気づいたのだが、人との交流をしようと思って始めたVRMMO。
 現在、採取も調薬も料理も何もかも、一通り自分で出来てしまう。
 で、自分のレベルにあった内容の採集と調合なので、まず失敗しない。
 加えて、たまったお金で防具をNPC販売品で買えば良い訳で。
 ポーションを自作できるというのが結構効いていて、防具を一ランク上で買えるのが美味しい。
 また、他人が居ないと時間圧縮がかなり効くらしく、外の時間で一時間、というタイマーをかけているのに何日経っても終わらないという事もしばしば。
 多分、物凄い勢いでクエストをクリアーしてるんだろうなぁ、と思ってしまう。
 ともあれ、クエストだけでも物凄い数で困る。
 何しろ、初期選択可能職業全てのクエストだ、膨大な量になる。
 この時間圧縮耐性という体質が無ければ、絶対にやらない方法だろう。

 ・・・いや、没頭する何かが欲しい状態だった俺自身マゾいので、低時間圧縮状態でも同じ事をしたかもしれないけど。

 かなり没頭した影響か、全ての職業で「初心者」が外れた。
 とはいえ、ここからがスタートだ、とか。
 Wiki情報で言えば、ここから派生する数々の職業、数々の業種、選び続けて成長する、という話らしい。
 さて、初心者が取れた職業なのだが、ワイルドに進化していた。

 ・戦士+狩人+採取者 > 冒険者
 ・魔術師+製作者+薬剤師+調理師 >錬金術師

 こんな職業、見た事ありません。
 Wikiにも書いてないので、本当に恐ろしいです。
 人との交流を目指しているのに、どんどん人に言えない事が増えてゆく気がします。
 気軽に始めたゲームが、空恐ろしいものになりつつあるのを実感します。
 こうなったら名前を変えたほうがいいでしょうか?
 「マクガイバ◎」とか、「インディアナジョ◎ンズ」とか。
 というか、冒険者って俗称じゃなくて職業だというのが驚きです。
 まぁ、確かに、採取者で狩人で戦士ですし、均等に成長したらそういう職業かもしれません。

 職業が冒険者になった影響か、クエストレベルの高い依頼が紹介されるようになりました。
 討伐とか危険性の高い商隊護衛とか。
 NPCプレイヤーと組むときには時間圧縮が高い状態なんですが、時々いるプレイヤーが一緒のときは時間圧縮が落ちるので解りやすい。
 今回の護衛任務も時間圧縮が非常に落ちたので、かなりの人数が参加しているかと思いきや、護衛は俺+NPC数人。
 でも、今、このフィールドの時間圧縮率は非常に低い。
 これは、このフィールドに多数のプレイヤーがいるため、圧縮平均が低いほうに推移しているためだ。
 商隊はNPC、護衛もNPC、でも時間圧縮が低い。
 つまり、そういうことだろう。

「とまれ、とまれー!」

 NPC護衛隊長が商隊をとめる。

「どうしました?」

 一応解っているが聞いてみる。

「この先に不振な男たちがいるようだ、賊かもしれん」

 賊、つうか、NPCK、人形狩りの方々だろう。
 一応、NPCも人格があり、殺されるとシステム常住ようなNPCでも復活しないので、クエストがなくなる場合も多々ある。
 が、重要なクエスト以外は結構荒れていて、こうやってNPCを襲う人形狩りと呼ばれるプレイヤーが少なくなくいるそうだ。
 というか、NPCと組むと盾にしたりオトリにしたりする連中が結構いるという。
 酷い話だが、ゲームとしてのロールなので相手を非難も出来ない。
 逆に友好的に、人格を持つ個人として付き合うことも出来るので、かなり高度なAIが使われているものだと理解できる。

「賊、そう、脅威であるものとしましょう」
「脅威と仮定する、のではないのか?」

 俺の言葉に隊長は首を傾げれる。

「俺が矢をかけますので、怒って出てくればバカな賊です。そのまま逃げれば意気地のない賊です。攻撃し返してくれば勇猛な賊です」
「君は人殺しを恐ろしいと思わんのかね?」
「人殺しに襲われて、自分の命を勝手に吸われるほうが恐ろしいです」

 じっと見詰め合う俺と隊長。
 そして隊長は意志を固めたようだ。

「では、弓を頼む」
「ええ」

 取り出したのは初心者狩人の弓+9。

「・・・随分と奇妙な弓を取り出したが、届くのかね?」
「ええ、+9は伊達じゃないですよ?」
「・・・プラスきゅう!?」

 や! と弓から矢を解き放つ。
 狩人の上級技「岩通し」。
 これは岩だろうと木だろうと、障害物無視で矢を届かせるもの。
 MP消費も激しいが、賊が襲い掛かってくるまでには回復するだろう。
 加えるに、非破壊の初心者用武器をプラスするなんて発想自体がWikiでも無いらしく、割と苦労したけど今の自分のプレイ状況に追従していると思う。
 同じく、初心者の剣も+9。
 割と重宝している。


 そんなバカ話をしているところ、大きな岩の向こうから、わらわらと人が出てきた。

「くそ、プレイヤーがいるなんてきいてねーぞ!?」
「いいじゃねーか、あの初心者装備を見ろよ! 武器は初心者、武具もNPC売り、全く怖くもねーぜ」
「かー、ぼっちかよ、つれーなー?」
「でも、容赦橋ねーぜ!!」
「真っ裸で死に戻りな!!」


 襲い掛かってくる男たちは全員で6人ほど。
 一瞬の交わりで三人のNPCが倒れた。
 が、俺も四人のプレイヤーを捕獲。
 地の魔法、「平安京エイリ◎ンの術」最高。
 さらに穴の中には緑の魔法によって、「ぱっくんフラワ◎」も誕生しているので、ぜひとも仲良くして欲しいものだ。

「「「「ひ、ひぎゃぁ、何か、なにかがおれをまさぐってるぅぅぅぅ」」」」

 おお、叫び声も同調とは素敵。
 思わずにんまりしつつ、倒れたNPCに向けて回復薬を振りまく。
 気絶状態だけど死んでないので一安心。

「さて、このまま埋めると、あんたらの仲間は死に戻りだけど、窒息するまで苦しんで死にもどりになる。逆に、この場に有り金置いて逃げるなら見逃す。どうする?」

 問いかけた俺の声に悲鳴と何ともいえない粘着音、そして微かな泣き声まで聞こえては残りの人間も折れる。
 割と大量の金をその場に置くと、男たちは数歩下がった。
 というわけで、俺も約束を守るために地の魔法を解除。
 すると小太りの男性四人が、「ぱっくんフラワ◎」にネトネトにされて、「よ、よごされちゃった」的な目になっているのがアリアリとわかる。

 フラワ◎も十分堪能してか、ぺっと吐き出してみせたのだが、もちろん全裸。
 装備ごと食べた模様。
 頑張ったな、フラワー。

 テレポートアイテムだろう、四人を中心に賊が全員その場で消えると、商隊は安堵に包まれた。

「助かりましたよ、いや、本当に」

 NPC隊長から大いに評価され、その護衛任務は無事終えられた。
 が、翌日Wikiに嫌な書き込みを発見した。

「人形狩りを狩る、男色強姦魔・・・って」


 何でもあの六人組は初心者フィールドを根城にする人形狩りで有名だが、プレイヤーには手を出さないことでも有名だったそうだ。
 襲い掛かってきたときの台詞も「|演技≪ロール≫」で、本当は戦闘にも入れないとか。
 が、ガチで反撃した上に強姦よろしくの罠を使うなど人間の所業じゃないとか、それを食らったプレイヤーがPTSDになったとか、色々と書き込みがあった。
 まぁ、NPCK自体も褒められた行為じゃないし、それを知らない人間からしたら本格的な脅威なのだから、撃退されて恨むのは筋違いでは、という書き込みもあり、Wiki上での論戦が加熱炎上と成っていた。
 その際、俺の装備や手口も公開されているので、暫く人のいないところを探さないといけないかもしれないと感じた俺であったが、人との付き合いをしようと思って始めたことも考え、取り合えず始まりの町クエストコンプリートを優先することにした。




 はじまりの町を中心にクエストをこなしていたが、時間圧縮が低下する様子は無かった。つまり、だれも初心者はじめの町へプレイヤーが来ていないか、同等の時間圧縮の人間しか着ていないということになるだろう。
 もし着てるなら話ぐらいしたいものだが、気にしてマップを見てもNPC以外ないと出ている。
 寂しいものだ。
 そんな中、初心者用の剣、初心者用の弓が「+10」に出来た途端、「マスターソード」「マスターボウ」という名前に変わった。
 威力も格段に上がり、実にラッキー。
 調剤道具や調理用具は買い換えないと駄目だったんだけど、調剤クエストと調理クエストを進行させると「達人」シリーズが手に入るそうなので、どうにか頑張っている。
 ただ、錬金術、という技能自体が微妙。
 科学のような魔法のような化学のような生理学のような・・・。
 一番近いのは過去にあった博物学、になるかもしれない。
 とはいえ、そんな知識など無いので、ネットで色々と調べてしまった。




 で、ゲームで試してみると、こう、微妙にマッチする。


 なにが、というと、中世ヨーロッパの錬金術というよりも、漫画とかの方の感じのほうが合うらしい。
 某豆少年錬金術師のような真似は出来ないけど、爆弾少女錬金術師みたいな真似は出来るので面白い。
 生きてい◎縄を完成させたとき、正直踊った。
 そばにいたNPCに不審がられたけど、嬉しいものは嬉しい。
 というわけで、生きてい◎綱のニョロちゃんは、いつでも起動できるように俺のポーチに潜り込んでいるのであった。


 NPCですら屑石と捨てているアイテムを組み合わせて鋼を作ったり、銅を作ったり、アルミを作ったりしているうちに、珍妙なレシピが入手できた。
 鉱石系クエストを錬金術して進めた影響と思われるもので、本来であれば合金のレシピのはずなのだが・・・

「緋緋色金って、おいおいおい」

 ほかにもマダガスカル鋼なんてのもある。
 順調に経験をつめばもっと珍妙なものが出るのであろう事は請け合い。
 更に恐ろしいのは、はじまりの町の屑石で合成可能なことだろう。

 ・・・みんな知らないのだろうか?

 いや、錬金術師なんて職業自体の書き込みがないことを考えれば、かなりレアな職業で、なっている人間も隠しているのだろう。

「とりあえず、作るだけ作って、保管だな」

 初めて制作できた低レベル緋緋色金をNPCにうっぱらい、その金でマイスペースを確保。
 このマイスペースがあれば、PKされてもマイスペースのアイテムは奪われない。
 金庫を背負って歩いているようなものかもしれない。

 そんな背負い金庫にたっぷり合成したレア金属を溜め込んで、今度は武器でも作るかと製作系のクエストを中心に進める俺であった。





 たっぷり楽しんでログアウトすると、初めに見るのは全裸+オムツの自分。
 これで欝に成らないのは精神的にどこかおかしいに違いない。
 当初インナーを着ていたのだが、激しく動く体についてゆけず、びりびりになってしまうのだ。
 ゆえに、仕方なく全裸オムツ。
 再びログインしたくなくなる格好ではある。

 一応、オムツを排除してシャワーを浴び、そして室内着を着てWikiを見たところ、再び炎上していた。
 何が起こったのかと見てみると、グランドクエスト最先頭の町で緋緋色金製の武具がNPCショップで売り出されているというのだ。
 誰が買い占めたとか誰がRMTしているとか大騒ぎで、詳しく書き込みを追うと、ある日突然売り出されたのだという。
 時間をリアルタイムで追うと、どうも俺がNPCに素材を売った後だと言うことが解った。
 なるほど、NPC売りの製品のレベルが低いのは、NPCにちゃんとした物を売っていないから、ということみたいだな。
 よし、明日ログインしたら、魔力の篭ったポーションシリーズの在庫を売ってみよう。
 それで店売りで変化があるなら、それはそれで面白いし。
 うん、おもしろい!





 大混乱になっていました、ゲーム。



 何故かというと、今までのポーションって薬草だけで作られていたらしいのですよ。
 だから薬効が薄いし、効果が低いのだ。
 が、最近店売りのポーションで魔力入りのものが販売され始め、それが広がっているのだという。
 効果は生産ギルドとトントン。値段は半分。
 こうなっては生産ギルドも黙っていられないと大騒ぎになり、NPCを締め上げたり新規クエストを探したり混乱の中、情報が一つ。

「我々も作っているわけじゃなく、売ってもらっているんです」

 それはNPCの一人の言葉。
 つまり、そのポーションの販売元がある、ということだ。
 勿論生産ギルドではない。
 調薬ギルドも否定。
 各ギルドが総出で犯人探しをしたが、トッププレイヤーと呼ばれるプレイヤーたちの動向は逆に有名なので犯人の線は消えた。

 ではだれか?

 セカンドランカー、サードランカーの中に我こそは、と言い始めたプレイヤーは居たが、どれもこれもガセ。
 事は生産者ギルドと攻略ギルドとの協力体制にヒビどころか亀裂すら生む事態となりつつある状況を、NPCからの伝聞で聞いた俺。

「製作者、明かしちゃだめですかぁ?」
「いやですよ、そんなの。彼らに知られれば、薬品製作マシーンにされちゃうじゃないですか」
「はぁ、まぁ、そうなんですけどね」

 妙に人間味のあるNPCは多分、システム側の中の人が入っているんだろうなぁ、と思う。

「いっそのこと、錬金術師への進化の道を示しては?」
「いえいえいえいえ、それは与えられるものではなく探し出すものですから」
「薬の販売元だって一緒でしょ?」
「あー、まー、そうですねぇ・・・」

 しょんぼりと肩を落とすNPC。

「あれっすよあれ、そろそろはじまりの町のクエスト、全部終わりますんで、そのときにもう一度話しましょ」
「・・・え? まじですか? まじでそろそろ終わるんですか?」
「まじ」

 個別クエストで言えば、戦士として一人前となり剣術だけではなく徒手空拳ジョブ派生クエストも終了した。
 狩人のクエストはレンジャーコースと騎射コース。かなり苦労した。
 魔術師のクエストは、図書館お使いクエストのオンパレードで時々魔法薬が必要になるため、薬剤師のクエストと絡んでいたりもする
 さらに、その材料の収集に希少薬草収集が入るため、採取者のクエストが乱発し、平行して薬剤師のクエストまで絡む。
 ここまでの職業がクエスト連携しているのだが、システム上空腹に対するバットステータスもあるので定期的に調理する。
 この定期的に調理している臭いに誘われてNPCがやってきて料理大会に引っ張り込まれたり、宿屋の新メニューを考えたりと料理関係は時間と場所を選ばせてもらえない。
 なんというか、ラノベの主人公にでもなったような、そんな浮揚感のある生活だったりもする。

 で、最後の製作者クエスト。
 これは、本当になんとなく終わっていた。
 単純に「初心者」用武器やNPC防具を改造しまくったのが効いているらしい。
 いつのまにやら「マスター」シリーズという物に変わってるし。
 NPCもので気に入らない防具を手直ししているだけでも経験値が上がるらしく、お古の鎧をNPCショップに持ち込んだらクエストクリアーしていた。

 最初は何で、と思っていたのだが、どうやら定期的にお古を売りに来て評価を上げていたものと発覚。
 職人のオッサンに「もう教えることはねぇな」とか言われてびっくり。
 確かに修理に関しての手順は教わったが、いつの間にか弟子になっていたとか意味不明。

 まぁ、「製作者の上級道具セット」をくれたので見逃してやるがな、へへ。

「というわけで、本当にそろそろクエスト終了です」
「・・・驚きました」

 正に衝撃だとNPCの中の人。

「ぶっちゃけて言いますが、このクエスト複合群って、普通は一人じゃコンプリート出来ないんですよ?」
「えらくぶっちゃけましたね、中の人」

 そりゃそうでしょう、と肩をすくめるNPC。

「一人でクリアーするなら、少なくとも、生産者と魔術師、あと採取者を平均的に伸ばせなくちゃ出来ません」

 順当にプレイすれば結構いけるだろ?
 と俺は思ったが、まぁ、いないというのだから茶化しても仕方ない。

「ま、レアケースだと思って観察でも何でもしてください」
「そうさせてもらいます」

 そういって、NPCは会釈をしてその場を去った。





 以後、リアル三日後。


 俺は「はじまりの町」クエスト群を完了した。
 この完了に関しては一切の称号は無かったが、ギルドから非常に貢献度の高い冒険者としてゴールドプレートを貰った。
 このプレートは階級に関係なしで収入が20%アップしたり、宿代が30%引きだったりと特典があるそうだ。
 実にありがたい話なので、ありがとうございます、と礼をするとギルド内どころか町中に拍手が響き渡り、「おめでとう」が唱和されるのだった。

 危うく補完されてしまうところでした、ええ。

 それはさておき、ホームであるはじまりの街から次に移ろうと考えると、南か北に旅をすることになる。
 北は護衛任務で行ったことのある町なのでポータル移動できるが、南は行ったことがない。
 Wikiをみると、どちらを選択しても似たようなものであるという感触を得ているので、行ったことのない町に行くことにした。
 というわけで、南へゴー!!

「おいおい、着の身着のままで旅に出るとか、自殺じゃろ」
「ああ、そういえば」

 大きな落とし穴に気づき、恥ずかしながらも町で装備を整える俺であった。










 ログアウトして始めてみるのが全裸+オムツの自分というこのゲーム。


 って、気づいてみたらお腹が凹んできてる。
 というわけで、リクライニング状態なのにオムツが直視できなかったはずの俺の腹ガードが薄くなった影響で、ログアウトすると見えるんだ、直接、うん。
 上級者になるとニョウドウカテーテルという手段もあるそうだが、動きの激しいこのゲームには向かないだろう。

 とりあえず、カプセルの内側につるしておいた制汗紙をパッケージから出して全身を拭き、フタに張っておいたTシャツを着るとどうにか外に出られるレベルの外見になった。
 これでこのままシャワーを浴びに行って、室内着に着替えればどうにか人心地だ。
 このやり方はNPCの中の人に教わったもので、ギリギリ人間としての尊厳を失わない抜け道として社員もやっているそうだ。
 接待NPCのキャバクラ系は、全裸オムツなしだそうだ。
 かわりにシートをひいて全展開全回収が基本だとか。
 性別差って大きいよね。

 ログアウトしたときのこの虚脱感は、再ログインする気をサイド起こさせるものなのかどうか悩むところだが、やはりそれなりに投資した分は回収したいという貧乏根性で続けてしまうのが悲しいやら情けないやら。

 とはいえ、月一万円でやりたい放題のフィットネスをしていると考えれば安いものだともいえるし、ゲーム内の料理技能はリアルにも反映され、わりと充実したリアル生活を送りつつある。

 いや、今までがやばかっただけなのだが。

 それはさておき、南の町方面攻略を考えた俺は既に旅立っているが、どうもWikiと違うポップに悩まされていた。
 そう、Wikiによると南方面のアクティブモンスターは猿、だったはずなのだ。
 しかしポップしているのは「狒々」「大猿」と、ちとハイパワー。
 自然石を握りつぶすとか言うアクションをされるとマジ怖い。
 さらに其れを投げるものだから、パリィ上達しましたよ。

 で、なんで違うのか、その辺を率直に聞ける相手がいない。
 なにしろぼっちソロプレイ中。
 どうしたものかと首をひねて散るところで、一応考えた。
 個人特定はされても仕方ないので、誰かを引っ張り込もう、と。
 たとえば、ブログでも開いてプレイ日記を書いて、書き込み待ちをする。
 情報が来ればいいし、こなくても仕方ない。
 もしかすると、面白いもの見たさで来る人間がいるかもしれないし。

 つうわけで、無料ブログでも使おうかと思ったら、ゲーム付属のプレイヤーブログなんてモノがあった。
 これならスクリーンキャプチャーした映像とかをそのままブログに乗せられるそうだ。
 個人特定拒否を諦めた時点で何処で作っても同じと割り切った俺は、ゲーム内ブログを開設したのだった。




 リアル三日後。


 俺のブログは炎上していた。
 検証組が俺と同じ行動をしたが、そんなチュートリアルにはならなかたっとか、はじめの町のクエスト数はそんなに多くないとか、散々否定の嵐になっていた。
 が、南へ旅をしている俺のスクリーンキャプチャーが掲載されると、今度はどんな合成だとか自己演乙とか、まぁ好き勝手な騒ぎになっているのだが、実は騒いでいる連中の半分以上がプレイヤーじゃないのが笑える。
 プレイヤーならIDが記載される場所にゲストって表示されているし。
 そんな中、俺と同行して検証したいという検証組が現れた。
 勿論大歓迎なので、はじめの町のポータルで待ち合わせをした。

 ・・・したのだが!

 これ見よがしの見物人でポータルは山のようになっており、誰が誰やら解らない状態になっていた。
 思わずため息を漏らすと、IDのないメールが届いた。
 曰くNPCで、待ち合わせの手引きをしてくれるらしい。
 これはありがたい、ということで、町外れの教会まで行くと、一人のNPCと一人の女性が立っていた。

「あ、あなたが・・・」
「ああ、今日はお願いします」

 こんな会話でOKなのはゲーム内であるからだろう。
 ともあれ、簡易ポータルから、旅の途中に設置した簡易ポータルへ移動。
 密林、と言うべき背景の中、俺たちは南の町に進んだのだが、これが沸く沸く。
 大猿三匹セットとか、狒々五匹セットとか、もう勘弁しろという勢いで。

「普通の猿、出ませんよ!?」
「ええ、おれ、まだ一度も見たことないです」
「どういうことですかーーーー!!!」

 とまぁ、検証さんのお陰で、俺の、というか俺に対するポップが異常であることが知れ渡った。
 そうなると、では別の場所では、という話になる。
 変なものポップ要員として目をつけられた訳だが、俺の異常な職業に関してはばれていないのでセーフ。
 とはいえ、異常の原因が職業であろうと考えるのは間違いないので、ちくちくと手の内を教えろ、的な話が増え始めた。
 致し方なく、「初心者マスター」の称号を公表すると、「それだ!」という話になって落ち着いてくれた。
 逆に、俺が対戦するモンスターはレアか別ルートの可能性があるので、検証組から太いパイプを求められたりもしている。

 さて、パイプを求めるなら、それなりの支援もしてもらえるだろうか、と聞いてみたら、薬草のみポーションを押し付けられそうになった。
 勿論、最初はおことわりした。
 初心者だと思って騙そうって言ったって、とちょっと切れたところ、検証組も報酬が用意できないとかポーション相場が崩れた不良在庫だとかなんか無茶苦茶だった。
 仕方ないので、NPC相場なら引き受ける、というと、四桁にのぼるポーションが集まった。
 とりあえずその支払いで、俺はほぼ素寒貧になってしまった。

 初めに旅のセットかって置いてよかった。

 で、なぜ最初は断った薬草だけポーションを引き受けたかというと、実は錬金術師なら、魔力をアペンドできるのだ。
 つまり、魔力なしのポーションを右から左に魔力注入するだけで、市場価値がバンと跳ね上がるという、正に錬金術。
 これは美味しい、ということで、全品魔力注入して半分ほど売り払ったところ、所持金がとんでもないことになってしまった。

 以降、あまり所持金襴を見ないことにする。

 其れはさておき、南の町行きの道、そのエリアボス。
 本当なら白頭大猿がボスのはず。
 が、やはり、というかなんというか違っていた。
 現れたのは白頭大猿を三体従えた細身の存在。
 その名も「白猿大女王」。
 毛で隠れた体は、無茶苦茶ナイスバディー。
 で、尻尾が揺ら揺らフサフサ。
 やべー、モフモフしてぇー。

 ・・・

 中年にもなると、こういう感情を表に出しにくい。
 だからこそ、猫喫茶や・・・いや、今は目の前のモフモフだ。


「人間、よくも我が僕たちをいじめてくれたものだねぇ」

 鋭い眼光が怪しい光を発する。

「・・・もし私に忠誠を誓うなら、可愛がってあげてもいいんだがねぇ?」

 彼女はそういっているが、背後の三匹は「キル・ユー」とやっている。
 仮称、ワルサ◎、トンズラ◎、ドンジュ◎ロ◎と命名。
 と考えたら、キャラの頭の上の「A/B/C」がワルサ◎、トンズラ◎、ドンジュ◎ロ◎とと変わる。
 細かいところまで手が凝ってるな、このゲーム。

「・・・おや、だんまりかい?」
「いや、選択肢はないなーと思ってね」

 そう言いながら、マスターボウを構える。

「へぇ、一人で、私たちを倒せる、そう思ってるのかい?」
「倒せる、というよりも倒す、かな?」

 そういって、一引き。
 矢はつがえていないが、光の矢が現れる。
 ぎゅぎゅーっと魔力をつぎ込むと、少し疲労感を感じた。
 魔術師クエストの中で得た知識、魔法と武器の融合。
 これは武器製作能力を持つ魔術師か、魔術師能力を持つ武器製作者にしか受けられないクエストで得た力。

「エクストラボウ!」

 光の矢は無数に分かれ、雨のように相手へ降り注ぐ。

「「「Gaaaaaaaaaaaa!!」」」
「きゃーーーーーー!!」


 何とかガードしているが、ジリジリとダメージが通っているのがバーの減りでわかる。
 これに加えて今弓に準備した三本の矢が、解き放たれると、ワルサ◎、トンズラ◎、ドンジュ◎ロ◎に当たり、瞬間、三匹共に消えた。
 いや、正確に言えば、土の魔法の篭った矢の影響で、ずっぽり首まで埋まってしまったのだ。

「なぁ!?」

 驚くモフモフ。
 これに俺は追加攻撃。
 もちろん、緑の魔法の篭った矢、だ。

「「「GyaWawawawawawawawawawawawa」」」

 地中で何が起こっているのか、其れは誰も知らない。
 しかし、その三匹の様子を見て、モフモフ、いや、白猿大女王は真っ青な顔色になった。

「もうちょっと戦う?」

 俺の台詞に、全力で首を横に振る白猿大女王。
 その瞬間、ファンファーレと共にボス戦終了がアナウンスされた。

『隠れボス、白猿大女王が降参しました。以降、白猿大女王はあなたの僕として付き従います』

 え? とみると、白猿大女王がモジモジしながら腕を絡み付けてきた。
 や、やわらかい。

「あ、あんたみたいに強いやつだったら、その、お使いになってやるよ」

 ティン、ときました。

 というわけで。

「モフモフさせてくれ」
「・・・へ?」
「モフモフ天国ジャーーーーーーー!!」
「あ~~ぁれぇ~~~~~~~」

 というわけで、性欲よりもモフ欲が耐え切れず、思う様に存分にモフモフしたところ、白猿大女王は縮んでしまい、肩に乗るぐらいのお猿さんになってしまった。
 くそ、アメデ◎オとでもなつけてやろうか。
 ・・・いやいかんいかん、キャンセル。
 名前選びは慎重に、だよな?







 ログアウトして、最近腹筋が見えてきたことに気づく。
 下手な健康器具より威力があるな、これ。毎日してるし。
 これなら、ログイン前に遊離脂肪が増えるようにバランスとれば、贅肉がかなり減るんじゃなかろうか?
 ちょっとネットで調べてみよう、うん。



 其れはさておき、白猿大女王をテイムするまでの顛末とテイム後のモフモフ天国をブログにアップしたところ、数少ない女性プレイヤーから「変態」と罵られ、数多くの男性プレイヤーから「ネット充殺す」呼ばわりされることになってしまった。
 しかしながら、女性プレイヤーがこのブログから離れることは少ない。
 何しろ、現在進行形で体重が落ちている事実をアップしており、どんなプレイが「効く」かの検証もしてるからだ。
 恥ずかしながら、プレイ開始前の腹部写真と、今の腹部写真を並べてアップしたところ、物凄い数のメールが殺到した。
 ゲームをしながらボディーシェイプ、なんてまじかよ、という意見も多いが、実際に減っているのだから仕方ない。

 変態変態と罵られているが、実際、あのお猿のモスモフを味わったら、罵られることなどへでもないと思えるほどだ。
 正直、ログインすればモフれると思うと、あのログアウトの残念感を我慢できるとブログに追加で書き込んだら、ケモラーギルドから「勇者」の称号を戴いた。
 なんでも、プレイヤーの一定人数から認定された称号は、正式な称号になるとか。
 というわけで、ログインして称号欄を見たら「変態」「ネット充」も入っていたのは笑った。
 で、「変態」は隠れパラメーターの「魅力」が10%減少し、敏捷性に30%の補正が入るとか。
 「ネット充」は、隠れパラメーター「被嫉妬」に+20、「幸運」に20%補正。
 「勇者」は、隠れパラメーター「魅力」が15%上昇。

 トータルで見れば、パラメータだけで見るとプラスっぽい。
 が、肩に乗るお猿さんこと「羅壕」のもふもふを考えれば、「きょくだいぷらす」。
 うーん。テイムしたとはいえ、召還してる訳じゃないからMP減らないし。
 実にベリッシモなモフである。



 ボス戦のあと、南の町はもう直ぐだというので一度ログアウトして、いろいろと書き込んだんだけど、全くプレイヤーと会わない。
 思いのほか嫌われたか、と思ったが羅壕曰く、レアボスルートはマップが別なので、町に着くまで他のプレイヤーと合流は無しなのだそうだ。
 そりゃ、まぁ、ここで囲まれるのは嫌だけど、そういうものか、とモフりながら歩いていると、大きな城門の前に、突然到着した。
 目の前に急に現れたという感じだ。


 そして、その門の周囲にはかなり多くのプレイヤーがいるのがわかる。
 何しろ時間圧縮が猛烈な勢いで落ちた。
 ざっくり15倍程度まで落ちてしまった。
 んー、こりゃ、重いなぁ。


 そんな風に思っていると、羅壕を肩に乗せた俺に気づくプレイヤーが増えだす。
 変態とかモフ充とかささやかれているのはいいんだけど、猫耳の兜をつけた方々が「勇者光臨!!」とか言って取り囲むのには参った

 ボイスチャットばかりじゃなくて、テキストチャットまで飛び交っている影響か、もう視界的にうるさい。
 とっとと通り抜けようかと思ったけれど、ケモラーの人たちに止められた。
 ただでさえレアなキャラ構成なんだから、このまま各地のクエストを進めて、隠れクエストの発掘をしてほしい、という。

「なにしろ、報告のあったはじまりの町のクエスト群、三分の一が未発見クエストでしたから」
「へぇー?」

 思わず関心。
 とはいえ、今の時間圧縮だと、リアル時間がかかりすぎるんだが・・・

「それなら大丈夫ですよ。倍率はおっしゃらなくて結構ですが、勇者様はかなりの時間圧縮率なんでしょ? 少なくともこの町はすでに通り過ぎ去られた町ですから、ほとんどのプレイヤーは来ません。一応、ここを拠点にしている人もいますが、それでも時間圧縮率が高めだという検証は済んでます」

 ふわぁ・・・この人達、もしかして検証系?

「いいえいいえ、我らはケモラー。新たなるテイムモフスター、いえモンスターを得るためのあらゆる手法を問いません。ですが、その筋道についてはご助力いただきたいということでして」

 あー、了解了解。
 さすがに全部公開はしたくないので、その辺のさじ加減はカンベンな?

「もちろんですよ。我々がほしいのはテイムの仕方ではなく、テイムが出来るという事実だけです」

 つまりは、目標があればなりふり構わない、と言うことなのだろう。
 実に男気のある集団である。
 とはいえ、レベル差が大きいので、彼らとパーティーがくめないのは残念だが、俺ががんばってレベルをあげれば良いだけのこと。
 その時、一緒にパーティーを組みましょう、と約束して彼らと別れた。
 以降、彼らとの付き合いが長くなるであろう事を感じながら。






 町クエを始めると、徐々に時間圧縮率はあがってゆき、暫くたつといつもの時間圧縮率になった。
 どうやら本格的にグランドクエスト中心のゲームになっているらしく、過ぎ去った町には興味もわかないと言う状況らしい。
 検証組がニューキャラクターを準備して、俺の行動の検証をしているという話もあったが、サブキャラクターに時間を心底かけるほどの酔狂人もいないらしく、後追いしてくるニューキャラクターも居ないとか。
 この辺はプレイ人口が他のMMOと違って格段に少ない影響で全員がご近所さん状態なのが理解できる。 新規参入者も最近俺以外居ないため、後で聞けばいいやていどの情報なのだと理解しておく。

 いや、実は、リアル方面に関わる話として、ログイン外の問い合わせは多い。
 VRMMOダイエットとかだけではなく、ログイン中の便意コントロールについてであった。
 プレイヤーの多くはログイン前に食事制限したり下剤を飲んだり整腸剤で調整していたのだが、俺はかなりの精度で便意をコントロールできるようになった。
 これはチャットをしながらプレイコントロールしているとき、癖でズボンをあげるという動作を体がしたのだが、その動作がVRに反映されていないことに気づいたことに始まる。
 そこから始めたVR中の随筋のコントロール訓練はかなり難しかったが、夢を見ているときにふつうの便がでないように意識つけることには成功した。
 というわけで、俺はおむつ卒業を目指している。
 もちろん、時々粗相してしまうので脱げないんだけど、それでも、コントロールできるという希望は嬉しい限りだし、磨きたい技能だ。
 唯一の問題は、モフリで忘我にいると漏れることが多いと言うこと。

 じつに厳しくも悲しい現実だ。






 羅豪でモフモフを堪能しつつ町クエを続けているウチに、南の第二の町でもクエスト群クリアーのアナウンスが流れた。
 お使い中心であった始まりの町とは違い、討伐が多いこの町では時間がかかるだろうと思っていたのだが、南の町が猿系のモンスター多発地帯である影響で、羅豪のフォローが効きまくりになった。
 テイムされても猿女王。
 彼らも一瞬の判断に困り、その隙に俺が倒すという繰り返しでサクサク進んでしまった。

 中には羅豪の妹を名乗るヤツもいたのだが、実際は血縁のない「雄」であることが羅豪によって明かされたので、全力で叩き潰すことが出来た。

「とはいえ、見た目が可愛いものでも容赦がないのぉ主殿は」
「んー、男の娘は認めるが、性別偽証はみとめん」
「厳しいのぉ」

 ホモォは書面の中だけで進めてくれ。
 リアルでもVRでも、俺の視界の外で進めるのも認める。
 しかし、俺にその存在を認めさせようとするな。
 その程度の権利は個人個人でもって居るはずだ。

「まぁ、妾も主殿が異性愛主義で安心じゃがな」

 ともあれ、町クエ終了当日、再び町はお祭り騒ぎとなり、町長からゴールドカードを渡された。
 前の同じものだが、加算型だとか。
 つまり・・・

「収入が40%アップ、宿代が60%引き?」
「はいはい」

 なんだか、優遇されすぎじゃなかろうか?
 もしくは、これは初回特典のようなものかな?
 まぁ、いいけど。
 つうか、これ、現実に持って行きたいわ。
 少なくとも、生活レベルが向上する。

 いかんいかん、VRと現実を混同してる。
 夢見がちな厨二病にはならないと心に誓っていたというのに。
 やばいやばい。

 ともあれ、南コースの町一つを終え、俺は再び旅立つことにした。

「そのまえに、ログアウトだな。さすがに長丁場をこれからするってのは勘弁だ」





 とりあえず、本日はセーフ。
 おむつの消費量が少ないのはいいことだ。

 町クエの概要を俺のブログにアップすると、すかさずアンチが禁止文字を書き込んで自動消去されてゆくのがおもしろすぎる。
 禁止文字を書き込みすぎるとIP単位で締め出しをしているので、そのうちゲスト書き込みはなくなるだろうと思っていたんだが、手を変え品を変え、様々な手法で書き込んでくる。
 つうか、プレイ人口が少ないVRのプレイブログなんてものに何で熱心に書き込むかね?
 その熱意をもっと別に向けるべきだろう、うん、俺いいこと言った的なことをブログに追加で書いたら、禁止文字書き込みが三倍に増えた。

 おもしろすぎ。

 とりあえず、ゲストが書き込めるボードとは別に、VRプレイヤー用のボードを作ったら結構前向きな話が進んでいて助かる。
 ここの書き込みをしてくれる連中になら、俺のアビリティーを公開してもいいかもしれないと思わなくもないが、まぁ、青春小僧じゃないので仲間気分で暴走はしない。
 ゲスト書き込み可能な部分には、外部向け目玉の「VRダイエット」ボードがあるのだが、ここには荒らしがこない。
 あれか、やっぱ。女性怖い、もしくは荒らしが女性である可能性がある、かな?
 後者だと本気で怖いぞ。







 しばらく連休がなかったため、コマメなレベルアップやモフモフに興じていた俺だが、明日からの三連休に向けて隣の町への進路上にあるボスを倒すことに決めた。
 今回はケモラーの方々とPTを組んでアタックするものの、実際にボスアタックするのは俺だけ。
 残りのケモラーの方々は、ボス部屋の外で実況するとか。


 プレイスタイルって色々あると思うけど、彼らは、こう、キテるなぁ。


 で、ボス部屋までPTアタックしていたんだけど、彼らは狂喜乱舞だった。
 彼ら曰く、このルートで始めてみる獣ばかりなのだそうで、中にはテイムに成功した人間もおり、俺がボスアタック中に検証班が同じルートを検証することになっていたりする。
 あまり同じフィールドに人間を増やすと、倍率が下がるんだよなぁ、とぼやくと、結構多数派であるケモラーの中でも倍率が高い人間しか今回参加させないということになっているので安心してほしいとの事。
 なんとも痒いところに手が届く対応で。

 で、ボス戦。

 ノーマルでは魔物の狼王、部下の狼集団。
 で、俺の場合、大神女王を筆頭に、狼王三体。
 加えて部下狼は、騎士狼が12体。
 ・・・なんて虐め?

『はじめまして、人間よ。ソナタが小猿を下していい気になっていると聞いてな。この大神の森が雑魚とは違うところを見せてやろうぞ?』

 真っ白で巨大な狼、大神女王が真っ白なドレスを着た女性に変化する。

『はーん、いぬっころ。おまえ、妾と主のラブラブ生活に嫉妬しておるな? 部下はおっても男がおらぬ乾いた生活の自分と見比べて嫉妬しておるな?』

 小猿状態から美女形態に変化した羅豪が俺にしなだれかかる。

『嫉妬ちゃうわ! うやましくもないわ!! 乾いた生活などしておらぬわぁぁぁ!!!』

 半泣きで叫ぶ様は、まるでバンダナ煩悩少年のよう。
 ああ、涙を誘われるなぁ。
 あ、部下狼集団に「混乱」の付加が付いてる。
 あはは、すげー。

『ほぉ、では、この森に入ってから粘り着くような視線で覗いておったのは、おぬしではない、と?』

 そういえば、羅豪が妙に周囲を見回してるなぁ、と思っていたんだけど、そういうこと?

『そうじゃ、主。あの干物女が愛ある我らの生活を羨んで、ずっと覗いておったのじゃよ』
『ちゃうわ、のぞきちゃうわ!! 監視、そう、監視!! 不審者が森に入ってきたから監視してただけじゃい!!』
『ほぉ、では主が妾で「モフモフ」してたときに、劣情まみれの視線でみていたのも、監視じゃったと?』
『そ、そ、そうよ、そうよ!! 神聖なる大神の森で、いかがわしい行為を繰り返す不埒ものを監視してたのよぉ!!』
『そうかそうか、さみしいよのぉ。モフモフしてくれる相手もおらぬ独り身を自分で嘗めて癒していたか。それを何というか知っておるか? 自慰というらしいぞ?』

『『『『『ぐ、ぐ、ぐ、ぐがががががががが!!!!』』』』』

 真っ赤になった女性は、一気に大神形態へと変わり、真っ赤な瞳を光らせる。

『よくいった、この小猿! おまえを倒しておまえの男をもらい受ける!!』
『っは、男日照りのいぬっころが、愛に満ちあふれた我に勝てると思うなよ!?』

 羅毫もキングコング状態になって迎え討つ。

「あー、羅豪」
『なんじゃ、主』
「今度その格好でモフモフさせろ」
『・・・ブレんのぉ、主は』

 苦笑のようなものを浮かべて、羅豪は大神に躍り掛かっていった。
 で、一騎打ちの大神と羅豪はそこそこに。
 俺はいつもの援護をすることにした。

「エンチャントアロー『土』」
『『『『『ぎゃわん!』』』』』
「エンチャントアロー『緑』」
『『『『『ぎゃぴぃぃ!』』』』』

 んー、穴+フラワーコンボはキクなぁ。
 がんがんHPバーが削れてるもの。
 加えて攻撃手法が塞がれてるので、狼部下連合はこのまま退場っぽいし。
 未だ周囲の部下の状況に気づいていない大神は、このまま羅豪に討ち取られて終了かな?





 しばらくして、部下狼たちが全滅していることに気づいた大神は、逃げようとしたんだけど、退路にフラワーが密集していることに気づいた。
 舌なめずりで口をパクパクさせている。
 このままつっこめば、レーティングに引っかかる方々にはモザイクで表現される「こと」になるだろう。

 ガクガクと身を震わせた大神は、自らの負けを宣言した。

『隠れボス、大神女王が降参しました。以降、大神女王はあなたの僕として付き従います』

 思わずみると、大神は美女形態になって俺の横に立っていた。

『あ、あの、主様。これから、幾久しく』

 ぽん、と大型犬ほどになった大神が、何かを期待しているかのように俺を見上げている。
 そうか、そうか、そうであったか。
 ならば答えは決まっている。

「モフモフじゃぁーーーーーーー!!」
『あひぃぃぃぃぃ♪』

 じっくりじっくり、人目があるのも気にしないでモフりまくった俺だった。






 勇者のご乱行と称されたスレには、当時のスクリーンショットが付加されており、時間経過とともにアヘ顔になる大神の顔がアップにされていた。
 そうかそうか、それほど良かったか、うん。
 で、つづいて羅豪もキングコング形態でモフったら、いろいろと漏らした感じになって気絶した。
 その時系列がボス戦よりも詳しく書き込まれており、まさに勇者の所業と褒め称えられていた。
 あまりに衝撃的な映像なため、運営からモザイクが追加されたのだが、モザイクばかりかイヤラシさとか背徳感という感覚まで追加されたのは想定外の話だろう。
 自分のブログにも、新しくテイムしました、というスクリーンショットアップしたところ、羨ましいの書き込みだけで書き込み上限に達してしまった。
 まぁ、おれも他人がモフモフ天国状態になっていたら嫉妬するだろうな、うん。
 逆に、ヘイト書き込みが減っている。
 あれだろうか、あれ。
 今の俺のブログって、ダイエット+テイムペットブログみたいなものだから、敵愾心がわかないとか?
 そうだと嬉しいんだけど、逆に困ることがある。
 そう、相手の性別が確証的に絞れてしまうから。

 こえぇ。







 VR式ダイエットとか本を書きませんかぁ? とかいう出版社の誘いはさて置き、ケモラーギルドの方々からオフ会の誘いが来た。
 ただし、オフ会の情報はブログに書き込まないでくださいとのこと。
 なんで、と聞いてみると、実は俺のブログは某掲示板でサンドバックブログとして有名で、あそこに禁止文字を叩き込めると勇者扱いなのだそうだ。
 で、様々なIPルートをプロクシ経由で書き込んでゆくうちに、国内ルートIPのほとんどが使えなくなってしまったという事態に陥っているとか。
 それで最近静かなのね。
 で、それでも注目して某掲示板に転載しているバカもいるので、動向がみはられているようなものだとか。
 つうか、参加できないゲームの内容を騒ぎ立てて何が面白いかね?

 まぁ、いいけど。

 それはさておき、ダイエットボードに書き込めば、チョットぽっちゃりさんだけど異性に興味のある女性が寄ってくるかもよ? と言ってみたがブレない様子を見ると彼女がいるのかもしれず。
 ちと羨ましい。
 というわけで、参加を表明して、その前日辺りに買い物をしよう。
 ネタは仕込むべきものだし。












 われらが勇者は本気だ。

 VRという世界でありながら、超絶モフ絶技でボスMOBをメロメロにしてしまう御技つかいにして高いコミュ力も持っている。
 今回のオフ会でも、なぜか大きな荷物を持ってきてるなぁ、と思っていたら、会場でびっくりさせられた。
 なんと、彼がVRでテイムしたボスMOBを思わせる真っ白なサルと犬のぬいぐるみを持ち込んでいたのだ。
 さらにびっくりすることに、こんなことを言う。

「見た目よりモフ感が似ているものを選んで持ってきました。VRだと無理ですが、リアルのこの子達なら存分にモフってください」

 もう会場は完全にモフり祭り。
 色々と企画していたのに、完全に持って行かれた。

「・・・勇者どの、さすがですなぁ」
「リアルで勇者とか言われると、ちょっと痛いよね」

 いやいや、勇者でしょ、あんた。
 彼女に振られたのがVR開始の原因だって聞いたから、綺麗所を連れて来たっていうのに、そんなの全部振り切ってモフ祭開催って、あんた本当に勇者すぎだって。

「ね、ねね、勇者様。この子たちって最終的に、お持ち帰り?」

 すでに勇者を落とすとかいうセリフを忘れた女子に、勇者は大量のカードを見せる。

「はっはは~、こんなこともあろうかと、こんなこともあろうかと! パーティーグッズ屋でビンゴカードを仕入れ、さらにはビンゴ発生器アプリもDL済みだぁ!」
「「「「「きゃーーーーーー!!!」」」」」

 本当に勇者だわ、この人。
 なんでこの人振られたんだ?
 これだけ勇者なら、絶対に独占したいだろ、普通。

「いや、男前すぎる彼氏って、絶対に抱えるのに苦労するって」
「私には抱えきれないかなぁ・・・」
「異性同性にモテすぎる男、まぁ、彼氏には向かないわぁ」

 大騒ぎのビンゴ集団の外で、企画者たちが肩をすくめていた。

「ま、俺たち公認の勇者ってことで、抱え込んでいればいいんじゃね?」
「「「同意」」」

 結局、モフ人形はモフラーギルドでも重度のモフリスト達が手にしたことで、求めるものが求めるところに行くという現実が見られた。
 とりあえず、同型を、とタグをチェックしている娘たちに、勇者は同じ製品でもモフに差がある。
 固すぎてもやわらかすぎてもだめ、とか、かなり重度のモフラーであることを証明する何かがあったわけで。
 本来であればドン引きのセリフも、このケモラーギルドでは神の言葉にも思える言葉だったりもするのが何とも。






 先日のオフ会、うちのブログにも専用ボードを追加して当時の写真をどんどこアップ。
 さらには持ち込んだぬいぐるみとゲット者の写真も追加して、うちのことおしあわせに~とか書いたり。
 つうか、モフり度とか再現度を細かく書いたところ、参加者からのレスが大量に書き込まれ、随分と楽しいことになっていた。
 ・・・つうか、このボードの書き込みってVRの筐体経由なんだよな?
 だったら、あれじゃね?
 脳内アプリとか作れば、アクセスできるかも。


 そう思ったら吉日。
 浣腸で腸内洗浄して、○露丸で腸内活動を抑えて、全裸+オムツに換装して・・・。


「ログイン」









 ログイン中からの書き込みは好調。
 スクリーンショットもリアルタイムでアップできる。
 思った通り、と言うか、SPなしのアビリティーとして登録されていたのには驚いたけど、これ自体は「気づいた人にだけ表示される」モノだという説明が書いてあった。
 これを秘匿するのも広めるのも自由、とか書いてあったけど、まぁ、広めるわな、うん。
 だって、リアルでブログ更新って結構面倒なんだ。
 それを圧縮時間中に出来るなら、時間短縮にもなって嬉しい。

 というわけで、ケモナーな方々に同報メールでスキル公開したところ、ログイン中の方々からは感謝のメールが津波のように押し寄せた。
 まぁ、「さすが勇者(笑)」は嬉しくもないわけだが。

 というわけで、ブログ操作ができるなら、と外部接続した俺のPCも操作できるのでは、と繋いでみたら、割と簡単につながった。
 アプリも結構待つが起動できるし・・・・。

 はーはっはっはっは! つまりぃ! これでぇ! 仕事をすればぁ!!!
 圧縮時間で報告書とかプレゼン資料とか会議資料とかぁ!!
 あーーーーーはっはっは! 持ち帰り家残業が怖くなくなりましたぁ!!


・・・・・・


 すげー、VRすげー。
 正直舐めてたわ。
 振られ気分でやけくそプレイだったけど、今この瞬間から変わったわ。
 いやはや、この活用法は公開しない方がいいな、うん。

 というわけで、持ち帰り家残業を積極的にするようになった俺を、不気味そうにみる上司がいたとかいないとか、そのへんはほら、結果主義のサラリーマンでよかったね、という事で。






 最近、敵のいないエリアで日向ぼっこをしながら羅豪とシリウスを膝に乗せて、見た目お昼寝、実際は脳内で仕事と言う状態が多い。
 いや、多いというより、プレイ時間的には長くないのだが、こういう状態になる回数が増えた。
 基本、仕事を持ち帰ることが少なかったんだけど、プレイ時間中ならモフりながら仕事ができるという時点で俺にとっての仕事場の重点がVRに移ってきてしまっている。
 正直に言えば、出勤している時間、モフりがなくて禁断症状を覚えるレベルだ。
 仕方なくファーアイテムで誤魔化してるのだが、手垢がすぐついてしまい消費が激しい。
 在宅勤務とかできたら、本気でVRから出てこない生活になるかもしれない。

 一日中寝たままで筋肉は衰えないのか? という疑問もあるが、現実的に言えば衰えるどころか増える。
 何しろ、インナーがズタズタになるほど細かく動くのだ。
 プレイ中に酷使される筋肉を考えれば増えるに決まっている。
 で、脂肪も落ちるという事で、スーツが合わなくなって困っている。
 その辺、女子社員にも聞かれるのだが、初期投資の激しいフィットネスみたいなことをしてるので、やめるにやめられなくて、と話している。
 大半の女子社員はそれで納得する。
 自分にも思い当たるからだ。
 が、数少ない女性社員が食いついてきた。

「・・・あのブログのプレイヤーでしょ?」

 どうやらあのブログの閲覧者だったらしい。

「嘘は言ってないよね?」
「真実からほど遠いわ」

 とはいえ、あのVRを女性に勧めるのはどうかと思うのだよ、うん。
 そういうと、たしかに、と苦笑いの彼女。

「ねぇ、基本が全裸+オムツって本当?」
「マジ。俺の知ってるプレイヤーさんは全員そう。あと、接客でシステム側から参加してる水商売のお姉さんたちは、VR内を防水シートで覆って全裸だけだって言ってたよ」

 出してしまった責任は自分で、と言う男前な方向性だと思う。

「そう、そうなの・・・・。ちょっと勇気が居るわね」
「踏み出さなくてもいい類の勇気だけどね」




 とかなんとか言っていた彼女だけど、ボーナスつっこんで一式そろえたとか。


「というわけで、手引きしてくれないかしら?」
「了解」


 なぜ簡単に了解したかというと、彼女がおれと同等の圧縮率を持っていたことと、初心者技能履修第二位だったことが関係している。
 つまり、俺と同じ状況の再現で手探りだった俺のプレイが再検証できるというわけだ。
 加えてコンビプレイというものにもあこがれているわけで。

「そんなわけで、Wikiを一切参考にしないで、独自路線で行きまーす」
「・・・えーっと、Wikiってなに?」
「そこからか」

 とまぁ、完全にネットゲーム初心者が無茶苦茶な初期投資をしている気がするが、気にしない方がいいだろうか?

 始まりの町で完全にリプレイしているつもりだったんだけど、俺のPTということで、色々と割引が聞いたりボーナス的な副次効果があり検証にあまりなっていない気がしてきた。
 が。
 彼女のほうは初めてプレイするゲームがVRということもあり、最初は戸惑っていたが、今ではかなりエンジョイしている。

 最近では、どうも「モフ」に興味が移ってきているようだ。
 羅豪とシリウスという二大ケモモフに興じる俺をうらやましそうにみていたりするのだ。
 試しに羅豪のしっぽでモフったら、失神ログアウトしてしまった。
 しばらくログインしてこなかったので何かと思ったあら、失禁まで行ってしまったようで。
 申し訳ないやらなんやら。


 お詫び代わりに謎金属製のナイフをプレゼント。

「あのぉ、この鑑定不能な材質って、なんですか?」
「鑑定が初心者じゃなくなれば解るから、がんばって」


 とまぁ、そんなこんなしているうちに始まりの町クエスト群を彼女もクリアー。
 黄金証をゲットしていた。
 ただし、この始まりの町クエスト群をクリアーしても俺と同じ成長はなかった。
 これは俺が同行したせいなのか、はたまた彼女の個性なのかは解らないが、どちらかというと彼女は先頭特化型だった。
 攻撃力は俺の倍はある。
 しかし生産能力は半分以下。
 どのへんで分かれ目が出来たのやら。

「・・・あー、わたし、リアルでもぶきっちょで」
「解った、もう聞かない」

 やはりリアルは結構影響しているらしい。

 ともあれ、彼女も新たなるモフを探すために北ルートで進軍することが解った。
 クエスト中、彼女のMOB出現傾向が俺と同じなので、新しいレアMOBへの期待が高まるらしい。
 この動向にはケモラーの方々も注目しており、細かなレポートを彼女が依頼されている。

「というわけで、頑張れ!」
「うん、このナイフに誓って」

 俺が渡したナイフが、店売りの武器よりも遙かにいいため、現在メインウエポンになっているとか。
 あ、そうそう。

「今までの傾向として、ボスモブの周辺を先に惨たらしく攻略すると、降参しやすいみたいだよ」
「参考にする」

 いろいろと決意を秘めた瞳で俺を見返した後、北への道を進んでいった彼女だった。
 がんばれ、モフ系女子。
 その先はオムツ購入量増加だが、益するところも多いはずだ!

 ・・・たぶん。






 HPのリンク先が増えた。

「実践 女のVR」

 例の彼女のHPだ。
 リアルの体重やら体のサイズ、体脂肪率なんかをマジ更新しつつ、ログオン前と後でどれだけ変化したのかを克明に記している自爆サイトだ。
 そしてモフラーの中でも伝説的なテイムとされている、フェザードラゴン(幼生体)のテイムに成功した存在でもある。
 なんでも、北ルートに行っていたはずが持ち前の方向音痴で隠しルートにはまりこみ、ボスアタックになったらしいのだが、その相手がドラゴン(成竜)だったりした。
 これは死んだか、と覚悟したそうだが、二体の竜の真ん中にある卵をみて燃え上がったそうだ。
 絶対にテイムする、と。
 で、そこで俺の忠告が頭を巡ったそうだ。

『ボスモブの周辺を先に惨たらしく攻略する』

 明らかにおかしい発想だが、二体を惨たらしく殺せれば自分のものになると思いこみ、リアル時間一時間の激闘の上で下したそうだ。

 まぁ、惨たらしく殺す事は出来なかったらしいのだけれども、卵の主として求められたとか。
 で、生まれたのがフワフワモコモコの羽竜。
 もう毎日が失神で、オムツ代が厳しいとか緩んだ笑顔で毎日ブログが更新されている。
 このおかげで、彼女は「女勇者」と男女ともに敬意を込めて呼ばれている、らしい。

 この忠告、じつはモフラーの中でも定着しつつあるようだ。
 というか、テイム率が一桁上がるというデータもそろいつつあるという事で、テイム希望者の中では「天の声」とかいうあだ名もあるらしいが、未だ照合になっていないので数は少ないのだろうと思う。

 正直、最近増えた「極上変態野郎」という称号が何故ついたのかが疑問なのだが、まぁ気にしない気にしない。

 本日もログインのための準備は完了した。
 さぁ、ログインだ、というところで電話が鳴る。

 相手は「母親」。
 何事だ、と受けると、なんと父が事故にあって半身不随になってしまったというのだ。
 父の仕事は会計士なので、下半身不随程度なら仕事に差し支えないが、右半身不全という状態は致命傷だ。
 こりゃ、参ったな・・・。

 そんな会話をしているところで、ふとVR筐体が目に入った。
 ・・・そうか、そうだ、そうだった!
 おやじの仕事の形態なら、いけるんじゃないか!?

「お袋、取り乱さずちゃんと聞いてくれ。その上で判断してくれ。たぶんうまく行くから」






 実家の貯蓄を考えれば、両親のVR端末の購入など全く問題ないのだが、会計仕事用にリンクさせるPCがノロいと中で面倒なので、俺が一から組み上げた。
 会計専用なのにネットワークと外部ポート強化型というアンバランスな設計だけど、でも、うまくいく。

「う、うわわみ・・・・(す、すまない)」

 涙を流して自分のふがいなさを嘆く父。
 でも安心してくれ。
 向こうでなら五体満足で、その上で仕事がバリバリ出来るのだから!!

「本当に、お父さんは大丈夫なのかねぇ?」
「それを確かめるために、母さんも一緒に行くんだろ?」
「・・・そうなんだけどねぇ」

 仕事の助手でもある母さんが一緒にログインしたり必要な資料を伝しかしたりを引き受けてくれる関係で、中からどんなことが求められるかを体感してもらおうという、実に贅沢な理由でVR筐体を導入してもらっている。

「でも、本当にこんな格好じゃないとだめなのかい?」
「父さんとお揃いだよ」

 半ばマッパ+オムツの両親を明るいところでみるというのは引く思いだが、うまく行かせるという思いで、どうにかこうにか無視。

「じゃ、向こうでチュートリアルが終わったら、メールを出してみてくれ。おれのスマホで受けられるようにしてるから」

 で、両親のログアウトを一時間ほど待っていたところで、メールが届いた。

『息子へ:信じられないほど健康な体を堪能している。中で母さんとデートしてくるので、しばらく時間をくれ』

 何とかうまく行っているようだ。
 ・・・お、またメール。

『息子へ:お父さんが、若返った昔のままで、うれしすぎる。ありがとう』

 ・・・良かったな、母さん。
 でも、再び目を覚ましたとき、父さんのギャップがもの凄いはずだからケアしてあげてくれよ、と。

 そんなメールを送ると、短く「はい」と返信が帰ってきただけだ。
 その後、一度ログアウトしてきた父は、なぜか言葉だけ結構うまくしゃべれるようになっており、翌日に病院に行ったところ、原因は不明。
 だが、何らかの理由で、本来使っていた脳回路とは別の回路が形成されていて、そこを使えるようになった可能性がある、ということだった。
 両親は不思議なことがあるものだ、と思っているようであったが、俺には一つだけ思い当たるところがある。

 それは、VR。

 脳がVRで使用するために言語野を仮想して、その使い方を脳加速状態で長時間訓練した為ではないか、と。
 下手に知られれば妙な騒ぎになりそうだが、せめて父さんの具合が良くなるか、VR経由の仕事が軌道に乗るまで隠しておければいいなと思う、俺であった。






 ログオンすると、日々のリハビリ状況や仕事の状況なんかがメールで来るようになった。
 やりやすいこと、やりにくいことなんかを纏めて機材更新したりソフト導入したりしている影響か、父さんが中々ログアウトしなくなったと母さんが泣いている。
 右半身不全というのが、首から下が、という但し書きになってから、父さんは猛然と仕事をVR経由に変更してゆき、けがをする前より熱心になったほどだ。
 客先との打ち合わせもネットミーティングをつかいつつ、共有データを指さしながらとかしているそうだ。
 収入もかなり上がっているそうで、車をバリアフリーにしたと笑っていた。

 母さんの不満も父さんに構ってもらえないという思いが根本にあるからなので、仕事以外のログインは二人で遊べばいいと話してからは、わりと二人でログインというのが続いているようだ。

 随筋の反射動作がインナーをずたずたにすると言うVRで、右半身不随のはずの父さんもインナーがずたずたになることが解ってから、夫婦でのVRリハビリが始まった。
 主に右側だけ、左側だけという運動を繰り返すことで、本体の体にどんな影響があるかを、どんな追従をしているかを詳細に調べることで、同じような症状の人に勧められるのではないかと考えているようだ。
 一応、二人が完璧だと思うまで公表は待ってくれといっておいてるし、VR内での仕事も秘匿してほしいとお願いしている。
 懸念されることを一通り話しているので理解してくれているのだが、@@さんには勧めたいのだがなぁとかいろいろと柵を感じさせる言葉が多く聞こえるようになってきた。
 正直、両親が矢面に立つぐらいなら俺が発表した方がいいのだ。
 このままでは、知り合いの知り合いみたいな人間関係に漏れて、バカな権利主張や商標登録騒ぎに巻き込まれる可能性が高いのだ。
 だから、出来るだけ父さんの症状を改善させ、一般生活に問題ない程度まで回復してから発表する流れにしたいと考えている。

 確かに同病哀れむ思いがあるかもしれないけど、自衛できてこそ他人を思いやれると言うものだ。
 逆に、自分以外誰網膜行かなくて恨まれるとかあったら面倒すぎるというものだ。
 人のいい両親はそこまで人を疑うことをしないのだが、おれは出来るだけ疑うことにしている。

 勿論、自分や家族が傷つけられないために。
 それ以外何があるというのだ。






 半年ほどして、父さんの麻痺は下半身の右半分にまで狭まった。
 もう家の中を車いすで動き回れるどころか、松葉杖で階段だって上れるようになってしまった。
 右半身不随なんて嘘のようで、母さんも涙を流して喜んでいる。
 とはいえ、仕事はまだVR経由。
 というか、必要資料を電子化したらVRにこもりっきりと言う状態になってしまった。
 まぁ、意図的に体を鍛えることも出来るので、仕事以外の時は母さんも一緒に潜っているという鴛鴦ぶりらしいけど。
 で、結論的に言えば、両親の負担も少なかろうという事で、VR仕事以外のリハビリ部分を、運営にぶっちゃけることにした。
 驚いたのは運営。
 そんな仕様で作っていなかった、と大騒ぎになったのだが、父さんのログイン記録や動作ログから本物であると判断し、極秘プロジェクトとして国立医学院とともに検証が開始された。
 立証の暁には、うちの両親への取材申し込みがあるという事と、その際の収入などの契約も結び、検証待ちという状態になった。
 父さんのリハビリもかなり進み、足首から先の麻痺という正座でもしていたんですか? という状態まで改善している。
 これは中で自由奔放に動き回る記憶のある父さんの脳味噌が現実にすり合わせをしたかのような感じだと思う。
 その辺は才能かもしれないので、再現率はどういうものになるのか不安も大きい。

 でも、VRしててよかった、と改めて思わされた。
 始まりは、振られての自棄だった。
 そのVRのなかでいやされて、そして両親の危機も救うことが出来た。

 終わりよければすべてよし、そう思えるかもしれない。


「・・・ん、メール?」

 スマホでみる送信者は、元彼女。
 メアド変えたのによくたどり着いたな、と苦笑い。

「お住まいを変えたんですね、会って話せませんか、か」

 もちろん、ノー。
 もう俺はVRを始める前には戻れないのだから。

「さってと、羅豪、シリウス。モフりまくるぞ」

 ログイン準備を終えた俺は、マッパ+オムツでVR筐体に潜り込むのであった。
というわけで、霧がいいところまでかけた話でしたw

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