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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
5章 エルフのちエルフ、時々エルフ
64/98

ライアンここに散る!

 硫黄の匂いがする街パペル。

 観光客で賑わう街。その街で一際大きな建物。

 それが温泉宿月華。


「ねぇ、月華ってまさかあれ?」


 ライアンに先導されて移動するうちに俺達はその立派な建物に近づいてきた。

 森の中、一本の道だけが整備された場所を歩く。

 最初街外れに案内されるので罠かと思ったりもした。

 


「辺鄙な場所ですいません。温泉の場所のせいでどうしても街の奥になるんですよね」


 道の終わりが見えた頃、ライアンは立ち止まってそう言った。


「いや、それはいいんだが……」


「ねぇ、本当に無料で泊まっていいの?」


 リンが萎縮しながら尋ねる。

 なぜ萎縮するかと言うと月華の外観に圧倒されたのだ。

 森の中、視界が狭められた状態でもわかる月華の外観。

 一言で言うならでかい。

 横を向いても終わりが見えないほど長く続き、奥行きは見当もつかない。

 建物はこの世界には珍しい3階建ての木造建築。

 3階建てと言っても、その高さはビル6階分はあろうか。

 和の雰囲気が漂うのはいいのだが、レンガで作られたこの街では月華は異質とも言える。

 宿というよりお屋敷と言った方がいい。


「ええ、勿論。命の恩人ですからね。

 けど、モンスターに襲われたことは母親に黙っといてください。俺の話に合わせてくれればいいんで。俺も命が助かって幸せ。皆さんも宿代浮いて幸せ」


 屈託ない笑顔でライアンは言う。


「宿代浮くというレベルじゃなさそうなんだけど」


「なに、でかいのと自前の温泉があるだけですから。思ったより凄いものでもないですよ」


 後で知ることになるが。温泉街パペルといえど、温泉はどこにでもあるというわけではなく、自前で温泉を持つ宿なぞ2つか3つなのだ。

 それもこじんまりとした温泉で、月華のような規模ではない。


「リンさんは難しく考えすぎですよ。

 ライアンさんの考え好きですよ。私達が黙って罪悪感を持つだけで温泉に入れるのですから」


「うむ、罪悪感を持つだけで入れるのじゃ。拙者達が苦しい思いをすれば宿に泊まれるのじゃ」


 アルとベクトラは妙に罪悪感を強調しながら話す。

 どこか台本染みたというか、演技口調だ。


「でも、リンさんが罪悪感を持つのが嫌ならば仕方がないですね。ベクトラさんどうします?」


 わざとらしく、顎に手を当てて考える素振りをするベクトラ。

 

「そうじゃのう……宿の待遇があがればきっとリン殿の罪悪感が消えるはずじゃ」


「それだ!」


 アルはポンと手を打って、ベクトラを指さした。


「『それだ!』じゃないでしょ!アルもベクトラもいい加減にしなさい」


「でもリンさんが……」


「リン殿が……」


「何で私のせいになってるのよ!」


 アルとベクトラがリンをおちょくっている。

 その三者を見ながらライアンは笑う。


「ハハッ、いいですよ。最上級を用意しましょう」


「本気にしなくていいぞ。アルの話すことは無視しとけばいい。俺はいつもそうしてる」


「そ、そうですよ。私達はリンさんが困った顔をすれば満足なんですから、冗談なんです。本当に要求しているわけではないのですから」


 アルは本当に焦っているのか、俺の言葉には反応をしめさずにライアンに手を振って弁明する。


「そうじゃ、拙者達はリン殿を困らせたいだけじゃ。ライアン殿を困らせたいわけじゃないのじゃ」


 ベクトラもアルと同じように手を振ってライアンに弁明する。慌てているので、ベクトラにとっても予想外なことなのか。


「ええ。ライアンさんならわかってくれるとおふざけをしただけなんです!」


「そうじゃ。短い間じゃが、拙者達の冗談をわかってくれると思ったから言ったのじゃ」


「ちょっと待って。私に迷惑をかけるのはいいわけ?」


「……………ん?」


「……………ん?」


 アルとベクトラは顔を見合わせ、その後同時にリンの顔を見る。

 表情から語るに『何言ってるの、コイツ』だろうか。


「何言ってるのこの人って顔しないでよ!!」


「リンさんはいじられると光りますからねぇ」


「拙者も最近それがわかってきたのじゃ」


「答えになってないわよ!最近思ってたんだけど、私の扱いおかしくない!?私はエルフよ!」


「ぶっ!」


「笑う所!?」


「リン殿、ナイスボケじゃ!」


「ボケてないわよ!!」


「ハハッ、まぁまぁ。最上級って言ってもいつも空いてますからね。

 たまに使わないと部屋が痛むんですよ。だから使ってください」


 収拾がつかなくなってきたと思ったのか、ライアンが声をかけて三者を止める。


「別に無理はしなくていいぞ。泊まらせて貰えるだけで満足なんだから」


「まぁ、最上級の部屋が使えるかどうかは最終的には母親次第になりますけどね。それに、俺も迷える羊の話を聞きたかったんですよ」


 ライアンが茶目っ気に笑ってアルにウインクをする。


「俺達のこと知っているのか……」


「これでも情報通でしてね。俺はミシェロの町のことなら大抵の情報を手に入れるようにしています。なので、アルさんという名前と姿でピンときました」


「凄いな。別の町のことまで知っているとは。見直した。ライアンさんほどの見識のある人ならぜひ俺からも話をしたい」


 俺がそう褒めたら、なぜかライアンは鳩に豆鉄砲を食らったような顔をした。


「なんか変なこと言ったか、俺」


「いえ、褒めてもらえるとは思いませんでした」


 褒める要素しかないと思うが。

 釈然としないと思ったのはアルと俺だけだったようで、ベクトラとリンはなんとなく察したようだ。


「いえ。周りの人なんか、周りの町の情報を集めたって意味が無い。そんなことするくらいなら別なことに労力を使えって言うんですよ。温泉宿の息子がそんな道楽をして、商売の足しになるのかとかもね」


 それは間違っている。


「情報は力だ」


「そうね。再建する時に思ったわ。ただ店を開けばお客が来るって思ってたもん、私は」


「拙者もじゃ。主達の考えたことは奇想天外じゃった。顧客の情報なぞ食事に必要がないと思っておった頃の拙者を叩きたいくらいじゃ」


 ウンウンと頷くベクトラとリン。

 情報が大事というのは共通意識なのだが、異世界だとまだそこまでいっていない。


「アルさんだけじゃなく、アポロさんも協力したんですか。魔物に襲われたのは不幸だと思いましたが、何よりの幸運かもしれませんね」


 そう言って、ライアンは口角をあげる。


「でも、うまく話をあわしてくださいね。それだけはお願いします」


 笑った顔が一変。

 話を合わすと言う話題になったらライアンは笑わず至極真面目な顔で言ってきた。母親がどんなに怖いんだ、この人は。ちょっと会うのが怖くなってきた。


「お任せください。このアルがライアンさんの話に合わしてみせましょう!」


 そんな俺の胸中なぞお構いなしに、アルは胸をドンと叩き、ライアンに答える。


「では、行きますよ」


 止めていた足を動かし、月華へと向かう。

 森を抜け、月華がはっきりとわかるようになった頃。

 月華の宿の門に一人の女性が立っているのが見えた。年の頃は30代前半だろうか、着物を着ているので月華の人だとわかる。

 立っているだけで落ち着いた上品な雰囲気を醸し出す美人だが、どこか憂い顔をしている。

 その女性が俺達を見つけると驚いた顔をした後、こっちに走ってきた。


「あ"…………」


 走って来た女性を見てライアンが声にならない声をあげる。

 どう見ても知り合いそうだが、年を見るに母親ではなく姉だろうか。


「この……馬鹿ッ!!」


 ライアンの元へと到達した、瞬間。

 和服美人な女性はライアンにそう言って、


「ごはぁっ!!」


 ライアンの脇腹めがけてフックを決めた。

 ライアンの体がくの字に曲がり崩れ落ちかけた瞬間、ライアンの襟を掴み落下を阻止する。


「どんだけ心配かけるのよ!」


 そして、往復ビンタ。

 一発振るごとにライアンの顔が左右へ揺れる。


「す、凄いコンボですね」


「べ、ベクトラ止めなさいよ」


「嫌じゃ。拙者は死にとうない。リン殿こそエルフの意地を見せるのじゃ」


「無理無理無理。怖いわよ。エルフソンナコトシナイ」

 

 そして、ベクトラとリンが俺のほうを見る。

 俺が止めないといけないらしい。


「どうしてこうなったんだろうか」


 知らず呟く。

 ライアンがモンスターから襲われているのを助けたはずだが、その危機を凌駕するような気がする。


「あ、あの……」


 ライアンと女性に近づいて声をかける。


「え………ああっ!?」


 声をかけた瞬間。

 女性は体を震わし、驚愕の目で俺を見て声をあげた。そして、俺を認識すると同時にライアンを掴んだ手が自然と離れた。ドサッと音を立ててライアンが地面に倒れこむ。

 どうやら、この女性は俺達の存在に気がついてなかったみたいだ。ライアンしか見ていなかったのか。愛されているというべきなのだろうが、羨ましいと思わないのは何故なのだろう。

 


「し、失礼しました!

 お、お客様がいると気づかずにお見苦しい姿をお見せしました」


 女性は先程とは違った、荒々しい声ではなく高く明るい声音で頭を下げる。女性って本当に一瞬で声を変えるよなぁ。男には中々出来ない。


「いえ、俺達はお客じゃなくて……」


 お客じゃなくて何なのだろう。

 さっきの惨劇を見て、無料で泊めてくださいと頼む勇気がない。

 困ってライアンを見るが地面に倒れ伏していて反応がない。生きているのだろうか。


「お客様じゃない……」


 女性は俺の言葉を繰り返す。10文字程度の短い言葉なのに、言葉が進むにつれ底冷えするような声音になっていき、聞いている俺達に恐怖を感じさせる。

 そして、ゆっくりと本当にゆっくりと俺から視線を外してライアンを見る。

 ライアンは倒れ伏して俺達を認識できないはずなのに、女性がライアンを見た瞬間、わずかに動いた。


「ライアン」


 氷点下の声。

 聞いてるものを揺るがす強者の威圧。

 声をかけられてライアンはビクッと体を震わす。


「ライアン」


 二度目の声。

 その声が聞こえた瞬間、ライアンは倒れ伏した状態から一瞬で体勢を整えた。地に膝を抱えて座る姿勢で。


「地面に正座……」


 ボソッとアルが恐怖を滲ませた声で言う。

 言うな。俺も怖い。


「説明」


「はいっ、この方達にモンスターに襲われている所を助けていただきました!!」


 ライアンは凄い勢いで頭を下げる。

 秘密にするという話はどうなったのか。そんな話は一切なかったとでも言うようにライアンが大きな声で言った。


「はぁ~~…………」


 正座した状態で頭を下げる。つまり土下座スタイルのライアンを見つめながら、女性は深くため息をついた。そのため息には色々な感情が含まれていて何を考えているかわからないが、これだけはわかる。


「ぐはぁ…………」


「はぁ~この子は本当にもう……」


 土下座したライアンの頭を踏みつけ女性はため息をつく。

 ライアンは頭を踏まれ、唯一自由な手を振る。


「ライアンさんがフラグ立てるから……あのその美人な方に頭を踏んでもらってよかったですね?」


「あ、手の振りが激しくなった」

 

「よ、喜んでいるのじゃろう」


 目をそらしながらベクトラが言う。


「え、でも……」


「いかんリン殿。そういうことにしておくのじゃ」


「え、あ、うん」


 女性はライアンの頭から足をどかし、俺達に向く。

 自由になったライアンが顔をあげようとしたが、女性がライアンと言うだけでその動作が止まった。見もせずに止めるとは……。


「本当に、本当にライアンを救ってくださってありがとうございます!」


「い、いえ。当然のことをしたまでですから!な?」


「え!?うん。そうです」


「そうじゃ。礼を言われることではないのじゃ」


「ですね。人助けをするのは当たり前のことなんですが」


「ありがとうございます」


 女性は深くお辞儀をした。


「ライアンを助けた状況を詳しく聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」


「ええ……と。ちょっと待って下さいね」


 アルはその言葉に答え辛そうにライアンを見るが、彼は土下座した姿勢のままなので彼からは答えはない。

 小さく、俺にだけ聞こえる声で話を合わせればいいんですよねと言って、アルは説明を開始した。

 その説明は簡潔ながらも事実だけを抽出し主観を込めないものだった。女性は説明を聞きながら額に手を当てる。頭が痛いということだろう。


「はぁ。馬鹿だと思ってましたが、まさかここまでとは」


 ズサッ、ズサッと音がする。

 ライアンが土下座したまま後方へ移動しようとしているのだ。

 それを俺達は冷ややかに眺めながら会話をする。


「皆様がここに来られた理由もわかりました。この馬鹿は情報を集めるのが好きなのですが、町で待っていればいいのに町の外に出て使いの者に会いに行ったんです。それで皆様に御迷惑をお掛けすることに」


 ライアンがその言葉で動きを止め、顔をあげる。


「でも、そのお陰でアルさんやアポロさんに会えたんだ!俺がミシェロの町で最も会いたかった人達だ!」


「黙りなさい!」


 一喝。

 ライアンはまた頭を地面へとつける。

 

「アポロ様は泊まる宿を決めてないとのこと。

 ぜひ、月華に泊まってください」


 そして、ライアンの言葉はなかったかのように会話する俺達。強いものになびくのだ。許せ、ライアン。


「いいのですか?」


「ええ、うちの馬鹿が言ったとはいえ約束を反故に出来ません。

 そして、母親としても恩返しすることが出来るので助かります。こちらからお願いします」


「母親……?」


 この30代に見える女性が?


「やだ。自己紹介をするの忘れてました。

 ライアンの母親、ミーシェと申します。この月華の女将をしています」


「俺はアポロ。冒険者です。こっちの妖精はアル。そして仲間のリンとベクトラです」


「では、いつまでもここで立ち話をするのもあれですのでお部屋へご案内します。………ライアンは後で私の部屋に来なさい」

 


 そして、ミーシェさんに案内されて月華の中へ。

 てっきり三階建てのお屋敷の部屋に案内されると思ったのだが、その建物とは別の所に案内された。

 長い回廊を渡り、一軒の離れへ。


「ねぇ、アポロ。これってもしかして……」


 リンがミーシェさんに聞こえないように俺に肩を寄せる。俺達の服は汚れていたので預かってもらった。修復や洗浄をしてくれるらしい。そして、代わりに着る服を渡されたのだが、これがゆったりとした薄着なのだ。

 距離だけでなく、布の厚さも薄いのでリンの肌の温度が如実に感じられる。


「ライアンが言っていた最高級の部屋なのかもしれない」


 俺もミーシェさんに聞こえないようにボソッと返す。


「ええ。月華が誇る最上級の間、月華です」


 ミーシェさんが振り返り、にっこりと笑う。

 聞かれていたのか。


「宿の名前と同じですね」


「だな。名前を冠するということはそれほどまで自信があるということだろう」


「一泊いくらするのよ、それ……」


 リンが恐怖に震える。

 ミーシェさんはそれには答えず、微笑みながら歩み出す。

 そして、月華の間に着いた。 

 扉を開け、中に入る。


「よっ…………って母上!!」


 そこにはお茶を飲んで寛いでいるライアンがいた。

 ミーシェさんに叩かれたのは言うまでもない。


今日一日で書き終えたかったのですが、寒気と鼻水が……どうみても風邪です。なので分割することにします。ごめんなさい。次回は温泉入る描写入れたら長く、入れなかったら短くなると思います。


そして、今から寝るので返信は明日以降になると思います。

では、よいお年を。

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