そもさん! 説破!
「ええっ!?」
「なぬ!」
「何ですと!?」
自身が神の関係者であることをトスカリー様は告げた。
その発言に仲間達の驚愕の声が上がる。
リンとベクトラは自分が知っている聖霊様という存在が俺の異世界転生に関与していたという驚きでだろう。
「え、あっと、その……」
「トスカリー様は何で……」
リンが言葉に探しながら、アルは何かの考えを持ってトスカリー様に聞こうとした所。
「おっと。つまらないことを聞こうとはしないでくれよ。
確かに響君達をアルハザールに送った一味ではあるけどね。君達が気になっていることを一々説明する気はないよ。色々情報を握ってはいるけどね!」
二人の言葉を遮るようにトスカリー様は声を上げる。
そして、俺の目を見る。
まただ。
時折感じる、俺を嘲笑うかのような色が眼鏡の奥の瞳に見えた。
「ただし。私だって鬼ではないよ。
一つだけ。響君の質問に答えてあげようじゃないか」
「俺ですか……」
思考する時間を増やすため、あえて言葉にして聞く。
なぜ、俺なのか。
「そう、響君だ。
案内人の試練に君が挑戦して初回クリアしたんだ。まだ試練途中だけど、中間報酬ということで答えてあげよう。
そ・れ・に」
言葉を区切りながら、トスカリー様は楽しそうに言う。
「考える時間は十分あったじゃないかな。
私が本を読んでいる間ね。その間に色々考えていたんじゃないかな。私が何者だろうか。もし、神様関係者ならって」
トスカリー様はひらひらと白衣の襟をつまんで弄びながら口角をあげる。
「もし、私が正体を明かしてから気がついたなんて言うのなら拍子抜けだけどね。そんなことないよね。
折角の質問タイムだ。つまらない質問じゃなくて、楽しいのを期待してるよ」
「質問をする前に聞きたいことがあります」
「ん?なんだい?」
やだなぁ、それを質問にして打ち切るなんて意地の悪いことはしないのにとトスカリー様は鼻を膨らませるが、態度とは裏腹に機嫌は悪くならずむしろ上機嫌といっていい。
「質問は何でもいいのですか?どの程度まで答えてくれますか?」
「ん!いいね。折角の質問タイムだからね。核心を突く質問をする気だ、コイツゥ!
ははっ、それに免じて答えよう。私の権限では答えられないのも当然ある。むしろ、多々ある。それを避けながら上手く質問してくれよ」
「……なるほど」
「さてと、時間も惜しいし。余興みたいなものだ。
さくっと質問を終えて、試練の話に行こうじゃないか」
流れるようにトスカリー様は話を紡ぐ。
「……わかりました」
抵抗出来る流れではなくなった。
再度の疑問を挟むことは出来ない。
目を閉じて息を大きく吸う、
酸素が肺を完全に満たした後、そのまま息を止める。
そして空気を内から外へ吐き出す。
空気とともに胸にある感情を散らした。
そして目を開ける。
そこには、頬杖をついて俺を愉快そうに見ているトスカリー様が映っていた。
何を観察しているのか。何が目的なのかわからない。
口は緩やかな曲線を描き、興味深そうに俺を見ている。
ああ、本当にトスカリー様は、彼女は……人の神経をピリピリと刺激させる。
「では……」
目線をトスカリー様の目から少し上に焦点を当てる。ずっと目を見ていたら何かの毒にあてられそうだ。
何が正解なのかわからない。
多分、聞くべきことではないのだろう。
もっと有用なことを聞くべきなのだろう理性は囁く。
だが、先程のトスカリー様の話が頭に引っかかってしょうが無いのだ。
「では……」
息を短く吐き、目線をトスカリー様の目に戻す。
トスカリー様の瞳の奥、実験動物を見るような好奇心の色を見て、俺は覚悟を決めた。
「トスカリー様は何で俺をこの塔に呼んだのか。目的を教えてください」
トスカリー様は肩肘をついた手からパッと顔が離れた。
場が一瞬止まる。
仲間達がギョッとしたように俺を見る。
「アポロッ!?」
「アポロさん!?」
「あ、主殿……?一体……?」
声には正気を確かめる気配があった。
大丈夫だと片手をあげ仲間を制す。
「…………」
トスカリー様の瞳の焦点を失ったように力を失くし、口を大きく開けて止まった。そして、
トスカリー様にとっても想定外の質問なのは確かだった。
トスカリー様の虚ろな瞳が俺の瞳とかち合う。
すると、すぐにトスカリー様は我を取り戻し表情を戻す。説明を始めた当初のように口元を歪め、頬を緩ませ始める。
「オイオイ、響君。理由はさっき言った通りだぜ」
トスカリー様は僅かにずれた眼鏡を戻しながら、呆れた声を出す。
聞き流しそうになるほど何の変哲もない呆れ声だったが、注意深くその声を聞けば、若干だが声の張りがゆらぎ、速度も速くなっている。
トスカリー様の表情の変化に違和感を感じるのは気のせいだろうか。先程と同じ、表面上今までと同じ不敵な笑顔だが、張り付いたものを感じてしまうのは。
それは、笑顔の中にある感情の違いなのかもしれない。
「君たちに褒美を授ける……」
「理由は聞きましたが、目的は聞いていません」
トスカリー様の口上の途中で遮るように俺は謳う。
言葉遊びに近いかもしれない。
理由も目的も同じ意味のようなものだ。
切って捨てるには十分な質問。
「…………」
だが、トスカリー様は俺の言葉に無言になった。
トスカリー様は無表情になって、そのまま目を細めた。
左手で顎をさすりながら、しげしげとのぞきこむように俺の目を見つめる。
「言葉を足すとしたら、トスカリー様が俺達をこの塔に呼んだ理由を、全て教えてください……ですかね」
「…………」
トスカリー様は無言のままだった。
顎をさする手は、すぼめた口を掴む。
眉を立てながら、視線を俺からずらす。
「響君。君は何故そう思ったのだい?」
そして、トスカリー様は口を開いた。
最初話していたような喜色染みた声から一転、冷たく低い声。
質問に対する答えではなかった。
質問に質問を返すようにトスカリー様は俺に詰問する。
俺は鳴り止まない左胸を抑えながら、浅く深呼吸する。
「最初に疑問に思ったのはこの試練にはリトライ可能といった点です」
「それはちゃんと言ったと思うよ。これは褒美で試練をクリアさせるのが目的だってね。試練に落ちていたら意味ないからね」
「そこです」
「ん?」
「何故褒美だと、試練に落としちゃいけないのでしょうか。
トスカリー様の上司、恐らくあの神様なんでしょうけど、かの人物の性格を考えるとおかしいと思います」
「何処がおかしいんだい?」
ふっ、とトスカリー様は小さく息を吐く、それと同時にトスカリー様の表情が戻ってきた。
憑物が落ちたような穏やかな笑顔になり、俺の話を楽しむように声が弾んでいく。
その変化に内心いぶかしむが、それを無視して俺は説明する。
「さっきトスカリー様が口真似した『ただ漫然と富を受託するのが良いことなのか? 悲劇にあったという理由だけで、力を貰って良いのか?与えるだけでは駄目なのさ。試練を突破してこその恩恵だ』と矛盾している気がします。最終的にクリアさせる試練ならば漫然と富を受託していると、受け取っても良い気がします」
「ククッ、口真似が上手いね。私よりよっぽど上手いよ」
トスカリー様は上機嫌に喉を鳴らし、手を叩いて賞賛する。
俺はその賞賛にしかめっ面で返す。
その俺の反応に、トスカリー様はふふっと優しく笑い。
「ま、そういう考えも取れるね。
意地が悪いというか、ひねくれた考えだけど」
「それがあの神様では?」
「ククッ……そうだね……ククッ違いない。
でもさ、これは建前なんだよ。褒美を与えるのが目的で試練はどうでもいいと考えるとさ、おかしくはないんじゃないかな。試練の責任者は私だよ。上司の意向とはいえ、それを完全に追従する必要はないって言えば終わりさ」
「そして、まだ疑問があります」
話を打ち切り、次の話へ。
トスカリー様に視線を投げかけると、続けてと上機嫌に返される。
俺は自分の考えをまとめながら話をする。
「リトライする場合、試練は最初からやり直しではなく別の試練となる。
ここがおかしいと思います」
「それの何処が疑問なんだい?」
「クリアさせるのが目的なら同じ試練をクリアさせればいい気がします。これが建前ならわざわざ別の試練を課す必要はないでしょう。矛盾ではないですが、余計な手間だと思います」
「重箱の隅をつつくような疑問だね。試練の内容は素人が作ったからね。難易度調整が不十分なのさ。だからもしものために試練は多めに作っておいたんだ。
ほら、学生のテストでも再テストなら別の問題にするだろ。同じ問題にはせず試験の難易度を少し下げたテストをする。それと同じさ」
疑問は払拭出来たかなとトスカリー様は優しく告げる。
俺はそれには答えずに淡々と次の疑問点を述べる。
「試練途中にも、案内人がゴーレムの戦闘中にリトライするか聞いてきました。戦闘を止めてまで」
そうですよね、と確認を込めてトスカリー様に聞いてみる。
トスカリー様はそうだねと頷いた。
それを確認して、俺は話を続ける。
「あれも疑問と言えば疑問なんです。
わざわざ止める必要があったのか。確かに、俺はあの時負傷をしていて絶体絶命と言っても良い状況でした。止めるならば、あそこしかないとも言えるでしょう」
ですが……と言葉を止める。
「あの案内人の性格を考えるとやっぱり違和感を感じます。あちらは俺達に対して親しみも感じていなければ、友好的でもありませんでした。義務的と言えば義務的。事務的と言えば事務的。
それなのに、あの時はこちらをおもんばかって止めたのです」
「そりゃ、死なれちゃ困るからね」
ハッと鼻をならしがらトスカリー様はうそぶく。
「なら、試練を続行不可能と判断して再試練にすればよかったのでは?」
「君がいけると判断したじゃないか。本人の意思に反して強制するのは良くないからね」
「俺が死んでしまう可能性があっても?」
「プッ、君がそれを言うのか」
トスカリー様は小さく吹き出した。
確かに俺がそれを言っちゃ駄目だろう。
だけど、こう思う。
「そして、こうも思います。
トスカリー様、案内人さんは俺には及びもつかない力を持つ存在です。そんな高位な存在なら俺が死ぬギリギリの瞬間、助けることが出来るのではと。
だから、俺が試練を続行することを了承した」
トスカリー様は確認したのはそのためかと小さく笑った後。
「オイオイ、持ち上げてくれるのは嬉しいが買いかぶりな気がするね。仮に助けることが出来ても、私達は止めたんだ。それを無視して試練を続行することを決めたのは君だ。人の好意を無碍にして、自殺願望とも取れる行動をする君を助ける必要はあるのかい?」
「トスカリー様は先程、『死なれちゃ、困る』と言いましたが?」
「言葉の綾だね」
俺の追求に流れるように否定する。
そこには、焦燥も、戸惑いもない。
「俺のために試行錯誤を経て試練を作ってくれたみたいですからね。その挑戦者が死亡したとなれば、何とも後味が悪い結末。難易度調整失敗のそしりを受けても仕方がないのでは。それに、褒美を与えるってのは神様も知っているのでしょ。だからこそ、彼の意向に沿って試練が作られた」
「だからといって、何が何でも君を生かさないと言うわけではないと思うよ。理由としてはちと弱いね」
トスカリー様の言葉に俺はそうですねと頷いて。
「では考え方を変えます。
トスカリー様はある目的を持って、俺に試練を課したと考えたら、これらの疑問が解決すると思っています」
「その目的ってのは何だい?」
トスカリー様は楽しそうに俺の目を見つめて言う。
俺の言いたいことが予想出来ているのだろう。
それでも、俺に言わせたいらしい。
「俺にポイントを使わせること」
場が一瞬止まる。
仲間達は俺とトスカリー様を見比べ。
トスカリー様は俺の目から逸らさず見続けたまま。
そして、
「ほぉ」
トスカリー様はわざとらしく口を開けて驚いた仕草をした。
予想してたくせにという言葉を飲み込み、俺は説明を続ける。
「思えば、この試練ではポイントを使わされてばっかりでした。最初の通路の試練ではMPに、次の広間の試練ではSTRやAGLに」
レベルアップで稼いだポイントは自由に振り分けられる。
だが、試練の内容に半強制的にポイントを振り分けるしかなかった。
「それだけ試練が生半可なレベルじゃなかったんだよ」
「もし、これが俺にポイントを使わせるためならリトライ可能なのも納得できます。ポイントを使わせる機会が多いほど良いんですから。別の試練にすれば、違う項目にもポイントを振らせることが出来ます」
トスカリー様の軽口には答えず、俺は自分の考えを言う。
「そして、ゴーレムの戦闘中に案内人は止めて俺に聞きました。
ポイントを使うのかと、わざわざゴーレムの動きを止めてまで。もし試練の目的がゴーレムを倒すことよりポイントを俺に使わせることだったら、突然の試練中断も納得がいきます」
「…………」
「そして、最後。
一番疑問に思ったのはトスカリー様の言葉です」
「私のかい?」
「はい。
トスカリー様は『私の仕事は終わっているようなものだからねぇ』と言いました。試練はまず途中です。ならば、なぜその言葉が出たのか」
「…………なるほどね」
トスカリー様は椅子に深く腰掛けて俯いた。
俺はそれに構わず話を続ける。
「そしてこうも、言いました。
『目論見通りいったわけじゃないが、十分と満足しておこう』と。
何が目論見通り何ですか?そして、何が上手くいかなかったんですか?」
俺がこの試練でやったことと言えば、ポイントを使ったことのみだ。
「では改めて聞きます。
トスカリー様。
トスカリー様は何で俺をこの塔に呼んだのか。目的を教えてください」
だから、俺は改めて同じ質問をする。
何が目的か。
「…………」
トスカリー様は無言のまま答えない。言い訳すらしないのは何故なのか。
じんわりと握りしめた手から汗が出てくる。
トスカリー様に目的を聞いて何になるのか。聞いたって知的好奇心が満たされるだけで何か実益が得られるわけでもないだろう。
だが、それでも。
それでも聞きたかった。
「お答え辛いのなら、俺にポイントを使わせるのが目的だったか。
はいかいいえでお答えください。それとも、トスカリー様に答える権限はないのでしょうか?」
俺の失礼な言葉に、
「…………ッ」
トスカリー様は小さく呻いた。
俯いた姿から表情は見えない。
だが、体を小刻みに震わし、お腹を両手で抑える仕草は。
「笑ってる?」
呆然としながらリンが言った。
そうだ。
その言葉にトスカリー様は顔を上げる、満面の笑みと共に。
「クッッッ、ッッ……ハハっ!」
「と、トスカリー様?」
「いや、すまない。ククッ」
片手はお腹を抑えたまま、トスカリー様は空いた片手でごめんという仕草をする。
「ククッ。いいね。実にいいね、響君。
見くびっていたよ。君という存在を軽視していたと言った方がいいね。思えば、君がアルテミス様をつけられたのは直感のスキルを与えられる前だね。ラッキーボーイなんかじゃない。君は直感というスキルを自身の直感、いや自分の力で選んだ。頭にのぼっていて、その事実を意識したつもりで本当の意味では認識してなかったよ」
「んん?」
意味がわからない。
仲間達と顔を見合わせるが、誰もトスカリー様の言っていることを理解できる者は誰もいなかった。
トスカリー様は俺達の態度に気にせず、話を続ける。
「決定的なのは私のボロだったのか。これは誰も責められないね」
「というと、認めるのですね」
俺の言葉に、トスカリー様は悪びれる様子も無くああと頷いた。
「ああ。私はこの試練で君が得たポイントを使わせるつもりだった」
「何故ですか?」
「ふふっ、それは教えることは出来ないね。おっと、意地悪とかそういうのではないよ。ただ、私の権限外って話だ。そういう意味では君の質問は意味がなかったのかな。私は楽しめたし有意義だったけど」
カラカラと笑い、肩が小刻みに揺れる。
「おおっと、不満そうだね、リン君」
「えっ!いや、そのっ、不満とかじゃなくて酷いとかじゃなくて聖霊様なのに、とかじゃなくて!」
「ハハッ!」
急に声をかけられたリンが慌てふためく。
そして、弁明しているようでしてないのはわかっているのだろうか。トスカリー様は気にしてはなさそうだけど。
「そうだそうだ!リンさん、言ってあげてください。
楽しんだ分くらいの駄賃はくださいって!」
リンの背後に隠れながらアルが声をあげ、
「アルッ!」
リンが盾にされて、さも自分が言ったように偽装されたことに対しての叱責の声をあげる。
「だって、あの人、私を見つめる目が怖い!怖いっていうか眼力ある!?」
静かだなと思っていたのは遠慮していたのではなく、怯えていたからか。というか、そこまで見られてないと思っていたが違うのか。トスカリー様は俺に注視していたと思っていたのだが。
「だからって私を盾にしないでよ!」
逃げようとするアルと捕まえようとするリン。
ぐるぐる弧を描きながら格闘する。
「お主ら……ここをどこじゃと思っとる。
少しは神妙にしようと思わぬか。神妙にしておけば、目をつけられず厄介事は全て主殿にいくというのに」
「おい」
「あ、ベクトラさんが仲間に入りたそうに見ていますよ。リンさん仲間に入れてあげましょうよ」
「私も仲間に入った覚えがないわよ!」
弛緩した雰囲気になったせいなのか、元気にはしゃぐリンとアルとベクトラ。
トスカリー様はその光景に怒ることなく、むしろ微笑ましいものを見るように柔らかく微笑んだ。
「ま、そうだね。
響君にポイントを使わせる目的だっていうのは、間違いではないんだけどね。気にする必要はないと私は思ってる。重要じゃないけど、保険的な意味合い?ま、この程度かな。私が教えてあげられるのは」
「お、言ってみるもんですね」
アルが喝采を上げると、トスカリー様と目があった。
トスカリー様はアルと目が合うとにっこりと笑う。
目があったアルはその笑顔を見て、リンの背中に隠れた。
「アル?」
「いえ、何か反射的に笑顔を向けられると居心地が悪くなって……」
「どんな悪行を積んだらその境地にいけるんだ?」
「アポロさん、失礼なこと言わないで!」
「ふふっ、気にしてないよ」
トスカリー様は穏やかに笑う。
「あとは、そうだね。
ポイントを使わせる目的と言ったけど、ある程度はフェアにしたつもりだよ?」
「フェア?」
「うん。
ポイントを使う使わないは君の裁量だ。通路にしても魔法を使えば楽にクリア出来たけど、使わなくてもクリア出来たんだ。ゴーレムにしても君はあの時ポイントを使わずクリア出来たじゃないか」
「…………」
「納得出来ないという顔だね。ある程度ってことで納得してくれないかな。こっちも仕事だ。君がポイントを全く使わずクリアしましたじゃ叱られるよ。ただでさえ君には直感のスキルがあるんだ。それをかいくぐるのに苦労したんだから」
トスカリー様は肩をすくめながら、
「さてと、困ったね。
私の試練というわけだが……」
言葉を区切り、最初に中空を、そして俺を見る。
「どうしたんです?」
「いや、ね。タネの割れた試練をしても面白くないなと思ってね。君の人となりを見定めるつもりが、試練を潰されるとは思ってもなかったよ。
初志貫徹で一個目の試練はそのままでも良いんだけど、二個目は……」
「試練は二個もあるんですか……」
うへぇと顔をしかめるアル。
その仕草にトスカリー様はふふっと穏やかに笑う。
「安心していいよ、一個目は単純だから。
二個目も、ま、どうでもいいか。最低限ポイントを使わせたんだし」
ケラケラと本当に楽しそうに笑いながらトスカリー様は手を振る。
いつからだろう。
トスカリー様は感じたある種の不快感が消え、本当の柔和な笑みを感じる様になったのは。
俺と目が合うと親しげに片目を閉じる。
「さてと、話を続けたい気もするけど、きりがないからね。
試練を開始しようじゃないか」
そう言って、トスカリー様は指を鳴らした。
すると指を鳴らした瞬間、部屋に一切の光が消えた。
「えっ!」
「何!?」
何も見えない。
黒が支配する空間。
トスカリー様はおろか本棚、ふかふかの絨毯、目の前にいるはずの仲間も確認できない。
「ひゃあああ!」
そして、室内に響くアルの悲鳴。
「アル!?」
思わず火の魔法を使い、光を出そうとしたら
「大丈夫。襲撃とかじゃないから」
トスカリー様の落ち着いた声で止められる。
「……さてと、では試練を始めようか」
その言葉と共に室内に光が戻る。
「…………アル?」
急激に戻った光に目を瞬かせながら、トスカリー様、いやその手前、机に立っているアル達を見る。
「増えてる……」
リンの小さな呟きが妙に頭に響く。
そう。
増えているのだ。
20cmくらいの小さな妖精が。
「ふふっ、偽物当てクイズだ」
不敵に笑うトスカリー様と、
「うわっ! 私が、私が!……私が?
って私じゃない似ている人達がいますよ!」
「って、何ですかブウ!私がいますブウ!」
「私と論外がいます!?」
机の上にはやかましく騒ぐアルが三人。
その三人の内訳は、普段見慣れているアルとお相撲さんみたいな体系のアル、そして髪をロングにしてキラキラと謎の光の粒子を振りまくアル。
「何これ……」
俺の心情を代弁したような呟きがリンの口から漏れた。