始まる塔登りと登らない塔攻略
お待たせしました。
前回のあらすじ。
アポロ達は塔についた。だが、そこに猿の仮面をつけた人物がアポロ達を待ち構えていたのだった。
「貴方達を待っていました」
俺達の、奇異を見る目を物ともせずに猿の仮面をつけた人物が淡々と言う。
その言葉は氷のように冷たく感情の色がなかった。
良く言えば事務的、悪く言えば実験室動物を観察するかのように感じた。
猿の仮面から覗く緋色の目が真っ直ぐ俺を貫く。
「貴方は?」
「私は聖霊様の使いで、貴方達の案内を任されています」
「そうですか」
「はい」
そこで会話が止まる。
え、なに。
俺達はどうすればいいの。
猿の仮面の人、改め案内人はそれっきり口を開こうとしない。
ただ、ずっと俺を見ているだけだった。
「アポロさん、あんななりをしていて対応が冷たくないですか?」
トントンとアルが俺の肩を叩き、小声で言ってくる。
「まだそこまで喋ってないぞ」
否定はしたが、確かにと思う。
待っていましたという割には歓迎ムードが全く感じられない。
「でも、外見はあざといですよね。そこだけはわかってますね」
「何をだよ」
案内人の外見を軽く観察する。
身の丈に不釣合いなダボダボな白衣を着ていて、何故か雨も振っていないのに長靴を履いているのだ。仮面、白衣、長靴と違和感しかないコーディネートだが、全てを合わせることで不思議な一体感が出ていた。
「狙ってやってたら、かなりのオシャレさんですよ、こりゃぁ」
「何で強敵を相手にしてるかのように言うのだよ」
「…………ふん」
案内人は一度アルに視線を寄せ、短く嘆息した。
案内人は恐らく女性だ。恐らく、若い。少女特有の甲高さはないが、どのくらいの年齢かは仮面を被っているせいでわからない。中学生とも言えるし、高校生かもしれない。いや、大学生ぐらいの年齢でも変ではない。
「案内人殿は何故、仮面を被っとるのじゃ?」
誰もが気になったことをベクトラが聞いてくれた。
案内人の返答は如何にと思ってると、案内人は瞬きを一つしただけで淡々と、
「聖霊様のご意向です」
そう答えた。
「そうなのか」
「はい」
「…………」
「…………」
そこで会話がまた止まる。
この案内人、案内に不向きなんじゃという思いが脳内に走る。
「え、えと。案内人さん?私達はどうすればいいの?すぐに聖霊様に会わせて貰えるの?」
リンが案内人に問いかける。
ここに来いと言ってきたのは聖霊様だ。そして、普段とは違う入り口。もしかしたら、面倒事なしで進むのではと淡い期待が湧いた。
だが、案内人はわずかに、注意しなければ気がつかないくらい小さくだが首を左右に振った。
「いいえ。貴方達には試練を受けてもらいます」
「試練?」
「はい。まずは私から二つ。
この結果次第で精霊様の場所へ通じる道が開けます」
んん?
頭に少し、引っかかるものを感じる。
「もし、試練がクリア出来なければどうなるの?」
俺が少し戸惑ってるとリンが案内人に問いかけた。
確かに。
試練に失敗した場合はどうなるかが問題だ。
「その場合は試練の内容を変えて最初から挑戦してもらいます」
「あ、失敗してもリトライ可能なんですね」
アルが手を叩いて喜ぶ。
失敗したら問答無用で失格というわけではなさそうだ。試練というプレッシャーが弱まる。
「しかし、それなら何故試練なぞするのじゃ?」
試練を突破する者だけを精霊様に会わすことが出来るならまだわかる。
失敗しても良いけど、試練は突破してねというのはよくわからないものがある。
「貴方を観察するためです」
そう言って、案内人は真っ直ぐに俺を見た。
「俺!……ですか?」
「はい。私達は貴方に興味があります」
「おお、アポロさんモテモテ!」
「そういう意味ではありません」
「あ、はい……」
淡々とした感情のない声で否定されて、アルのテンションが冷水をかけられたみたいに下がる。
「では、どういう意味なのじゃ?」
「…………試練に挑むのは原則的に貴方です。
同行者が助けに入るのは認めますが、主として動くことは出来ません」
ベクトラの問いには答えず、案内人は俺を見ながら説明しだした。
「質問はありますか?」
「あの、さっきのベクトラの質問……」
「他に質問はありますか?」
「あの……」
「他に質問はありますか?」
一刀両断。
答える気は無いということか。
「では、何故聖霊様は俺に会いたがってるんだ?」
「それは直接会って聞いてください。私は案内の役目を任されてるだけなので」
案内人はそこで一瞬アルに視線を向けた。
「どうしました?」
「いえ」
案内人の目線が俺に戻る。
「他に質問はありますか?」
「試練の内容は?」
案内人はパチンと指を鳴らす。
すると、案内人の後方の地面に魔法陣が浮かび上がった。
「おぉ、ファンタジ-!」
「魔法陣に乗れば、試練の階に着きます。一つの階に一つ試練があります。試練の内容はその階に着けば説明します。
二つの試練を乗り越え聖霊様の元へ辿り着いてください」
アルの喝采を一瞥しただけで反応せずに、案内人は淡々と説明する。
「他に質問は?」
「……いや、ない」
少し考えたが、何も浮かばなかった。
しかし会いに来いと言ったのに、試験を受けろとか強引というか、理不尽な感じだ。従う他にないのだが、釈然としないのも確かだ。
「では、魔法陣へ」
「…………行くか」
案内人に促され、俺達は魔法陣の元へ移動する。
考えても仕方がない。試験を突破して聖霊様に会うしかない。切り替えて行こう。
そして、俺達は魔法陣に乗り試練の間に飛ばされた。
短いのでもう一話。
最初この話を書いた時5000文字ぐらいありましたが、大改修したら一気に減りました。