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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
4章 誰がための再建か
47/98

再建前日譚

8月22日。サブタイトル変えました

「た、助けてください!」

 

 店内にスパルダさんの声が響き渡る。

 普段無口でシャイなスパルダさんが大きな声をあげた。

 それだけでも驚きなのだが、内容が内容だ。


「何を助けるのです?」


「……………」


「反応しないわね」


「力を振り絞って声掛けをしたのにのう」


「ほら、頑張って。私達まだ聞く態勢だから!ファイト!」


 いや、逃げたい気分なんだが。

 なんだろう。

 面倒事のような気がするのだ。

 あのスパルダさんが勇気を出して助けを求めてきたのだ。

 並大抵のことではない。


「………を……」


「聞こえない!もっとファイト!

 この一言は絶対無二の一言なりと思いを込めて」


「店を………」


「頑張れ頑張れそこだそこだ諦めるな!

 絶対に頑張れ積極的にポジティヴに頑張れ!!

 よし、まずは発声練習だ!私に続け!」


「ねぇ、アポロ。アルが変なんだけど」


「変なスイッチが入ったんだろう」


「どうしたらいいの?」


「そうだな………」


 発声練習とか始めだしたからな。

 どんどんスパルダさんの言いたいことから離れてる。


「よし。帰ろう」


「いいの?」


「アルがスパルダさんから用件を聞き出してからでいいだろう。時間かかりそうだしな。ベクトラもそれでいいか?」


「ふむ。わかったのじゃ」


 ということで話がまとまり帰り支度をしていると、アルが俺達に気がついた。


「ってアポロさん、なに帰ろうとしてるんですか!?」


「いや、時間かかりそうだしな」


「待っててくださいよ!」


「なら寄り道せず聞き出せよ」


「ぐっ…………わかりました。はるか西にあった都市オックスフォードのほうにある成人前後になって初めて通える高等教育機関、つまり大学のアイリス・スタン先生の提唱した理論を使って聞き出しましょう」


「なんだその説明ゼリフは」


「なんかよくわからないけど凄そうね」


「さすがアル殿じゃ。博識じゃのう」


 リンとベクトラがこぞってアルを賞賛する。

 アルは腕を組み、自慢気に鼻を膨らませる。


「そうでしょ、そうでしょ。私を褒め称えなさい。特にアポロさん、私を拝め奉りなさい」


「拝むってまるで教祖みたいだな」


「ふっ、苦し紛れに何を言うかと思えば。人を崇めることに理由はいりません。さぁ、アル様とお呼びなさい」


「詐欺の手口を誇らしげに語られてもなぁ」


「え、詐欺なの!?」


 リンがいち早く反応する。

 アルから一番被害を受けているからだろうか。


「ちょ、人聞きが悪いですよ。嘘はついてないですよ!

 アルウソツカナイ!」


「何でカタコトなんだよ」


 異世界なのでオックスフォードに何の意味もないが、恐らく日本人ならばオックスフォードと聞けばオックスフォード大学を連想するだろう。そこで先生と呼ばれる者は教授であり、その人の理論ならば本当なのではないかと思ってしまう。

 中途半端な情報ゆえ、自分の持っている知識で修正・補完をしてしまう。だが、実際は『オックスフォードのほうにある大学』で『先生と呼ばれる人物』が言っている理論だ。前者はオックスフォードの方向にある大学と明確な場所を言っておらず、先生はアル自身が先生と言えば誰でも先生になる。嘘は言ってないが真実は何も語ってはないというやつだ。騙されたと言っても嘘は言ってない、相手が勘違いしただけだとなる。

 他にも、日本人ではなく外国人を使っているのが狡猾だ。遠く離れた異国の人物ならば、実際の人物かどうかもわからなく、調べることさえ難しい。これは余談になるが、玄人ならば事前にウィキペディアにその人の人物について書き込み、まるで実在の人物のように作り上げるという。


 以上のことを異世界の人達でもわかるように編集したり噛み砕いてリンとベクトラに説明する。


「へぇ………」


「主殿も博識じゃのう」


「嘘は言ってないかもしれないが、真実ではない可能性が高いな」


「…………」


 アルは俺の目をあわさず、むしろ首をひねってあらぬ方向を見ている。


「おい、何とか言えよ」


「ちょっと待って。逆転の手を考えるから!」


 アルは顔はそむけたまま、手だけを突き出して懇願する。

 何だ逆転の手とは。

 むしろ、その言葉が俺の正しさを証明してる気がする。

 どうあがいてもアルに勝ち目はない。

 そう思って勝者の余裕でアルを眺めていたらリンがボソッと呟いた。


「疑問に思うのだけど、何でアポロも詐欺の手口を知ってるのよ」


「…………え」


「もしや過去に被害にあったのか、主殿?」


「いや、あってないぞ」


「じゃあ何でよ?」


 リンとベクトラにジーっと見られる。

 リンは疑わしそうに。

 ベクトラは興味深そうに。


 俺がそういう手口を知っているには簡単なことだ。

 生活しているとテレビやネット、ゲーム、漫画、小説と様々な媒体から情報を得る。その中にあった情報なのだ。

 だが、この世界ではテレビやネット、ゲームや漫画はない。

 どのように説明すればいいものか。

 下手にごまかしたりするとまずい気がする。



「……大事な事を忘れていた!早くスパルダさんから話を聞かなければ!」


 無理やりだが、話をそらすことにした。


「え?」


 アルと目が合う。

 呆然としたのも一瞬、俺の意図が読めたのだろう。

 ものすごい勢いで乗ってくる。


「今アポロさんが凄く良いことを言いました!

 大事なのは聞き出せるかどうかです!」


「その通りだ!」


「困っている人を助けるのが人の道。方法なんて些細なことです」


「確かに!」


「よし、何か凄い理論で聞き出しますから刮目せよ!」


「おぉ!」


「ちょっと」


 ツッコミどころがあるが、それを無視して流れに乗る。

 大事なのは勢いだ。

 リンの制止の声は聞こえないことにする。

 ベクトラとリンを背にして、スパルダさんに詰め寄り店の奥の方向へ連れ去る。

 止められる前にリン達から離れなければ。


「はぁ…………。

 ねぇ、ベクトラ。アポロとアルが詐欺をしてたとしても、驚かなくなってきたんだけど……。これってやばいわよね」


「ふむ。人となりがわかり、仲が深まったと考えたらどうじゃ?」


「うまいことまとめるわね。でも、問題はいつか私達もそれに巻き込まれそうなことよ」


「クックック、それは面白そうじゃのう」


「何で面白がるのよ」


「ククッ、すまぬ。その光景が頭に浮かんでな。

 でも、そういうリン殿も嫌がってはなさそうじゃが」


「そうね。不思議と嫌と思わないのよ。アルとアポロに毒されたのかしら」


「それは、主殿とアル殿を信頼してるからではないか」


「…………そうね。人を騙して不幸にするだけって光景が思い浮かばないもの」



 後ろの方でリンとベクトラが何か俺達のことを話しているが、距離が出たことであまり聞こえなかった。

 そして聞きたくなかった。どうせ俺やアルを非難する言葉なのだろう。



「で、どうやって聞き出すんだ?」


「簡単です。いいですか、スパルダさん。答えがはいなら首を縦に、いいえなら首を横に振ってください」


 ひどく原始的な方法だった。

 唖然とする俺。

 なぜか自慢気にどうですと視線を俺に向けるアル。

 そして、コクリとスパルダさんが頷いた。


「スパルダさんは私達に助けを求めてるのですね?」


「……………」


 ゆっくりと頷いた。


「私達でしか解決出来ないのですか?」


 しばし逡巡し、やがて頷いた。


「では、このお店のことですか?」


 お客は俺達しかいない、がらんどうの店内。

 掃除の行き届いていない店内。

 人相があれなスパルダさん。

 料理はおいしいという利点はあるが、それだけだ。

 いつ潰れてもおかしくはない。


 スパルダさんはブンブンと勢い良く何度も頷いた。

 正解か。

 スパルダさんが俺達に求めるのはお店の再建。

 詳しく聞くため5分ほど、この原始的な問答が続いた。


「落ち着いたようじゃな」


「なにかわかったの?」


 聞きたい内容をほぼ聞き終え一息ついた時、リンとベクトラがやってきた。

 スパルダさんから聞き出すという厄介な作業はこっちに投げっぱなしなのはずるいと思うが、逆に人手がいるかと言われれば首を横にふるものだ。

 納得するしかないが、ずるいよなぁ。


「ああ。スパルダさんが俺達に何を頼んでるのかわかった」


「じゃあ、何でそんなに渋い顔をしているのよ。厄介な内容なの?」

 

 俺は首を縦に。

 アルは首を横に。


「どっちなのじゃ?」


「心躍る内容ですよね?」


「俺には面倒で厄介で手に余る用件だと思うが」


「聞くのが怖くなってきたんだけど…………」


 体を震わし、眉間にしわを寄せるリン。

 対してベクトラは腕を組み、穏やかに笑っている。


「で、その内容とはなんじゃ?」


「ああ…………このお店『迷える羊』を再建してほしいってさ」


 アルは暇な時間があると、冒険者や町の人に対してお悩み相談をしていた。不思議と町の人から信頼され、名物となりつつある。

 スパルダさんはその評判を聞き、俺達にならと頼むことにしたそうだ。


「なるほどのう」


「うわぁ………」


「ね、心躍りますよね?」


 半ば予想出来ていたのだろう。

 驚きは少なかった。

 お客が来なくて潰れそうだから、再建。

 簡単な話だ。

 だが、それを自分達でやらなければいけないとは話が別だ。

 俺達の職業は冒険者。

 クエストを受注し、時に野草を探し、時に護衛し、時に魔物を狩る。

 つまり戦闘を生業にする人である。

 冒険者でも戦闘を必要としない仕事もある。

 Fランクのクエストである。

 これは町の人が自分の手に負えないことをギルドを通して冒険者に頼むもので、買い物や店番、荷物運び等がそれにあたる。

 戦闘経験がない者や怪我で戦闘がまだ出来ない人が小銭を稼ぐために受注するものだ。



「心躍る以前に呆然とするわ」


「えーーーー」


 Fランク業務のように片手間にする仕事ではないだろう。

 失敗すれば『迷える羊』は潰れるわけだ。

 そうなるとスパルダさんの人生も暗雲が立ち込める。

 ちょっと前は高校生であった俺に何とかすることが出来るのだろうか。


「それで、受けるの?受けないの?」


「リンはやっぱり反対か?」


「アポロが引き受けるなら反対しないわよ」


「え?」 


 同じ立ち位置だと思ったのに。

 不安ではないのか。

 無理だと思わないのか。

 顔に出たのだろう。

 リンが補足しはじめた。 


「そりゃ私だけなら無理だと思うわよ。けれどアルやアポロ、それにベクトラもいるのでしょ。私がいても役に立つか疑問だけど……貴方達が出来ると思ったら可能だと思うのよ」


 照れくさいのか頬をかき、少し言い訳じみたことをリンは言う。


「拙者も同意見じゃのう。このパーティーに加わって日が浅いが、主殿とアル殿には不思議な力があると思うのじゃ。無理だと思うようなことをやってしまうような何かがな」


 俺の目を見て、にこやかに笑う。

 ベクトラの俺達への信頼は何なのか。

 いや、それをいうならリンもか。

 立て直すことの深刻さは理解していると思う。

 なのに、なぜ否定する言葉が出てこないのか。


「アポロさんの一存で決定しますね」


「アル、お前は賛成なのか」


 一縷の希望を託し、アルに聞く。

 すると、当たり前でしょうとアルは笑う。


「ええ。お店再建とかワクワクドキドキですよ」


「不安はないのか?」


「何がです?」


「再建が失敗すればの話だ。

 失敗すれば…………スパルダさんはどうなる」


「しったこっちゃないですよ」


「しったこっちゃないってお前!」


「そこら辺が甘いって言ってんですよ」


「なっ…………」


 強く非難する様に、鋭い視線でアルは俺をただす。


「失敗したら?スパルダさん?

 悩む所はそこなんですか?

 私達が考えることなんですか?

 それはスパルダさんが考えることでしょう。誰かに頼んで即解決とか虫のいい話なんてありません。私達は神でも完全無欠のヒーローではないのです。絶対の自信を持っても失敗することがあります」


 確かに。 

 現代社会でも受験戦争を生き抜き、有名な大学に入り、さらに就職戦争を勝ち抜いたエリートで構成された会社でも事業に失敗することは多々あるのだ。

 頭がいいから、理論的にでは世の中は動かないのだ。


「もし、再建に失敗すれば私達の方法が間違っていたのでしょう。だけど、スパルダさんにも責任はありませんか?」


「え?」


「私達に助けを求めたことです。別の誰かに頼めば違う結果になったかもしれません」


 ま、結果論ですけどねとアルは呟いた。


「町の人には言いましたが、私は無責任に頼る人が嫌いです。自分で決断したという責任を持ってほしいのです。責任を持たずに解決したいだけなら、私達ではなくもっと優れたスーパーマンのような人物を探しだして頼ればいいのです。けれど、スパルダさんは他の誰でもなく私達に助けを求めました。勇気をだしてね」


 俺達が席をたとうとした時、スパルダさんは大きな声をあげた。

 俺とアルがじゃれあってても声をかけずに辛抱強く待った。

 そして今現在、何も異議を反論を言わない。

 いや、動こうとさえしない。

 その場から微動さえしないのだ。

 スパルダさんに目を向けると、彼と目があった。

 スパルダさんは俺を見て、ゆっくりと頷いた。



「私達が悩むことは再建する手段が思いつくかどうかです。

 いけると思うのなら、やればいいじゃないですか。無理だと思うなら断ればいいことです。簡単なことでしょう」


 そう言って、笑った。

 優しすぎですよとアルは言う。

 いつかに言われたことを思い出す。

 不安に思ったのは、自分一人で責任を持とうとしたからか。

 わかってないのは俺だけだった。

 俺達が店に来たのは偶然だったが、助けを求めたのはたまたまではなかったのか。俺達が店に来ずとも彼はアルに相談を持ちかけたのだろう。 

 俺はスパルダさんを誤解していただけなのかもしれない。

 シャイであったが、それだけなのだ。

 

「もし、アポロさんが反対しても私一人でやる所存です」


 ムンと両手に力を入れ、やりますよーと鼓舞する。


「はぁ…………お前というやつは」


「呆れないでくださいよ。こんな面白そうなこと参加しないほうがおかしいですよ」


 アルが頬をふくらませ抗議してくる。

 だが、間違っている。

 俺はアルに呆れたのではない。

 アルの優しさに感謝し、その優しさに呆れたのだ。

 アルは俺が反対しても、自分一人でやると言った。だが、本当に俺が反対したらその通りにするのだろうか。

 いや、しないだろう。

 お店を再建するとなると短時間ですむものではない。その間パーティーを抜け一人で動くとは思えないのだ。

 一応ではあるが、神に俺に付くように言われているし、それが出来るのなら一緒に暮らしていない。最悪、俺を見捨てて自分の好きなことをしているだろう。自由にいるように見えてわきまえているのだ。


 自分一人でやると言った意味。

 それは俺を楽にするためだろう。俺がやらないとしたら自分がやる。再建するのは決定事項。だから、責任を感じる必要はないのだと。俺の判断でスパルダさんの運命を決めるわけではないのだと。

 アルはそう言いたいのだろう。


「私も聞きたいのですが、再建する方法を一つも思いつかないですか?自分だったらこうするのにと思ったことがありませんか?」


 人相が悪い店主。

 味が良い料理。

 掃除が行き届いていない店内。

 知名度の低さ。

 もし、俺なら……。

 もし、俺が店主だったら……。


「ねぇ、アポロさーん思いつかないんですかー?」


 ニヤニヤと俺を試すように笑うアル。

 それは信頼なのか、俺を馬鹿にしてるのか。


「俺はアルのそういうところに殺意を覚えるな」


「ちょっ、いきなり何を言うのですか!」


「大丈夫、時々だから。5分に一回ぐらいの頻度で」


「それ時々じゃないですよね!?

 大丈夫の意味もわからないし!

 ツッコミどころが多すぎです!」


 しらず口角が上がる。

 あぁ……わかったよ。


「やるよ」


「え?」


 地球にいた時、授業中やレストランで妄想したことがある。

 俺がお店を持ったらこうするのにと。

 それは将来の夢ではなかった。

 暇つぶしや不満解消の手段だった。

 だが、楽しかった。

 ドキドキワクワクしないかって。

 するに決まってるだろ!

 自分の力が、自分の考えが試せるのだ!

 困った時は、支えてくれる、助けてくれる人がいる。

 こんなに心強いものはない。

 なら……。


「再建をやってやるよ」


「おぉ!」


「やっぱりね。こうなるんじゃないかと思ったのよ」


「クックック、さすがじゃ」


 無邪気に喜ぶアル。

 しょうがないと優しさをにじませながら呆れるリン。

 何が嬉しいのかクツクツと笑うベクトラ。

 彼女らの信頼がこそばゆく感じられ、それを誤魔化すようにスパルダさんの方向へ急いで向く。


「全力は尽くしますが、どうなるかわかりません。それでもいいですね?」


 最終確認をかねて、スパルダさんに問いかける。


「よ、よろしく……お願い……します」


 そう言って、彼は深々とお辞儀をした。

 か細い声だった。

 だが、それは確かに聞こえたのだ。俺達に。

 スパルダさんが根性を出して、俺達に伝えたのだ。


「ええ。全力を尽くします」




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