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キャラクターメイキングで異世界転生!  作者: 九重 遥
4章 誰がための再建か
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アルがアルらしくアルっぽく

こちらの話は一度掲載された話を加筆修正して、最後ちょろっと付け加えた話です。


 朝食を終えて、本日もまた一日が始まろうとしていた。

 本日の予定は特に無し。

 急いでやらねばならないことも無いので、ギルドに行ってなにか良いクエストが無いか探しに行く。


「ちわー、アルですよー」


 先陣を切ってアルがギルドの中に入っていく。

 そのまま、いつものようにリサさんの所に行くのかと思われたが、他の冒険者に呼び止められた。

 それも集団で。冒険者達に囲まれてしまっているのでこちらからはアルの姿は見えない。存在感は人一倍あるのに、体は妖精だから小さい。

 アルさん、アルさん、アルテミスさんという声が聞こえるから悪い意味で囲われていることはないようだ。

 というより、慕われている。

 空き時間や俺達がクエストを吟味している間に彼らとの友好を深めたらしい。

 恋の相談から日常の様々な疑問まで独断と偏見で答えているとはアルの弁。だがこの前、大喜利みたいな一問一答をしているのを見たことがある。何をやっているのだか。アルを囲んでいる冒険者の中にはギルドのランクが高い者もいる。ランクが高いのにアルを慕っていていいのかと疑問に思ったりもしたが、本人が満足そうにしているのだからいいのだろう。この世は武の強さだけが大事なのではないのだ。


 そして、アルを頼る人は冒険者に留まらずギルド職員にも波及していった。頼るというか最初に仲良くなったのはリサさんなのだが、アルが過剰にリサさんに干渉していった結果、他の職員にも受け入れられていった。

 ギルド職員、特にカウンター業務をする人達は女性が多い。彼女達が相手にするのは冒険者であり、戦闘を生業にする人達だ。気性の荒い人もいればマナーが悪い人もいる。注意すれば角が立つ場合がある。

 そんな時にアルが橋渡し的な役割を担う。

 ギルド職員から愚痴を聞き、冒険者たちに伝えるのだ。人に注意されればカチンと来ても、妖精に言われたら怒るに怒れないのだ。

 それもただ注意するのではなく、相談内容にかこつけたり雑談の合間にポロッと言ったりする。

 例えば、恋愛相談をする冒険者がいた。

 彼は意中の彼女をデートに誘うにはどうすればいいかをアルに聞いた。

 アルはここのカフェがおすすめだと教え、そのついでにこんな行為をするのは男としてカッコ悪いと。その内容は『店員に横柄な態度を取るのは好感度下がりますよ。ギルド職員に横柄な態度とる冒険者を見るとうわーって私思いますもん。何様って感じですよね』といった感じだ。

 あくまで世間話として注意するのだ。注意された方も注意されたと感じずに教訓として受け取る。それが他の冒険者へと伝わり、それが集団に伝播すると暗黙の了解となり、マナーと化す。


 そうなると喜ぶのは職員の方々だ。アルに愚痴を言ったと思ったら、愚痴った内容が改善されたのだ。

 すると、職員はアルを頼りだした。好循環といおうか、職員がアルに、アルが冒険者に、冒険者はアルに、そしてアルは職員にといったルートができた。相談事だけではなく、制度の見直しや建物のここをちょっと良くしたほうがいいのではないかという話まで出てきている。活性化することは良いことだ。良いことなのだが……。

 

 あえて言おう。

 この町のギルドはアルに侵略されていると。

 職員と冒険者の橋渡し的な立場を担っているアルではあるが、意見を伝える際そのままそっくり伝えずアルの意見が入っている場合が多い。

 まぁ、相談する人もアルの意見が聞きたくて話しているわけだからいいとは思うが、なんだかなーと思う場合もある。深く考えれば怖いことになりそうだ。そして、俺は考えるのをやめて放置をすることにした。綺麗事だけでは世の中は生きていけないとごまかしながら。

 

 

 不思議なことに冒険者たちから俺はアルのご主人様として一定の評価を得ている。こちらにも都合があり、クエストに出発する時等、冒険者達の相談を打ち切ることもあるので疎ましく思われているのかなと思ったりもしていたが、今のところそんなことはないようだ。

 むしろ、手を合わせて俺を拝む奴までいる。たまに握手を求めてくる人もいる。

 一体アルは彼らに何を話したのだろうか。


「ないな」


「ないわね」


「ないのぅ」



 アルをほっといて、クエストを見る。

 壁にクエストの内容が書かれた紙が貼られているのだが、めぼしいものはなかった。

 護衛任務で一ヶ月くらいかかりそうなものはあるのだが、期間が長過ぎるのでそれはさすがにお断りしたい。

 ゴブリンを探して退治してもいいのだが、最近俺達のパーティーや他の冒険者が結構な数を狩ったため、ミシェロの町周辺にゴブリンはあまり生息していない。効率が悪いのだ。


「どうするの?」


 クエストの紙を見ていたリンが俺の方を見た。


「んー、今日は休みにするか」


「それしかないのう」


 ベクトラは俺の言葉に頷いた。

 リンの反論は特に無し。

 となるとギルドに居る必要性はない。


「よし、リン。あの集団からアルを連れてきてくれ」


「い、嫌よ。アポロが行けばいいじゃない!」


 肩を震わして、拒絶の言葉を述べるリン。


「俺も嫌だ。なんかあの集団、俺を見る目が怖い」


「私もよ!負けるなとか、頑張ってと励まされるのよ!温かい眼差し付きで!」


「俺なんか拝まれたり、握手求められたりするんだぞ!逆に怖いわ」


 ギャーギャーとリンと言い合い、押し付けあいをする。

 それをみかねたのか、ベクトラが一言。


「ふむ。ならば拙者がいこうか?」


「いや、それは………ベクトラに悪い」


 あの集団にベクトラを放り込むのは、飢えてる魚に餌を与えるようなものだと思う。

 奴らは新しい餌が来たと嬉々として受け入れるだろう。近づかなけれは問題はないが、近づけば……。

 リンもその光景が浮かんだのか、気まずそうだ。


「おい、リン。いいのかそれで」


「え?え?」


「リンさんはベクトラがあいつらの餌食になってもいいのか?良心が咎められないのか?」


「それは……」


「俺達はもう餌食になっている。けれど、ベクトラはまだ蚊帳の外だ。冒険者達の話題にはなっていない。けれど、ここでベクトラを行かすと奴らは食いつくぞ。それは高潔なエルフとして駄目じゃないのか?」


 理や感情で説得を試みる。

 リンの視線は落ち着きなく左右へと揺れる。

 もうちょいだ。


「辛いのはわかる。けれどそれでも仲間のために頑張る時じゃないのか……」


 少し重たい口調で俺は言う。

 ハートは熱く、頭は冷静に、口調は厳かに。

 それが功を奏したのか。

 リンの視線が止まる。

 そして。


「そうね………」


 肯定の返事が!

 よし、いける。

 ちょ、ちょろい。

 そう思った瞬間。


「……って何で私なのよ!アポロが行けばいいじゃない!」


 ついにリンが気がついた。


「ちっ……あともう少しだったのに」


「舌打ちしないでよ。アポロ、あなたアルに似てきたわよ」


「それは言わないでくれ……」


 自分自身、アルの考え方に影響を受けたと感じる時がある。

 朱に交われば赤くなるというべきか。

 四六時中一緒にいるせいで、アルならこういう時どういう風に言うかがわかる。

 アルに感化される。

 それがいいことなのか悪いことなのかはわからない。

 だが悪くないと思ってしまう自分がいるのも確かだ。神は一体なんで俺にアルをつけたのやら。まさに神のみぞ知るというやつか。


「かかっ、本当にお主らを見ていると面白いのう」


 ベクトラが俺とリンの言い合いを見てそんなことを言った。

 俺とリンは顔を見合わす。

 その時リンと同じことを思った。


「笑っているのは今のうちだけだよな」


「ええ。きっとベクトラもすぐにアルの影響を受けるわ。私のようにね……フフフ」


「なぬ!」


 なにかリンから黒いオーラが。思う所が色々あるのだろう。


「んじゃ、俺はアルを連れてくるわ」


「ええ、行ってらっしゃい」


「ちょっと主殿、説明を!」 


 ベクトラが制止の声を発するが、聞こえなかったことにして、アルの方へ歩く。 

 人垣に向かう途中、円形に組んでいた集団がばらけた。

 そのばらけた集団の中からアルが飛び出てきた。


「呼ばれて飛び出てアルですよ!」


「うわ、なんか出てきた」


「なんかってひどいですよ」


「呼ぼうとしたら出てきたからな。ちょっと驚いただけだ」


「皆さんが私を呼ぶ気持ちが私をここまで導いたのです。

 呼ばれてから行くようじゃ三流。

 一流は呼ばれる前に行くのですよ。分かります?分からないかなぁ、アポロさんは」


 ふぅと溜息をつきながらこちらを見るアル。

 その眼差しははるか上の立場からこちらを見下ろすように。

 

「ああ分かった。

 アルが死にたいということがな」


「ええっ!なんで!いいことを教えたのに」 


「その礼だ。受け取ってくれ」


「嬉しくないですよ!

 くっ、真実はいつも正しいとは限らないのですね」


「馬鹿言ってないで、行くぞ。今日はめぼしいクエストがないから休みだ。どっかで飯を食いに行くぞ」


「おぉ!休日ですか。

 それでは皆さんまたです」


 アルは振り返り、まだ残っていた集団に別れを告げる。

 そして、そのままベクトラやリンのもとへ。



「ただいま」


「おかえり。大丈夫だった?」


 あの集団になにかされたのか心配になったのかリンが尋ねた。


「ああ。とくに何もなかった」


「そ。なら重畳ね。ご飯を食べに行きましょう」


「おっひるー。リンさんはお昼どこで食べたいですか?」


「私?んー、今日は休みだしゆっくりできるところがいいわ」


「ベクトラさんは?」


「そうじゃのう。拙者はうまければどこでもよいのう。量が多ければ言うことなしじゃ!」


「では、アポロさん。二人の希望通りのレストランに連れてってください」


「俺が?」


 俺にもどこで食べたいか聞くのかと思ったら違った。

 聞きもせず、俺に二人の希望にそう場所に連れて行けと。

 アルはコクンと頷いた。


「ええ。スーパーコンピューターAPOROの力を今こそ発揮するのです。何のために今まで私に情報収集させたのですか!」 


 レストランを探すためじゃないと思う。

 確かにアルに頼んで、色々と人脈作りや情報収集を頼んだ。社交性があるアルのおかげで予想以上の結果を得た。

 例えば、この町のこと。

 この町は首都や他の町への中継点として利用されいる。そのおかげで貿易が盛んである。とある貴族の男性が領主として管理している。政治は善政をひいており、名君だと言われている。性格は子煩悩であることを除けば、穏やかで話がわかる人らしい。公私共々優れた人物であるといえる。

 他にはギルドに所属している冒険者たちのプロフィール。

 ランクは何なのか。どういう性格をしているのか。好みは、弱みは何なのか。


 他にも様々なことの情報をアル経由で手に入れている。

 その情報群の中にグルメ情報もあった。

 だから、アルの問いに答えることができる。

 できるが……。


「なんです?私をみて?」


「いや…………」


 アルに情報収集頼んだのはもうちょっと知的な利用を考えていたんだが……。

 実際には生活の豆知識というかそっち方向になっている。


「……ま、いいか」


「?」


 アルが首をかしげ不思議そうにしているが、それには答えないでおく。

 確か、リンがゆっくり出来る所。

 ベクトラが量が多くて美味しいところか。


 2つが両立している所は難しい。量が多くて美味しければ人気がでる。今は昼食時でもあるため更に混んでいるだろう。

 ならば……。


「迷える羊にするか」


 レストラン『迷える羊』

 二人の希望を叶えることができる唯一の場所。

 商店街から少し外れた場所にある一軒のレストラン。

 羊が描かれた看板以外にこれといった特徴がないお店。

 人通りも少なく、ぱっと見る限りではその店が料理店とはわからないだろう。

 だが、そのお店は舌をうならせるほどの料理が出されるのだ。

 料理は美味しいのに流行らない理由は唯一つ。

 店主がちょっとあれだから。

 個人的には問題はないが、客商売としてはどうなのかなと思わないでもない。

 だから、いつ行ってもガラガラだ。

 当然かきいれどきのランチタイムも。


 このままの状況ではいつ潰れてもおかしくない。

 潰れたら悲しいが、仕方がない。

 行ける時に行っとくべきである。

 それがまさかあんなことになるとはその時は思ってなかった……。

 

 










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