表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
86/98

運命は自分で切り開く!

 俺の前には右往左往している仲間達と俺と外見から装備まで瓜二つの男、そしてニヤついているトスカリー様がいた。


「どういうことですか?試練は終わったと聞きましたが」


 半ば展開が読めてしまう自分が憎い。

 この事態になっていても冷静にトスカリー様に聞いてしまう。


「いや、ね。一個目の試練自体は終わりだけどね、あんまり簡単に終わってしまって興ざめだからね、延長戦とでもいこうかと思って」


 何も悪びれる要素はないとトスカリー様はすました顔でそう言った。

 誰だ、トスカリー様の本質が真面目だと言った奴は。


「お遊びみたいなものさ。さっきみたいに本物をナイフで刺したら消えるとか、会えなくなるとか違うから。私が見たいだけの話ってだけで。

 もし刺さってもチクっとするだけ、チクっとするだけだから」


 トスカリー様はナイフをもてあそびながらそう言った。

 やらないでいいのなら、やらないで欲しい。

 刃渡り二十センチは超えていそうなナイフが光を反射してきらめく。

 ………チクっと?


「では、さっきは響君にナイフをだったからね。逆といこうか」


 ナイフをアルへと渡す。

 アルがナイフを取った瞬間、ナイフの大きさがアルの手に合うように小さくなった。


「おぉ!凄いのじゃ」


「自動調整って言う奴なのかしら、防具ではあると聞くけど、武器で見たのは初めてだわ」


 ベクトラとリンが歓声をあげる。

 自動調整というのはアイテムを装備する際に装備者の体格に合うように自動的にサイズが調整される機能だとか。

 勿論、補助効果に属されるもので全てのアイテムについているものではない。安物でもこの効果がつくと価格が跳ね上がるそうだ。


「ふふふ……」


 そして、アルが怪しい笑い声を出す。

 顔を伏せているので、表情が見えない。


「あ、アル?」


 俺と偽物はアルに声をかける。

 アルのサイズに合うように調節されたと言っても、アルの体格ではナイフというより剣。それも大剣と呼べるものだ。


「ふふふ……ついにこの機会が来ましたか。アポロさん、信じてください。サクッと決めちゃいますので。なーに腕に刺したら死にはしません。それに、刺さってもベクトラさんが回復魔法を唱えてくれます」


 その言葉で何を信じろと言うのだろうか。


「拙者の!拙者の出番じゃな!」


 それにベクトラはベクトラで何故か張り切りだすし。


「よし……」


「やるか」


 偽物と顔を見合わせて、鏡合わせのように俺達は互いに剣を抜いた。


「勝った者が本物だ。それで文句はないな」


「ああ」


「って何決闘を始めようとしているんですか、この人達!?」


「アル、信じてくれ。本物が勝つって」


「ああ。偽物が本物に勝てる道理がないってことを見せてやる」


「格好良いことを言ってるようで、滅茶苦茶なことを言ってますよね!?

 ルール無視してますよ!私がナイフを偽物さんに刺すのですよ!」


「俺達はアルに手間をかけさせないようにってなぁ」


 と偽物が俺の顔を見ながら同意を求める。

 俺は剣を収めて腕を組み、


「老婆心とか親切心で言ってるんだ。アルに任せちゃおけねぇって」


 偽物の言葉に頷いたのであった。

 見れば偽物も同じように剣を収めて腕を組んで頷いている。

 ある意味面白いな。

 本当に自分がもう一人いるみたいだ。


「君達の絆が本物なら、きっと偽物がわかるはずだよ」


 トスカリー様が手をヒラヒラと振りながら俺達に声をかける。

 もう片方の手はコップがあり、透明な泡のある飲み物が中に入っていた。

 炭酸飲料?

 ほんと、観戦気分だ、この人!


「この試練ギブアップで」


「ああ、無理だ。絶対無理だ」


 俺達は悲しそうに顔を伏せて首を振る。

 適当に選んでも半分は当たるはずだが、それにかけるのは嫌だ。

 観戦しているトスカリー様に対してうめく。


「何で諦めてるのアポロさん達!?

 絆めっちゃありますよ、私とアポロさん!

 一目見た瞬間偽物がどっちかわかりましたもの!」


 アルはうししと意地の悪い笑みを浮かべながら、俺を見た。

 偽物じゃなくて、本物の俺を。

 おい。


「ほんと!?」


「流石じゃ、アル殿。一見しただけでわかるとは!」


 仲間達はアルに称賛の声をあげる。

 アルは口端を歪ませたまま、俺を見続ける。


「ええ、いくら姿形を似せようが、偽物さんには中身がないのです。私にはそれがすぐにわかっちゃいます。考えて見てください。最初の立ち位置にいたのが本物に決まってますよ。後から増えた奴が横にいるのです」


 前半と後半矛盾してないか。

 判断基準が位置だけじゃねぇか。


「おぉ!言われてみればそうね!」


「ククッ……」


「ふふふ、もし本物に当たっても日頃の折檻の怨……いえアポロさんとの絆を見せてやりましょう!」


 俺を見ながらナイフで刺す素振りをみせる。


「怨みって言いかけてなかったか、こいつ!?」


 本音と建前と言うか、言葉の前半に完全に本音が出ていた気がする。

 ネタだと思いたいが、断言できる自信はない。


「ふぅ」


「ふぅ」


 俺達は溜息をついた。

 アルには偽物がわかっているようだ。すぐにも刺さんとウズウズしている。

 ならば刺される立場の俺達に出来ることは一つだ。


「俺を刺したければ、実力で刺すがいい」


「全力で阻止してやる」


 俺達は再度剣を抜き、アルと対峙する。


「この人達、本当にルールを理解してないですよ!」


「運命は自分で切り開くものだ」


 なぁ、と偽物に聞くと。


「ああ。そうやって俺は生きてきた。これまでも、そしてこれからも」


 偽物は頷いて剣を構えた。

 剣を耳元近くまで高く掲げ、左足を前に出すその八双に似た構え方は薩摩に伝わる示現流!

 一の太刀を疑わず、二の太刀要らずといわれた流派の構えだ。

 こいつも本気だ!


「こないなら、こちらから行くぞ」


 俺も本気にならねばならないようだ。

 俺も偽物にならい剣を上段に構え、攻撃重視の構えを取る。

 アルから見たら、瓜二つの人物が同じ構えをとって敵対しているように見えるだろう。ゲームの敵、それも雑魚キャラを想像してしまう。

 ハハっ、自分のことながらどこか滑稽だ。


「何で戦うことが前提になってるの!?」


「この部屋では戦闘禁止だよー」


 間の抜けた声で、トスカリー様は飲み物片手に俺達の聖戦を止める。


「チッ……命拾いしたな」


「いつか、殺してやるからな」


 俺達は剣を収めながら、アルに悪態をつく。


「何で敵みたいな台詞吐いてるのこの人達!?」


「いいから、早く刺してー。

 刺せー」


 外野から力の抜けたやじが飛んでくる。

 勿論、トスカリー様だ。 

 気が緩み過ぎではないか、この人。


「フフフ……いきますよ」


 その声援を受け、アルは怪しい笑いを浮かべながらナイフを握りしめる。


「本物に当てた瞬間、首をはねるからな」


「覚えていろよ」


 俺と偽物はアルに向かって言う。

 刺される覚悟は出来たが、それはそれだ。


「凄い脅しきましたよ!凄く、刺しにくいですけど!?」


「大丈夫じゃ、アル殿。絆、主殿の絆があればきっと……!」


「きっと何なのです!?」


「…………」


「黙らないでくださいよ!」


「さぁ、アル殿。さくっとまいりましょうぞ。偽物がおったのでは落ち着かぬ」


「普通に流しましたよ、この人!?」


 そこでアルは咳をして、空気を入れ替える。


「いいでしょう。私は私の信じる道をいきます。

 偽物に刺せればいいんです!偽物に!」


 力強くナイフを握りしめ、アルは言う。

 強い決意が目に宿っている。


「アル行きまーす」


 その言葉と共に、アルは動いた。

 全速力に近い速度で俺に向かってくる。

 剣先を俺へと突き立てようと突進する姿に躊躇はない。


「ッツ!」


 俺に当たると思った瞬間、アルは直角を描くように方向転換をして偽物の元へとぶつかっていった。


「ぐはっ……」


 ナイフが刺さり、偽物は信じられないと言うかのように大きく目を見開く。

 アルがナイフを引き抜くと、偽物は口から血を滲ませながら、空気に溶けるように光の粒子を全身から撒き散らし、消えようとしていた。


「ぐっ、よくぞ……見抜いたっ……」


 アルの偽物を刺した時とは違う演出。

 すぐには消えずに根性でその場に生き残っていた。

 キラキラと昇天しそうになりながらも、偽物はうめく。


「ベクトラ、何か喋りだしたわよ」


「しっ、いい所じゃから黙っとくのじゃ」


 ダラダラと血をこぼしながら、偽物は俺を見る。

 刺した場所は腕なのに、口から血が出るのはおかしいとは言えない雰囲気だ。リンも困惑しているし。


「願い、が……ある」


「なんだ?」


 偽物、それも出会ったばかりとはいえ、俺と同じようなものだった。シンパシーを感じないと言えば嘘になる。

 最期の望みを聞くのはやぶさかではない。


「アルを……アルを……ぐほっ……」


「私!?」


 言葉の途中、偽物は咳き込み血を吐き出す。

 偽物は手で口を塞ぎ、血がアルにかかるのを防ぐ。

 話題の渦中に引きずり出されたアルが持っていたナイフを落とす。

 ふかふかの絨毯は音もさせず優しくナイフを受け入れた。


「ア、ル…を……アル……を……」


 死に絶えながらも、懸命に俺に伝えようとする。

 アルを思うその気持ち、偽物とはいえあっぱれと言えよう。


「アルをどうすればいいんだ?」


「アルを……ぶん……殴ってくれ……」

 

「わかった!」


 俺は偽物を安心させるように力強く頷いた。


「偽物さんは死に際まで私をいじめようとしてますよ!」


 偽物は俺の決意を見て、ふふっと力無く笑った。

 もう限界なのだろう。

 体が沈み込んでいく。膝が地面に着き、偽物は最期に天を仰ぐように天井を見つめ、

 

「よ……かっ…………た」


 その言葉を残し、天へと昇天したのだった。

 キラキラと光る粒子が天井へと向かい、空へと昇る。

 偽物は逝ったのだ。


「お前の願い、俺が果たしてやる!」


「イヤイヤイヤ、偽物さんの言葉は嫌がらせ以外の何物でもないですからね!

 なに感動して私を殴ろうとしてるんですか」


「でも、遺言だぜ?遵守しないと」


「なに、故人っぽくしてるんですか!

 私の偽物と同じく聖霊様に造られた非生命体ですよ!」


「足腰立たなくなるまで殴るのと、言語を喋れなくなるまで殴るの、どっちがいい?」


「最悪の二択突きつけてますよ、この人!?」


「え?骨という骨が粉々になるまで殴れと?そこまでの覚悟を決められたらなぁ、俺も嫌とは言えん」


「何も言ってないですよ!?より悪化してますし!?」


「しかし、最期の別れは圧巻じゃったな」


「ね。ちょっと私も感動したわ。

 死に瀕してもアルを気遣う様子はアポロっぽかったし」


「全然私を気遣ってないですよ!雰囲気に惑わされてますからね!

 殴れとかありえないですからね!」


「ハイハイ、予想通り偽物を刺しちゃったし次の試練に行こうか」


 パンパンと手を叩いて、トスカリー様が声をあげた。

 その言葉で俺達はトスカリー様の方向を向く。

 気がつけば、トスカリー様の手にはグラスはなくなっていた。


「んじゃ、場所を移動しようか。この部屋では手狭だからね」


 眼鏡のブリッジを指で押し当てながら、トスカリー様は言う。

 手で完全には見えないが、口元は弧を描いていたように見えた。


「悪いけど、先に行ってくれないかな。

 場所はここを出て左にまっすぐ進んだ所に部屋があるから。その部屋で私が来るまで休憩しといて」


 手を顔から離したトスカリー様の顔は見慣れた柔和な笑みだった。

 気のせいか。

 アルが落としたナイフを拾い上げ、ヒラヒラと手を振る。

 出て行けということらしい。


「わかりました」


 俺達は従うことしか出来ず、部屋を出る。

 俺達が部屋を出ると、扉が勝手にパタリとしまった。








「ふぅ」


 トスカリーはアポロ達が出て行ったのを確認すると大きく溜息をついた。

 そして、自身が持っているナイフをじっと見つめた後。


「シッ」


 部屋の隅に向けて投げ放った。

 ナイフは風を切り裂いて進み、一直線に部屋の壁に突き刺さろうとした。

 だが、壁に当たろうとした時。

 ナイフは突然、停止したのだった。

 物理的にはありえない動き。

 ナイフは空気中で動きを止めたのだ。落ちるわけでもなく、その場にとどまっていた。


「ひどいなぁ」


 その声はナイフの進行上から聞こえてきた。

 言葉とは裏腹に口調には笑いが滲んでいた。

 何もいなかったその場所に、中学生くらいの風貌をした金髪、金眼の少年が姿を現した。


「あ、神様。いたのですか」


 トスカリーは今気づいたとばかりに神に頭を下げる。


「嘘ばっかり。ほんと、トスカリー……ププッ」


「人の名前で笑わないでください!」


「ごめん、ごめん。トスカリー。つい、ね。思い出し笑いしちゃったよププッ。君の名前で笑ったわけではないさ」


 信じられないとジト目で神を見つめるが、どこ吹く風だ。


「しかし、ナイフを投げるなんて酷くないかい?」


 神は気にした様子もなく、笑いながら空中に止まったナイフをつまむ。


「神様がいるとは思わず失礼いたしました」


 トスカリーは頭を軽く下げる。

 感情を込めない事務的な動きだ。


「トスカリー、君はナイフを壁に投げる習慣でもあるのかい?」


「虫がいましたので、つい反射的に」


 淡々とトスカリーは神に言葉を返す。

 神はへぇと辺りに目をやる。

 主の性格を模したようなこの執務室は虫どころかホコリひとつ舞っていないようなこの部屋を。


「虫ねぇ……」


「はい」


「ほんとは八つ当たりしたくせに」


「神様!」


 その言葉で、初めてトスカリーの声音が乱れる。


「私がアルテミス様を取り返してみせます(キリッ)とか、所詮今まで生きてこれたのは運が良かっただけです(キリッ)とか、格好いいこと言ったのにねぇ」


「ああああぁぁあぁぁぁぁ」


 トスカリーは顔を真赤にさせて崩れ落ちる。

 神はその様子をさも面白いと頬を崩して笑い、


「必死にキャラを作って、響くんとやりあったのに。頑張って考えた偽物クイズも論破されて、キャラ作りしてることもバレちゃうなんてね。ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ、どんな気持ちなのか神様に教えてよ」


 トドメを刺しにいったのであった。


「いやぁぁぁあっぁぁ、もういやぁぁぁお家帰るぅゥゥゥ」


「残念!これから、次の試練もあるから帰れない!

 響くんが試練を終えるまで君の仕事は終わらず帰れないよ!まだまだ、君の黒歴史は続くドン!」


「いやぁぁぁぁあっっあ」


 トスカリーは四肢を床にくっつけてさめざめと泣いた。

 神は高らかに笑い、トスカリーは苦しみ続ける。


「ひぃひぃ、笑った。笑った」


 それから五分後。

 神はお腹を押さえながらソファーへと腰を下ろす。


「本当に暇なんですか、神様は」


 こちらも落ち着いたのか、神の対面に座る。

 目が少し赤いのはご愛嬌だ。


「忙しいよ。ただね、こちらの様子も気になって仕事もおぼつかないから、観戦しようかとね」


「それなら、この役目を代わってください!次の試練から交代で!」


「駄目、駄目。響くん達がびっくりしちゃうじゃないか。塔の管理者の代理がいきなり僕になったら。何か意味があるのかと疑るよ、彼は」


「そうですけどぉ……」


「それに。最初は試練の監督役は僕だったじゃないか。それをトスカリー、君が立候補したんだよ。仕事を奪ったのなら、責任を持ってちゃんと全うしないとね」


「…………」


 ぐうの音も出ない。

 トスカリーはガクッと首を下ろした。


「まぁ、君はアルを取り戻すことが望みだったからね。これ以上試練の監督をするのは嫌かい?アルを取った響くん相手の」


「私からアルテミス様を取ったのは神様のような気がしますが」


 ジト目で神を睨むが、神は素知らぬ顔で口端を上げるだけだ。

 暖簾に腕押しかと、トスカリーは息を吐き、神の言葉を返す。


「響さんに対して今はそれほど嫌悪感ありません」


「ほぉ!」


 興味深そうに神は身を乗り出す。

 トスカリーは言いたくないと苦虫を噛み潰した顔で対応するが、神はトスカリーにそれでと目を輝かせて、言うようにせっつく。

 トスカリーはその神の態度に言わないと駄目かと悟って、諦めたように小さく首を振った。


「アルテミス様と出会った当初を思い出しまして」


「へぇ!」


 神は更に目を輝かせる。トスカリーは言いませんよと前置きすると、神はええっ、と不満気に口を曲げる。

 トスカリーは詳細を言わない代わりに、話を続ける。


「昔出会った頃のアルテミス様を彷彿とさせましたからね。響さんとアルテミス様の印象が重なるってわかると、その衝撃で何故か怒りも霧散しちゃいました」


「アルと似てるねぇ……似てるかなぁ」


 神は首をひねる。

 いくら思い返して、似ている点が少ない気がするのだ。


「ふふっ、私がそう思っただけですから。よく考えれば似てない気もしますが、その時思ったんです。ああっ、この感じはアルテミス様だって。一度思ったら、中々以前の気持ちに戻るのも難しいです」


「僕にはわからないね。理解不能だよ」


 神はお手上げだよと手を上げる。

 女心と秋の空だねと結論づける。

 トスカリーはそれでもいいと顔をほころばす。


「でも、アルテミス様が響さんと出会った時から意気投合したと聞きましたが?お互い似たようなものを感じたせいでは?」


 その言葉に神は、んーと眉を寄せる。


「根っこの部分は確かにそうなのかもね。妖精になってからそれは顕著だし。まさか出会ってすぐにあのノリになるとは思わなかったよ」


「まぁ、でも……この結末が良かったんだと思います」


 穏やかにトスカリーは言う。

 この結末と言うのは、アルが響と共に異世界に過ごすというのを指している。そのトスカリーの落ち着きように神は眉を少し上げた。


「へぇ、僕は思いつきで響くんにアルをつけて失敗したかもと思ったのに」


「貴方がそれを言いますか……」


 言葉は不満気だが、口調は平然と落ち着いている。

 神はトスカリーに思うところがないと見抜き、


「ははっ、運命は不思議だね。だからこそ……」


 笑ったのだった。

 悪びれる様子のない神にトスカリーは何度目かの溜息をつき、席を立つ。


「行くの?」


 立ち上がるトスカリーを見上げながら、神は言う。


「はい。あまり待たせすぎるのも悪いと思いまして」


「じゃあ、最後に聞かせてよ」


「はい?」


「響くんの偽物当てクイズ、あれ本当は二つ目の試練の予定ではなかったかい?もしもの保険で考えていたと僕は予想しているんだけど」


 何でもない風に言っているが、これを言いたいがために話をしていたのか。

 トスカリーは思った。

 こちらを不敵に笑いながら見る金の双眸を一瞥して、


「考えすぎですね」


 トスカリーはその意見を一蹴した。


「そっか」


 神はトスカリーの言葉にあっさりと頷いた。


「んじゃ。いってらっしゃい。キャラ作り頑張ってね~」


 そして、嫌味たっぷりにこう言ったのだった。


「神様!本当にこの人は……っ!」


 人をくったような笑い声が執務室に響きわたった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ