ステータスは語る。生きて、と
「ステータス」
俺は可視化したステータス画面をリンとベクトラに見せた。
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名前:アポロ(新城響)
種族:吸血鬼とのハーフ
残りポイント63
レベル37
HP429/429
MP209/209
STR:70
DEF:60
INT:40
AGL:56
DEX:55
スキル
剣術3 調教6 鑑定4 分析4 隠蔽4
索敵4 詠唱破棄3 並行詠唱2 闘気術3
魔力循環3 闘魔一体2 火魔法6 精霊魔法1
精神異常耐性4 直感7 吸血1
装備
黒鉄剣、ブラックウルフレザージャケット、ブラックウルフのズボン
仲間
アルテミス(契約)
リン・エスタード
ベクトラ・レイライン
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うん。
何か凄いことになってる。
レベルが21も上がって、スキルのレベルも色々上昇してるうえに新しいスキルも得ている。自分の事ながらも、バランスおかしいじゃないのかと思ってしまう。
そして、俺のステータスを見たリンとベクトラは。
「………………」
「………………」
無言だった。
食い入るようにステータスを凝視している。
ステータスを見るために一直線に並んで座っている。リンとベクトラの両者に挟まれて座っている俺は圧迫感を感じていた。
無言だが、左右から圧力がかかっているのがわかる。そして、両者の体温も。女性特有の香りが鼻孔をくすぐり、集中をかき乱される。
思わずのけぞると、白と褐色の首筋が目に入った。
その首筋に目を奪われる。
「……ありえない」
呟くように漏れた声はリンからだった。
感情を削ぎ落したその声に反応したのはベクトラ。
「同意じゃ。目にしている今でさえ、拙者は信じきれん……」
「何が変なんだ?」
首筋から無理矢理目を離し、二人に聞いてみる。
リンはキッと眉根を寄せて、
「全部よ、全部!全ておかしいわ!」
と強く言った。
「まず、ステータスの数字じゃ。高すぎるのじゃ、レベルと見合っておらぬ」
抽象的なリンを補足するようにベクトラが言う。
口を開いても目は俺のステータスから離れなかった。
「あ、それは異世界転生した奴らはこの世界の人達に比べて大きくなってるんだ。あと、ダンピールの種族補正があるからかな」
ベクトラはふむと言ったきり、押し黙った。
嫌な沈黙が流れる。
「ねぇ、なら。レベルはどういうことなの? ギルドカードを作った時はそんな高いレベルではなかったでしょ?」
ギルドカードにもステータスは記載されている。
それをリンに見せたことがある。
当然、作った時も。
スキルやステータスの数字は偽装したが、レベルは弄ってはいない。
「それは俺も驚いてる。あの植物モンスターを倒したらレベルが21もあがってた」
「どんな上がりかたよ。私も5レベル上がったけど、それ以上だなんて……」
「それほどボスが強かったということじゃろう。主殿がトドメを刺したと聞いておる」
「リンさんなんて、途中でバタリと倒れましたからね」
「うっ……だって、しょうがないじゃない。あの武器に力を思いッきし吸われたのよ。で、でも、氷槍ターラレツアは大分ダメージを与えたと思うわ!」
「残念ながら、その武器でさえアイツの動きを止める働きしかなかったですからねぇ。値千金の働きとはいえ、与えたダメージ量ではアポロさんがトップだと思います」
俺とリンにはわからないが、戦闘の一部始終を見ていたアルがそう断言した。
「レベルのことは置いといて。スキルの数とレベルが問題じゃ。一応聞くが、転生者は皆そうなのか、主殿?」
「スキルの数は最大6個までだな。スキルレベルは与えられたポイントでやりくりしないといけないが、レベルを上げるとポイントが倍々で増えていくから大体3レベルぐらいで止まるな」
簡単にどうやって決めたのかを説明する。
「ふむ。ならばスキルレベルは別として、転生者は6個持っておると考えればいいのかのう」
0と1は違う。
最大6つ保有出来るならば人は最大限まで持ちたいのが人情だ。
「凄いわね……」
「あと、並行詠唱と闘気術と魔力循環、闘魔一体というのは、あの植物モンスターを倒した時にゲットしたみたいだ。他のスキルはレベルアップしているのが多い」
「強敵との死闘を制すると稀にスキルを獲得すると言うが、主殿のは異常すぎるのじゃ……」
「というより、ズルい。私全然獲得できなかったし、上がらなかった……」
「そんなこと言われてもな」
俺にもよくわからないのだ。
「アル殿は何か知っておるのか?」
ベクトラは顔を上げて頭上にいるアルに聞く。
しかし、アルは首を横に振った。
「わかりません。私もアポロさんに情報を与えないように記憶を色々封印されてるみたいですから」
結構深刻なことのように思えるが、アルは何てことがないように言う。
ベクトラもアルにそれ以上のことは聞けなかった。
「しかし、並行詠唱もさることながら、闘魔一体とは凄いのじゃ。眉唾物と思っておったスキルが目の前にあるとは」
「というより、闘魔一体って何だ」
声に出したが、聞くより実際見た方が早い。
闘魔一体の項目をタップする。
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・闘魔一体
闘気と魔力を混ぜて使う活性法。闘魔一体を使うものは闘気術や魔力循環で強化する者とは別種の存在。1+1は3にも4にもなる理論である。
また、取り扱いが難しく。場合によっては暴発の恐れがある。というより、最悪死にます。
普通の人はやろうと思っては出来ないはずなんだけどね、アポロ君はおかしいと思います。
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「こわっ!」
何だこの説明は!
「説明文的に神様が書いたっぽいですね」
アルが頷きながら言う。
「闘気と魔力を融合させる。言うだけなら、簡単じゃがやることは不可能に近い。恐らくじゃが、A級でも出来る者なぞおらぬだろう。それを主殿は出来るだけではなくスキルとして獲得するとは……」
出来るということとスキルはまた違う。
この世界でスキルで獲得するのは能力の証明であり、補助の効果がつくということ。
「しかし、最悪死ぬって怖いわね」
汗を滲ませながらリンが言う。
そう。
それが怖い。
「戦闘中、ポックリ逝くアポロさんが見れるわけですね」
「恐ろしすぎるわ! ど、どうにか出来ないのか?」
「というより、どうやって闘魔一体使うのよ?」
「………なんとなく、感覚?」
今思えば、あの戦闘中でもわずかにだが使っていたのだろう。
エンジンが変わったというか。見えている世界が変わった気がする。
「……………」
「……………」
俺の返答に二人は呆れの視線を。
仕方がないじゃないか!
自転車が漕げるようになるみたいに、自然と体が動くのだ。最初自転車に乗る時はバランスを取るのが難しかった。しかし、乗れるようになった今は逆にバランスを取れないって難しくないと言うレベルなのである。
だから、どうやってと言われても難しすぎる。
俺の弁明に、
「…………まぁ、いいわ。次行きましょう」
リンは多大な諦めとともに次を促した。
「よし………あっ」
並行詠唱をタップするつもりが、調教の部分に手が当たってしまった。
これは、神に与えられたスキル。
アルを連れて歩く言い訳スキルらしいが、レベルがあがっていた。
そのスキルが表示される。
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・調教
アルを飼い慣らすことの証明スキル。
一般的な調教スキルと違い、アル以外に効果を発揮しない。
レベルが上がったのはアルの親密度の上昇のため。
嫌だけど、認めざるを得ないので認めることにしました。
だけど、結婚とかは許しません。真っ当な恋愛を推奨します!
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「……………」
「……………」
二人の視線が痛い。
「えっと、並行詠唱の説明はどんなんだろうな」
「待ちなさい」
リンが俺の肩を掴む。
「説明」
短い言葉だが、確かな圧があった。
というより、肩が痛いのですが。
「仲がいいと思っておったが、そこまで進んでおったのか……」
そして、ベクトラがボソッと呟いた言葉が一番痛かった。
「違う。まだ進んでいない!」
「まだ?」
リン怖い!
もう逃げたいけど、肩を掴まれてるので逃げられない。
一縷の希望を託して、アルに視線を投げかける。
アルは俺の目線に頬を掻いて、視線を彷徨わせる。
「アポロさん。気持ちは嬉しいのですが、サイズというか種族がね。
結婚とか考えてないです。ごめんなさい!」
「何で俺が振られる流れになるの!?
告白してねぇよ!」
「……主殿、失恋は誰にでもあるという。頑張って生きるのじゃ」
「……アポロ、ごめんね。でも真っ当な道を選びましょう……エルフとか」
「慰めも求めてないよ!」
駄目だ。
この流れは駄目だ。
周りを無視して先に行こう。
「あっ……」
誰かの名残惜しそうな声が聞こえるが無視して、並行詠唱をタップする。
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・並行詠唱
魔法詠唱と移動・回避・攻撃等の行動を両立させる技法。
難易度は高く、魔法詠唱の暴発の恐れの危険もある危険行動。
スキルによって補助的効果が発生するが、失敗の危険は消えない。
死なないで!
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「こんなんばっかりか!」
失敗したら死ぬの!?
そんなに危険なのか!
「神様の書き方ですよねぇ。エグいというかなんというか……」
「当たり前といえば、当たり前のことを書いてはいるわよね。でも……」
リンは言いづらそうに言葉を詰まらす。
それをベクトラが引き継いだ。
「文字でこう記されると些か怯むのう」
さっきまでの熱は何処へやら。
まるでお葬式のような雰囲気に。
「俺、本当に戦闘中にポックリ逝く危険あるのかなぁ……」
「普通はいきなり出来るようになるものではござらん。長い年月の修業の果てに出来るものじゃ。その危険性はないとは言えん…………」
「……………」
「……………」
何だろう。
ボスを倒してレベルが上がった。新たなる力の発露。やったぜのはずが、うわぁな展開になるとは。
スキルの説明を神が書くとこうなるのか……。
「あ、そうだ!直感って何?開いてよ!」
リンがこの空気を払拭するように、努めて明るく言い放った。
「そ、そうじゃ。直感というスキルは聞いたこともないのじゃ!」
ベクトラもそれに乗る。
「うん。そうだな……って言っても文字の通りだけどな」
二人の気遣いを嬉しく思いながら、直感をタップする。
これはレベルも上がっておらず、前回も見たことがあるので何も心配はいらない。
そう思って、俺は直感の項目を開いたのだ。
すると……。
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・直感
感性的知覚。
推理を用いず直接的に全体及び本質を掴む認識能力。
*このスキルはレベル上昇をしない。
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「あれ?」
前回見たのと違うな。
「どうしたの、アポロ?」
リンが俺の挙動を不審に思って聞いてくる。
「いや、説明が変わったな。前見たのと違う」
何だ。
何かが違う。
「前はどんな風だったの?」
説明は変ではない。
やや硬い言い回しだが、言っていることはわかる。
だが、この違和感は何だ。
「前はもっと緩い感じでしたよね」
アルが答える。
「ああ。もうちょっとわかりやすかった」
「ですね。でもこの文章は神様っぽくないですね。変なの」
違和感の正体はそれなのか。
神ならばネタの一つは入れてきそうだが、遊びがない。
喉に小骨が詰まった違和感を感じながら、話は進む。
「で、説明も終えましたし。キャラメイキングといきましょうよ!」
アルが右手を高く掲げ叫ぶ。
「キャラメイキング?」
「どういうことじゃ?」
二人は突然出てきた言葉に顔を見合わせる。
「ステータスの欄にポイントってあるでしょ。転生者はレベルが上がるとポイントを獲得するのです。そして、それを能力の上昇に使えるんです。自分の思うままに強くなれるんです!」
アルはふふんと自慢気に説明する。
そうだ。
リンとベクトラに説明するので精一杯だったが、俺にはこれをやる必要があった。
ボス戦後の肉体改造が!