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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
4章 誰がための再建か
49/98

リンのヒロイン力が足りないから!足りないから!

色々とやっちまいました。

キリのいいところ探ったら1万文字超えました。

当初の予定より3倍ちかく文量があります。


 宿屋の俺の部屋。

 夕食を食べ終え、自室へと戻った。

 そして、部屋には俺とアルのみがいる。


「さてと、わかってるなアル」


「ええ。アポロさんの考える事なぞ手に取るようにわかります」


 頼もしい言葉だ。

 再建をするには考えないといけないことやしないといけないことは多々あるのだ。つうと言えばかあと応える存在は頼もしい。

 


「この機会にリンさんの借金を倍増させるのですね」


「ちげぇよ!なんでそんな話になるんだよ!」


「ええぇ!違うのですか!リンさんを陥れる策を5個は考えましたよ!」


「5個も!怖えぇよ。なんでリンを陥れようとするんだよ!?」


「ほら、リンさんはいじめたくなるオーラが出てますからね。つい、やってしまうんですよ」


「それ、リンに言うなよ。言ったら本気で泣くと思うぞ」


 なんで仲間を陥れる策をポンポンと考えつくのだろうか。俺と一緒に旅をする前は人身売買とかの後ろ暗い組織の人物だったんだろうか。なんかそう考えると納得がいくような……。


「で、リンさんの話ではないとしたら再建のことについてですか?」


「そうだ。それしかないだろう。なんでリンのことが最初に出てくるんだ」


「てへっ」


 アルは舌を出して、自分の頭を小突いた。

 イラッと来た。


「反省してないだろう、お前」


「いやいやしてますよ。自罰してますもん。ほら、てへっ!」


 コツンと頭を小突いたことが自罰なんだろうか。

 それは甘いな。


「よし、アルにだけにはまかしておけない。俺に任せろ」


「ちょっ、なんで剣を抜くのですか!」


「大丈夫。持つところで殴るから」


「全然大丈夫じゃないですよね!

 剣の重さと私の体格を考えてくださいよ!大怪我しますよ!」


「先っちょだけだから!」


「やっぱ刺す気だ、この人!」


「いやいや、ちゃんと言ったことは守るぞ。柄の部分をアルの頭にめり込ませるだけだ」


「なーんだ、それなら安心………って、怪我の程度では刺されるのと大して変わりませんよね!?頭蓋骨砕けますよ!」


「俺を信じろ。絶妙な力加減でやってやるから」


「体罰を言い出す人が言う台詞じゃないですよ、それ!

 もし、仮にですよ死んじゃったらどうするんですか!」


「経験値ゲット」


「モンスターか!」


「そういきり立つな。冗談だ」


「そうですよね。いくらアポロさんでもそこまではいかないですもんね」


「それで経験値が入ってレベルが上がったら、時間がかかるかもしれないが無限レベルアップができるもんな。あの神がそんなミスを犯すはずがない」


「理由がひどい! 人権とか倫理とかはどこにいったの!?仲間にたいしてする行いではないですよ!」


「でも万が一のために試してみるか」


「私の話聞いてた!?

 仲間にする行為じゃないって言いましたよね?」


「たとえ万分の一の確率だとしても、可能性があるならやれと言うのなら俺もやぶさかではない」


「誰が言ったの、それ!?」


「いくぞ!!」


「神のもとの平等はどこにいったの?人権が侵され、殺される!?助けて!!」


「家畜に神はいないッ!!」


「色んな意味でひでぇ!」


「落ち着け、冗談だ。ツッコミ入れるたびに殺してたら俺の身がもたない。そして何よりしつけにならないからな」


「その言葉に落ち着ける要素がないのですが……」


「しつけは生かさず殺さずが鉄則だ」


「しつけじゃなく虐待ですよ、それ!」


「はいはい、再建の話に戻すぞ」


「何事もなかったのように話を終わらせないでくださいよ……」


「スパルダさんがどんなお店にしたいのかは明日までわからない。けれど、どんな場合でも対応できるように今から考えるぞ」


「アイアイサー!」 


 額に手を当てて敬礼のポーズを取って返事をするアル。


「思ったんですけど、バイキングってのはどうでしょうか?こちらの世界では見たことないのでうけると思いますよ」


「バイキングかぁ…………」


「あれ?乗り気ではありませんね?」


「バイキングは難易度が高いからな」


「そうなんですか?作って出すだけだと思うのですけど」


「お客さんから見て、バイキングはどのような時に満足を得られる?」


「満足ですか……難しい言葉を使いますね」


「全然難しくないからな。わからないなら、わからないと言え」


「失礼。アポロさんにとって難しい言葉使いますね」


「よし、その喧嘩言い値で買おう」


「というより、質問がわかりにくいのですよ!?」


「逆ギレ!?

 まぁ、いい。つまり、お客がバイキングに来て良かったと思う時だ」


「ああ、それなら簡単です。一言で言えば欲しい料理が食べられ、美味しい時ですね。価格が安ければ言うことなし。更に欲を言えば、落ち着いた雰囲気で食べたいですね。美しい夜景が見れる高層ビル最上階がベスト!オーケストラによるBGMもついてくると嬉しい事この上ないですね」

 

「全然一言になってないのだが……前半部分は正解だ」


「おぉ!さすが私」


「ではバイキングで不満に思う時はどんな時だ?」


「カップルがいちゃついてる時ですね。戦いに来てるんですよ、こっちは!」


 なにか触れてはいけないものに触れてしまったのか、突然アルはキレだした。虚空にいる相手に向かって罵詈雑言を放つ。


「いや、そんな個人的なことはいいからな。

 もうちょっと、一般的なことを言ってくれ」


「うーん。料理が冷えてたり、料理が揃ってなかった時ですかねぇ」


「そうだな。自分が食べたい料理が不完全であったり、無かった時に人はストレスを感じる」


「冷めてる料理は不完全とは違う気がしますが」


「ならベストではない感じ」


「もにゃっとする言い方ですね。

 できたてが一番美味しいのは事実ですが……」


「おっと、それは正しいとは言えないな。ちょっと寝かせることで味を染み込ませて美味しくなる料理もある」


「反論しないでくださいよ!話がややこしくなりますから!」


「誰が複雑にしたのやら」


「アポロさんですよ!!」


 打てば響くという感じでアルがツッコミを入れてきた。

 ネコがシャーと威嚇するように興奮している。

 話をするにしても落ち着かせないとままならないな、これは。


「落ち着けって。バイキングの話でもして、まったりしようぜ!」


「バイキングの話してるから興奮してるのでしょ!!」


「うぉ、アルが怒った。どうどう、落ち着け」


「私は馬か! プリティーな妖精ですよ!」


「え、プリティー?どこにいるんだ、それ!?」


 あたりを見回しても、プリティーと呼べるものはいない。

 なぜか自分を指さしているアルがいるだけだ。

 部屋にはアルと俺以外に誰もいなかったのだ。考えてみれば当然か。今いる部屋は宿屋の自室なんだから。

 危うくアルに騙されるところだった。


「ここには俺とアルしかいない!」


「おっしゃー喧嘩じゃあ!!

 やったるで、おとこにはやらなきゃいけない時があるんや!」


「うわ!白目をむきながらゲハゲハ笑う妖精が襲ってきた!」


「そこ!さも真実のように嘘を言わないでください!」


「え、まさかなんだが、自分のことをプリティーだと思ってんの!?」


「ちょっ、心にくるようなことを言わないでくださいよ!

 自分で言うのもなんですけど、中々可愛いと思いますよ、私?」


「ちょっと待ってろ。リンの所に行って、こういう時になんて言えばいいのか聞いてくる」 


「やめて!

 もし、リンさんが目を泳がせて『ア、アルはかわいいと思うわ?』とか言ったら、私耐えられそうにないです!」


「すまんが用事を思い出した。ちょっとリンの所に行ってくる」


「さっき言ったことをリンさんに頼む気だ、この人!ひどすぎる!?」


「誤解があるな。俺はただ純粋な気持ちでアルが苦しむ姿を見たいだけだ」


「十分すぎますよね、それ!純粋というより、悪意しか感じないのですが」


「見解の相違だな。人と人とが理解するのはかくも難しいことなのか。俺はまた一つ賢くなった」


「いやいやいや、良いこと言った風で終わらせないでくださいよ」


 アルはくたびれた感じではぁと息を吐いた。

 なんか駅にいる毎日が残業のサラリーマンみたいだ。

 癒やしが必要だな、これは。


「ジュースでも飲んで一息つこうぜ」


「……………」


 アイテムボックスからジュースの入った水筒を取り出し、アルと俺のコップに注ぐ。

 赤紫に光るその液体は豊潤な甘みと微かな酸味がして、疲れた頭を癒やし、思考をクリアにさせる。 


「あ、あ……のですね」


 アルはコップを抱きしめるように両手に持って、チラチラとこちらを窺うように俺を見る。


「なんだ?」


「ええとですね、その……」


 聞き辛いことなのかその声はか細く、緊張からか頬は薄いピンク色をしていた。

 聞きたいけど、聞きたくない。

 そんな二律背反に振り回されているようだった。

 テーブルには2つのコップとアルが載っている。アルはコップを持ち、片足をテーブルにつけ、もう片足でトントンとテーブルを蹴っていた。

 そして、一息にジュースを飲みこみ。

 



「私って可愛く……ないですかね?」



 俺の顔を見ず空のコップに視線を向けながら、アルは小さな声で聞いてきた。



「え?」


「いやいやいや、絶世の美少女とは言いませんよ。リンさんのように美人系でもないことは自覚してますし、ベクトラさんみたいな色気なんてないなんて悟りきっています。妖精ですしね。体格とか全然違いますから。ええ、全然気にしてませんから。気にするほうがおかしいですから!」


 俺は突然のことで『え?』と驚き、声に出しただけだった。 

 それをアルは悪い意味で捉えたのだろうか、咄嗟に顔をあげ言い訳じみた言葉を矢次早に繰り出した。その声はさっきまでと違って、甲高かった。


「でもですね、でもですね、人並以上の水準はあるのかなーと自惚れちゃっていいのかなって。妖精ですから、ちっこ可愛いとかありますし!そりゃ、人の好き好きもありますから絶対とはいえないですよ。でもですね、ほら可愛いは正義って言うじゃないですか!正義なら何してもいいですし!ほ、他にも、金を稼ぐ手段として美人な私を餌に美人局つつもたせとかも出来るじゃないですか!策が広がる、みたいな?そ、それでですね、それで……」


 自分でも何を言っているのかわからないだろう。支離滅裂な内容になっている。俺の目を見たり、虚空を見たり、中身の無いコップを飲もうとしたりと挙動が定まらない。頬は夕焼けより紅く、耳まで染まっていた。

 そして、最後に俺の目を一度見て、



「アポロさんから見て、私って可愛い……ですかね?」


 アルは俺に問いかけた。

 さっきまでの声はどうしたのやら。

 自信なさげな小さな声で俺に問いかけたのだ。

 さっきの戯言が不味かったのか、アルの心に傷を与えたらしい。


「ふむ…………」


「え?え?」


「おい、隠すな」


 アルの顔をじっと見つめる。

 その視線に気恥ずかしさを覚えたのか、アルは俺の視線から顔を隠そうと両手を前に出す。その両手を取って顔をよく見る。


「ちょっと、照れますって、アポロさん。アポロさぁん」


「判断しろと言ったのはアルだろ」


「そうですけどぉ、そうですけどぉ……」


「もう照れもなにもないだろう。さっきから耳まで真っ赤だぞ」


「うぎゃぁああー、もう殺して、いっそ殺して!」


「暴れるなって」


 1分ほど悪あがきが続き、体力が尽きたのかじっとするようになった。


「ぅぅぅぅ…………」


「なんでそんな傷ついた声だしてるんだよ。俺が悪いことしてるみたいじゃないか」


「悪いことですよ! なんで視姦されなきゃならないのですか!」


 抵抗することは諦めたようなので、両手の拘束は解いた。しかし、抵抗はやめても納得はしてないのか、アルは俺の顔を直視せずツンとそっぽを向く。けれど、こちらのことも気になるのか視線はチラチラと俺の方を見る。


「アルが言い出したことだろ」


「もういいです!なかったことに!

 さっきまでの私はおかしかったんです!私の中に巣食うヒップホップの悪魔にそそのかされたのです」


「えらいものを体に飼ってるんだな」


「ええ、ええ。大変ですので、なかったことに!なにとぞ、なかったことに!」


「しかし、ヒップホップの悪魔を成仏させなければ………」


「いいです!あの悪魔(名前はボブ)は音楽性の違いによって出て行きましたから!」


「ならば、今はなきボブに捧げよう」


「ちょっ、なんでボブに拘るんですか!?

 宿主の私がいいって言ってますよね!」


「アル。前にも言ったと思うが……」


「な、なんです……真剣な表情をして」


「俺はただ純粋な気持ちでアルが苦しむ姿を見たいだけだ」


「ちっくしょー!どうせそんなオチだと思いましたよ!」


 アルはまたそっぽを向いた。


「はいはい、こっちを向けって」


「嫌です。お断りします」


「いい子だからこっちを向けって」


「なんですか、その小学生を説得するような言葉は!意地でも向きませんよ!」


「すねるな、怒るな。ちゃんと感想言うから」


「だが、断………る……うぐぐっ……ぐぐぐ」


 こちらに向かないようなので、アルの頭を掴みこちらの方向に動かす。

 だが、アルは首に力を入れてそれに対抗してきた。

 意地でもこちらに向きたくないらしい。

 説得が必要だな。

 無理矢理、腕力にものを言わせることもできるが、それは俺の本意ではない。


「いいのか。意地をはっても」


「な、なんです。脅しには屈しませんよ」


「そのまま意地を張ったら大切なものを失うぞ」


「騙されませんよ。私はもう騙されませんよ。消防署の方から来ましたと言っても消防署の人ではない可能性があるのですから!」


 アルは現実逃避なのか実体験なのかわからないが、変なことを言い出した。それとも俺がツッコミを入れて、場の空気を入れ替える作戦なのか。


「このまま意地を張って、こちらに向かないつもりなら……」


「………………」


 アルの言葉を無視して、頭を掴んだ手に力を込める。


「力を入れるぞ」


「ッ…………」


 アルは体を震わすが、顔の向きは変えない。

 ほんのわずかに、蛇口から水がポタンと落ちるように少しずつ、手の力を込めていく。


「その結果、力を入れすぎてアルの首がぽっきり折れてしまうかもしれない」


「え"っ!?」


「意地を張って命を散らすか、諦めてこちらを向くか好きな方を選べ」


「ちょっ!大切なものって命なのですか!?」


「それ以外になにがある」


「いや、そうですけど。そうですけど、そう来るとは思わなかった!」


 会話中も徐々に力を込めていく。

 アルもそれに対抗してくるが、その力が弱まってるのは気のせいか。

 さぁ、説得を続けよう。


「俺とアルって体格が違うからな。力加減が難しいんだ」


「やめて!そんな言葉聞きたくない」


「俺もやりたくはないんだ。でもアルがこちらを向かないから」


「私が悪いことになってるし!」


「無理矢理、腕力にものを言わせることもできる。できるが、それは俺の本意ではないんだ!」


「脅しはオッケーなのですか!?無理矢理、腕力でものを言わせてますよねぇ!」


「最後の通告だ。こちらを向け」


「うぐぐぐ……わかりました!わかりましたよ!」


 頭から手を離すとアルはこちらを向いた。

 不満気なのか頬を膨らませている。


「ちっ、こちらを向きやがった。このチキンが、命がそんなに大事なのか」


「罵倒された!?ひどすぎませんか!」


「いや、アルは死んでも復活するのだろ。命を散らす可能性も考えてたからな」


「神様いわくそうらしいですけど、やりたくないですよ!痛みは感じますし!」


「それもそうだな」


「もし、死んだらどうするつもりだったんです?」


「復活したアルが自分からこちらに振り向くまで首を折り続ける!」


「こわっ!

 折れた時点でそちらの方向に顔が向くでしょう!?」


「心折れるまで何度でも折る!自発的に向くまで何度でも折る!」


「繰り返さないでください!

 心の底から脅しに屈してよかったと思いました」


「平和が一番だよな」


「それ、アポロさんが言っちゃいけないセリフですよ!?」


 さっきまでのおふざけでアルの顔は上気している。

 そして、髪が乱れ放題になっている。

 それはいけない。


「じっとしてろ」


「な、なんです……」


「いいから、じっとしてろ」


「ンッ……………」


 アルの方に手を伸ばす。

 叩かれると思ったのか、アルは目をギュッとつむり、耐えるように体を縮こませた。

 何か勘違いをしているようだが、動かなくなったのは都合がいい。

 アルの髪に手を入れる。


「あっ…………」


 俺が髪を触っていることに驚き、アルは目を開けた。


「じっとしてろよ。さっきまで暴れてたせいで髪が乱れているから」


「ア、アポロさん?」


 さらさらとしたアルの髪。

 絹のような感触のそれは1本1本が芸術品みたいだ。


「ンッ……こそばゆいですよぉ、アポロさん」


「我慢しろ」


 絡まった髪を丁寧に。

 アルが痛みを感じないように。

 頭皮に当たらないように、髪だけに手が当たるように。

 丁寧に、丁寧に時間をかけて手櫛で梳かす。


「櫛があればいいんだけどな。前髪をこうやってと……よし!かわいくなったぞ」


「ッ……!!いきなりなんですか!」


「いや、ようやく落ち着いたからな。俺の可愛いアルに感想でも言おうかと」


 髪を整えて可愛さが増したアルをじっと見つめる。


「dbさいだいdばすdばうあhしだお!」


「頼むから日本語を喋ってくれ。

 そうだな……アルは鼻筋が通っていて、目はバッチリと大きく開いてる。ちょっとタレ目気味でそれが優しい印象を与えているな。顎はシャープな線を描いている。黙っていれば文句なしの美人だ」


「な、なな…………」


「そこだけ取るとリンと同じく綺麗系の顔だけど、アルは表情豊かだからな。その美人の顔が良い意味で崩れるんだよな。喜怒哀楽が顔に表れて、めまぐるしく変わる。見ていて可愛いと思う。体格のおかげもあって見てて飽きないし、見惚れる時もある」


「ななな………」


「俺がアルをいじる理由の一つにアルの変化する顔をもっと見たいってのがあるかもな。喜ばせたい、怒らせたい、悲しい表情を見たい、唖然とさせたい。いくら見ても見足りない。見惚れてしまうのに別の表情を見たくなるんだ」


「な……」


「どうしたアル?さっきから『な』しか喋ってないぞ」


 手を伸ばし、アルの頬を触る。

 生命が持つ温かい命のぬくもりが俺の手に伝わってきた。

 アルは本当に温かい。

 近くにいると、触れると心まで暖かくなりそうだ。


「なっ!」


 一際大きな声を出すが、気にしない。

 女性の顔に手を触れるのはマナー違反だと思うが、おふざけで触れたこともあるので大丈夫だろう。前の時、顔に触れたことで怒らなかったから。


「肌にしてもそうだ。珠のような肌ってこういうことを言うのだろうな。滑らかで張りがあるもちもちした肌だ。最高級の陶器のような白さ、気品があるといっても過言ではない。正直いつまでも触れていたい。頬ずりしたくなる時もある」


「なっ!ななんあ!」


「お、ようやく、な以外の言葉も発したか。

 髪にしてもそうだ。絹のような質感でさらっと滑らかだ。枝毛なんてないだろう。透き通るような髪は光の加減によって光り輝いてる。活動的なのも相まって、太陽のように思う時もある」


「ななっ!!!」


「お、また、なに戻った。

 んじゃ、つぎはスタイルに移ろうか」


「ちょっとストップ!!ストップです!!」


「どうしたいきなり?」


 何もしていないはずなのに、アルの息は乱れている。

 どうやらしばらくの間、息を止めていたらしい。

 アルは胸に手を当て、自分を落ち着けるように息を大きく吸って吐いた。その動作を数回続けてから。


「いきなり、なんなのですか!」


「いや感想を」


「感想!?」


「なんで驚いてんだよ。さっきから感想言うって言ってただろうが」


「そんな詳しい詳細求めてませんよ!

 恥ずかしすぎますよ!言われるこっちの身にもなってください!

 イタリア人が口説いてるのかと思いましたよ」


「今頃神の国は憂いてるだろうな。

 だって美しい天使が一人、地上に連れて行かれて俺の所に来ちゃったんだから」


「イタリア式口説き文句をやれって言ってるんじゃないです!

 どうして、そんな文句知ってるんですか!」


「はっはっはっ、顔が今までにないくらい赤いぞ」


「うぎゃあぁぁぁぁぁ!」


 赤く熟れた顔を俺に見つめられるのを嫌がったのかアルは俺の胸元へ突っ込んできた。


「ぐふぅ」


 加減なく全速力で突っ込んできやがった。

 当たった場所は人体急所か。

 その威力に体がくの字になる。


「アポロさんがぁ、アポロさんがぁ悪いんです」


 ダメージを負って傷ついてるのを気にせず、アルは右手で俺の服を掴みもう片方の手でポカポカと俺を殴り始めた。


「何が悪いだよ。俺はアルの言うとおりに可愛いかどうか答えただけだろ」


「そんなの可愛いの一言で済むでしょ!

 なんですか、あれは!見惚れるとか!触りたいとか!

 あまつさえ、ほほ、ほほうずりゅし、したいとか!

 変態ですか!」


 噛んで変な言葉になってるが、聞かなかったことにする。


「包み隠さず正直に言っただけだがなぁ」


「うぎゃぁぁぁぁ!」


 殴るのに飽きたのか、今度はヘッドバットをきめてきた。

 ゴンゴンと俺の胸に頭をぶつける。

 俺はたいして痛くないのだが、アルのほうがダメージ大きくないか、これ。


「いいかげんやめろって。アルも痛いだろう」


 放っておくといつまでも攻撃をしそうなのでアルの肩を掴み、引き離す。

 暴れたおかげで顔はさっきよりも落ち着いた色をしていた。それでも十分赤いが。


「う、うぅぅぅ」


 そのアルをじっと見つめ、


「可愛いな」


 一言、アルに伝えた。


「な!」


「やっぱ可愛いなアルは。俺が生きてきた中で一番可愛い存在だ」


「なっ!なに言ってるんです!」


「いや、さっき可愛いと一言で言えって」


「もう終わった話でしょう!」


「ん、美人って言ったほうが良かったか。

 でも俺の中でダントツで可愛いに属されるぞアルは」


「うぎゃぁぁぁぁ!」


 再度、俺にぶつかってくるアル。

 ぶつかると思った瞬間、消えるように俺の体の中に入ってきた。


「逃げやがった」


 ま、こちらとしても都合がよかった。

 可愛いとか軟派な言葉はあまりいい慣れてないからな、言ってるこっちも恥ずかしかったのだ。

 アルは気が動転しててわからなかっただろうけど。


「あー俺も顔が赤くなってるわ、これ」


 自分の顔を触ってみると、熱を持っているのがわかる。

 あつい。


「お茶でも飲むか」


 落ち着くためにも温かいお茶を入れる。


「ふぅ…………」


 お茶を入れ、一息つく。

 そして、これからのことを考える。

 俺がどうしたいか、どうするべきなのか。

 スパルダさんを救いたい。救いたいがどこまですればいいのかを。

 スパルダさんには悪いが、すべてを投げ出して、助けるつもりはない。俺には目的があるからだ。

 全力を出すには出すが、出来る範囲でだ。

 うまく目的と合致するように再建しなければなぁ。



「ままならないな……」


 高校生がズバッと格好良く解決できたりはしないだろう。

 誰か助けてほしいものだ。

 

 

「呼ばれて飛び出てアル登場です!」


 変なことを思ったせいか、アルが出てきた。

 その言動はさっきまでと違っていつも通りだ。

 どうやら落ち着いたようだ。


「チェンジで」


「えぇっぇ!?せっかく復活したのにひどすぎます!」


「復活って逃げただけだろう」


「戦略的撤退と言ってください。アポロさんに入るのは大変なんですよ、でもそのおかげで落ち着きを取り戻し、私は気が付きました!勢いでのせられてただけだと!」


「いや、本当に可愛いと思うぞアルは」


「シャラップ!!

 そんな甘言つこうとも、私は騙されませんよ!」


「なんかアルが人間不信になってる。誰のせいだ」


「アポロさんのせいですよ!

 可愛いって言っとけばなんとかなると思ってるでしょう!騙されませんからね、私は!アポロさんがいくら可愛いと言おうと信じません!」


 落ち着いたと思ったら、変な風にねじまがってしまった。


「他のやつらもアルのこと可愛いって言ってるぞ」


「信じません!

 女性の言う可愛いは色々な意味がありますから!可愛いって言いながら見下してますからね、あいつらは!」


 なんか知りたくないことを知ってしまった。

 本当なのか嘘なのかはわからないが。


「でも、ギルドの奴らや町の人もアルのこと可愛いって言ってるぞ」


「それは、その……あれです!社交辞令とか持ち上げてるだけです!」


「アルのことを譲ってくれとか言う奴もいるぞ」


「えっ!初耳なんですけど」


 まぁ、聞いて楽しい話でもないから黙っといただけなのだが。


「勿論、断っといた。それと、最近アルを見守る会というのも結成されている」


「冗談ですよね?」


「アルのことを2時間でもいいから貸してくれって頼みこむ輩までいる。

 銀貨を積まれて焦ったなぁ」


「えぇぇ!」


「勿論、断ったぞ」


「ああ、よかった

 そうですよね。人をいや私妖精ですけど、銀貨で売ろうとしないですよね」

 

「ああ、その通りだ。金が足りんって言って追い返しといた」


「ちょっとぉ!?

 冗談ですよね?当然冗談ですよね?

 ハイって言ってください!お願いしますから!」


 なにを想像したのか、凄い勢いで懇願してきた。

 気持ちはわかる。2時間で一体何をするつもりなのか。怪しすぎる。想像するだけでおぞましい。


「当然、冗談だ」


「ですよね。よかったぁ」


「………半分な」 


「ボソッと恐ろしい事言いましたよね!

 どの部分ですか、どの部分が本当なのですか!」


「実は銀貨ではなく銅貨だ」


「一番どうでもいい部分ですよ!

 それも冗談ですよね!きっとそうですよね!?」


「アルは俺が守る!出来る範囲で!」


「騙されない!かっこよさそうな言葉で私は騙されませんよ!

 後半の言葉が言い訳に聞こえますし!努力目標みたいですよ!」


「ゼンブ、ジョウダンダヨ?」


「なんで片言なんですか!」


「俺が嘘を言うはずないだろ!」


「私の目を見て言って!

 なんで壁に向かって話しかけるんですか!」


「ちっ、人間不信うぜぇ」


「今のはアポロさんが悪いと思いますよ!」


 いなくなった後、何を考えていたのやら。人間不信をこじらしてしまったらしい。困ったものだ。

 咳をして、場の空気を入れ替える。


「何が言いたいかというと、アルは愛されているんだよ街の人にな」


「…………」


「町の人がアルを可愛いと思ってるかはわからない。個人の主観だからな。俺がアルを可愛いと思っていても、ひねくれたやつは違うと言うかもしれない。けど、これだけは自信を持って言える。アルは愛されてるんだよ。魅力的なんだよ」


「アポロさん……」


「だから、つまんないことで悩むな。可愛いと言われたらそのまんまの意味で取っておけ、それで間違いないから。万が一間違えたとしても、俺が慰めてやるから」


「うぐぅぅぅ」


 ポンとアルの頭に手を置き、撫でる。

 ちっこいから撫でづらいな。


「それじゃ不満か」


「……です」


「ん?」


 小さくて聞き取れない。

 けど、聞き取れないならそれでいいかと思った。聞き直したら野暮というものだこれは。なんとなくそう思う。

 この空気を楽しもう。

 そう思った時だった。

 アルはキッとこちらに顔を一度向け、


「ずるいです!アポロさんはずるっこです!

 もういいです!

 もし、可愛くないって言われたら目一杯甘えますからね!覚悟しといてください!」


 意味の分からないことを言ってツンと顔を背けた。

 理解できないが、聞いたら怒られる雰囲気だ。

 


 再建の話をしたいのだが、ままならないな。

 場の空気が変わるのを待ってからにしよう。

 今夜は徹夜だな。




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