表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
81/98

ファンタジーの敵、ゴーレムです

 飛ばされた場所は大広間だった。

 天井や壁、床は全て灰色の石畳で出来ており、部屋の中央には茶色の岩石が鎮座してあった。


「何もないわね、しいて言えば……石?岩?」


「ふむ。案内人殿。ここで何をすればいいのじゃ?」


「ここでは戦士としての力量を試します。出てくるモンスター15体を全て退治すれば終了です」


 案内人はベクトラの問いに答えた。

 よし、とリンが槍を握りしめる。

 それを案内人が冷ややかに見つめながら、言った。


「ただし、挑戦者は一名とさせていただきます」


 そして、真っ直ぐ俺を見た。


「アポロさんをご指名みたいですね」


「俺か」


「はい。試練は貴方のために用意されたものですから」

 

「わかった。で、モンスターは?」


 案内人は俺の問いには答えず、指を鳴らした。

 すると中央の岩の塊が震え、亀裂が走り人の形になっていく

 石を積み重ねて造ったようなモンスター。

 その名を俺は知っている。

 それは……。


「ゴーレム」


「はい。あれが相手です。あれを魔法を使わずに倒してください」


「…………わかった」


 岩石が相手だ。

 魔法を使っても効果は薄い。

 ゴーレム一体相手なら魔法を禁止されてもさほど影響はない。というより、使いたくない。先程の試練でMPは消費したのだ。節約せねば。


「アポロさん、頑張ってください」


「アポロ、しっかりね」


「主殿、ご武運を」


「おう」


 仲間達の声援を受け、モンスターの元へ歩き出す。


「…………」


 俺の動きに反応するかのようにゴーレムもまた動き出す。

 ゆっくりとも、もっさりとも言える動きでゴーレムは俺に向かって走りだす。間合いに入るとゴーレムは腕を振り下ろしてきた。


「ハッ」


 速くはないが、重い一撃。

 質量のある巨人の一撃を俺は地を蹴って躱す。ゴーレムの攻撃は床に当たって、衝撃が走った。その振動が足元まで伝わって来る。当たったらヤバそうだ。


「だが、当たらなければどうということも無い!」


 次の一撃を躱して、反撃。

 ゴーレムの胴へと一閃を浴びせる。


「硬っ………」


 だが、あまりの硬さに手に少し痺れが。

 傷は出来たが、両断することは出来ない。


「どうしたものか……」


 先程の一撃は全力ではなかった。

 かといって、弱い攻撃をしたわけでもなかった。言ってみれば様子見の攻撃。初見の相手に対して自分の攻撃がどれほど通じるか知りたかった。

 それでも、試しの一撃として放ったそれはゴーレム相手に全く効果はなかった。もし、全力で斬りつけてもあの胴体を両断することは不可能だろう。

 生物相手ならダメージが通り、両断出来なくても効果はあったのだろう。だが、相手は非生命物質なのだ。傷程度のダメージでは意味が無い。現に、ゴーレムの動きに変わりがない。


「……でもやるしかないか」


 ゴーレムの振り下ろした一撃に合わせてタイミングを取る。

 狙いはゴーレムの腕。

 人間以上の太さはあるが、それでも胴体に比べると細い。

 そこに全力の振り下ろし。


「ハッ」


 ゴーレムの腕と俺の剣が交差する。

 硬い感触と共にゴーレムの腕が宙を舞い、ゴシンと音を立てて床に落ちた。


「………」


 ゴーレムは自分の無くなった腕を一度見て、そして、健在な腕を横薙ぎに振ってきた。

 それをバックステップで躱す。


「よし……」


 腕なら両断出来るとわかった。

 ならば、後は作業だ。

 健在な腕を先程と同じように斬り落とす。

 両腕を無くしたゴーレムはタックルしか攻撃する手段が無かった。それしかしてこない。移動する速度は遅い。直線ならまだしも、角度を変えたらゴーレムは俺に対応出来なくなる。

 そこへ、全力の蹴りを入れる。ダメージを与えるというよりは、重心を崩すための一撃。動く俺を捕捉しようとして揺れ動いているゴーレムを倒すのは簡単だった。

 硬い感触と共にゴーレムの足は呆気無く地から離れた。

 ゴシンとした重量感ある音と衝撃が床に響く。



「……終わりだな」


 ゴーレムは立ち上がろうと動くが立ち上がれない。

 

「案内人さん。トドメはいるのか?」


 見ている案内人に声をかける。

 すると、案内人は首を振った。


「いいえ。次に行きましょう」


「次?」


 リンが疑問の声を出す。


「最初に言いましたが、全部で15体倒さないといけません」


 案内人は淡々とリンに言葉を返す。

 では行きます、の一言で案内人は指を鳴らす。すると、倒れていたゴーレムや切り落とした腕は消え、代わりに無傷のゴーレムが部屋の中央に現れた。

 それも2体。


「……え?」


「復活!?」


「案内人殿、まさか……」


 瞬時に頭の中に電流が走った。

 この試験の本質が。


「ええ。全部で15体です」


 ベクトラの声に再度同じ言葉を言う案内人。

 だが、それは意味合いが違う。


「2体倒したら次は4体、その次が8体でこの試験は終わりです」


「やばいな……」


 ゴーレムは強い相手ではなかった。

 でも、時間はかかった。

 スピードは遅くとも、自分より一回り以上大きい巨体。攻撃を受ければ致命傷の相手を複数同時に相手にする。

 2体ならまだ対処出来ると思うが、それが4体、8体になると相手に出来る自信がない。


「案内人殿、ちょっと試練の内容が厳しすぎるのではなかろうか?」


「そうよ。一体でも大変だったのよ。それが8体って理不尽じゃない?」


「ですです。普通の魔物でも8体は厳しいですよ。これクリアさせる気がないんでは?難易度調整失敗で侘び石ですよ!」


「いえ。私達はこれが適性のレベルだと考えます。むしろ全力を出せさえすれば簡単とも言えます」


 含みを持った言い方。

 だが、それを問いただしている時間はなかった。

 案内人が指を鳴らすと、2体のゴーレムが動き出す。


「…………ちっ」 


 動きやすい場所を求めて部屋の中央へと急いで向かう。

 二方向からゴーレムが襲いかかってくる。

 ゴーレムにも知恵があるのか、それとも偶然なのか。

 タイミングをずらして攻撃してくる。

 最初のゴーレムの一撃を体を捻ることで躱した途端、次の攻撃が来た。俺は床に転がるように二体目のゴーレムの攻撃を避ける。


「アポロさん、躱してばっかりですね」


「攻めないわね。攻め切れないの?」


「いや、主殿は何かを考えておるのじゃろう。攻める機会は多々あったのじゃが、見逃しておる」


「2体倒せば次は4体ですものね。それが終わっても最後に8体とか、恐ろしいですよ」


「……ほんとだ。片腕斬ったけど、それで終わったわね」


「片腕なら攻撃単調になりますものね。……あ、もう一体の片腕も斬った」


「しかし、魔法が禁止されとるのも痛いのじゃ」


「でも、ゴーレム相手に魔法はあまり効果がないんじゃないですか?」


「そうじゃが、ダメージを与えることは出来ずとも衝撃を伝えることは出来るのじゃ。

 主殿は詠唱破棄も並行詠唱も出来るのじゃから、攻撃の手数が増えて戦闘が格段と楽になるはずじゃ」


「アポロさんは四苦八苦の艱難辛苦の曖昧模糊な展開に五里霧中なわけですね」


「アル……ドヤ顔でこっち見ないで、お願いだから」


「あれー?」

 

 遠くで外野が好き勝手に言ってそうだが、何を言ってるかわからない。最初戦った場所よりかなり近づいてきたため声は聞こえるのだが、戦闘音のせいで単語、単語しか聞こえず文章として理解できない。


「何を言われてるかわからないが、後でアルをつねる!

 覚えとけよ、アル!」


「ちょ、いきなり何を言うのですか!?」


 そして、1体を盾にするようにして、ゴーレムの攻撃を避ける。

 ゴーレムの攻撃を避けながら方針を決めた。

 後は倒すだけだ。


「いくぞ」


 温存していた魔力を使い、体にまわす。

 闘魔一体。

 体に熱量が駆け巡る。力が湧くと共に全能感に似たものを感じながら熱量の赴くまま体を動かす。


「ハッ」


 攻撃を仕掛けてきた1体目を袈裟斬りで両断。

 続く2撃目も返す刀にゴーレムの胴を薙ぎ払う。上下に両断された2体のゴーレムは一瞬静止した後、崩れ落ちた。


「よし」


「流石アポロさん!」


「では、次の……」


「待ってくれ!」


 案内人が指を鳴らそうとした瞬間、呼び止める。

 この為に、戦闘しながら近づいたのだ。


「案内人さん。聞きたいことがある。

 戦闘前に言った、全力を出せば簡単とは本当か?」


 案内人は俺の言葉に指を鳴らすのを止めて腕を下ろす。

 緋色の目が俺の目を真っ向から見つめる。

 無言の時間が幾ばくか過ぎた後、案内人は口を開いた。


「はい。比喩でも期待でもありません。純然たる事実です」


「それが、敵が先程より硬くなっててもか?」


 確かに闘魔一体を使えば、あの分厚い胴さえも両断出来るようになった。

 だが、これ以上硬くなればそれも無理だろう。


「え?」


「ぬ?」


「うわぁ……」


 剣を持った手を見つめる。

 先程斬った感触が最初戦ったゴーレムと違っていたのだ。


「……はい。その言葉を翻すつもりはありません」


「次のゴーレムが強化されていてもか」


「はい」


 案内人はそう言い切った。


「そうか」


「そうかって……良いの?」


 リンが気遣うように俺に言う。

 ああ、と答えてステータス画面を呼び出す。


「ついに封印を解くのですね?」


「何のだよ」


 アルが訳のわかない事を言ってるのを無視して、ポイントをSTRとAGL、ついでにMPに割り振る。

 全力というのは恐らくこれを指してるのだろう。

 

「…………よし、良いぞ。準備は出来た」


「では……」


 律儀に待ってくれた案内人に呼びかけ、広間の中央へ向かう。

 出てきたゴーレムは4体。


「本当に嫌らしい試練だな」 


 俺に向かってくる、前回とは違うスピードの4体のゴーレムを見て思う。

 出し惜しみしてたら、死ぬなと。

 四方向からゴーレムが襲いかかってくる。

 最初に来たゴーレムの胴を薙ぎ払い一刀両断。斬ったゴーレムを盾に他のゴーレムの進路を邪魔する。

 

「ハッ」


 殴りかかるゴーレムの腕を切り飛ばし、踊るようにステップを踏む。

 回転、斬る、回転。

 倒したゴーレムを障害物として利用しながら円を描くように移動しながらゴーレムを斬っていく。


「おぉ」


「軽やかね」


「まるで小枝のようにゴーレムを斬っていますね。アポロさん、結構ポイント使ったのでしょう」

 

 そして俺は全てのゴーレムを倒した。

 ふぅ、と大きく息を吐く。

 少し、疲れた。

 案内人にストップの意味を込めて手を広げる。案内人の頭が僅かにだが上下に動いた。それを確認した後、仲間達の元へ歩いて行く。

 案内人はああ見えて律儀だ。こちらが行動しているのなら邪魔をしない。何もしなかったら、サクサクと試練を進めるのだが。


「お疲れ様じゃ、主殿」


「次は8体ね。いけそう?」


「今のままならな」


 次の相手のゴーレムは何処まで強化されるやら。

 案内人曰く、ポイントを費やせば楽勝らしいが。


「アポロさん、ポイント全部使いきったんですか?」


「ん、いや全部は使いきってない」


「何でですか?」


 その問いを発したのは案内人だった。


「あ、ああ……MP回復のために残しておきたいのと。この試験が終わっても聖霊様の試練があるんだろ。念の為に残しておきたい」


 会話への突然の参入に少し戸惑いが出たが、答える。


「そうですか」


 そう言って、案内人は無言に戻り、顔を伏せる。

 自分で聞いといて興味がなさそうな返答だったが、何を思っているのやら。仮面を被っているせいで読み取ることが出来ない。


「ふぅ……んじゃ、次に行くか。案内人さん、頼む」


 アイテムボックスから出した水を飲み干し、喉を潤して準備完了だ。

 疲労感は完全には回復出来ないが、多分大丈夫だ。


「では」


 俺の言葉に案内人は指を鳴らす。

 そして、広間に8体のゴーレムが出現する。

 俺は歩き出す。


「圧巻というか、怖いですね」


「流石にここまで揃うと、今までのが遊びのように感じてしまうのじゃ。主殿、無事に帰ってくるのじゃ」


「アポロ、本当に大丈夫なの?」


 俺は振り返らずに片手を上げ、大丈夫だと伝える。

 さて、やるか。





「……ッ硬いッ」


 倒したゴーレムは最初の一体だけ。

 後は躱すのに精一杯で反撃に移れずにいる。

 一番太い胴体でも一刀両断できるのだが、全力とはいかずともそれに近い力を出さないといけない。先程の4体とはえらい違いだ。救いと言えば、硬さは上がったがスピードは最初の一体と同じくらいに戻ったことか。だが、倒そうにも相手の攻撃が多すぎて行動できない。両断するには十分に体重が乗った一撃でなければならないのだ。もし、それをすれば攻撃を放った後、隙が出来やられてしまう。ゴーレムの密集地帯では出来ない。

 だから剣をアイテムボックスにしまい、回避に専念する。


「ツッ!」


 7体のゴーレムが大挙して襲いかかる。一撃目、二撃目と躱すが、全ての攻撃を躱すのは難しそうだ。石の巨体が逃げ道を塞ぐ。動ける空間を阻害されながら、躱すのは限界がある。詰将棋のように来たる未来が予想出来てしまう。


「チッ!」


 最悪の未来を防ぐために、五撃目の攻撃を躱し際にアイテムボックスから盾を取り出す。

 六撃目の攻撃を体を捻ることで回避する。

 そして、七撃目が来た。躱せない。盾を体の正面に構える。

 石塊の拳が盾へと当たり、凄い衝撃とともに後ろへ吹き飛ばされた。


「…………ッツ」


 地面に転がり、急いで立ち上がる。

 かなり飛ばされたようだ。ゴーレムとの距離が10メートル以上はある。

 体への致命的な損傷はない。

 しいて言えば、指先への軽い痺れか。 

 だが、動ける。

 俺を追ってくるゴーレムの大群を睨みつけ、覚悟を決める。

 盾をアイテムボックスへと戻し、剣を取り出す。


「ハッ」


 まず、一番手前にいるゴーレムを袈裟斬りで両断。


「ハァァァァァァ」


 ゆっくりと上下に分かれるゴーレムの体へ、駆け上がる。石の不安定な体を登り、ゴーレムの頭を踏みつけ、全力で跳躍。狙いは一番離れた場所にいるゴーレムへ。

 着地に合わせて大上段から構えた剣を振り降ろす。振り降ろされた先のゴーレムは上下に真っ二つに分かれた。

 そして、迫ってきたゴーレムに向けて回転斬り。遠心力をつけたそれは、狙いを違わず、胴を切り裂く。

 だが、それで致命的な隙が出来た。

 放った一撃で体の重心が崩れ、戻すには時間が必要だった。

 ゴーレムの石塊の腕が俺を薙ぎ払おうと迫ってくる。それがスローモーションで見えた。

 躱すことは出来ない。姿勢がまだ戻っていない。

 せめてものと、攻撃をくる方向へ体を逃す。つま先で地面を蹴り、体を倒すように後ろへ。持っていた剣を盾にするように正面に。しかし、出来たのはそれだけだった。

 ゴーレムの腕が俺の胴へ当たる。衝撃が体を襲い、地面を二転三転し後ろへ吹き飛ばされる。


「ゴホッ………」


 剣を盾に直撃は避けたが、それでも直撃に近い攻撃だ。口の中に鉄の味が広がる。


「チッ」


 無機物の生命体は、感情が無い故か攻撃を当てたのに直ぐに俺へと迫ってくる。愚直なまでの命令実行さ。俺の命を狩るまで休まない。

 ガクガクと揺れる足を叩き、剣を持つ手に力を入れる。

 ここからが正念場だ。

 

「ストップ」


 声と共に、案内人が無の空間から出現する。

 瞬間移動にも思える出現に俺は目を見開く。

 

「ポイントを使いますか?」


 気づけば、ゴーレムの動きは止まっていた。

 走るのを止め、両腕を揃えて立ち止まっていた。 


「は?」


 俺はわけも分からず案内人を見る。


「これは試練です。無闇に命を奪うものではありません。

 もし、ポイントを使うのなら時間を与えましょう」


 緋色の目は感情を見せずに俺に告げる。

 どうするのかと。


「…………」


 俺はめまいを飛ばすために軽く首を振って、考える。

 ポイントはまだある。

 足は折れてはいない。手も同様。内臓に致命的な損傷はなし。

 動ける。戦えるのだ。

 これでSTRやAGLに振れば楽になるだろう。

 先程の出し惜しみしてたらやばいという考えが頭の中に走る。

 だけど、


「…………いい。このままでいい」


 拒否の言葉が口から出た。

 何故かは明確にはわからない。

 確実にこの試練をクリアするなら案内人の提案に乗るべきだとわかる。

 それでも……。

 俺の口から出たのは否定だった。


「…………わかりました」


 代わりに、強がりだが笑顔を案内人に返す。

 俺の返しに案内人は頷いて、では、と案内人が消えた。

 その瞬間、止まっていたゴーレムが動き出す。


「来い」

 

 提案を拒否したが、このままで勝てないと思っていないのも事実だ。

 会話をして時間が出来たお陰で足に力が戻った。だが、こちらから攻めるほどは回復していない。

 だから、迎え撃つ。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺に残された有効的な手段は闘魔一体での攻撃のみ。

 体にある闘気、魔力を注ぎ込む。

 短期決戦。

 限界以上に注ぎ込まれた力は全ては活用されず、漏れる。だが、ロスが出ても、効率が悪くても、効果はあった。

 普段使える闘魔一体より一段上の力。

 それが俺の中へ。

 注ぎ込まれた力が俺の歯車の速度をあげ、世界が緩やかに。

 ゴーレムの速度が遅くなった無音の世界で、俺は動く。

 縦に一列並んでいるゴーレム3体。

 その一番前のゴーレムへ下段から上段へ掬い上げるように剣を振るう。

 狙いは申し分なく、ゴーレムを真っ二つへと。

 そのまま、分断されたゴーレムの右半身に背中をつける。つけた勢いで二つに分かれたゴーレムは静かに後ろに倒れる。背中のゴーレムが盾になり、後方のゴーレムは俺に攻撃出来ない。

 残されたゴーレム2体は別々の行動に出た。倒れたゴーレムから逃れるように後ろに下がる個体と、迂回するように周って俺に攻撃しようとする個体へと。


「ハッ」


 迂回しようとした個体には、真っ二つにしたゴーレムの左半身を蹴ってぶつける。俺は蹴った反動を利用して回転。捻った勢いのまま水平斬り。それは、背中を預けた右半身、後ろに下がった個体を上下に分けるには十分な一撃だった。

 残りは一体。


「はぁ、はぁ………」


 体力と気力の限界は近い。

 迫り来る最後の1体を睨みつける。

 顔目掛けて放たれた石塊の拳のストレートを体を前に倒すことで回避。体が疲れでグラつく。そのまま倒れようとするのを全力で地を蹴って防ぐ。

 ゴーレムへと体当たりするかのように懐に潜り込む。


「はぁ、はぁ」


 ゴーレムの体には一つの穴が。

 懐に潜り込む時に貫いた剣の跡。

 これが生命体なら勝負あったとなるだろう。

 だが、相手はゴーレム。

 非生命体だ。たかだが、身体に穴一つ出来たくらいでは意味が無い。

 動きが止まったのは一瞬だけ。

 ゴーレムの腕が動く。俺を抱きしめて潰そうと。


「はぁぁぁあぁあっつ!」


 両手で握った剣を上へ。

 硬くて重い感触と共に剣は空中へ。


「ッッツ………」


 またもゴーレムの動きが止まる。

 その一瞬でゴーレムから離れる。

 離れた所から見たゴーレムは真っ二つとはいかないまでも、八割方左右に身体が離れており、今にも千切れそうだ。

 だが、ゴーレムは自身の身体が千切れそうになっても俺を狙う。

 離れた俺に拳を振るおうと腕を振り上げ……そこで止まって……倒れた。

 ドシンと音がして、それ以後はピクリとも動かなかった。


「終わりです。試練突破おめでとうございます」


 小さな声。

 だが、不思議とここまで通る案内人の声が聞こえた。


「おぉぉぉぉぉ!」


「流石、アポロさん!」


「アポロ!」


 仲間達が俺の元へ走ってくる。


「はぁ、はぁ……つぅ」


 俺も仲間の元へ行こうとしたが、無理だった。

 痛みと体の怠さのせいで、足が動かない。

 倒れるようにその場に座る。


「大丈夫?無理しないで」


「そうです。一度直撃受けたのですよ、アポロさんは。回復しましょう。話はそれからです」


「そうじゃ。拙者の出番じゃ。このパーティーの回復役として力を振るうのじゃ」


 ベクトラが腕を振り上げ、肩を回しながら近づいてくる。

 何が嬉しいのか、顔が喜色満面を通り越してあくどい感じだ。

 ちょっと怖い。


「今から回復魔法を唱えるのじゃ。

 そうそう、主殿は拙者の回復魔法を見るのは初めてじゃったな。自慢ではないのじゃが拙者は……」


 ベクトラが膝をつき、俺の体へと触れようとした時。


「それには及びません」

 

 突然、案内人の言葉が聞こえた。

 そして、その言葉と共に顔にびしゃっと液体が。


「ん!?」

 

 目を白黒させ、声をする方を見ると、空の瓶を持った案内人がそこにいた。

 空の瓶……?

 自分の体を見れば、液体をかけられたのは顔だけではなく体全体だった。ポタリポタリと服から液体が垂れ、地面を湿らせる。


「何をするのじゃ!?」


 怒りを露わに、ベクトラは目を細め案内人を睨む。


「治療薬です。体の調子はどうですか?」


 案内人は、ベクトラを無視して俺に顔を向ける。


「調子?」


 肩を回してみる。

 怠さは消え、体が軽い。

 ステータスを開けばHP、MPは全回復。


「おぉ! 全回復してますね」


「ぬぉ!」


「え、何でかけただけで回復してるのよ!?」


 立ちあがってみると、怪我なんかなかったかのようだ。

 え、なにこれ。凄い。


「では、私からの試練は終わりです。聖霊様に会わせましょう」


 案内人は俺達の動揺なんて気がつかないように、淡々と言う。


「案内人。主殿への仕打ち、このベクトラ忘れはせぬぞ!」


「何でそんなにいきり立ってるのよ、ベクトラ。回復してもらって良かったじゃない」


 疲れた顔をしながらリンがベクトラにツッコミをいれる。

 その言葉にベクトラはキッとリンを睨む。


「拙者の出番が、出番が取られたのじゃぞ!」


「ほんと、どうでもいいわね」


「リン殿は出番があるからそんなことを言えるのじゃぁぁああああ!?」


「えっちょ……待っ!」


「では、行きます」


 リンがベクトラに体を掴まれ、ガクガクと揺らされる中。案内人が空気を読まず宣言する。

 案内人が指を鳴らすと俺達はまた違う空間へと飛ばされた。 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ