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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
6章 何かを試され、獲得する何か
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ゆうべはおたのしみでしたね!

お待たせしました。

「眠い」


 爽やかな朝なのだが、眠くて仕方がない。

 ベクトラとの会話の後、寝ようとしたが中々眠れなかったのだ。

 嫌でも色々考えてしまう。


「眠そうですね、アポロさん」


 アルが俺に話しかける。

 アルはリンとの会話の後寝入ったので十分寝れたようだ。

 一人だけちゃんと眠ることができて恨めしい気持ちが少し湧いてくるが、ベクトラとの会話にアルが入ってきたらどうなったかわからないので寝ていたほうが良かったかもしれない。

 

「色々あってな」


 言葉を濁して、アルに返す。


「色々?」


 アルが聞いてくるが、俺は何でもないと首を振る。

 ベクトラのことを話せば茶化されるに決まっている。


「おはようじゃ、主殿」


 俺と睡眠時間があまり変わらないはずなのに、ベクトラは眠そうな顔を見せず、シャッキリとしていた。


「ベクトラは眠くないのか?」


 思わず聞いてしまう。


「気合じゃ、気合」


「流石、侍ですね。ベクトラさんは。問題は……」


 アルはチラリとある方向を見る。

 そこには……。


「リン殿はまだ寝入っておるのう」


 リンが寝ていたのだ。

 毛布を抱きしめながら寝入っている。


「うふふ……駄目。え、でも、ちょっとなら……いいかな」


「駄目じゃないじゃん! 流石、リンさんちょろい」


 毛布に顔を押しつけながら寝言を言うリン。

 何か良い夢を見ているのだろう。

 幸せそうだ。


「しかし、起こすべきか迷うのじゃ」


「だな」


 頬を緩ませながら寝ているリンを起こすのは何故か罪悪感を感じる。

 俺達はリンのすぐ近くへ移動したは良いが起こせずにいる。


「アポロは……アポロはね……」


「お、アポロさん登場」 


 寝言だからだろう。

 甘えた声でリンは呟く。

 夢の中で俺が出てきたようだ。

 吸血のこともあり、リンが俺をどう思っているのか不安なのだ。だから寝言とわかっていても気になる。

 そしてついに、アポロはね、に続く言葉が出た。


「えっとね……馬鹿」


「罵倒きましたよ、これ!」


「クッッククック……最高じゃ……クク、リン殿」


 ベクトラがおかしくてたまらないと腹を抱えて笑う。


「アポロはー、馬鹿なの。だから、だから……」


 起きてるかのように言葉を紡ぐリン。

 本当に寝ているんだよな?

 毛布に顔を埋めたり、顔を振って毛布に甘えたりして挙動が激しいが目は閉じている。足は毛布を挟み込み、抱きしめる形になっている。寒くはないのだろうかとか女性として野宿でその寝方は良いのだろうかと色々思ってしまう。

 

「アポロはー…………ハッ」 


「あ、目が覚めたようですね」


「ククッ、おはようじゃ、リン殿」


 ついにリンが目覚めた。

 まぁ、そりゃ起きるよな。

 リンを囲むようにして俺達は話していたのだ。

 リンはまず声のしたアルとベクトラを見る。


「え、え?」


 状況がよくわからないのだろう。

 リンは目を瞬かせながら、アルとベクトラを何度も見る。


「寝坊ですよ、リンさん」


「どうやら遅くまで起きてたようじゃな、ククッ」


「何で皆!?」


 せわしなく視線を移動させながらリンは言う。

 

「リンが中々起きなかったから、皆で起こしに来たんだ」


 そりゃ、寝起きで囲まれてたら驚くよなぁ。 

 俺の言葉に視線を動かすのを止め、口を大きく開けながら、リンは俺の言葉を聞いた。


「で、リンさんを起こしに来たのはいいですが、リンさんが幸せそうに寝てるので起こしていいか迷っちゃったんです」


「………え?」


 ギギギと錆びついた扇風機の首振りのように、ゆっくりとリンはアルへと視線を動かす。


「寝言が凄かったのじゃ。リン殿は一体どんな夢を見ていたのじゃ?」


 そして、ベクトラが。

 

「寝言……夢……」


 寝起きで働いてなかった頭が動き出したのだろう。

 ベクトラの言葉を反復した後、


「エエっ!」


 顔を一気に赤くさせた。


「リンさん、リンさん。一体どんな夢みたんです?」


「見てない!見てない!夢なんか一切見てない!」


 リンは顔を赤くしたまま、否定するのはこういうことだと体現するかのように激しく首を振る。

 しかし、顔を赤くした状態で否定しても誰も信じないだろう。


「でも、寝言でアポロさんの名前が出てましたよ?」


「見てないから!寝言も言ってない!

 ア、アポロがゆ、夢に出てきたなんて事実無根だし!か、仮に、仮の話よ、仮の話でアポロが出てきたとしても私は夢の内容なんて一切覚えてないわ!」


「事実無根って……」


 アルがリンの言葉に絶句する。

 確かに、寝言を聞いていたのは俺達なので寝ていたリンが否定出来ないだろう。

 だが、リンはいっぱいいっぱいで気がつかず懸命に手を振りながら否定する。

 その涙ぐましい様子を見て、ベクトラは、


「待つのじゃアル殿。昨晩、主殿とあんなことがあったのじゃ。夢にまで見てしまうのは仕方ないのじゃ!拙者達はたとえリン殿が甘えた声であんな寝言を言っても聞いてないふりをするのが仲間として正しいのではなかろうか!」


 フォローに見せかけてトドメを刺しに行った。


「な……な……!」


 それまでのゆったりとした動作から一変して、グキッと危ない音を立てながらリンはベクトラの方を向く。

 声に出したくても、何と言えばいいのかわからないのだろう。

 目を最大限に開けながら、口をパクパクと開け閉めする姿は間抜けのように思えるが、リンがやると可愛く思えてしまうのはリンに毒されてるのか。駄目な子ほど可愛いという感じで。


「アポロさん、もう毒されているのですよ」


 肩をポンと優しく叩きながらアルが言った。


「考えを読むのやめてくれないか。それにリンが美少女だから動作が可愛く思えるとかそんな可能性あるだろ」


「ノロケですか、はぁ……」


 ノロケ言うな。

 客観的にリンは美少女なのだ。だから、俺は何も間違ってはいない。

 美少女は何をしてても絵になると言われてるのだ。うん、だから俺は間違ってはいないのだ。


「な……も……も!」


 俺とアルとの会話をよそに、リンはベクトラを注視し続ける。

 どうやら俺とアルの会話はリンの耳に入ってなかったようだ。アルが舌打ちしたのでアルの頬をつまんでおく。


「リン殿、どうしたのじゃ?」


 リンの言葉が出ないことにしびれを切らしたのか、ベクトラが声をかける。その際、にっこりと無邪気に笑いながら問いかけるのは悪魔の所業か。


「う………」


 まるで気遣うように問いかける、ベクトラの笑顔の迫力に押されリンは怯むが、


「も………もしかして、起きてた?」


 勇気を出して聞いた。

 その言葉にベクトラは胸を叩き。


「リン殿の甘い蜜月、このベクトラがしかと聞き入れた」


「きゃぁぁああああぁぁあぁぁあぁ!」


 早朝の森に悲鳴が響いた。

 …………。

 ……。

 あぁ、今日も大変な一日になりそうだな。


「アポロさん、何か悟ってないですか」


「うん?」


「……表情というか目が……いえ、何もありません」


「そうか。俺は朝食の準備をしてくる」


 その場を抜け出し、俺は焚き火へと向かう。

 背後では、リンの怒声が聞こえてくるが気にしない。


「リン殿があのような痴態を働くとは拙者は驚きじゃ」


「痴態じゃないわよ!血を吸われただけだから!それで変な声が出ちゃっただけから!」


「うむうむ。そうなのじゃ。リン殿は悪くないのじゃ。わかっておる」


「わかってないわよ!その顔は!

 というか起きてたなら、出てきなさいよ!」


「会話の途中で起きたのじゃ。その時の雰囲気に拙者が混ざるなんて、とてもとても……」


「どこから!?どこから起きたの、言いなさい!?」


 さてと朝ごはんは何にしようか。

 アイテムボックスを探りながら考える。


「あれ放っといていいんですか?」


「ああ。俺がいない方がまとまると思うからな」


「修羅場を放置するとはアポロさんの成長が凄いと思いましたまる」



 



 朝のやり取りに時間がかかったが、ユエルの塔に進む道のりは順調だ。あと1時間もしないうちに着くだろう。

 

「アポロ、私が許すわ。ベクトラの血を吸いなさい」


 道中、リンが何かを吹っ切った目で俺に話しかけてきた。

 怖い。

 もう自分には守るものなんて何もないと悟った人の目だ。それは自らを顧みず、感情すら削ぎ落として自分の目的を遂行する目。

 自暴自棄と狂気と執念を混ぜあわせた機械のようだ。


「リン殿。仲間と言えど強要は駄目なのじゃ、ククッ」


 そのリンの態度に笑いながら対応するベクトラ。

 その余裕が凄い。

 空気がパンパンに入った風船の中に更に空気を詰めようとするようなものだ。爆発が怖くないのか。


「仲間だからこそわかちあうのよ、ベクトラ」


 対して、リンはベクトラの笑いに怒りもせず反論する。

 今までのリンだったら、怒っていただろう。

 これを成長と喜ぶべきなのかもしれないが、そう思えないのはリンの冷めた目のせいだろう。怖くて、リンの顔を見れない。 


「私としては展開的にその方が面白いので賛成です」


 シュタッと手を挙げるアル。

 会話に入ってくるなとアルを睨むが、口角を上げてサムズアップで返してきやがった。


「2対1ね。なら、決定ということで」


「待つのじゃ。主殿、主殿の意見はまだなのじゃ」


 アルがリンについたらヤバイと感じたのだろう。

 ベクトラの口調が早くなる。

 そして、俺に皆の目線が集中した。


「………いずれという返事は貰ってるから、ベクトラの意思を尊重する」


 小さい声ながら、俺ははっきりと宣言した。

 声が小さくなったのはリンが怖いからだ。


「おぉ!いつのまにそんな返事を貰ってるのですか。私とリンさんが寝た後ですか!ズルい!」


「ズルいって……」


「大丈夫。一度やられたら許せるようになるから」


 ポンとベクトラの肩を叩き、リンは優しく笑う。

 ただ、目だけは一切笑っていない。

 そして、俺に目線を向ける。


「だから、吸っちゃえアポロ」


 語尾にハートマークが付きそうなほど甘い声なのに体が震えるのは何故だろう。


「リン殿が酷いのじゃ! 助けて主殿」


 そう言いながら、ベクトラは俺の腕を抱きしめてきた。

 その瞬間、プツリと聞こえないはずの音が聞こえた。


「私の方が酷いことされてるわよ! 聞かれたくなかったのに!? あんな声だしちゃうなんてまるで痴女じゃない……」


 ついに爆発したのだ。

 爆発したが、感情が戻っており後半は自分自身に言っているのだろうか語気が弱かった。


「大丈夫。痴女と言われようが、リン殿は拙者達の仲間じゃ」


「痴女って言ってんのは仲間のベクトラじゃない!」


「お、塔が見えてきたぞ。あれがユエルの塔か?」


 会話の途中で、森を抜けた。

 鬱蒼と茂る森の中の中心部にあるはずの場所なのに、この場所だけが木が生えておらず、緑豊かな草原が広がっていた。

 その草原の中心部分に塔がそびえ立っている。

 見上げれば、天まで届きそうな程高く、外周を周るのも面倒に感じるほど大きな塔だった。

 歴史的建造物とも言えるその光景にちょっと感動して興奮気味に仲間に呼びかけた。


「うるさい! ベクトラ、変な声が出るのは吸血のせいなのよ。されてみればわかるから。吸血されてみてから言いなさい!」


 だが、それもリンに一蹴される。


「ああ、わかってるのじゃリン殿。しかし、吸血されるまではリン殿をからかいたいのじゃ」


「更にたちが悪いわよ!」 


 この世界の人はあの塔を見て何も思わないのだろうか。

 塔なんて目もくれず、話に熱中してやがる。

 もしかしたら、話をしながら塔に入ってしまう勢いである。


「さらっと流されましたが、一度やられたら許せるようになるって問題発言ではないでしょうか」


 ポツリとアルが言った。

 その言葉にリンが止まる。

 そして、


「…………ユエルの塔よ!やっと目的地に着いたわね!」


 リンは大げさな声音でユエルの塔を指差した。


「誤魔化した!」


「誤魔化したのじゃ!」


「アポロはあの塔を見るのは初めてでしょ! あの塔は登るの大変だと思うけど、実際は違うのよ! 凄いと思わない!?」


「そ、そうなのか」


「そうなの! ところで、私は先に入り口までいっとくね!斥候ってやつ!」


 そう言って、リンは脱兎のごとくユエルの塔へ走りだした。


「あ、逃げた」


「逃げたのじゃ」


「お前ら、あまりリンを虐めるなよ」


「リンさんの態度が可愛くてつい」


「うむ。虐めてと言ってるようじゃ」


 ね、とベクトラとアルはお互いの拳をコツンと合わす。

 なんの合図だ、それ。





 リンに遅れること数分。

 塔の入り口に着いた。


「どうしたんだ、リン?」


 リンはさっきまでの態度と一変して、静かにいや、呆然と立っていた。

 

「アポロ、あれ……」


 リンの指差す場所を見てみると、ユエルの塔の入り口付近に木の板が打ち付けられていたのだ。


「『アポロ御一行様の入り口はこちら』ですか」


 大きく左の矢印が書かれた下に文字でそう記されてある。

 塔をグルリと右回りしろということだろう。


「聞くが、普段のユエルの塔はどう登ってるんだ?」


 文字を眺めながらリンに聞く。


「中に魔法陣があって、そこに乗ると所定の位置に飛ばされるわ。毎回飛ばされる場所は色々だけど」


「なるほどな。今回のように入り口が違う場所っていうのはあるのか?」


「ないわね。というより、他に入り口があったことに驚きよ」


「ベクトラ。これは善意であると思うか面倒なことになるかどっちだと思う?」


「おそらく後者じゃろうな。聖霊様の代理人はアポロ殿のことを知りたくてユエルの塔に登らせようとしておるのじゃ。普通の試練ではあるまい」


「では、アル。この木の板を無視して普通の入り口から会いに行くことは出来ると思うか?」


「無理でしょうね。魔法陣が動かないか。動いても、ボスの目の前の扉が開かないでしょう。ゲームのお約束です」


「やっぱり、そうかぁ……」


 観念して、従うか。

 

「普通に従いなさいよ」


 自分より高位の存在に対して、とジト目でリンが見てくるが、しかたない。

 面倒そうな予感がつきないのだ。

 はぁ……。


 塔を半周したら、新たな入り口が出てきた。

 そして、俺達はその中に入っていった。


「よく来たね、転生者とその仲間達」


 入ってすぐに、俺達を呼びかける声が聞こえた。

 声のする方を向くと、


「なんか怪しい人がいるーーー!」


 猿の仮面を被った人物がそこにいたのだ。

次回は前後の繋がりを一貫するため3話前後ストックしてからの投稿となりますので少し時間がかかります。

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