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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
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関西人は下手な関西弁を使われると怒るでおまんがな

「では、アルの偽物ですが……」


 そこで俺は一端区切り、溜めをつくる。

 トスカリー様、リン、ベクトラ、そしてアル達の視線が全て俺に集まる。

 それを感じながら俺は口を開く。


「このアル達は姿形がどれも違い。更に微妙に、ですが反応というかおかしい部分がありました」


 俺は偽物が誰かと言わずにもったいぶって説明する。

 気分は探偵だろうか。

 ずばっと犯人を警察に伝え、容疑者を捕まえてから推理を披露すれば犯人も自殺しないのになぁと、とある漫画の推理探偵を思い浮かべながら話を続ける。


「これはトスカリー様の意図的な仕業。もっと言えば判別しやすいようにという配慮かもしれません」


 チラッとトスカリー様を見ると、苦虫を噛み潰した顔だったが何も言わなかった。

 トスカリー様が最初に言った『ヒントをポロッとこぼすとマズイからね』。これを恐れているから、なるべく喋らないようにしているのだろう。

 止める手がないことに、俺はますます調子に乗ってペラ回しを続ける。


「例えば、プロトタイプ」


 目線がプロトタイプに集まる。

 だが、プロトタイプはビクリと体を震わすだけで喋らなかった。

 ああ、本当にアルみたいだ。

 騒がしいキャラなのに、大事な場面では雰囲気を壊さないようにしてくれる。例え、偽物であったとしてもその心遣いはアルのそれだ。


「コイツは俺のことを響と呼びました。他の二人はアポロと呼ぶのに」


「なら、偽物……?」


「の可能性が高いと思います」

 

 リンの言葉に俺は頷いた。

 気がつけば、口調も探偵っぽくなっている。

 実際アルはふとした時に俺を響と呼んだ過去もあるのであまり当てにならないがということは黙っておく。二人っきりの時にしか呼ばなかったというのもあるが。


「次に相撲……を飛ばして、お嬢」


 口調を戻して、俺は説明を続ける。

 目線が、お嬢に集まる。

 相変わらず謎の光の粒子をキラキラと振りまいている。

 不安で顔を曇らせているのに、こちらも静かだ。

 これにナイフを突き立てろと言うのか。


「お嬢、お前は言ったよな。リンを助けようとしたのは自分だと」


「え、はい……」


「そして、ポーションの等級が五級だと」


「ち、違うのですか?」


 お嬢の問いには答えずに相撲を見る。


「相撲、お前の記憶ではどうだ?」


 相撲はゆっくりとこちらを見て。


「……リンさんを助けようと言ったのはアポロさんだブウ。ポーションの等級は覚えてないけどブウ」


「俺の記憶でもそうだ。リンを助けようと最初に言ったのは俺だ」


「じゃあ、このアルは偽物なの?」


「ああ。偽の記憶を植え付けられているのだろう」 


 この試練はある意味フェアで、絶対にクリア出来ないようには作られていない。

 だからこそ、論理的に説明出来る根拠と言うものがあるのだろう。


「そして、相撲。こいつはブウブウと語尾がうるさくて、パンを欲しがることを除けば、俺の呼称も記憶も齟齬がない」


「つまり……」


「本物である可能性が高いのじゃな」


 俺はトスカリー様へと向く。

 トスカリー様は無表情で頬杖をつきながらも、俺の視線を真っ向から受け止めた。けれど、何も言わない。


「トスカリー様、アルの偽物ですが……」


 そこで、俺はまた言葉を止めた。

 トスカリー様は相変わらず無表情で何も言わない。

 だが、瞳の奥底にどこかつまらないものを見ているものを感じた。

 勿論、気のせいかもしれない。

 だが、そう感じたのだ。

 俺は自身の直感に突き動かされるまま、口を開いた。


「こいつら、全員偽物です」


 三人を指差しながら、俺はそう宣言した。


「「ええっ!?」」


 驚愕の声が場に響く。

 そういえば、仲間に相談する前に宣言してしまった。忘れていたというより、タイミング的に言う暇がなかったというわけだが。


「何で!?」


 リンが問い詰めてくる。


「相撲がアルじゃないの?呼称も記憶の齟齬もないんでしょう?」


「ああ」


「じゃあ、本物じゃない!」


「俺の知っているアルはブウブウ言わないし、緊迫した場面でパンを欲しがるような意地汚くは………ない?」


 何で疑問形なんですか、というアルのツッコミがどこからか聞こえてきたような気がした。

 無論、気のせいだ。


「主殿、ちゃんとした説明を」


 ベクトラの言葉に俺は頷き、説明をしようと思った。

 だが、


「先にナイフを突き立ててくれないかな。君は宣言した。ならば、三人を偽物と断ずるなら全員に突き刺して示して欲しい。説明はその後だ」


 有無を言わせぬ口調でトスカリー様が遮った。

 気がつけば、頬杖をついた手は外れていた。


「では……」


 俺は貰ったナイフを握りしめ、アル達に向かう。

 偽物はアル達は自分の運命にも文句を言わず、ただ黙って目を閉じていた。

 ああ、偽物だが性根はアルのものだ。

 

「すまん」


 俺は一言謝って、プロトタイプにまず突き刺した。

 一枚の薄いガラスを刺すような感触、ちょっとした抵抗があるだけでナイフはプロトタイプの体を突き抜けた。

 パリンと音が鳴り、プロトタイプは空気に溶けるように消え去った。


「すまない」


 俺は相撲とお嬢へと謝る。

 二人はただ黙って頷いた。

 そこからは一瞬だった。連続で相撲とお嬢をナイフで貫いた。

 感触はプロトタイプと同じだった。

 二人の体は消滅した。


「意地が悪いですね、この試練は」


 吐き捨てるように俺は言って、トスカリー様の元へ向かい机の上に貰ったナイフを置いた。


「意地が悪いのはどっちだか。試練中何度もこちらの様子を観察してた癖に」


 トスカリー様は眉を八の字にして、俺に言葉を返した。


「えっ!」


「ぬっ!そうなのか、主殿?」


「ああ。どちらかと言うと俺は識別作業においてトスカリー様に注意を払っていた」


 ベクトラと雑談していた時も、アルを弄くっていた時も俺はひそかにトスカリー様を注視していた。

 なるべく自然に視界の端におさめるつもりだったが、トスカリー様もこちらを見ていたため、目が合うことが多かった。


「けど、あまり参考にはなりませんでしたけどね」


「どうだか」


 トスカリー様は肩をすくめる。


「ま、いいや。試練は無事クリアということにしておこう。

 ベクトラ君もリン君も気になっているみたいだから、説明して欲しいな。どこで全員偽物であると気がついたんだい?」


 トスカリー様は表情を柔和に戻し、聞いてくる。


「ルール説明の言葉を思い出した時ですね。まず、そこで薄っすらとしてですが、その可能性があると思いました」


「最初かい」


 あちゃーと、トスカリー様は手で目を覆う。


「どういうことじゃ、主殿?」


「違和感があったのは、わざわざルールを改めて説明したこと。一度説明していたのにもかかわらず、トスカリー様は俺達にルールを伝えたんだ」


「大事なことだからね。文句が出ないように正式にルールを説明したと取って欲しかったな。響君はキレていたしね」


「それが普通の口調なら信じてましたね。けど、正式にルールの説明をした時には、ゆっくりと、まるで言葉を選ぶように時間をかけて説明してましたからね」


「つくづく、自分には役者の才能がないと思い知らされたよ。いや、当たり前の話なんだけどね。いけるって思っていた数時間前の私を殴ってやりたいよ」


 ボヤくようにトスカリー様はこぼす。

 言っている意味はよくわからないが。


「一つ不自然に思うと、試練自体の内容も変に感じました」


 多分、聞いても教えてくれないだろうから、トスカリー様の様子を無視して俺は説明を続ける。

 どこがおかしいのかと思っているリンとベクトラへと向く。


「リン、ベクトラ。思い出して欲しい。トスカリー様は偽物を全員当てろといったけど、本物を見つけろとは一言も言ってない」


「……そういえばそうね」


「だから、まず偽物を全員選べと言ったのじゃな」


 全員偽物だから、アルは全員どこか変だった。

 答えを言われたら納得出来る。


「普通この場合、本物を見つけろというのが自然なはずだ。なのに、この試験を偽物当てクイズと言い、偽物を全て見つけろと言った。

 アルは三人。普通なら二人が偽物と考える。だが、三人が偽物とは言ってない」


 俺の言葉に、ああとトスカリー様は頷く。


「ああ。それに気づくかどうかが試験の鍵だったんだ。それに気がつかせないために色々と響君を揺さぶってはいたんだけどね……」


 もし、三人のアルの中に本物が一人だけいるとなると試練は簡単だ。

 プロトタイプとお嬢はあからさまなのだから。

 体型と語尾が変でも、相撲が本物であると断定できるだろう。


「じゃあ、ナイフを刺せっていうのは……」


 リンが問うと、トスカリー様はガシガシと頭をかく。


「うん。揺さぶり以外特に意味はないよ。試験から目を離すための心理的トラップさ。少しでも私に怒りが向くようにね。

 気づけば簡単だけど、気づかなければ三人のうちどれが本物かと疑心暗鬼になって思考の袋小路に追いつめられる。そうなってしまえば試練をクリアすることなんて出来ないって思ったんだよね」


「ふむ。思えば、試練が始まる前から試練が始まっていたのじゃな」


 トスカリー様が俺を見る目つき、人を食ったような喋り方、神経を逆なでする発言、全てに意味があったということなのか。


「じゃ、じゃあ、アルと離ればなれになるってのも!?」


 リンが期待に顔を輝かせて聞くと、


「あ、ごめん。それは本気だった」


 トスカリー様は軽い感じで謝った。


「ええっ!?」


「ま、いいじゃないか。無事試練をクリアしたんだ」


 あっはっはと悪びれずにトスカリー様は笑う。


「しかし、疑問に思うこともあるんだ」


 トスカリー様は手を前に組んで、体を伸ばす。

 そして、目線は俺に。


「一個目は、君が落ち着いたことだ。最初、君は私に対してキレていた。なのに、すぐに落ち着きを取り戻した。だからこそ、識別作業に入るまえに、全員が偽物の可能性があると気づけた。なぜ、戻れたんだい?」


 トスカリー様は俺の目の奥にある感情を暴こうとするかのように真っ直ぐに俺の瞳を見つめる。

 その視線に、気まずさをおぼえ、後頭部をかくフリをして顔を逸らす。


「偶然としか……言い様がないですね」


 顔を両手で叩いて冷静になろうとした。

 なぜ、そうしたのか。

 考えてのことではない。自然と体が動いたからだ。

 そして、仲間の顔を思い浮かべて冷静になろうとした。思考の闇に潜れば、苛つきは自然と消えていったのだ。


「ふぅん、ま、いいけど」


 俺の言葉に、トスカリー様は気にするような素振りを見せずに納得した。そして、体を後ろに倒し、椅子に深く腰掛ける。


「二個目は、全員が偽物と言っても、相撲は体型と口調以外はおかしい点はなかったと思うね。

 偽物と気づけても、相撲が本物であるという可能性は捨てられないはずだ。口調と体型以外に本物と齟齬がないんだからね。全員が偽物と選んだ根拠を聞かせて欲しい。まさか、全員偽物の可能性があるから盲目的に信じたとか言わないよね?」


「ええ。当然、相撲が本物である可能性も考えました」


 そもそも、この試練は結構曖昧なのだ。

 何をもって偽物となるかが説明されていない。偽の記憶が植え付けられていたアルが実は本物ということもあり得るのだ。

 見分けられなかった方が悪いと言われてしまえば、それまでだ。立場は圧倒的にこちらが弱いのだから。

 試練を作った人のさじ加減で決まる試練。

 それなのに、相談や質問も禁止されていた。


「それでも、トスカリー様を見ていたら相撲は偽物の可能性が高いと思いました」


 そう。

 これまでのトスカリー様の性格、仕草、素の部分を考えた相撲が偽物であると決断出来たのだ。


「やっぱり、私かい……」


 トスカリー様は沈痛そうに肘を机にのせ、トントンと人差し指でこめかみを叩いた。


「これがあの神なら、一周まわって逆に相撲が本物かと疑いましたが、トスカリー様なら全員が偽物である。その点に帰結するように試練を作ったと思ったんです」


 というより、あの神なら偽物なんていないとかの選択肢もありそうだ。

 今回の試験では、ルール説明の際に偽物を一人ではなく全員選ぶよう指示された。逆を言えば、偽物は一人以上いると明言されている。

 だから、偽物なんていないという答えは選択肢になかったわけだが。


「これは俺からアルを引き離すためだけの試練です。理不尽とも呼べますが、試練の結果次第ではその未来は回避出来ます。

 完全に一方的な措置ではない。だからこそ、試練に失敗した場合、ある程度俺達が納得いく理由が説明できる。そう俺は考えました」


 口調と体型が違うだけでアルが本物であると断定出来る根拠はない。

 本物から口調と体型を無理やり変えられただけだと言い張るならば、プロトタイプは俺の呼称を無理やり変えられただけ、お嬢は記憶を捏造されただけと屁理屈が言えるのだ。


「全員が偽物であるという答えならば、それぞれのアルには変な部分があるのだから偽物であると納得出来ます」


 言おうと思えば、こちらも屁理屈を言えるだろうが。整合性は全員偽物という方にある。


「それにトスカリー様は自身が喋ることを禁止していました。喋るとヒントを漏らしそうだからと。逆を言えば、喋る、つまり質問されては困ることがあると読み取れます」


 ルールが曖昧だからこそ問いただしたくなる。

 だが、それは出来ない。

 出来ない理由があるのだ。

 そして、最後に……。


「トスカリー様はずっと俺に注目していました。リンがアルの識別作業をしていたのに。ずっと俺だけに注意を払っていました。リンも俺と同じくらいアルと一緒にいました。見分けられる可能性は十分あるのに、気にはならなかったんですか?呆気にとられたように俺を見てましたよね?」


「いや、普通。作業をほっぽり出して、水を飲んだりお菓子食べたりしていたら、注目してしまうよ。何やってんのと思っても仕方ないと思うよね?」


「それです」


「ん?」


 トスカリー様の言ったことは正しい。

 常識的判断だ。

 誰だってそう思う。

 だからこそ、色濃くうつる。


「トスカリー様の本質は真面目だと思いました」


「ツッ」


 トスカリー様の目が見開く。

 ああ、本当に。

 この人は芝居が苦手みたいだ。

 仮面が剥がれ落ちるように素の自分を見せてくれる。


「最初部屋に入って来た時、来客を待たせ本をずっと読んでいました。そして、読んでいた本を床に投げ捨てる。破天荒な性格かと思いました。口調も親しみやすく、人を嘲笑うかのような色も見えました。それでも、薄っすらとしてですが、常識人と言いますか真面目な空気を感じられました」


 そして、俺が自分の推理を披露して、あたかも相撲が本物であるように誘導した時、トスカリー様の瞳にはある種の感情が出ていた。

 目は口ほどにものを言うではないが、素直にあるがままを伝えてくれた。


「ねぇ、人の内面探って答え見つけるのやめよ?問題だけを考えて答えだそうよ?何、君全てを疑って生きてるの?」


「はは、トスカリー様は完全に俺の味方ではないじゃないですか。無条件で信頼するのはちょっと……」


「キャラ付け間違えたかなぁ……」


 トスカリー様はぼやきながら頭をガシガシとかく。

 俺達に言ったのではなく、自分に言っているようだ。

 聞き取れないほどの小声でブツブツと呟いている。視線は虚空を向いて。完全に自分の世界に入っている。


「あ、あの……」


 リンが戸惑いがちにトスカリー様に声をかける。


「ん?」


 自分の世界に飛んでいたトスカリー様は、リンの言葉に現実世界に戻ってきた。


「あ、アルは?」


「あ、そうだったね!」


 どうやら忘れていたようだ。

 ポンと手を打つ。


「ちょっと真面目な話だったから、ついうっかり忘れてたよ」


 では、と打った手を正面に掲げ、トスカリー様は呪文を唱えた。

 言葉と共にトスカリー様の周囲に光の粒子が舞う。


「悪鬼羅刹に属する者、我は彼の者の眠りを覚まさん」


「なんか、恐ろしい詠唱してるわ!?

 これアルなの!? アルが召喚されるの!?」


 リンが俺の服を引っ張りながら、悲鳴をあげる。

 トスカリー様はリンの言葉に笑いをこらえながら、呪文を続けた。

 わざとやってるだろう、この人!


「引きこもりがちな彼の者の名は……以下省略!」


 パチンと指を鳴らすと、トスカリー様の体からアルが飛び出してきた。

 詠唱の意味はあったの!?


「アポロさーーーーん、信じてましたよ!」


 そして、勢いそのままに俺の腹へと一直線にぶつかってきた。


「ぐふっ」


 衝撃で体が曲がる。

 当たった場所は人体急所の水月。

 

「アポロさん!アポロさん!アポロさん!」


 俺のことなんて気にすることもなく、アルは俺の服を掴んで頭をこすりつけながら俺の名前を呼ぶ。


「ぐはっ……」


 何故、急所に来る。

 来るなら胸の辺りに来いよ。


「よかったわね」


「うむ。感動じゃ」


 俺のダメージをよそに、リンとベクトラは良かった、良かったと何か良い物を見るように俺達を見ていた。

 そんなことより、か、回復魔法を……。

 ベクトラの出番なのに、動こうとしないとは……。


「アポロさんのことだから、パチもん共に惑わされないと思いましたが、なんか相撲を見る目が優しかった気がして、ちょっと一瞬ですが、不安になりました!」


「しかし、アル殿。アル殿も見ていたのじゃな」


「ええ。聖霊様の中で監禁されていました」


「それは気が気でなかったわね」


「はい!アポロさんが皆殺しにするって言った時には歓声をあげました。そして、リンさんが拷問と言った時は、流石エルフのリンさんと思いましね!」


「やめて!枕詞にエルフをつけるのやめて!関係ないでしょ、エルフは!」


「うむ。ダークエルフは普通のエルフに比べてマトモじゃからな。エルフと一括りにされると困るという」


「嘘つかないでよ、ベクトラ!何自分だけ変じゃないって嘘つくのよ!」


「嘘じゃと!?」


 何か愕然としているベクトラ。

 ボケたのに、予想外のツッコミがきたからのようだ。


「ふぅ」


 ヒュー、ヒューと浅くて変な呼吸音を立てながら俺は体勢を戻した。 

 痛かった。

 本当に痛かった。

 アルの体重は軽いと言っても、野球ボール以上の質量はある。

 それが人体急所へ全力でぶつかってきたのだ。

 気が緩んでいた所にクリティカルヒット。

 ステータスとは何なのかと問いたくなるような防御力無視攻撃だった。


「アポロさん!」


 アルが目を輝かせて、俺を見つめる。

 俺の言葉を待っているようだ。

 なら、俺の言うべき言葉は一つ。

 アルが俺の元へ帰ってきたのだ。

 生き別れになったかもしれなかった。一生出会えなくなるかもしれなかった。痛みという雑事を忘れて、言わなければならないことを言おう。


「ぶっ殺す!」


「ええっ!?」


 無理だった。

 痛みが完全には消えず、ジクジクと痛むからだ。

 この痛みは誰のせいだ。

 アルだ!アルのせいだ!


「半日経ったら、感動の再会をしてやる」


「それって私が死んで復活するまでの時間ですよね!?」


「止めるなよ、リン」


「止めるわよ。何でそんなに怒ってるのよ」


 リンは呆れた顔でこちらを見て、はぁ、と溜息をついた。

 痛みを受けた者にしか、この感情はわからないのだ。


「じゃあ、次いってみようか」


 喧騒もおさまらない中、唐突にトスカリー様は言った。

 えっ、と皆がトスカリー様の方向を向くと、彼女はまた指を鳴らした。

 すると、部屋が暗闇に覆われる。


「またっ!?」


 リンの悲鳴があがる。

 だが、暗闇になったのは一瞬だった。

 

「あ、戻った……え?」


 リンが俺を見て戸惑いの声をあげる。

 いや、俺と……。


「え?」


 立ち位置が違う。

 見える角度が少しおかしい。

 ふと、横を見るとそこには……。


「アポロさんが二人いるーーー!?」


 俺がいたのだ。 

 今まで俺が立っていたその場所に俺と全く同じ姿をした人物が驚愕の表情で俺を見ていたのだ。


「試練とは関係ないけど、腹いせの追加クイズが始まるよ」


 トスカリー様は俺が机に置いたナイフをもてあそびながら言った。

 キラリとナイフの刃が光る。

 え、まじで……?

今度のクイズのようでクイズではない話はサクッと話の前半で終わらせる予定。

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