閑話 とある神様達の井戸端会議で出会いを求めるのは間違っているだろうか
*本編とこの話は関係ありません。
あったかもしれないし、なかったかもしれない。
そんなお話。読み飛ばしOK。
*一部のキャラクターの人格は崩壊していますが、この話はフィクション?であり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
「裁判…………?」
神がわけのわからないことを言った。
なんだろう。
実は夢を見ているのだろうか。
頬をつまみ、夢から目を覚まそうとするも痛みが現実であることを証明する。
「いや、痛みとは所詮脳内の反応であり、末梢神経を通じて脳へ伝えられることだ。ゆえに痛みがあるから夢ではないといえないのではないだろうか。脳が何らかの誤作動を起こしている可能性がある」
「こらこら、変な現実逃避しないでよ、響くん」
「いやしょうがないだろう。なんだ裁判って」
意味がわからない。
裁判にかけられる覚えはない。
それに、俺を断罪するという雰囲気でもない。
ならば安心というほどでもないが、切羽詰まる状況でもない。
…………。
訂正。俺の左にいるアーリィさんは俺を殺したくてたまらないらしい。殺気が駄々漏れで、怖くて目を向けられない。
「響くん、裁判って言葉知らないの?
えっとね、わかりやすくいうとね。悪いことをしたかもしれない人を罰するかどうかをね、決める行事なのさ」
「幼稚園児に説明するかのように言うのやめろ。
言葉の意味はわかる。問題はなんで俺が裁判にかけられないといけないのか」
法律に違反する行為はしていないはずだ。
それにアルハザールならまだしも、神に裁判をされるようなことはない。
一体なんのつもりなのだ。
「本当にわからない?」
「ああ」
「本当に?」
「くどい。俺は真っ当に生きてきたはずだ」
「命かける?」
「それ小学生が言うならまだしも、神が言ったら脅迫以外なにものでもないからな」
「ちぇっ、つまり響くんは裁判に呼ばれるようなことはしてないって言い張るんだね」
「…………ああ」
神は俺の言葉を受け頷いた。
そして、アーリィの方を見て、彼女に声をかけた。
「アーリィ、響くんの罪状を読み上げて」
ざ、罪状!?
とんでもない言葉が神の口から飛び出した。
アーリィさんはその言葉を受け、椅子から立ち上がり、朗々とした口調で俺の罪状らしきものを口に出した。
「被告、新城響、異世界アルハザール名アポロ(以下、この者をクソ野郎とする)は地球にいた頃は普通の高校生であった。しかしアルハザールに転生後、好き勝手に生きるだけに留まらず、禁忌の領域に踏み込もうとする疑いがある。その猥褻性は異常であり、クソ野郎の罪状は未遂ではあるが、その危険性、及び重大性から即刻排除が望まれる」
「ありがとう、アーリィ。
つまり、そういうことだよ。わかった?」
「わかるわけがない」
罪の内容が具体的に述べられていないのだ。
それもまだ俺がしていないことについてだ。
一体なんなのだ。
俺の言葉に一番反応したのはアーリィさんだった。
鋭い視線で俺を睨んだ。
「クソ野郎が。悔い改め反省するのなら殺すだけで許してやろうかと思ってたのだが…………その必要はなさそうだな」
「悔い改めても殺すの!?
どっちみち処刑されるじゃん!」
「悔い改めない場合、死んでは生き返しの繰り返しだ。死こそが解放となるだろう」
「宗教家真っ青の改心方法!?」
「こらこら、アーリィ。あまり響くんを怖がらせるものじゃないよ」
腐っても神だ。
中立の立場なのか、アーリィさんの暴走を止めてくれた。
「で、だ。響くん、本当に身に覚えのないかな?
ちょっと前のことだよ」
「ちょっと前って…………再建をしようとしていること……か?」
「そう、それさ。近くなった」
「え、何もやましいことはしてないぞ」
再建する方法も真っ当な方法を取るつもりだ。
非難されるいわれはない。
「うん。再建については問題はないよ。問題はアルだ」
「アル?」
「うん。君の旅のお供にアルをつけたわけなんだけど」
「ああ、助かってる」
「アルも君に懐いているみたいだしね。いいことなんだと思うよ。思うけど……」
「一体何が問題なんだ」
わざとらしい仕草で神は口ごもる。
その焦れた態度にイラッと来る。
一体俺とアルの何が問題なんだ。
「貴様がアルを口説いてたことだろうが!」
ドンと机を叩き、俺を強く睨むアーリィさん。
「え?」
「白々しい!私達は知っているぞ。お前の悪行を」
「ちょっと待ちなさいアーリィ。あそこにいたのがアルじゃなく私だったら、きっと私にも同じ言葉を投げかけてくれます!
ね、響さん!」
向かって右側、蒼い鎧をまとった美女レナスさんが声を震わし、俺を助けようとした。
……助けようとした?
「え?」
言葉の内容はわかったけど、意味がわからない。
「女であれば見境なしか。女の敵だな、貴様は」
「王子なんです!響さんは!
ね、響さん!私にも絶対アル以上の言葉を言ってくれるんです!」
「え?え?」
誰か通訳を。
アーリィさんとは違う意味で暴走しているよ。
どうすればいいかわからない。
思わず神を見る。
神は俺の視線に気がつくと、あははと笑い手を叩いた。
「はいはい、アーリィ、レナス。収拾つかなくなるから、そこまで。
響くんも混乱してるしさ」
神に声をかけられ、両者は言い争いをやめた。
「んじゃ、落ち着いたところでこれを見てもらいたいんだけど」
神がパチンと指をうつと、何もなかった空間から1メートル四方の大きさの一枚の映像が映りだされた。
「俺とアル………?」
その映像には俺とアルが映っていた。
仲睦まじそうに喋ってる一人の男と妖精の姿が。
そして、その映像は当然のように動作と音声を伝えてくる。
『櫛があればいいんだけどな。前髪をこうやってと……よし!かわいくなったぞ』
「ごふぉっっ………ごふぅ、ごふぉ」
その映像から。
聞き覚えのある声と台詞が繰り出された。
その唐突さに呼吸が止まり、唾が喉に絡んで咳が止まらなくなる。
「大丈夫、響くん?」
「ちょ、まっ、そ、れ」
「日本語もまともに喋れないのか、貴様は」
「アル、ずるいです。ずるすぎます!」
「わかったと思うけど、昨日の君とアルのイチャイチャさ!」
「止めろ!お願いだから止めてくれ!」
「それはできない相談さ
しかし、こうして見るとまるでカップルのようだね」
「殺す殺す殺す殺す」
「ずるい、ずるい、ずるい、はぁ……」
外野が何かしら叫んでいるが、それどころではない。
だが、慌てるだけで何もできない。
静止を求める声は却下され。
無常にも時は進む。
そして、時が進むということは映像が流れ続けるということだ。
『いや、ようやく落ち着いたからな。俺の可愛いアルに感想でも言おうかと』
そこで映像が止まる。
映像から俺へ皆の視線は移る。
「俺のだって、凄いこと言うね響くん。アルは貸してるだけだよ、勘違いしちゃ駄目だなぁ」
「待ってください。お願いします」
思わず口調が変わる。
あれは、あれは違うんだ。
言った時はどうも思わなかった言葉が、冷静になって聞かされると羞恥プレイ以外の何物でもない。
どういう意図でどんな気持ちで言ったのかを説明しなければならない。
必死に言い訳の言葉を探すが、処理落ちしているパソコンのように動作がふるわず、言葉が見つからない。
ガタンと音がした。
左からだ。
アーリィさんが椅子から立ち上がった音だ。
「神様、これがクソ野郎の本性です。即刻処理を」
右隣からも席を立つ音が。
その椅子が床を打ち下ろす音とともに、感情の込められた力強い声が。
「ちょっと待ってください。
女性は誰でも独占欲があるんです!好きな人を独占したい、また逆に好きな人に独占されたいと心の中で思うのです!
愛しい人に私だけを見てもらいたい。愛しい人に所有され、愛しい人だけを見ていたい!乙女はそんな願望を抱いてるんです!
響くんの台詞はそんな乙女心を満たしてくれる言葉なんです!私も言ってほしいです!」
正面、神がニヤニヤしながら俺を見た。
その瞳は愉悦で満たされていた。
「なるほど。で、どうなの響くん?
レナスが言ったような意図なの?それとも、僕が言ったように勘違いしただけ?」
「殺せ。殺してくれ」
羞恥プレイここに極まれり。
なぜその2択なのか。
レナスさんの言葉に頷けば、まるでアルを口説いてるように思える。
神の言葉に頷けば、勘違いしただけになるが……なるが、それは危険な気がする。直感がそれはいけないと仕切りに警告してくる。
だから、俺は……。
「殺して。殺してください」
一縷の希望を望み、アーリィさんを見る。
俺を殺したがってるアーリィさんなら、きっと殺してくれる。
死んだら、この夢から覚めるはずだ。
この羞恥プレイから。
だが、アーリィさんは汚物を見るような目でこちらを見て、
「自分から殺してくれとは、変態か貴様は」
吐き捨てるようにそう言った。
「おかしくね!?アーリィさん俺を殺したがってたじゃん」
「いや、自分から殺してくれって言う変質者はちょっと私困るかなって」
「なんでそこで素に戻るの!?」
アーリィさんは椅子に座り直し、ツンとそっぽを向いた。
レナスさんはしきりに自分を指さしてアピールをしてくるが見なかったことにする。
なんか危険だ、あれ。
「ね、響くん。そろそろ答えてよ」
神がパンと手を叩き、答えを望む。
手を叩いただけなのに、それだけでおちゃらけた雰囲気だった場が俺を断罪する場へと様変わりする。
この刺々しい空間はなんなのか。
肌が火に焼かれるようにチリチリと痛む。
「俺は……俺は……」
厳粛な場だが、よく考えれば神は俺を羞恥プレイしたいだけなんだ。
はた迷惑なことだ。
勘違いしていたと言おう。
たとえ、直感が警告を発しても意志の力で黙らせる。
それが良いんだ。
きっとそれで……。
「俺はか……かん……」
唇は日照り続きの畑のように乾き、口内に至っては砂漠のようなカラカラだ。舌は固定されたかのように動かない。
言葉が発せれない。
そんな無様な俺を神は笑って見ていた。
俺の迷い、決断を理解して、俺の苦しんでるのを見て笑っていたのだ。
神はウンと頷いた。
「わかった。そういうことなんだね。
冗談でアルを傷つけてしまった響くんは、罪滅ぼしの気持ちでアルに言ったんだね」
「何も言ってないんですけど!」
「ほら、僕って神様だから心読めるし」
「この場、意味なくね!?」
心の中読めるのなら、尋問する必要ないだろう。
神はわざとらしい仕草で右手を心臓にあて、呻くような声でつぶやく。
「くっ、この力を使えば10日は寿命が減るな。危険な力だ。おいそれとは使えない……」
「すげーわざとらしいんですけど……」
「貴様、神様の言葉を疑うのか!
神様、即刻処刑を!」
「ひどすぎない!?絶対ウソの設定だよね!?」
神は、心臓を押さえながら『静まれ、静まるんだ』とぶつくさ呟いている。その言葉の合間にチラチラとこちらを見る。
うぜぇ。
バンと机の叩く音がした。
発生源はレナスさん。
「神様、響君は罪滅ぼしの気持ちでアルに可愛いと言っただけなんですか!」
少し傷ついた表情をして、レナスさんは神に問いかける。
その問いかけに、神は何事もなかったかのように呻く動作を止め、レナスさんの質問に答えた。
「いや、本音だよ。
思ってることを恥ずかしげもなく言ったのさ。罪滅ぼしの気持ちで、普段思っても言わないことをさらけ出したのさ!」
「響さん!」
レナスさんはその言葉に感極まったように声をあげる。
やめて、そんな目で見ないで。
その時だった。
止まったはずの映像が動き出した。
『頼むから日本語を喋ってくれ。
そうだな……アルは鼻筋が通っていて、目はバッチリと大きく開いてる。ちょっとタレ目気味でそれが優しい印象を与えているな。顎はシャープな線を描いている。黙っていれば文句なしの美人だ』
俺らしき人物が。
優しそうにアルを覗きこみ、アルに言葉をかける。
『な、なな…………』
アルは驚きの声をだす。
信じられないものを見るかのように俺らしき人物を見る。
口をパクパクと開くが、言葉が出せないでいる。
『そこだけ取るとリンと同じく綺麗系の顔だけど、アルは表情豊かだからな。その美人の顔が良い意味で崩れるんだよな。喜怒哀楽が顔に表れて、めまぐるしく変わる。見ていて可愛いと思う。体格のおかげもあって見てて飽きないし、見惚れる時もある』
そんなアルを見てにっこりと笑い、言葉を重ねる俺に似てる人物が。
第三者から見れば、イチャついてるとしか思えない場面だ。
『ななな………』
驚きの声をあげるアルだが、瞳を見ればわかる。
嫌がってないのが。
俺によく似ている人物の言葉を受け入れ、むしろ何かを期待するように対面の人物を見ている。
その対面の俺に似ている人物はさらに言葉を紡ぐ。
『俺がアルをいじる理由の一つにアルの変化する顔をもっと見たいってのがあるかもな。喜ばせたい、怒らせたい、悲しい表情を見たい、唖然とさせたい。いくら見ても見足りない。見惚れてしまうのに別の表情を見たくなるんだ』
そして、男はアルの頬へ手を差し伸べる。
壊れ物を扱うかのように丁寧にありながら、極めて自然な動作で頬を指でなぞる。
『肌にしてもそうだ。珠のような肌ってこういうことを言うのだろうな。滑らかで張りがあるもちもちした肌だ。最高級の陶器のような白さ、気品があるといっても過言ではない。正直いつまでも触れていたい。頬ずりしたくなる時もある』
左のほうから、頬ずりだとぉ!と怒りの呪詛が聞こえる。
その声は恐ろしく、聞くもの皆、恐れをなす威力だった。
だが、映像の中の人物には当然のように、その呪詛は届かずむしろあざ笑うかのように過激さを増していった。
映像の中の人物はアルの頬を磨くようになでたり、優しくつねったりしながら、甘い言葉をささやくのだ。
『お、ようやく、な以外の言葉も発したか。
髪にしてもそうだ。絹のような質感でさらっと滑らかだ。枝毛なんてないだろう。透き通るような髪は光の加減によって光り輝いてる。活動的なのも相まって、太陽のように思う時もある』
そこで映像は止まる。
止まった後、そこには静寂が。
自然と皆の視線が俺に向く。
おかしくてたまらないとお腹をかかえ笑う神が
殺したくてたまらないと口を強く噛みしめるアーリィさんが。
まるで極上の料理の味を思い出すかのように頬に手を当て、うっとりとするレナスさんが。
俺はその視線を受け、自然と頭が下がった。
下がった頭は止まらず、机にゴツンと当たった。
それでも止まらない。
机をえぐって壊さんとばかりに頭に力を入れ、頭を下げる。
誰も何も言わない。
10秒ほどそれが続いたのだろうか。
神は笑いをこらえるように咳をした。
「ゴホン。じゃ、じゃあ続きいっとこうかププッ」
「もうやめて!
俺が悪かったから、俺が悪かったから止めてくれ!」
顔をあげ、切実に訴えかける。
だけど、その願いは叶うことはなかった。
そして、なぜか一瞬だけ映像が動き出した。
『今頃神の国は憂いてるだろうな。
だって美しい天使が一人、地上に連れて行かれ俺の所に来ちゃったんだから』
「ププッ」
「うわぁ…………」
「言われたいです。一回は言われたいです」
三者三様の感想の言葉が。
アーリィさんの感想が一番心にくる。
「殺せ!殺してくれ!
殺すことが慈悲なんだ!」
「いや、笑っちゃったのは悪いけど、あんなキザな台詞言う響くんが悪いだよ!」
「異議あり!です神様。
女性はキザな言葉を求めているんです。
ね、アーリィ!」
「わ、私に振るな、レナス!」
「でも、この前映画見てて言ってたでしょ!」
「な!そそそそそ、れは空気に当てられたからだ!
こ、このひび……ク、クソ野郎にい、言われたくない!」
「なら、響くんは私に言ってもいいんですよ。
むしろ言ってください!」
「えぇ!?」
さらに羞恥プレイを求められた!
初対面の人にイタリア式口説き文句をやれと!?
思わず救いを求め、神を見る。
「こらこら、レナス。響くんを困らせない。
本題はまだ残っているのだから」
「え…………?」
本題?
今までのことは何だったのか。
呆然とする俺を神はイタズラが成功した子供のように笑い、告げた。
「だって、裁判をするって言ったじゃん。
まだ始まってもないよ」