勝者のいないステータス戦争
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名前:アポロ(新城響)
種族:吸血鬼とのハーフ
残りポイント63
レベル37
HP429/429
MP209/209
STR:70
DEF:60
INT:40
AGL:56
DEX:55
スキル
剣術3 調教6 鑑定4 分析4 隠蔽4
索敵4 詠唱破棄3 並行詠唱2 闘気術3
魔力循環3 闘魔一体2 火魔法6 精霊魔法1
精神異常耐性4 直感7 吸血1
装備
黒鉄剣、ブラックウルフレザージャケット、ブラックウルフのズボン
仲間
アルテミス(契約)
リン・エスタード
ベクトラ・レイライン
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現在のポイントは63。
これをステータスに割り振るのだが。
只今、問題が起こっている。
「力じゃ。力があれば大概の問題は解決出来るのじゃ!」
何か、力至上主義に取り憑かれたような人の言い方になってるのはベクトラ。
「違う。魔法よ、魔法!
魔法が凄いのだから、それを伸ばすのがいいわ!」
何か普通のことを言ってるのはリン。
「私は速さですね。疾風のアポロとか名付けられるのを見て、聞いて、笑いたいのです!」
殴りたくなってくるようなことを言ってるのはアル。
三者三様の戦いが始まったのだ。
とりあえずアルの頬をつまんでおこう。
「それを言ったら、主殿は闘魔一体のスキルがあるのじゃ。長所を伸ばすべきなのは身体能力じゃ。主殿は最強の戦士になれる素質があるのじゃ!」
「で、でも。あの魔物倒した時は魔法が凄かったらしいわ。それをね、考えると魔法が良いと思うの」
「いふぁいです、アフォロさん」
どちらの気持ちもわかる。
しかし、口論ではベクトラの方が強い。
次第にリンが押されてきてる。
俺はアルの頬をつまんだまま両者の話を聞く。
「で、でも、アポロのINTだけ数値が低いじゃない。バランスが悪いと思うの!」
リンは会話の糸口を変えてきた。
「うっ……」
長所を伸ばすって言ったのにそれはどこにいったのだと思うのだが、意外にもベクトラに効果はあったようだ。
「主殿のステータスは戦士系のそれじゃ。平均的なステータスより一点突破なステータスの方が強いのではないかと思うのじゃ」
内容とは裏腹に、言葉に力はない。
言ってることは間違っていない。
ゲームの世界でも怖いのは、まとまった高ステータスよりも一点だけでも強いステータスを持ったモンスターだ。例えば、一撃で死ぬ攻撃を放ってくるモンスターがいれば最優先で倒さなければいけない。防御力や回避力に特化したモンスターは面倒以外何物でもない。
「アフォロさん……って自由になった。しかし、ベクトラさん。アポロさんには詠唱破棄や並行詠唱があるのですから、それを生かさないのも勿体無くないですか?」
頬をつまんだままで俺の名前を言われると馬鹿にされてる様に感じたので、アルの頬から手を離した。
手を離すと、アルは饒舌に語りだす。
「せっかくの万能型。魔法戦士の素質がアポロさんにあるのです。それを生かすのもいいと思います」
「そうよ、魔法戦士って珍しいわ! 普通なら、淘汰されていくもの!」
アルの援護を得て、リンが強気になる。
「ぐっ……それを言われると辛い。確かに、拙者も主殿が魔法だけではなく、剣士としても万能じゃとか自慢したい欲求もあるのじゃ……」
そんな考えでいいのか?
しかし、淘汰されるって何なのか。
リンに聞いてみると。
「近接戦闘と魔法が使える存在。万能型という人もいるし、憧れる人は多いわ」
「時に後衛を守る盾となり、時にモンスターを殲滅する火力となる。そして、時に戦闘をしながら魔法を使う存在。味方におれば頼もしいのじゃ」
「でもね、そこに到達するのは険しい道なの」
リンは語る。
「まずは、難易度。近接戦と魔法を両立する。聞こえはいいわ。だけど、それには才能が必要なの。近接戦と魔法のね」
リンも魔法が使えるのだが、本職としては戦士だ。
これは戦士に適正があるというよりも、下級精霊魔法しか使えないということが理由だ。
だから、魔法は補助程度にしか思っていない。
「そして、近接戦闘と魔法の両立には雑に言えば二倍の努力が必要じゃ。重なりあう部分が少ないのじゃ」
近接戦闘は前衛。
魔法は後衛。
戦士はモンスターを時に倒し、時に後衛を守る盾として活躍する。後衛は前衛を補助、あるいは魔法という火力で敵を殲滅する。
ポジションが違うのだ。
ポジションが違えば、求められる物も違ってくる。
前衛に求められるのは高い肉体性能だが、後衛には最低限の肉体性能しか求められない。
当たり前といえば、当たり前のことだ。ゲームでも後衛にSTRを求め続ける人はいない。
「そして、何より魔法戦士に求められるのは屈強な精神が必要なの!」
「屈強な精神?」
いきなり、とんでもないものが出てきたな。
そりゃ、屈強な精神があればいいと思うが、なんで魔法戦士に必要なんだ?
別に他のポジションでも言えることだろう。
だが、ベクトラは両目を閉じ、何かを耐えるように首を振る。
「違うのじゃ。魔法戦士に憧れ鍛え始める者もおる。しかし、大多数は誹謗中傷に負けて諦めるじゃ!」
「誹謗中傷って……」
大げさなと言おうとしたら、アルが口を開いた。
「私もギルドで魔法戦士がけなされてるのを聞いたことがあります」
「マジか!」
「ええ。戦士からは『何で魔法鍛えてるの、馬鹿なの?筋肉鍛えろよ』と、魔法使いからは『お前は脳筋だろ?馬鹿なの?馬鹿だから、魔法使いに憧れるの?無理だよ、筋肉鍛えろよ』と中途半端な存在として、冒険者から疎まれるのです」
中々酷いな。
INTはIntelligenceの略で賢さの意味だが、実際には頭の良し悪しには関係ないのに。
だが、言ってることも理解出来なくはない。
「ポジション分けをしているということは専門職として分けておるからじゃ。普通、魔法戦士は鍛えても前衛では戦士に劣り、後衛では魔法使いに劣る。一番に成れぬ存在じゃ」
「両方できて便利という意見はないのか?」
そうベクトラに聞いてみると、
「ある程度強ければそうかもしれぬが、弱い時は本当に中途半端な存在として疎まれる」
首を振って否定された。
「両方鍛えないといけないから、強くなるのも遅いもんね」
「まずパーティーを組むのも一苦労じゃ。組みたがる者は少ない。なので、魔法戦士には、ぼっちでも頑張れる素質が必要なのじゃ」
「嫌な素質だなそれ」
「そして、冒険者達に事あるごとに筋肉鍛えろ、筋肉鍛えろと言われても負けない精神が必要なのじゃ。大抵の者はここで心を病む」
「地味に恐ろしいな」
戦士と魔法使い、立場が違えどお互い言ってること同じだからな。
いや、そもそも筋肉鍛えろと言うのがおかしいと思うが。
「そして、それを乗り越えても並行詠唱で躓く者が多いのじゃ。これが出来るか出来ないかで驚くほど立場が違う」
この立場というのは仲間カーストのことらしい。
普通の魔法戦士は前衛、後衛に劣る中途半端な存在。
だが、これに並行詠唱が使えるとなると序列1位になる可能性が出てくるそうだ。
「こればっかりは魔法使いでも必ず使えるものではないからね。本人の才能次第になるわ。鍛えていればいずれとは間違っても言えないわ」
「そもそも、魔法というのは制御が難しいものじゃ。さらに、威力に比例して制御が難しくなる。制御を誤れば魔法は暴発する。ゆえに魔法使いの戦闘の位置は魔法に専念するために後衛に属する」
戦闘行動を維持したまま魔法を唱えるのはその考えとは矛盾するものだ。
「アポロは詠唱破棄のスキルも覚えているの。並行詠唱どころではないわ。長所を生かすというのならINTを上げても損はしないと思うわ」
そして、話は戻る。
「拙者の個人的な希望としては剣士として他者を圧倒する姿を見てみたいと思うのじゃがな。力じゃ、筋肉じゃと叫ぶ主殿を一回見たい」
ベクトラ、俺で遊んでないか?
「まぁ、議論しても結局はアポロさんの胸三寸ですけどね」
今までの話し合いは何だったのか。
アルは台無しになるようなことを言ってくる。
「だって、結局はアポロさんの自身の問題ですもの。私達はあーだこーだ言って強制して、その結果が失敗だったとしても責任とれませんもの」
「それはそうだな」
最終決定したのは俺なのだ。
だからこそ、責任があるのは俺のみだ。
「だからこそ、私達は助言はしても強制はしません。そして、アポロさんが決めたことに文句を言うつもりはありません、ねっ」
と、アルはリンとベクトラに視線を移す。
「うん。当たり前じゃない」
「うむ。先程の話し合いに欲望が入ってなかったと言えば嘘になるのじゃがな」
リンは力強く言い、ベクトラは笑って答えた。
「でも、私は疾風のアポロと言われるようAGLにポイントをつぎ込むって信じています!」
「台無しだよ!」
ちょっといい話っぽかったのに。
結局、夜番の時、一人じっくりと考えて決めることとなった。
リンとベクトラは寝てる。
パチパチと燃える焚き木を見ながら、アイテムボックスから水を取り出し、口に含む。
何が俺にとって最善なのか。
「結局、どうします?」
俺に付き合って起きているアルが尋ねた。
「そうだな……ちょっと迷ってる部分がある。ポイントが多いからなぁ」
いきなり63ポイントだ。
「ですね。今までは3ポイントとかでしたから、あまり考えずに配分出来ましたもんね」
「それにさっきの魔法戦士ってのも魅力的だと思う」
「スキル構成を見たらそうですものね」
並行詠唱と詠唱破棄。
それと、
「直感。戦闘中にどう動けばいいか、このスキルのおかげで動けているのも確かだ」
近接戦闘しながら魔法を唱えることが出来るかと言われたら、出来るだろうと答えられる。
魔法の制御に意識の大部分を費やしても、体は勝手に動いてくれる。
その自信があるのだ。
それも、このスキルのおかげだろう。
「スキルレベル高いですもんねぇ」
「しかし、闘魔一体も捨てがたい」
「これはレアスキルですもんね。ベクトラさんもリンさんも凄いと絶賛してましたし」
Aランクの冒険者でさえ持ってないと言われるものらしい。
「これを最大限に生かすには近接戦闘に当たるパラメーターにポイントを割り振るのが最善だ」
並行詠唱をすると、魔法の制御に意識を費やす。
そうなると、どうしても動きは劣化してしまう。
「考えてみれば、INTはそのままでも問題ないのでは?」
元々俺の数値は高いのだ。低いわけではない。
近接特化しつつも、魔法戦士としても働けないわけではない。
「それもありだが、並行詠唱する場面は何なのかと考えるとな」
しかし、疾風のアポロとか言ってたのに、アルはそのことを一切出さない。
俺の頭が整理しやすい様に会話をしてくれる。
「魔法を使う場面は三つ。
近接戦での手数の増加、近接戦闘しながらの遠距離攻撃か範囲攻撃かだ」
相手モンスターが魔法に弱い等の例外は置いておいて、並行詠唱を使うパターンとしてはこの三つだろう。
「最初の一つは詠唱破棄と組み合わせて使う。切り結んでる相手が魔法を使えば敵もビックリするだろう」
「ビックリというか、やられてグッタリかもしれませんね。
魔法で相手の隙を作るために使用するとしたら……」
「魔法の威力はあまり必要としない。隙を作ればいいのであって、致命傷を与えるのは剣でだからな」
「後の2つは逆ですね」
「ああ」
相手の前衛を相手にしつつ、相手の後衛を撃破する場合。
そして、相手の数が多い場合。
広範囲魔法を駆使して相手を殲滅する。
「相手の後衛を仕留める時や大多数を相手にする時は火力が必要だ」
つまり、魔法を補助で使うか切り札として使うかだ。
「自分でキャラメイキング出来るから悩む問題だな。贅沢な問題だとは思うが」
自動でステータスが割り振られるなら、あまり考えもせず適正に従って戦闘スタイルを決められるが、自分で決められるから悩む。
そして、悩ませているのはそれだけではない。
「スキルレベルが剣術3で火魔法が6ですものね」
考えるのは一緒か。
アルがこちらを見て力無く微笑んだ。
「補助として魔法を使う場合、剣で相手を仕留めないといけない。闘魔一体があるが、剣術スキルは3だ」
「まぁ、3と言ってもそれでも中級クラスの腕前ですけどね」
スキルレベルは10まであるが、7より上はほとんどあり得ないと言われている。従って普通の人は鍛えても6までだそうだ。
「闘魔一体で肉体性能が上がっても剣術の技量がそこまで高くない。それでは倒せないと俺は知っている。もし……」
「アポロさん?」
俺の気配が変に感じたのだろう、アルは訝しげに俺を見た。
「……いや、何でもない。
漫画でもよくあるだろ、相手の近接戦闘の技量が高かったら魔法を躱すとかさ」
「ああ、ありますねぇ。『何だと……』とアポロさんが驚くのが目に浮かびました」
「やな想像するな。
となると、相手を仕留めるというより、剣術を守備的に使い魔法で攻撃というのもありなような」
「火魔法のスキルは現在レベル6で、7までいったら火の上級魔法も覚えますもんね。
……というより7までいったらギルドランクのA級の実力以上なのでは?」
そうだな。
そうなると……。
「そう考えてみれば……剣術なしで魔法特化で生きても良いように思えてくるな」
「……………」
前衛をリンや実は戦闘能力があるベクトラに任せ、俺が後衛。
「否定出来ないのが痛い所ですね」
「………今日割り振るより、戦闘しながら自分にどれが一番あうか試しながら配分するか」
「……そうですね」
あのボス戦はイレギュラーだったのだ。
現状今のステータスで困っていない。
ならば、急ぐ必要はないのだ。
AGLはAgilityの略で素早さを表しますが、一般的にはAGIと略すことが多いかなと。
ステータスを作る際に参考にしたゲームがAGLと表記していたため、この小説はAGLで表記しています。