閑話 とある神様達の井戸端会議
本当は前回と同時公開する話でした。それを加筆修正。
*本編とこの話は関係ありません。
あったかもしれないし、なかったかもしれない。
そんなお話。読み飛ばしOK。
*一部のキャラクターの人格は崩壊していますが、この話はフィクション?であり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。
登場人物
神様:主人公を異世界アルハザールに送った人物。
レナス:神様の部下。乙女回路を持つ人。『閑話 とある神様の雑談』『閑話 とある人の禁書目録』に登場。
アーリィ:神様の部下。ツンツン!
*『種はまいた。後は野となれ山となれ 後編』にちょびっと登場。登場した時はアウグスという名前でしたが、2014年4月27日にアーリィに変更しました。
目覚めると、そこは白い世界だった。
地面も、空も、地平線さえもなにもかもが白かった。
その白い世界に俺はいた。
椅子に座っていたのだ。
「どこだ、ここは……」
椅子から立ち上がり、周囲を見渡す。
どこかで見た記憶があるような景色だった。
しかし、こんな光景は一度見たら忘れないはずだ。なのに、覚えていない。
既視感というやつかもしれない。実際は一度も体験したことがないのに、まるで過去に体験したかのように思うことだ。
「しかし、俺は寝てた?はずだよな」
再建話を夜遅くまでした記憶がある。
徹夜覚悟の話し合い、明け方近くに終わった。
さてここから日課の訓練だというわけにもいかず、ちょっとでも寝て体力の回復に努めよう。
そして、ベッドに入ったはずだ。
「夢なのか?」
夢なのに意識がはっきりしている。
明晰夢というやつかもしれない。睡眠中に見る夢で、自分が夢であるとわかるやつだ。
自分の姿を見る。
寝間着のまま、シャツとズボンというラフな格好だ。その姿は宿で眠りについたときの格好だ。
自分だけが、この白い世界から浮いていた。
「机……?」
俺がいるこの白い世界には机らしきものがいくつかあった。
目の前にあるのがそれだ。
その机は白く、この世界に同化するように存在していた。意識すればあり、意識しなければ見えない。そんな不思議なものだった。
机は手元に一脚、左右に一脚、そして正面に一脚あり、手元と左右にある机は同じ作りの簡素な机だったが、正面の机は他の机と比べ二倍くらいの大きさで一段高く作られていた。
それぞれの机にはこれまた白い椅子が備えられていた。俺が座っている椅子と同じものだ。
だが、そこに座る人はだれもいない。
白い机と椅子があるだけだ。
「なんだ、これ……?」
意味がわからない。
そうして目を閉じて、開いた時だった。
俺しかいない白い世界が変化していた。
誰も座っていないはずの椅子に当然のように人が座っていたのだ。
右の机には、美女が座っていた。まず目につくのはその美女がまとった鎧。地球の青、母なる海を象徴するかのような蒼色の鎧。その鮮やかさ、美しさには呼吸すら止めて見入る。
左の机にも、美女が座っていた。右の人とは対照的な紅い鎧をまとっていた。マグマより瑞々しく、鮮血より色鮮かな紅鎧。その色の力強さには息を呑んでしまう迫力があった。
その美女達には純白の翼があった。人間にはないもの。特異なものであるそれすら、鎧を際立たせるアクセントにすらならなかった。
異世界に来たからわかる。この鎧は隔絶していると。店売りにはならない。もしあれば国宝に指定されるもの。それほどの凄さがある。
しかし、一番驚くべき点は、その鎧を着こなしている点だ。
どの美術品よりも輝かしく思えるのに、それを装飾として当然とばかりに扱っている。下手をすれば、いや普通なら鎧の付属物となってしまうのに、鎧を鎧として装備している。
それを可能としているのは実力なのだろうか。それとも容姿や生まれ持った気品なのだろうか。
右の蒼い鎧を装備した美女は目鼻立ちがスッキリと控えめで、目、まつ毛、鼻、口と顔を構成するパーツのバランスが整っている。その中で一番特徴的なのは口元だろう。常に口角があがり、ふんわりと笑っている。意志の強そうな瞳は人を見通すようであり、それでいて全てを受け入れるような暖かさがあった。
その人が居れば、それだけで癒される雰囲気を醸し出している。一家に一台あればいいのに。この美女が姉なら堕落する自信がある。甘えてしまいそうだ。
左の紅い鎧をまとった美女は、右の美女に負けず劣らずの美しさだった。だが、蒼の美女の美しさと系統は違っていた。顔の肉付きは薄く、顎を描く曲線はシャープだ。そして、一番印象的なのは目元だ。釣り上がった目元とその中の瞳。その強靭な瞳は人の全てを暴き、丸裸にし、糾弾し、切り捨てるような怖さがあった。
紅の美女に見つめられれば、どの蒼炎よりも冷たく、どんな氷よりも熱く体を焼かれてしまうだろう。一家に一台庭先にあればどんな強盗も退治できるだろう。用心棒として大活躍だ。もし、この美女が姉なら奴隷になる自信がある。心折られそうだから。
「ねぇ、響くん誰かのこと忘れていない?」
タイプの違う蒼紅の美女を見ていたら、正面から声が聞こえてきた。
「すぅぅぅぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁぁ」
大きく息を吸って、深呼吸。
声に釣られて正面を見たら駄目だ。
落ち着け。
声の主を確認する前にやるべきことがある。
右手を自分の頬へ。
そして、全力で抓る。
夢なら覚めろ。
「いてぇぇぇぇ」
じんじんと頬から痛みが伝わるが、この世界から脱出できない。
ならば次なる手は……。
「現実逃避は終わった?」
タイムアップ。
その言葉が脳裏に出てきた。
ため息をつき、諦めて正面を見る。
正面、机の高さ的に見上げる位置に中学生ぐらいの年齢の金髪の少年がニヤニヤと机に肘をのせ座っていた。
俺を異世界に送った人物、神がそこにいた。
「神、一体なんの……」
「神様!この無礼なやつを死刑に!」
神に声をかけている途中、紅鎧の美女が大きな声で遮ってとんでもないことを言い出した。
驚き、左を見ると目があった。
キッとこちらを睨むその姿は鬼や般若すら生ぬるい。
全てを断罪する閻魔のような雰囲気だった。
「ちょっと、アーリィ 待ちなさい。神様は怒ってないわ」
視線だけで殺されそうになった時、右の蒼鎧の美女が紅鎧の美女、アーリィというらしい、に声をかけて制止した。
あぁ、優しい雰囲気は間違ってなかったらしい。助かった。蒼鎧の人は女神か。
その女神の声を受けて神は。
「そだね。響くんはちゃんとわかってて僕と話してるみたいだし、怒ることでもないよ」
言葉遣いを改めなくてよいらしい。一番偉い人物にタメ口なのは自分でもどうかと思うが、神自身が許しているなら問題はないか。
「騙されてはいけません、神様。
いつかこいつは調子にのり、肩もめやと命令してくる手合です。抹殺の許可を!」
凄い言いがかりだ。
なんでこの人、俺を殺そうとしてくるんだ!?
すごく睨んでくるし。
「あーアーリィさん?」
「くっ、下衆が。なぜ私の名前を!
神様、即座に抹殺の許可を!」
「待ちなさい、アーリィ。響さんはシャイなだけだわ!」
またも止めに入ったのは女神だった。
祈るように手を組み、こちらを見る女神。
止めてくれるのは嬉しいのだが、シャイってなんだろう。この人は俺の何を知っているのだろうか。
その女神と目が合うとウインクを投げられた。
なぜか背筋に汗が走った。
な、なんでだろう……。
「クックック。落ち着きな、アーリィ。響くんがアーリィの名前を知っていたのはレナスが君の名を呼んでいたからさ。ね、レナス」
レナスと呼ばれた人物。
蒼鎧をまとった美女、あるいは女神は。
「ええ。きっとそうです」
神の言葉に頷いた。
とりあえず助かったみたいだ。
その言葉を受けアーリィさんは。
「ならば私の名前を呼ばれるのは不快なので抹殺の許可を」
絶対零度の声でそう呟いた。
あれ、危機脱出してないな、これ。
助けを求め、神を見る。
「うーん、それならどうしようか」
ニヤニヤとこちらの反応を見るように、神はわざとらしく迷った声をあげた。
今の状況を楽しんでやがる。
「アーリィ、それは私が許さないわ!私の響さんは私が守ります!」
手を広げ、こちらを守るような姿勢を取るレナスさん。
守ってもらえるのは嬉しいのですが、なんだろう背中を伝う汗は。直感が危険信号をあげている。
「あ、あのアーリィさん?なんて呼べばいいのでしょうか?」
「…………ふん。貴様にチャンスをやろう。
好きに呼べ。不快でない呼び方があれば殺すのをやめてやろう」
こちらを一瞥し、吐き捨てるようにアーリィさんは言った。
アーリィさんは駄目だから……。
「アーリィ様?」
「神様には様をつけず。私につけるか。5」
「アーリィ?」
「ほう、呼び捨てか。人間如きが偉くなったものだ。4」
最後の数字はなんなのだろうか。
まさか、カウントダウン?
「アーリィたん」
「なんだそれは。人を呼ぶ呼称か?3」
やばい。
やばすぎる。
正解ないのではという考えが頭によぎるが首を振って、頭からその言葉を追い出す。
「えーっと……」
「えーっとか。そう呼ばれるのは初めてだな。2」
えぇ!
わかってたけど、この人話が通じない。
「えーっと、美しい女性さん?」
「ふん。命が危うくなると人を持ち上げるか。
その性根、気に食わないな。殺す。1」
…………。
もう駄目だ。
最後の救いを求め、右側レナスさんを見る。
すると、犬が飼い主を見つけたような、はしゃぎようで手をあげ、
「響さん、私は私は?綺麗?」
そんなどうでもいいことを聞いてきた。
「えーっと、綺麗です。蒼い鎧がよく似合ってると思います」
「やった」
レナスさんはムフーと笑い、満足気に腕を組んだ。
え、これで終わり?
「0」
え?
聞きたくなかった言葉が左から聞こえてきた。
声が聞こえたその瞬間、とてつもない重圧が襲ってきた。
アーリィさんは声を出しただけで、動いていない。だが、それでもわかる。自分が死ぬということが。瞬きするより早くこの人は俺を殺してしまうだろう。
「待った、アーリィ。
いたぶるのは許しても、殺すのは許してないよ。
それに名前を呼ばれるのぐらい許してあげなよ。神様命令ね」
死を覚悟した時、神はアーリィを止めた。
神が静止の声をかけた瞬間、体を貫くような重圧が霧散する。
「ちっ、命拾いしたな」
アーリィさんはそう吐き捨て。
「神様、神様。私、響さんに美人って言われました!これってプロポーズですよね?」
レナスさんはわけがわからないことを言って。
「さぁ、響くんの裁判を今から始めようか」
神はこれまたわけが分からないことを言い出した。
これ、素直に殺されたほうがよかったのだろうか。
そんな、後ろ向きな考えが頭に思い浮かんだ。
多分、間違ってないと思う。